94話 争奪戦L

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『対戦可能なバトルテーブルをサーチ。パーミッション。ハーフデッキ、フリーマッチ』
「さあ、かかってきなさい!」
「望むところ!」
 周りでほのぼのと子どもたちが遊んでいる公園の中、とりわけピリピリとしたこの一帯では何故か由香里と薫が戦うことになっていた。まあ対戦を見れるのは楽しいということに変わりはないからいいんだけど。
 最初の由香里のポケモンはバトル場にピィ30/30、ベンチにハネッコ30/30。対する薫はバトル場にエイパム60/60。サイドは僅か三枚だけなのに、由香里のポケモンは全体的にHPが少なすぎるのが気になる。30/30はポケモンカードにおけるHPの最低ライン、それを二匹も晒すとは。
「あたしのターン」
 由香里は左手に手札を持ち右手でカードをプレイする。なんてことはない右利きのプレイヤーの動作だが、由香里は本来左利きだ。中学時代の由香里はよく、気合いが入るからという理由で右手に手札、左手でプレイをしていたはずだが矯正したのだろうか。それとも手加減のつもりなのだろうか。
「まず、手札の草エネルギーをハネッコにつける。そしてグッズカード、デュアルボール。コイントスを二回行いオモテの数だけデッキのたねポケモンを手札に加えることが出来る」
 期待値としてはオモテが一回出るといったところ。オモテ、ウラ、と確立通りの結果を叩き出す。由香里が手札に加えたのはタッツー50/50。手札に加えるとすぐに、タッツーはベンチに出される。
「ピィのワザを発動。ピピピ!」
「ピッ、ピピピ!?」
「自分の手札を全てデッキに戻す。その後、デッキをシャッフルしてカードを六枚引く。そしてピィを眠り状態にする」
 一見わざわざ自分で自分のポケモンを眠らせる行為に疑問点が湧くかもしれないが、きちんと理に適った効果である。
 ピィのポケボディー天使の寝顔は、このポケモンが眠り状態であるときこのポケモンはワザのダメージを受けない。つまりピィは眠りである限り無敵なのだ。
「ポケモンチェック。眠りのポケモンがいるとき、ポケモンチェックの度にコイントスを行う。オモテなら眠りを回復し、ウラなら眠りは継続。……ウラなので眠りは継続」
「あたしのターン! まずはエイパムにダブル無色エネルギーをつける。サポートカード、ポケモンコレクターを発動。デッキからたねポケモン三匹まで手札に加えることが出来る。加えるのはゴマゾウ二匹にグライガー。そして加えた三匹を全てベンチに出す!」
 閑散としていた薫のベンチにゴマゾウ70/70が二匹とグライガー70/70が並ぶ。薫のデッキはいつもの化石ではなく、闘タイプデッキか。
「エイパムでワザを使うわ、猿真似!」
「だけどピィは天使の寝顔でダメージを受けないわよ」
「猿真似は自分の手札が相手の手札と同じ枚数になるようにカードを引くワザで、元よりダメージを与えるワザじゃないの。今のあたしの手札は五枚で、あんたの手札は六枚。よって一枚だけ引くわ」
「ふーん、なるほどね。そしてポケモンチェック。……ウラなので眠りが継続」
 眠りのままではポケモンを逃がすこともワザを使うこともできない上、ピィは進化できないベイビィポケモン。自力で由香里のターンに回復することは出来ないことはないが厳しい。
「よし、あたしのターン。ベンチのタッツーをシードラに。そしてハネッコをポポッコに進化」
 盤石に由香里は場を整えていく。シードラ80/80にポポッコ60/60。二進化ポケモンを二ライン並べるつもりか。
「サポートカード、チェレンを発動。その効果で三枚カードを引き、ベンチにタッツー(50/50)を出してあたしの番はこれで終了。ポケモンチェックで眠りの判定。……オモテ、これでピィの眠りは回復する」
 由香里としてはこのタイミングでの眠り回復は痛い。肝心の攻撃を受けうる薫のターンで天使の寝顔が使えない、わざわざHP30のポケモンをバトル場に出しただけだなんて倒してくださいと言っているようなものだ。
「運が悪いわねぇ」
 左手に持った手札で扇子のように口元を隠し、目で笑う。そんな態度に薫はバツを悪そうにしている。妙に調子が狂っているのだろうか。
「ええい、あたしの番よ。まずはグライガーをグライオン(90/90)に進化。そしてインタビュアーの質問!」
 インタビュアーの質問は自分の山札の上からカードを八枚確認し、その中のエネルギーを好きなだけ選んで手札に加えることが出来るサポートカード。特殊エネルギーまでサーチ出来る点が優秀な一枚だ。
「その効果で闘エネルギーを二枚加える。グライオンに闘エネルギーをつけ、さらにグッズカード、ポケモン通信を使うわ。手札のエイパムを山札に戻してエテボースを山札から手札に加え、続いてバトル場のエイパムを今加えたエテボースに進化させる!」
