1章 3.再び動き出す

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「イズミ?」
「出番か?」
「まだ。でも、前書きは賑やかに……」
 私は玄関の扉の前で姿勢を変えず拳銃を構えてじっと待つ。男は相変わらず迷っているけど、徐々に近づいてくる。送られてくる情報を見るに危険性はないけど、アポなし訪問の無礼くらいは理解させよう。私の平穏な時間を奪ったのだし。
 拳銃に込められるのは、5.7mmの特殊弾。貫通性重視の弾。長年愛用しているけど、これ以上使い勝手のいいの拳銃は私は知らない。体の成長とともにグリップの握りも違和感がなくなってきた。



 男はこのビルの入り口を見つけたみたい。入り口の監視カメラからの情報が送られてくる。私は銃の安全装置を外す。相手が万が一プロだったら、躊躇わずに撃たないといけない。30年前の雑居ビルだからここのセキュリティは各部屋の扉の鍵しかない、後は何年か前に取り付けられた監視カメラ。私は男が3階のこの部屋の前に来るまでじっと、監視カメラを通して男の様子を見続ける。男の足取りは重い。





 躊躇いがちに上がる腕。扉の向こうで男はドアチャイムを鳴らすか逡巡している。その様子が監視カメラを通して扉越しに伝わって来る。
「面倒くさい」
 私は呟くと、ドアを蹴り開けて銃を構える。

「ア、アアアア? ア?」
 男はドアに弾き飛ばされて尻餅をついていた。そして、声にならない声で何か言おうとしている。
 私は、構わずに男に荷物を改める。危険なものはない。とりあえず安心。構えていた銃の安全装置をセットして、そのまま制服の上着のポケットに突っ込む。
「来ルノ? 来ナイノ?」
「エ? ア、ハイ」」
 私は顎で男に事務所の中に入るように促す。
 足が震えているけど、男は荷物をまとめると「シツレイシマス」と小声で呟いて事務所の中に入っていった。とりあえず、アポ無しの飛び込み客なのかな? それにしては、和菓子の紙袋以外の荷物が物騒だった。



「座ル」
 応接用のソファーに男を座らせる。私はこういうのは得意じゃない。お祖母様がいれば、全部やってくれるのに。いっその事この男を殺してなかった事にしようかな。周辺の監視カメラを再チェックするけど、仲間はいないみたい。まあ、見ての通りのただの客かな。
 用心のために、ポケットからモンスターボールを取り出してポケモンを外に出す。
「そいつ見張って」
「御意」
 9本の尻尾のあるポケモンは簡単に返事を送ってくる。

 色々面倒くさいから、紅茶を用意する間に男のスマホにハッキングして。
『要件を述べよ』
 と画面に表示させる。
「?? ……エ?」
 いちいち反応が鈍い男だ、私は拳銃をポケットから取り出して男に向ける。
「ヨ、要件ハ……。契約事項、10条ノ情報収集ト、特記事項ノ対処ノ全権委任。前金ト、事前ニ依頼ノアッタポケモンハ此方ニ」
 そう言って男は胸ポケットから封筒と、さっきの和菓子屋の紙袋からモンスターボールを取り出して目の前のローテブルに置く。

 私は紅茶を男の前に置くと、封筒とモンスターボールを受け取る。封筒の中には依頼書が同封されていて、お祖母様の見積書のコピーも同封されていた。
 という事は、お祖母様は仕事をそっちのけで老人会の旅行に行ったわけか……。
「メ、迷宮老婆様ハ。今日ハ御在宅デ?」
「イナイ」
「デス、ヨネ……」
 拳銃をポケットに入れた中学生と、戦闘体勢のまま睨みつけてくるキュウコンに挟まれて居心地がいいわけはない、だろう。一般人なら。
「要件済ンダナラ帰レ」
 顎で出て行くように指図する。男は、「失礼シマシタ!!」と叫ぶと事務所を飛び出していった。



「お疲れ」
 キュウコンに声をかける。
「問題ない」
 キュウコンをモンスターボールにしまう。
 さて、和菓子をつまみながら依頼書に目を通すか。依頼書は電子ファイル化してくれた方が私としてはやりやすいんだけど。お祖母様は、紙原理主義者だから……。
 ティーカップに角砂糖を3つ落とす。じわーっと溶けていくのを見つめながら、お札を数える。
 1枚。2枚。3枚……。
 300枚か。前金は15%の支払いだから。全部で2000枚の仕事。

 依頼書は、先日シルフカンパニーの研究所から逃げ出したポリゴンの情報収集と可能ならば捕獲の依頼。ポリゴンは情報収集システムの組み込み実験中に逃亡。逃亡理由は不明。ただし、逃亡の前後に外部との連絡、社内システムへのハッキングを繰り返している。その際、実験終了後にポリゴンの人格プログラムの削除に関する情報を閲覧した可能性がある。
「人格なんてポケモンに持たせるから逃げたんじゃないの?」
 紅茶を飲みながら依頼書を読み進める。
 通常であれば社内で対処できるのだが、実験が非合法活動を含んでいたので社内の人間が動き回るとよろしくない。それで外部の情報屋に依頼したと。ざっとそんな事が書いてある。
「自律思考型の戦略的情報収集システム。コンピューターではスーパーコンピューター数百台必要だけど、思考力のあるポケモンに任せれば数匹で数百台分の働きができる。そのプロトタイプのポリゴン」
 甘さが足りないので、紅茶に角砂糖を3つ追加する。
 手がかりは無し。お祖母様の見積書のコピーだと、捕獲含め此方で処理するとなっているけど、肝心のお祖母様がいない。私が春休み中に仕事しろって事ね。で、仕事のお供にポリゴン2とシルフカンパニーの社員向けブラックカード。これで好きにやれって事か。

「さてどうする?」
 ポケモン達に聞いて見る、ポケモン達が討議に入る。
ひゃほー!!続くぜ!!(赤面)

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