#02 天才発明家シロウの魔の手!

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:22分
「う、う~ん……」
 まどろみから目を覚ましたあたし。
 そこは、さっきまでいたはずの広場じゃなくて、見覚えのない部屋の中だった。ぱっと見た限りでは、どこにでもありそうなごく普通の部屋。
「あれ、ここは……?」
 あたし、なんでこんな所にいるの?
 椅子に座っていたあたしは、そこから立つ。
「ポチャ……」
 すると、すぐ側で聞きなれた声が聞こえた。
 見ると、椅子の側に眠そうな目をしたポッチャマの姿を見つけた。
「ポッチャマ! あなたまでここに?」
「ポチャ……ポチャ!?」
 ポッチャマは、すぐに周りの景色が違う事に気付いて、慌てて辺りを見回した。
「ポッチャマ、ここ、どこなんだろ……?」
 あたしは落ち着いて、何が起こったのか思い出してみた。
 あたし、ハルナの演技の練習を見てる途中で……突然口を覆われて、そしたら……あっ!!
「まさかあたし達、誘拐されちゃったの!?」
 あたしの思っていた事が、自然と口に出た。
「その通りですよ」
 すると、部屋の奥から聞いた事のある声が聞こえてきた。
 そして、あたしの前に1人の男の人がゆっくりとした足取りで出て来た。
 黒いコートを着た男の人――
「あなたは……!?」
 そう、その姿は、朝にあたしが見たのと同じだった!
「初めまして。私は発明家のシロウという者です」
 男の人はぼさぼさの髪を右手でなでながら、丁寧な口調でそう自己紹介した。
 側には、銀色の円盤の体にU字型の磁石が3つ付いた、赤い1つ目のポケモンの姿が。
「あなたがあたしを誘拐したのね!!」
「ポチャ!!」
 あたしとポッチャマは身構えた。
 円盤型のポケモンも、それに応じようと前に出た。
「よしなさい、ジバコイル」
 すると、シロウっていうらしい男の人はジバコイルっていうらしい円盤型のポケモンの前に左手を出した。
 すると、その言葉通り、ジバコイルは後ろに下がった。
「まあ、落ち着いてください。今の私はあなたとここで争うつもりなど、毛頭ありません。少し話がしたいだけですよ、フタバタウンのヒカリ」
 シロウは落ち着いた様子で、あたしにそう言った。
 そして、最後にあたしの名前を言った事に、あたしは驚いた。
「ど、どうしてあたしの事を知ってるの!?」
「知っているも何も、あなたの姿はポケモンコンテストで何度も見ていますよ。それで、ちょっと興味がある事がありまして、しばらくあなたの後を追いかけていたのですよ」
「じゃあ、誰かに追いかけられるような気がしてたのは……!」
「気のせいではなかった、という事ですよ。フフフ……」
 シロウは笑みを浮かべた。
 それに、あたしは何か冷たいものを感じた。
「あたしをこれからどうするつもりなの!! 身代金でも取るつもりなの!!」
「言ったでしょう、少し話がしたいと。まずは私の話を聞いてください」
「……?」
 あたしはシロウが何をしたいのか、全然わからなくなった。
「あなた、悩んでいるのでしょう? これからの自分に」
「え?」
 シロウの思いもしない質問に、あたしは耳を疑った。
「あなたは、ポケモンコンテストで1つのリボンを手にした。ですがそれっきり、1次審査すら突破できなくなってしまった……かのトップコーディネーター、アヤコの子でありながら……」
 突然シロウは、あたしのコンテストでの経歴を語りだした。
「何が言いたいの……!」
 あたしはバカにしているのかと思って、ちょっとムカついた。
「まあまあ、落ち着いてください。言いたいのは、その気持ちは私にもわかるという事ですよ」
「え……?」
 シロウの意外な発言に、あたしは驚いた。
「私もかつて、あなたと同じくらいの頃は夢を追いかけていました。子供の頃は天才と言われて、『立派な発明家になって、人の役に立ちたい』と願って、努力を続けていましたよ。ですが、その努力は空しくも打ち砕かれました。誰も皆、私の作った物を理解してくれなかったのです。いや、理解できなかったという方が正しいか。私は皆に認められようと試行錯誤を重ねましたが、結果は同じでした……現実を知り、私はどうして自分は認められないのかと、悩み続けたものです……」
 淡々と語るシロウさんの言葉には、あたしも同情できた。あたしと同じように、どんなにがんばっても、いい答えが帰って来ない……そんな事を、この人も経験してたんだ。
「いつしか私は、自分を認めない世界が憎くなりました……!」
「……!!」
 でも、それに続いた言葉を聞いて、あたしの背筋に寒気が走った。
 シロウの目付きが鋭くなったのにも気付いた。
