8話 血だまりと共に

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

遂に初依頼の仕事を受けることになったアブソルとロコン、アブソルは自身が何者なのかついて考えながらも海岸洞窟へロコンと向かう。
〜バンギラスギルド前6:30〜

「……ふぁ〜……眠い……。」

「ロコンさん、今日は初の依頼なのですよ、昨日話した通り、気を引き締めて行かなくては…。」

「うん……分かってる…がんばるぅ……。」

「だ、大丈夫かな……。」

依頼の場所に向かう時間が必要な為、アブソルとロコンは普段より早めに起床していた。しかしロコンはまだ寝足りないらしく、時々大きな欠伸をする。仕方ない…あの手を使うか……。

「あ!バンギラスさん!」

「ふぇ!?」

一気に目を大きく見開いたロコンは辺りを見渡す、しかしそこにはバンギラスの姿は無かった。

「眠気は飛びました?」

「え?……あ!アブソル騙した!?」

軽くポカポカ叩いてくるロコン、まぁ親方の目の前で寝ていたら誰だって怒られると思うだろうしね…。この手はまた使えそうだ……。

「海岸洞窟の道は僕わからないので…案内お願いしますね?」

「任せて!じゃあさっさと迷子になった子を助けて依頼終わらせちゃおう!」

眠気が覚めたロコンは先程の様子が嘘のようにハイテンションになっていた…やる気スイッチの切り替えどうなってるんだろ…アブソルはそう思いながらも前を走り出すロコンについて行った。



〜海岸洞窟前 7:00〜

「ギルドからは近い所に依頼の場所はあるんだ!海も良く見えてとっても綺麗な所なの!さ、アブソル!ここが海岸洞窟だよ…って…え!?」

「ロコンさん……?」

先を行くロコンが急に表情を変えたことに気づき、アブソルもロコンがいる場所へと走って追いつく、そこは洞窟としての形は全く整っておらず、ただ滅茶苦茶に崩された跡しか残っていなかった……とても綺麗な場所とは正直思えない…。

「…ここが…依頼の?」

「うん…だけど前来た時と全く違う…崩れて通りにくくなってる…。」

「…………。(シュンッ!)」

「ア、アブソル!?」

アブソルは階段を一気に飛び降りて砂浜に着地し、洞窟前へと駆け出す、ロコンも慌ててアブソルを追いかけた。

「急にどうしたの!?何か気になることでも……。」

「……ロコンさん、これ…自然に崩れたという訳ではないみたいです…。」

アブソルの周りを見て判断した推理にロコンは一瞬驚く…しかし…。

「ど、どうしてそう言えるのかな?」

「…息を大きく吸ってみて下さい…何か焦げたような匂いがしませんか?」

そう言われてロコンは大きく吸ってみる。確かに鼻をつくような匂いがあった。

「……ほ、本当だ…これって…。」

「誰かが炎系の技で意図的に崩したと考えられます…そして、まだこの焦げた空気になっているということは…。」

そこでロコンはハッとなって気づく…。

「まだ崩れて時間はそんなに経っていないってこと!?」

「正解ですロコンさん、これは急がなくては……依頼者が危ないかもしれませんね。」

「じ、じゃあすぐに行かなくちゃ!」

アブソルとロコンはそう考えるとすぐに洞窟へと入っていった…。




〜海岸洞窟2F~

1Fを降りたアブソル達は引き続き2Fを進んでいた。しかし、そこはやはり何者かによって崩された後が残っていた…焦げた匂いも強くなっている…しかし…。

「……ここに住んでいるポケモン達は…居ないのですか?」

アブソルの疑問はこれだった。そう、静かすぎる。ポケモンの姿は影も形も残っていなかった…。

「そ、そんなことないはずだよ!ここに住むポケモンだっていることは街のみんなも分かっている事だし…きっと何かあってここを離れたんだよ!」

「と、なると依頼者も一緒に逃げた可能性が…ん?」

アブソルはふと誰かの気配を感じその方向を向いた、そこには一匹の怯えているピチューが岩陰に隠れるように座っており、震えていた。

「ロコンさん!依頼内容の迷子の子ってあの子じゃ!?」

ロコンは依頼書を確認し、改めて内容を読み返す。

「うん、間違いないよ!話を聞いてみよう!」

アブソルとロコンはピチューの元へと向かった…だが…。

「迷子になっちゃった子は君かな?」

「ひっ!?あ……あぁ…。」

ピチューは何かに恐怖しているのかアブソルの質問に対し、声も上手く出せない状態だった。ロコンはアブソルに任せてと前に出ると笑顔でピチューを抱きしめ頭を撫でる…敵意がないことを伝えるためだった、しばらくするとピチューは落ち着き、表情は少し良くなっていた。

