1.第六惑星の開拓者たち

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短編では長いので、連載にさせていただきました
 輪っかのかかった惑星。土星。
 うちらの故郷の惑星の地球とは違う。
 もっとも、うちがこの土星の衛星タイタンに着いてから二〇〇年。うちや寿命の長いポケモン以外は代替わりしていてここが故郷になっている。重力は地球の一/七しかないこの環境も、二〇〇年生活していると慣れ親しんで、地球と同じ一Gのスペースセツルメントに仕事で行くと体が重くてしょうがないという事に皆なる。
 土星圏に住む人類は一五〇万人。対して、ポケモンは四〇〇万匹。ほとんどの人類もポケモンもタイタンに住んでいる。そして今、タイタンではスペースセツルメントの建設ラッシュが始まっている。人口一〇〇〇万人単位で人を収容できる円筒形状の構造物を、一気に五〇基作り上げようというプロジェクト。これは、今後二〇年で計画されている第二次土星移住計画の一環。すでに一号基と二号基は外観が完成していて、互いを連結する事で人工重力を生みだしながらもジャイロ効果を打ち消す段階まで進んでいる。次のステップは内部の環境づくり。まだ、遠心力で重力は生みだしていても、中は真空状態なので建造物を作りながら、大気循環を整えて植物相による大気組成の補助を計算した上で街づくりをしていく。
 うちら第一次土星移民団は長期計画に基づいて、第二次土星移民団の受け入れをする為に二〇〇年間タイタンで準備を進めてきた。


 衛星タイタン。土星の衛星の中で最大の大きさを誇る。そして、地球をも超す厚い大気を持っている。ただ、うちら地球からきた生物は宇宙服なしではタイタンの地表を歩けない。大気の組成が地球と違うから。窒素と若干のメタンの大気。そして、メタンの雨。
 何かしらの生物がいるんじゃないかという期待が昔から囁かれていたけど、アメーバ一つ見つかってない。
 そんな星に第一次土星移民団は八回に分かれて到着した。

 うちが乗ってきたのは、第一次土星移民団第三梯団の移民船。第一次梯団と第二次梯団の移民船は、そのままタイタンの地表で解体されて都市の建設資材になっていた。第三次梯団の移民船の半数は前の二回と同じ運命を辿って、残り半数は地球へ戻る科学者や、今まで集めたサンプルを乗せて地球に帰ってしまった。見ての通り、ほぼ片道切符だった。
 うちは、キュウコン。うちは地球で第三次梯団のプログラマーの一家に預けられたキュウコン。何で預けられたかっていうと。この第一次土星移民団のほぼ全員が、何かしらの技能取得者で占められていて、ポケモンも人間に従順。もしくは、人間と意思の疎通が可能、人間の作業の補助ができる。この点に絞られて集められたポケモン達だったので、それぞれの仕事に合わせて各家庭に預けられた。
 うちは、そこの家庭で「クリスティ」という名前をもらった。どうやら、タイタンを発見した人の名前からとったらしい。でも、考える事は同じなのか、地球で支給されたポケモンやタイタン生まれの第一世代に「クリス」が入っている子が多くて、ややこしい事になっている。まあ、それもご愛嬌って事で、タイタンには「屋号」が復活していた。大抵、苗字じゃなくて屋号で、「五本辻のクリス君」とか「大島屋のクリスティーナ」とか呼び合っている。


 話は逸れちゃったけど、うちはそんな感じでタイタンに来た。今も、この一家の家に居候しているけど、本当に居候しているだけ。この星に来た時は、プログラマーをしていた「お父さん」の手伝いとして、言われたものを取りに行ったり運んだりをしていた。うちらキュウコンは人の言葉を理解できるので、軽作業の手伝い要員として選ばれていた。そのうち、「お父さん」が亡くなって子供達はそれぞれの仕事についてしまった。うちは、「お父さん」の勤めていた空調管理所に残ってもよかったけど、別の仕事の募集があったのでそれに応募してみた。

 それが、今勤めている図書館。
 場所は、タイタンの赤道付近にある首都『ホイヘンス市』の官庁街。ホイヘンス市を覆う与圧ドームの中心部に官庁街はあって、うちの居候している家からも近い。
 仕事の内容は図書館司書の補助。書架の整理や司書に依頼された本を探してくる。それで、うちはお給料をもらってそれで自分の食い扶持は得ている。土星圏にいるポケモンの半数はこうやって、誰か人間と共に暮らしながらも自分の食い扶持は自分で稼ぐ事が当たり前になっている。
 ただ、どうして〝人間と共に暮らす〟かというと、これは人間側の事情。ここではポケモンも人間も所在だけはしっかりと管理されている。特にポケモンは人間の庇護のもとにいないと保健所行き。どうしてって?
 いくら人間と共に活動できる基準のポケモンでも、野生化したらどんな被害を出すか分からない。特に与圧ドームの壁が破られる事があれば、ここの住人は窒息死してしまう。
 他にもポケモンに関しては制限事項が多い。その点は仕方がないとうちは思う。いざとなれば、ポケモンは人間の科学力に屈してしまうけど、暴れたポケモンの破壊力は通り過ぎる強烈な台風と変わらない破壊力をもたらす。だから、ポケモンも自立して収入があったとしても、人の庇護のもとにいる事を証明しないといけない。
 ただ、ちゃんとうちらポケモンに対する配慮もある。人が一五〇万人もいれば色んな人もいる。辛く当たられるポケモンもいない訳じゃない。そういうポケモンがいれば、政府が責任を持ってポケモンの保護をし、新しい庇護者を見つけてくれる。
 それが、衛星タイタン。
続く。若干修正。最終稿版に差し替えました

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