「そして思いました。誰も私を認めてくれないというのなら、別の方法で自分を認めさせるまでだと……! そして私は、自分の発明を使い、悪の道に手を染めました……!」
「!!」
 自分から「悪の道に手を染めた」と言った事に、あたしはもっと驚いた。まさか、この人は本当に悪い事を……!
「あなたも同じでしょう。トップコーディネーターの子でありながら、周りはあなたの事を認めなかった……あなたが負けたのは、決してあなたのせいではないのです。周りがあなたの力を認めていない――いや、認めようとしないからですよ」
「あたしの力を、認めてない……?」
 あたしはシロウが言った事をもう一度、口に出してみる。
「そうです。現実とはそういう不平等なものなのです。そんな世界に歯向かって認めてもらうには、もう悪になるしかないのですよ……どうです、私と手を組みませんか? 共に自らを認めなかった世界をアッと言わせてみませんか?」
 シロウはそう言って、右手をあたしの前に差し出した。
 ちょっと待って、自分から「悪の道に手を染めた」と言った人と手を組むって事は……あたしと一緒に悪い事をしようって事……!!
「……嫌!!」
 あたしはすぐに、シロウから下がった。
「そんなの違う!! 夢が叶わなかったからって悪い事をするなんて……あたしは嫌!!」
「ポチャポチャ!!」
 あたしは、思った事をはっきりと言い放った。ポッチャマも思いは同じみたい。
「何……!」
 今まで冷静だったシロウの表情が、急にひきつった。
「そんな事するくらいなら……!! ポッチャマ、“バブルこうせん”!!」
 あたしは、思い切りそう指示を出した。
「ポッチャマーッ!!」
 ポッチャマは“バブルこうせん”をシロウに向けて発射した!
 でも、信じられない事が起こった。
“バブルこうせん”は、シロウの体を素通りしちゃったの!
「!?」
 あたしとポッチャマは、目を疑った。
「交渉決裂という訳ですか……私を怒らせましたね……! フタバタウンのヒカリ……!!」
 シロウは完全に怒った表情をしていた。
「それならそれでいいでしょう……こちらも相応の対処をするまでです! フタバタウンのヒカリ、覚えておきなさい! 私は近い内に必ず、あなたを倒しに行きます! それも、ただ打ち負かすのではなく、あなたを絶望の淵に叩き落して……!」
 そう言うと、シロウとジバコイルの姿が歪み始めた。
「せいぜい私の提案に乗らなかった事を後悔する事ですね……!」
 そう言い残して、シロウとジバコイルの姿はスウッと消えていった。
「消えた!?」
「ポチャ!?」
 あたしは、シロウが立っていた場所の側を見回した。
 すると、シロウが立っていた所に、ドーナツ型の変な機械が置いてあったのを見つけた。
 まさか、さっきまでのシロウはこの機械で映してた立体映像……!?
「ヒカリ!!」
「ヒカリさん!!」
 すると突然、バタンとドアが開く音がしたと思うと、部屋にノゾミとハルナが入ってきた。
 サトシとタケシもいる。
「みんな!」
「大丈夫ですか!? ケガはありませんか!?」
 ハルナが真っ先に、あたしに駆け寄ってきた。
「うん、何とかね……」
「それにしてもヒカリ、何があったんだ?」
 サトシが、あたしに聞いてきた。あたしは事情を説明した。
「それが、あたしを誘拐したのはシロウって男の人で、あたしと一緒に悪い事しないかって言ってきて……」
「シロウだって!?」
 あたしの説明を聞いて、ノゾミが声を上げた。
「ノゾミ、知ってるの?」
「知ってるも何も、自分の作った発明でたくさんの悪事を働いてるって噂の悪い発明家だよ!! 絶対に直接手を出さないで、無差別に悪事を繰り返す……そんな手口で、今まで捕まった事もないって話だよ!!」
「ええっ!?」
 あたしはノゾミの言った言葉に驚いた。
 あたしは、そんな人に誘拐されちゃったって事!?
「あ、あたし、『近い内に必ず、あなたを倒しに行きます!』って言われちゃったんだけど……!!」
 あたしは、ようやく事の重大さに気付いた。背筋に寒気が走る。
「そんな奴なら、追い払えばいいだけじゃないか!!」
「そんな単純な問題じゃない!! そんなシロウを敵に回したら、何をされるかわからない……!!」
 単純に答えたサトシに、ノゾミは真剣な表情でサトシに言い返した。
「とにかく、警察を呼んだ方がいい!!」
 ノゾミはすぐに、部屋を駆け出していった。慌てて、タケシも後を追いかける。
「ヒカリさん……」
 ハルナが心配してあたしを見た。
「そんな……」
 あたしはそれしか言葉が出なかった。
 あたし、これからどうなっちゃうの!?
 そんなあたしの姿を、窓越しに見つシロウ影があった事には、気付かなかった……
「私を認めなかった者がどうなるか、教えてあげますからね……フタバタウンのヒカリ……!」