「あ、あの…ありがとう……ございます…。」

「無事で良かったよ、すごく怖い思いをしちゃったんだね…。」

コクリと頷くピチュー…アブソルはただ事じゃないと確信した。

「何があったか…私達に説明出来るかな?」

「は、はい…えっと…お母さんとはぐれてしまったのでここで私はじっとしていたのですが…急に大きな音がして…そ、そしたらこの辺りでは珍しいヘルガー…ってポケモンが来て…手当り次第に…洞窟を壊して行って…ここを住処にしていた…ポケモン達を…下に追い込んで行きました…。」

ピチューは涙声で所々途切れながらもハッキリとアブソルとロコンに事情を説明してくれた…身体が比較的小さいことが幸いしたのだろう…なんとか無傷ではあるようだ。

「そっか、ありがとう、じゃあお母さんが心配しているから早く帰ろっか。」

そう言ってロコンは探検隊のバッジを取り出す。これを使うと自動的に使用対象となったポケモンをギルド前に飛ばしてくれるという優れものだ。救助の時や撤退の時には欠かせない道具でもある。

ロコンがバッジを向けるとピチューは光に包まれる。

「……お、お姉ちゃん…き、気をつけてね!」

「うん、ありがとう、私達もすぐに戻るから。」

「あれ?そういえばお兄ちゃんはどこ…」

「え!?」

ピチューが最後に何か言う前に光は消えてしまった。ロコンは後ろを振り返る。アブソルの姿がなかった。

「ア、アブソル!?」

先に行ってしまったんだと判断したロコンはすぐに奥へと走っていった……。






〜海岸洞窟、3F〜

3Fの入口へと続く階段にアブソルはいた、それを見つけたロコンはホッとする。

「アブソル!1人で先に行っちゃ危ないよ!どうして私と一緒……に……。」

ロコンの言葉は途切れてしまった、アブソルが見ていた方向をロコンも見たからだ、そこには……




一面ポケモン達の死体による血の海が広がっていた……。


「嘘…でしょ…。」

ロコンは瀕死で倒れているのではなく、肉塊となってしまった死体があると言うことに驚き、体が震えてしまっている…ロコンはアブソルも同じ反応をしていると思っていた、しかしアブソルは無表情だった…。

「…下に追い込んだと聞いた辺りからまさかと思って先に向かわせて貰いました…ですが…遅かった……。」

アブソルとロコンはゆっくりと先を進みながら辺りを見渡す…腕を引き裂かれたもの、頭だけ取られたもの、身体中に穴を開けられたもの、焦げる程燃やされたもの……死体を見て殺し方は色々あるようだった。

「うっ!……ぐ…。」

ロコンは遂に吐き気を覚え、目尻に涙を溜めながら座り込んでしまう。

「ロコンさん!気を確かに、こういう時こそ落ち着かなくてはなりません!僕達がこの事件の真相を調べなくては……また被害者は増える一方です!」

アブソルはロコンを励ますが内心、この子はもう精神的に限界が来てしまっていると考えていた……するとアブソルは自分のバッジを取り出す。

「ロコンさん、先に戻ってバンギラスさん達にこの事を伝えて下さい!僕は奥に進んでみます。」

「だ、ダメだよ!ここから先は犯人のヘルガーが絶対にいるの!1人で行っちゃったら…アブソルが…アブソルが……。」

ロコンはすぐに顔をあげ、否定の意思を示す。するとアブソルは笑顔でロコンの頭を撫でた。

「心配してくれているのですか?ありがとうございます、しかしここは伝えると調べるで分けた方が効率的なんですよ、もし、僕が死んでしまったら…その時は…まぁ、後はお願いしますね!」

