第79話 VSヤナギ[前編]

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 九月の頭にチョウジタウンに着いたものの、赤いギャラドス事件、テレポート行方不明事件、非公式ジム挑戦などのイベントごとであっという間に中旬に差し掛かってしまった。
 しかし、ようやくジムリーダーヤナギが戻ってくることになり二人はジムの扉前にいた。

「やったー! ヤナギさん帰ってきてる!」
「よーやくか。じゃ、開けようぜ! ってオイオイもう入ってんのかよ!」
「たーのもー! わっ!? まぶしい!」

 マイが扉を開けると真っ白な床に反射した光にやられて目を瞑り、ゴールドが寒さを感じ取り何かを察した。

「あ! ヤナギさんだ! 公式バッジをかけて勝負してください!」

 真っ白な床の一番奥には車椅子に座る老人、ジムリーダーヤナギの姿があった。仕掛けも特に見当たらないのでマイは真っ直ぐ突き進もうと走り出す。

「マイ! 待て走る「わー!?」遅かったか」
「いってて……なぁにこの床! 滑るー! わー! ぎゃー!」
「これは氷の床だ! マイ、そのまま真っ直ぐ戻ってこい!」

 制止も遅くマイはその場で足を取られてハデに滑って転ぶ。ゴールドの言葉の通り、この床はただ白いだけではなく、氷と電球の光により真っ白な床に見えていたのである。

「すまんすまん! あまりにも早くこっちに来るから止めるのに遅れた」

 ヤナギは車椅子を器用に使ってマイ達側にまでやってきてくれた。この車椅子に仕掛けがあるらしく氷上でも滑らない優れものらしい。
 マイは滑った拍子に腰を打ったらしく腰をさすりながらヤナギに言う。

「うう痛いよ~。あ、ヤナギさんですよね? ジムの挑戦お願いします!」
「ああ構わないよ。腰は大丈夫かな? 実は私もこの氷の床で滑って腰痛を起こしてな……ははは」

 自分の仕掛けた罠に自分で掛かったらしくゴールドは内心、大丈夫なのかこのじいさん、なんて思っていた。

「使用ポケモンは三体! 交代無しの技のぶつかり合いで勝負だ」
「三体かぁ。氷タイプ使いだって聞いたからキューくんは絶対だし、あとは……」
「ん? 俺の助言が必要か?」
「うっ……はい」

 ヤナギは右手で三の数を示し説明しながら、また氷の向こう側に移動する。
 氷タイプに炎タイプが有利なのはマイでも分かったが、残り二体をどうするか迷ってしまい後ろにいるゴールドに助けを視線で求める。

「ったく。まあいい、もしかしたら水タイプも出してくる可能性はある。水タイプには何が有利か分かるだろ?」
「あ! ピーくん! あと一匹はどうしよう……リューくんかな?」

 答えを言うのではなくマイに考えさせることによって経験になるとゴールドは踏んだが実際答えを言っているようなもので。結局いつもの主力メンバーにマイは頼ることにする。
 いつもいつもゴールドが何かしらアドバイスをしてくれるので今回は手を出すのはやめようとしている。

「決まったかな? ではバトルと行こう! 冬のヤナギの力を見せてあげよう。君が生まれるよりずっと前からポケモンと過ごしてきた先輩としても、な! 行けっパウワウ!」
「わたしだって負けない! ピーくん! 君に決めた!」

 おしゃべりを挟みつつヤナギが出したポケモンはパウワウ。氷上にも脚をつけてピカチュウを迎え撃とうとした顔をしている。
 かく言うピカチュウは氷に脚を取られて顔を地面に叩きつけてしまっている。

「ピーくん! 電気ショック! わー! 大丈夫?! うう、どうしようはじめにキューくんだったかなぁ……」
「パウワウ凍える風!」

 ピカチュウの電気ショックは氷で滑ってとんでもない方向に飛んで行きパウワウに攻撃は当たらずに、滑ってまた顔を打ち付ける。
 そしてパウワウは余裕のある顔で、作り出した氷を細かく粒子状にしてピカチュウにぶつける。

「ピーくん!? どうしよう攻撃が当らないよー! あっ、そうだ!」
「何かいい策が浮かんだのか?」
「うん! ピーくん、穴を掘る!」
「ははは、氷に穴は掘れないんじゃないか? あられ!」

 無数の氷がピカチュウに当たり、ところどころ凍傷になる。マイは何か考えが浮かんだらしくピカチュウに穴を掘るようにいうが硬い氷にピカチュウは潜ることが出来ずにヤナギは笑いながら指示を飛ばし、ピカチュウに冷たくて硬い氷の雨が降り注ぐ。

「ピーくんナイスファイト! 10万ボルト!」
「パウワウ!? どうして急に正確に当てれるようになったんだ!」

 耳を塞ぎたくなる雷鳴がジムに響き、パウワウに直撃する。
 ヤナギは正確に攻撃が当てれることに気づいていなかったが、ピカチュウ側にいたゴールドは足元を見て気がついた。

「そうか! ピカチュウは足元だけに浅い穴を掘ることで固定できる足場を作ったんだな!」
「そういうこと! ピーくん今度は雷!」
「負けてはおれん! もう一度あられ!」

 穴を掘る理由は、相手に気づかれないように見えない位置まで潜り込み出てきたところを攻撃するのが本来だがこの場合は違った。
 硬い氷に穴を掘ってパウワウに近づくことはできないが、氷に穴を掘ることで足場を確保することくらいはできる、それにマイは賭けたのだ。
 反撃開始。ピカチュウは空に向かって雄叫びをあげると空中に雨雲が出来て、中で雷が光る。

「ピーくん今だ!」

 マイの合図でピカチュウは雷を撃ち落とす。つん裂くような地割れの音はパウワウに命中して目を回す。
 パウワウは戦闘不能になったが最後の最後にやってくれた、あられをピカチュウに当てたのだ。なんとか持ちこたえているがピカチュウは次のバトルでも勝つことができるのだろうか。

「ふむ、やるな。しかし今度はどうかな? イノムー!」
「地面と氷タイプか。ピーくんだと不利だなぁ。やるとこまでやってみよう!」
「泥爆弾!」

 茶色の毛で身体が覆われたポケモンを見るなりマイはポケモン図鑑で確認。その間にイノムーの泥爆弾でピカチュウは大ダメージを覆う。

「ピーくんごめん! えっと、電気は効かないし……うう、でもピーくん下手に動けないし!」
「氷の牙!」
「えーい! ピーくん、瓦割り!」

 マイがあーだこーだ思考を巡られる中でイノムーはピカチュウ目掛けて突進してくる、口を大きく開けてピカチュウにその尖った牙で噛み付く気満々だ。
 運がいいのか何なのか、ピカチュウは格闘タイプの技である瓦割りを噛みつかれながらも繰り出した。

「ピーくん!? おつかれさま、ありがとう。キューくん、頼んだよ!」

 攻撃はイノムーにも当たったが致命的なダメージを与えることができずに、氷の牙で噛まれたことによって身体が凍ったことと、パウワウ戦でのダメージによって戦闘不能。
 続いてキュウコンが飛び出してきたが相性は抜群だ。この勝負は大丈夫だろう。

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