 次の日。
 ポケモンセンターで過ごした夕べは、シロウがいつ、何をしてくるのかが怖くて、全然眠れなかった。
 眠い目をこすりながら、ベッドから起きたあたしは、いつものように髪をとくために、カバンからヘアブラシを出そうとした。
 すると、なぜかカバンが開いている事に気付いた。寝る前にはちゃんと閉めたはずだけど……?
 そんな事はいっか、と思ったあたしは、何気なくヘアブラシを取り出そうとカバンの中をのぞいた。すると、あたしはとんでもない事に気が付いた。
「……あれ!? ない!?」
 ない。カバンの中の物を全部出して見るけど、やっぱり見つからない。
「朝からどうしたんだ?」
 そこに、タケシが部屋に入ってきた。
「大変なのよ!! コンテストリボンがカバンからなくなってるのよ!!」
 そう、なくなっていたのはコンテスト優勝の証、コンテストリボンだったの!!
「本当にないのか? その辺に落ちてないか、よく探してみたのか?」
 物をなくす事は普段の生活でも珍しい事じゃない。タケシは落ち着いた様子であたしにそう言った。
「よく探したって、最近カバンから出した覚えなんてないよ!! もしかして、盗まれちゃったのかも……!!」
 あたしは最近、コンテストリボンをカバンから出した記憶なんてない。そもそも、手で触った記憶もない。
 カバンから出さないでなくなったって事は、他の誰かが盗んだとしか考えられなかった。
「まあまあ……そんな時に悪いんだが、サトシを見かけなかったか?」
 タケシの表情が変わった。
「え? あたしは見てないけど、どうかしたの?」
「いないんだ! さっきから探してるんだが……」
「ええっ!?」
 こんな時にサトシまで!? あたしは耳を疑った。
「本当に、いないの?」
 あたしは念のため、そう聞いてみた。
「ああ。ロビーにも外にもいないんだ。サトシがこんな時間に勝手にどこかへ行くとは思えないし……」
 タケシの表情は深刻だった。
 これってもしかして、『失踪』ってヤツ!?
「まさか、これって……」
 リボンをなくした事に重なって起きた、サトシの失踪。
 あたしの頭の中に、あの言葉がよみがえってきた。

『私は近い内に必ず、あなたを倒しに行きます! それも、ただ打ち負かすのではなく、あなたを絶望の淵に叩き落して……!』

 まさか、これをやったのは……シロウ?
 極端な考えかもしれないけど、何だかそんな気がした。

 * * *

 とりあえず、リボンを探すのは後回し。朝ご飯を素早く取って、あたしとタケシはサトシを探すために出発した。
 町を通る人に、サトシを見かけなかったかいろいろ聞いて回ったけど、手がかりらしい手がかりは見つからなかった。
「弱ったなあ……」
「ホント、サトシどこ行っちゃったのよ……」
 あたしとタケシはそうつぶやくしかなかった。
 そんな時、コンテスト会場が見えてきた。
「そうだ! ノゾミやハルナにも聞いてみようよ」
「……そうだな」
 あたし達の意見は一致。すぐに、コンテスト会場に行こうとした時だった。
「……あれ?」
 ふと、正面から見慣れたポケモンがこっちに走ってくるのが見えた。
「ピ~カ~チュ~ッ!!」
 その黄色い体は、紛れもなくピカチュウだった。
「あれって……サトシのピカチュウ!?」
「間違いない!」
 そう確信したあたし達は、すぐにピカチュウの側に駆け寄った。
「ピカチュウ、どうしたの? サトシはどこなの?」
「ピカピ、ピカピカチュ!!」
 すると、ピカチュウは慌てた様子でコンテスト会場の方を指差した。
「あそこにいるのね。タケシ!」
「ああ、行こう!」
 あたし達はすぐに、ピカチュウと一緒にコンテスト会場の方に向かった。