アブソルはバッジをロコンに躊躇なく向ける、ロコンの身体は先程のピチューと同じく光に包まれた。

「ア、アブソル!止めて!お願いだからバッジを戻して!私も一緒に、アブソル!アブソ……。」

シュンッ……

ロコンの声はアブソルの意思を変えることなく身体と共に消えていった。それを確認するとアブソルは3Fの出口の階段へと足を進めていく。

「ロコンさん…ごめんなさい…事情を知ったからには…せめて僕が被害者を増やさないために時間稼ぎくらいしなくては…。」


〜海岸洞窟4F、最下層〜

アブソルは最下層の4階についた、奥にはアメタマの四肢を引きちぎるヘルガーを目で捉えている、アブソルはそれを止めなかった…アメタマは既に頭を貫かれてその未来ある命を終わらせられていたから…ただ怒りだけは胸になんとか留める

視線を感じたヘルガーはアメタマをポイッと捨て、アブソルと目を合わせる。そしてニヤリと笑いながらアブソルに話しかけた。

「さっきから上が騒がしいと思ったら…お前達か?俺様の楽しい狩りの邪魔をしようとしているのは?」

まるで台本でも読んでいるかのような悪役のセリフに心の中で舌打ちをし、情報を引き出そうとこちらも口を開く。

「貴方は……自分が何をしているのか分かっているのですか!?」

「何って……一つの娯楽だろ、これは俺からしたら単に殺しまくるというゲームの一つに過ぎないのだからな…。」

アブソルの言葉にヘルガーは、なにか?と言いたげな表情をして答える。我を忘れている…という訳ではない、アブソルはそう判断した。

「この……外道が……」

「ハハハッ!綺麗事を抜かすな!お前の顔を見れば分かる、ここまで冷静に保てるってことは死体を見慣れているのだろう?だったら思う節があるんじゃないか、殺すのは本当は楽しいんじゃないか、その断末魔の叫びは俺達に快楽を与えてくれるかもしれないってな!」

「なんだと!?……貴方のその考え方のせいで尊い命が幾つ亡くなったと思っている!」

「知ったことか!俺様は特別なんだ!そんな存在の為に死ねるのなら死して本望だろうよ!クハハハッ!」

その言葉を聞いた瞬間アブソルの身体は一直線にヘルガーへと突っ込む、槍は既に構えており、怒りと共に振り下ろした。しかしその大振りはヘルガーに避けられる。

「おっと、お前も俺様の娯楽の為に死んでくれるのか?いやぁ、人気者は辛いねぇ。」

「黙れ!貴方の娯楽の為に死にたい人などいるはずがない!」

「なら教えてやるよ、死とは何なのか、その白い身体を赤く染めてな!」

アブソルは再びヘルガーに向かって走り出す。

ドンッ……!

その音を聞いた瞬間、アブソルの突進は止められ腹部を痛みが襲った、ヘルガーは離れているため遠距離の技なら構えがあるはず…だがその考えが甘かった、ヘルガーの左前足には…尻尾で照準を支えながら銃が構えられていた…。


「言っただろう?俺様は…特別なんだってよ。」

「くっ!しまった…速射性に優れたマグナムか!」

「ほぉ、この銃の種類を知っているのか、この世界の技術も知識も捨てたもんじゃないな…だが。」

アブソルは体制を整えようとするが身体が言うことを効かない…そして遂には倒れてしまった。

「気づくのが少し遅かったな、この洞窟を住処にしていたゴミ共と仲良く死ね。」

そう言ってヘルガーはアブソルの横を通り過ぎていく、そしてそこから立ち去ろうとした時……。


「ハアッ!!」


ビュンッ!

……カラン……。



アブソルには既に槍を振り回す力は無い。だが軽い何かを投げる余力だけは残っていた。アブソルはロコンと作ったダガーを渾身の力で3本投げたのだ。

「このっ…!貴様ッ……!」

ヘルガーの銃を握った左足に1本は外れたが残りの2本は当てることに成功。ヘルガーは痛みの余り、銃を落とす。運良く脈に刺さったので出血も酷かった。

「クソッ!油断していた…だがもう限界だろう、残念だったな、まぁ最後に俺様に血を流させたことだけは褒めてやるよ。」

ヘルガーは銃を右足で拾って収納すると、とどめを刺すこと無く逃げるようにその場を去っていった。

「ま、まて…うっ!」

アブソルは追いかけようとするが動けない、意識まで遠くなっていく……。

「こんな…所で…倒れる…訳には…。」

アブソルの意識はどんどん遠くなっていく。視界まで暗くなり始めた。

「ロ…コン……さん……。」

アブソルはパートナーの名前を最後に呟き、その目を閉じた……。

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