 現れたエテボース80/80の持つワザはどちらも無色エネルギー二つで使えるワザだがその効果が曲者だ。両者とも嫌なプレイングをする。案外似た者同士かもな。
 一つは驚かす。威力は20と控えめだが、相手の手札をオモテを見ずに二枚選び、その後そのカードを確認してから相手の山札に戻し山札を切る。
 もう一つはテールスパンク。驚かすと違って威力は60だが、自分の手札を二枚トラッシュしなければワザは失敗してしまう。薫の手札は四枚あるので使えないことはない。
 ピィ30/30を倒すためにはテールスパンクだろう。もし驚かすを使って倒しきれないと、ピィの逃げるエネルギーは0なので次の由香里の番に簡単に交代されてしまう。
「まだよ、手札からグッズカード、プラスパワーを発動。このカードを使った番は、相手のバトルポケモンに与えるダメージをプラス10する! エテボースで攻撃、驚かす!」
 プラスパワーで驚かすの威力を20+10=30にしてきたか! 確かにこれならピィを気絶させて上手いこと相手の手札も減らすことが出来る。
「あんたの一番左とその二つ隣のカードを山札に戻してもらうわ」
「ワタッコとキングドラグレートを戻すわ」
 素晴らしい。まさかここまで上手く行くとは思わなかったが、由香里のベンチポケモンの進化系を二種とも戻すとは。これで由香里は動きが鈍くなる。
「そしてピィが気絶したことによりサイドを一枚引く」
 次の由香里のポケモンはポポッコ60/60か。逃げるエネルギーが0なので次の由香里の番のカードの引きによって気軽に動かすことが出来るな。
「ピィを倒したからって良い気にならないでよね。あたしのターン、手札からデュアルボール! ……ウラ、オモテ! よってデッキからハネッコ(30/30)を手札に加えてベンチに出す。そしてシードラに水エネルギーをつける。さらに、このシードラをキングドラに進化させる!」
「そんなっ!?」
「手札に二枚もあったのか!」
「おいで、キングドラグレート!」
 由香里のベンチに現れたグレートポケモン、キングドラ130/130。その体からはグレートポケモン共通のエフェクト、金色の粉末のようなものがはらはらと放たれている。まずいな、薫のゴマゾウも。さらにはグライオンも水タイプが弱点、一撃を喰らうととんでもない痛手を食うぞ。
「サポートカード、オーキド博士の新理論! 手札を全て戻し山札を切る。そして手札が六枚になるようカードを引く。続いてバトル場のポポッコをワタッコに進化!」
「っ!」
 さっき苦労して薫が山札に戻させたのをまるで嘲笑うかのように、由香里はその驚異的な引きでポケモンを揃える。ワタッコ90/90が出たということはベンチに逃がしてポケモンを変えるとかそういうつもりはないってことだな。
「布石を打っておくわ。キングドラのポケパワー発動。自分の番に一度、相手のポケモン一匹に10ダメージを与える。飛沫を上げる!」
 キングドラは盛大に上空に向かって水の塊を噴射する。水の塊はまとまったまま互いのバトル場を通り越し、ベンチのゴマゾウ60/70に襲いかかる。まだ飛沫を上げるを六度耐えれるが、問題なのはこのゴマゾウがバトル場に出てしまった時だ。10のダメージが大きく生死を分かつことなどはよくある。
「そしてワタッコでバトル! 皆でアタック!」
「来るぞ!」
 ワタッコの頭の綿が光り輝くと、それが光線となってエテボースを直撃する。激しい一撃にエテボース0/80の体は風に飛ばされた紙切れのように舞う。
「そんな、エテボースが一撃で!」
「皆でアタックの威力は互いのポケモンの数かける10となる。今貴女の場にはエテボース、ゴマゾウが二匹、グライオン。あたしの場にはワタッコ自身とキングドラ、ハネッコ、タッツーの計八匹。よって80ダメージ! エテボースのHP丁度分ってことね。気絶させたためサイドを一枚引くわ」
 たったエネルギー一枚で80ダメージ……。これが由香里のローコストで大ダメージを叩き出す強力なポケモン。
 続いて薫がグライオン90/90をバトル場に出したが、ワタッコは闘タイプに抵抗力を持つ。完全に薫の闘タイプデッキとは最悪のデッキとぶつかっていて、正面突破は厳しい。
 このまま一方的な展開となるのだろうか……?



翔「今回のキーカードはキングドラグレートだ。
  エネルギー一つでなんと60ダメージ。
  ポケパワーも合わせて70ダメージを出せる!」

キングドラ HP130 グレート 水 (L2)
ポケパワー しぶきをあげる
 自分の番に1回使える。相手のポケモン1匹にダメカンを1個のせる。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
水 ドラゴンスチーム  60
 相手の場に炎ポケモンがいるなら、このワザのダメージは「20」になる。
弱点 雷×2 抵抗力 - にげる 1

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