 コンテスト会場の前に着くと、広場が何だか騒がしい。
 何があったのかと思って見てみると、離れて向かい合うサトシとノゾミ、ハルナの姿が。サトシが、ノゾミとハルナとバトルをしてる?
 でも、何だか雰囲気が違う。
「ブイゼル、“ソニックブーム”……!!」
 サトシが、場に出ているブイゼルに指示を出した。
 でも、その口調は何だかぎこちない。まるでロボットがしゃべっているようだった。
 すると、ブイゼルは尻尾を振って“ソニックブーム”を撃つ!
 でも、それは場に出ていたノゾミのニャルマーじゃなくて、ノゾミとハルナの目の前に飛んで行って、爆発した!
「!?」
 あたし達には信じられない光景だった。
 サトシが、ノゾミ達を直接攻撃してる!?
「くっ、いい加減にするんだ!! 正気に戻れ!!」
「………」
 ノゾミがサトシに叫ぶ。でも、サトシは不気味に黙ったままだった。
「全然聞こえてないみたい……」
 ハルナは怯えた表情をしていた。やっぱり何かおかしい!
「ノゾミ!! ハルナ!!」
 あたし達はすぐに、2人の側に向かった。
「ヒカリ!!」
「ヒカリさん!!」
 ノゾミとハルナがこっちを向いた。
 すると、ハルナはすぐに、あたしの背中に隠れた。
「ヒカリさん、助けてください!! 何だかあいつの様子がおかしいんです!!」
「様子がおかしい?」
「ああ、あたし達の前にやってきたと思ったら、急にあたし達を直接狙ってきたんだ!」
「ええっ!?」
 2人の説明に、あたしは驚いた。
 そしてすぐに、サトシの方に向き直った。
「サトシ!! ブイゼル!! なんでこんな事してるの!?」
「お前……誰……?」
 あたしが聞いてみたら、サトシは予想しない答えをぎこちない口調で返した。
「ええっ!?」
「ブイゼル、“みずでっぽう”……!!」
 あたしが驚いてる間に、サトシがそう指示を出した。
 すると、ブイゼルは何のためらいもなく、こっちに向けて“みずでっぽう”を発射した!
「ううっ!?」
 あたしは、それをもろに受けた。
 腕で目を遮ったけど、水流の強さで押し倒されそうになる。
「サトシ!? ブイゼル!? あたしはヒカリよ!? なんでこんな事……!?」
「ヒカリ……ヒカ、リ……? “アクアジェット”だ……!!」
 サトシは続けて指示を出した。
 ブイゼルは、“アクアジェット”でこっちに向かって来る!
「!?」
 予想外の行動を前にして、あたしは動けなかった。
「ニャルマー!! “アイアンテール”!!」
 とっさにノゾミのニャルマーが前に出た。そして、ブイゼルの突撃を尻尾で正面から受け止めた!
 しばらく押し合いが続いたけど、ニャルマーはブイセルのパワーに負けて、あたしの目の前に弾き飛ばされた!
「くっ、相変わらずのパワーだ……!」
 ノゾミが唇を噛んだ。
「サトシは一体、どうなってるんだ!?」
「こっちにもわからない……ただ、あのサトシは普通じゃない! まるで、感情のないロボットみたいになっているんだ……!」
 タケシの質問に、ノゾミはそう答えた。
「その通りですよ」
 声の主はすぐに表れた。サトシの後ろから誰かが歩いてきた。
 その姿は、間違いなくシロウだった!
 側にはジバコイルの他にも、サーナイトがいる。
「シロウ!!」
 あたしは声を上げた。
 こんな所にどうしてシロウが……!?
「フタバタウンのヒカリ。予告通り、あなたを倒しに現れました。しかし、倒す事になるのは私ではなく、あなたの仲間であるこの少年ですがね……フフフ……!」
 シロウは不敵な笑みを浮かべながら、余裕そうにぼさぼさの髪をなでた。
「どういう事なの!?」
「あえて言わせてもらいましょう。今、この少年を私の発明『マインドコントローラー』で洗脳し、私の思うままに操っています」
「何だって……!!」
 タケシが声を上げた。
「せっかくだから教えてあげましょう。『マインドコントローラー』を首に付けた者は、距離に関係なく私のサーナイトが念じるだけで思うように洗脳し操る事ができるのです。しかも本人だけでなく、持つモンスターボールに入った手持ちポケモンもね。もっとも、最初からモンスターボールに入っていなかったそのピカチュウだけは影響を受けなかったようですが、誤差の範囲内です」
 シロウがピカチュウに目を向けた。ピカチュウは、シロウに対して怒りの表情をあらわにしていた。
 あたしはサトシの首を見てみた。
