3.論文は何にしよう?

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タイタンは、生命がいる可能性が高いようですね。
いたとしても、どんな物か想像がつきませんが
 今日も、開館前に予約の処理を済ませてしまう。返却期限が切れた本の借り手にメールを送信して、あとは予約が殺到している本に関して、先着順に貸し出し許可のメールを出す。
 最近の貸し出しの流行は、役所の人達からの問い合わせの多い宇宙空間での建設管理業務の法令集。ほかには、建設作業員の宇宙線による被曝回避の防護マニュアルなどの専門書や実用書。
 次いで多いのは、今は六月の終わりで、八月の夏季休業にあわせて旅行にでも行くのか、木星圏や小惑星帯の観光地のガイドブック。こっちの方は民間人からの問い合わせが多い。

『今年の最新ガイドブック、発注するかな?』
 出版社から送られてきたダイレクトメールを確認しながら、発注をするか悩む。発注するといっても、うちが発注したい旨を館長か司書の主任に確認してからになるけど。
『正直、毎年代わり映えしないんだよね……』
「リクエストはきているのか?」
 館長が私のディスプレイを覗き込む。
「大して来てないなあ……。もう少し様子見でいいだろう。バカンスシーズンはもう少し先だ。ほっとけ」
 そう言い、勝手にディスプレイの画面から、メールボックスを閉じてしまった。
「それより、どうせ今日も暇だろうから手が空いたら小論文の題材でも探しておけ」
『じゃあ、そうさせてもらいまーす』
 という事で、忙しくなるまで書架の管理を同僚達にお願いして、うちは小論文の題材になるようなものがないか探し始めた。


『遠隔地間での書籍情報の共有』
『近似的要素を含む作品の著作権所有者決定裁判の判決事例』
『国連文化事務局年次報告書から読み解く十年計画』
 うちの興味を引いたのは、この辺。ただ、一つ目はこの内容で多少奇抜な物を求められても難しい。
 二つ目は、人類が太陽系中に散らばった為に起こるようになった裁判に関する事。ありとあらゆるデータのやり取りに分単位、時間単位のタイムラグが生じる。書籍に限ってしまえば、ほぼ同一と思える内容の本が別々の星で出版されて、しばらくして内容がかぶっている事に気がついたそれぞれの作者が裁判を起こす。そんな事が近年増加しているので、判例集や対策マニュアルなどが登場してきている。この問題に対する、解決策を提示する小論文もいいかなと思う。この話題は小論文の候補として高い。
 三つ目は二つ目とかぶるところも多いけど、国連で文化事業の書籍に関する部分の十年計画について読み解いて、今後の出版業界のあり方について考える小論文にすればいいか。
 というところなんだけど、正直うちの目から見ても奇抜さを出すというのは難しい気はする。

 結局、奇抜さってなんなんだろう?
 試験の小論文は配点比率が高いせいか、過去の模範回答なんかは出回らないし、合格者にも箝口令が敷かれていて内容が漏れ伝わる事がない。だから余計に頭の固いうちみたいなポケモンは、頭を抱えてありきたりな論文提出で落とされる。
 正直、柔軟な思考って難しい。


 お昼。うちのシフトは一三時までだから昼休憩は無し。なので、昼休憩をみんながとっている間に、同じシフトのサーナイトと二匹でカウンターに座って仕事している。意外とお昼ってこの図書館は混み合う、昼休憩時間に本を借りに来る公務員の皆さんがやって来るから。
「暇だね」
「うちら、いらなくない?」
 さっきから、サーナイトと同じ会話しかしていない。一応、水曜日の平日なんだけど。まだ出張で宇宙に上がった人達が、帰ってきてないのもあるのかな……?
「帰ろうか?」
「早退しようか?」
 欠伸しつつも、やる事がない訳じゃないから、視線をカウンターのディスプレイと図書館全体と交互に動かしながらデスクワークを片付ける。隣のサーナイトも同じように、自分の仕事をこなしていく。
 彼女は、うちと同じ図書館司書の補助の仕事と、保安の仕事も請け負っている。彼女はこの星の生まれの第八世代。地球生まれの、うちから見ればひ孫みたいな感じ。ただ、キュウコンという種族が長寿なせいか、うち自身あまり年の差というのを気にはしてない。うち自身まだ若いつもりだし。そんな訳でか、ひ孫みたいなこのサーナイトとは親友のような感じになっている。そんな彼女も、うちに対して気安く接してくれる。
「クリスティは一三時上がり?」
「ナナコも一三時でしょ」
「そうなんだけど、仕事の後暇?」
「あー、ごめん。ママさんと一五時から約束があるんだ……」
「ありゃ、ごめん。じゃあ、また今度」
 ナナコことサーナイトは、残念と少しため息を漏らすと仕事に戻ってしまった。何か相談事でもあったのだろうか?
 今晩、電話してみようかな?
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