 するとやっぱり、見慣れない銀色の首輪がサトシの首に付いていた。あれで、サトシは操られているのね……
 あたしはそんな事をしたシロウに怒りを覚えた。
「それに、私は今、これも預かっているのですよ」
 そう言って、シロウは不意に懐から何かを取り出した。
 それは、あたしには見慣れたものだった。
「あっ!? あたしのリボン!?」
 なくなってたリボン、やっぱりシロウが盗んだって言うの!?
「この少年を洗脳した時に、盗ませました。あなたが歩んだ軌跡の証を……フフフ……」
 シロウがまた笑った。
 あたしのシロウに対する怒りが、風船のようにどんどん大きくなっていく。
「サトシを元に戻して!! リボンも返して!!」
「おやおや、そんな一言だけで洗脳を解いたり、返したりしてしまったら、私が出て来た意味がないではないですか。残念ですが、その言葉を聞き入れる事はできません。そう望むのならば、自らの力で取り戻してみせなさい……!」
 シロウはそう言って、右手をゆっくりと突き出した。
「ブイゼル、“ソニックブーム”……!!」
 すると、サトシがぎこちない口調でまた指示を出した。
 すると、ブイゼルがこっちに“ソニックブーム”を発射!
 あたしは、慌ててよける。
 足元で爆発が起きて、ぞっとした。
「ピカピ!!」
 すると、ピカチュウがサトシの前に飛び出した。サトシとブイゼルの視界にもピカチュウが入った。
「お前……何だ……?」
「ピカ!?」
 サトシの冷たい答えに、ピカチュウは動揺した。
「ブイゼル、“アクアジェット”……!!」
 サトシが指示を出すと、ブイゼルは真っ直ぐピカチュウに向かって“アクアジェット”で突撃した!
 直撃!
「ピカァァァッ!!」
 ピカチュウは何の抵抗もなくあたしの後ろ側に弾き飛ばされた。
 余裕そうに着地するブイゼルを前に、ピカチュウは反撃しようとしない。
 やっぱり相手が自分の仲間だから、うかつに反撃できないんだ……!
「おっと」
 そんなピカチュウに気付いたシロウは、右手をスッと上げた。
「わあっ!!」
 すると、あたしの後ろで悲鳴が上がった。
 見ると、タケシやノゾミ、ハルナ、ピカチュウがいつの間にか上にいたジバコイルの発射する電撃に囲まれて、身動きが取れなくなっていた!
「みんな!!」
「邪魔をさせる訳には行きません。あなた1人の力だけではやれないとは言わせませんよ、フタバタウンのヒカリ……!」
 シロウの冷たい視線がこっちに向いた。そんな、あたし1人だけで……
「ブイゼル、“みずでっぽう”……!!」
 サトシのぎこちない指示がまた聞こえた。
 すると、ブイゼルがこっちに向けて“みずでっぽう”を撃ってきた!
「うっ!! やめて!! サトシ!! ブイゼル!!」
 あたしは“みずでっぽう”を両腕で何とか防ぎながら、サトシとブイゼルに呼びかける。
「おやおや、何をしているのです? 相手はポケモンを出しているのですから、そちらもポケモンを出したらどうですか?」
 シロウがあたしを挑発するように言った。
「ヒカリ!! ここはポケモンバトルをするしかないぞ!!」
 タケシの声が聞こえた。
「やっぱり……やるしかないの……?」
 あたしは迷った。
 相手は『操られている』サトシとそのポケモン達。下手に傷つけたくはないけど……でも、何とかしてサトシを助けないと……!
 迷ってる暇はなかった。あたしは懐からモンスターボールを取り出した。その手は少し震えているのがわかった。
「エテボース!!」
 あたしは、モンスターボールを手前に投げた。
 出て来たのは、エテボース。
 サトシと交換したエテボースなら、サトシを助けるのに役に立つかもしれないと思ったから。
 そんなエテボースも、サトシの様子がおかしい事にすぐ気が付いた。
「エテボース、聞いて! サトシは今、悪者に操られているの! 気をつけて!」
「エイポ!?」
 あたしの言葉を聞いて、驚くエテボース。
 そんなエテボースを見ても、サトシとブイゼルは顔色1つ変えなかった。
 にらみ合いが続く。
 というか、最初にどうしようか、なかなか思いつかない。
 それよりも、本当にバトルしなきゃだめなのかという思いが、嫌でも湧き出てくる。
「さあ、大事な仲間と戦えるかな……?」
 そんな様子を見たシロウが、笑みを浮かべた。

 TO BE CONTINUED……

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想