あんだーものがたり(G)

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ある日の事。ゴビットが山で新しい技の練習をしていると、積もった枯草に足を滑らせて、地面に開いた穴に落っこちてしまいました。

ひゅーっと落ちていくと、なにか柔らかいものに当たりました。触ってみると、黄色い花が落ちてきたところの周辺に、カーペットのように敷かれていました。これで命拾いをしたようです。

見上げると空は丸く遠くなっていました。流石のゴビットも、登り切って地上に出るのは難しそう。困ったなぁと考え込んでいると、声をかけられました。振り返ると、そこにはサボネアが笑顔で腕を振っていました。

「きみもここに落ちて来たんだね。ぼく?ぼくもむかーしに落ちたのさ。 お日様の光はここにしか届かないから、ぼくはここで咲いているしか出来ないんだ。もちろん地上へ帰ろうと思ったさ。でもこの地下には恐ろしいポケモン達が住み着いていて、そいつらが邪魔するんだ……きみ、強そうだね。お願い、恐ろしいポケモン達をやっつけてよ。道案内はぼくがするからさ!きみだって地上に帰りたいだろう?」

ゴビットはなんだか聞いたようなセリフだなと思いましたが無言で頷くと、サボネアは意気揚々と前を歩き始めました。ゴビットはただそれについていきます。

うすぼんやり覚えているような花や見たかもしれない星の欠片のようなものがキラキラ光り、地下世界はちっとも暗くありません。

「あっ!あいつだよ!」
サボネアが示す方にはケンタロスがいました。けれど、おだやかに草を食んでいるだけで、悪いポケモンには見えません。

「えっ?悪いようには見えないって?そ、そんなことないよ!あいつはいっつも……」
言い終わらないうちにサボネアに気付いたケンタロスは、雄たけびを上げて猛スピードで突進してきました。
「ほらいった通りでしょ?ねぇ頼むよ、あいつをやっつけて!」

その場からサボネアを遠ざけて、ゴビットはケンタロスに立ち向かいます。大丈夫、ノーマルタイプのとっしんなんてゴビットには効かないのですから。ゴビットの体をすり抜けたケンタロスは、そのまま大きな岩にぶつかって気絶してしまいました。

「やったぁ!やっぱり君を選んで正解だったよ!さぁこいつから魂を抜いちゃってよ。それがないと扉が開かないんだ。きみはゴーストタイプだし、できるでしょ?」
サボネアに言われて、ゴビットが魂を引きずり出すと、ケンタロスの体は塵になって消えてしまいました。
「ないすないすぅ!さぁつぎへいこうね~」
サボネアの言葉に言いしれない違和感を抱きつつ、ゴビットは先へ進みます。

サクサク道を進んでいくと、またサボネアがあれ、あいつらだよと指し示します。見れば、崖の上にデルビルとヘルガーが、険しい表情で立っていました。こちらを監視しているようです。確かに、顔だけ見れば悪いやつにみえなくもありません。

「あの兄弟、いっつもぼくをいじめるんだ。兄のデルビルが相手の動きを弟のヘルガーに伝えて、ヘルガーが攻撃してくるんだ。気を付けて!」
そう言い残すと、サボネアはそそくさと隠れてしまいました。

どうしてかはわからないけれど、相手の攻撃方法がわかったゴルーグは、まるくなってじっと待ちます。そしてかみつこうと牙を光らせて飛びかかってきたヘルガーにタイミングを合わせて、メガトンパンチをおみまいします。

大きく後ろに吹っ飛んだヘルガーを心配して、デルビルが崖から降りてくるのを見計らって、今度はマグニチュードを放ちます。 結果は……マグニチュード4!そこそこの攻撃です。

攻撃を受けたデルビルとヘルガーは足元がふらふらになってしまい、その場に倒れ込んでしまいました。
「いえーい!その調子!そいつらの魂ももってっちゃってよ~」
ますます上機嫌になったサボネアは、三つの魂を周りに浮かせたゴビットの背中をズイズイ押して、歩を進めさせるのでした。

サボネアに押されて進んでいくと、うすぼんやり白い光が見えてきました。 その光は線のようにつながっていて、先を辿っていくと円形になっていました。 そうまるで……クモのいとのように。ゴビットが気が付いた時にはすでに遅く、上からアリアドスが音もなく降りてきました。

「こいつはねばねばする糸を出して、獲物を動けなくするようなヤツなんだ!頑張ってやっつけちゃってよ!君なら余裕だって~」
糸の範囲の外からサボネアの調子のいい声だけがします。

動けば動くほど絡まる糸にゴビットは大苦戦。そうしている間にも、アリアドスの牙が襲い掛かろうとじわじわ迫ってきます。このままでは食べられこそはしないものの、ひどい目にあうに決まっています。

やっとやっと繰り出したほのおのパンチは、距離が足りずアリアドスには当たりませんでしたが、炎で糸が切れゴビットは脱出できました。
糸を伝って炎が燃え移り、アリアドスはやけどになってしまいました

「やったやったぁ!きみってば天才すぎ~♪ささ、魂抜いて行っちゃおうよ!え?クモの糸があることを知っていただろうって?あはは、ごめんごめん。次はまたぼくが前を歩くから、それで勘弁してよ」
反省の色が少しも見えないサボネアは、ゴビットの前をスキップで進んでいきます。ゴビットも見よう見まねでやってみましたが、やっぱり今回も上手くいきませんでした。

それからまた進んでいくと、湖と呼ぶにはちょっと小さい、大きな池にやってきました。静かな水面に、ぽつぽつと見たことのない花が浮かんでいます。サボネアとゴビットが過ぎ去ろうとすると、池から視線を感じます。

近寄って覗きこむと、ヨワシが一匹泳いでいました。どこからどうみても悪いポケモンには見えません。
「ちっちっち!見た目に騙されちゃあダメだよきみ。こいつは弱いフリをして、相手を油断させてから攻撃してくるようなひどいやつだよ」

その言葉通りかどうかはわかりませんが、ヨワシはサボネアを見るなりうるうる瞳を輝かせて仲間を呼び集めようとします。ゴビットはどこかでこの光景を見たことがあるような気がして、仲間がやってくる前に池に向かってかみなりパンチを放ち、ヨワシを気絶させました。

「おおう!きみってほんとーにサイコーだね!さー魂を抜いていこいこ♪次が最後だからさ!ふっふ~ん♪」
サボネアは鼻歌なんか歌って、ご機嫌で飛び跳ねています。ゴビットも、次が最後のような気がしてきました。どうしてだろう。疑問が解決しないまま、水の音一つしない静かな池の橋をのんびり進んでいきました。

そんなわけで最後にやってきたのは古い城。小さめで、地上にはないような装飾でシンプルに飾られていますが、入ってみると誰もいません。サボネアに言われるまま城内を歩いていくと、王の間からイビキのような「ぐおーぐおー」という声がします。

王の間にいたのは、王冠をまんなかの頭に戴くサザンドラでした。
といっても地上で見るサザンドラよりは小さく、お腹はまるくぷにぷにしています。なんだか楽しい夢でも見ているのか、にっこり笑顔で寝ています。

「あいつは寝ているみたいだから、今のうちに魂を抜いちゃおうよ。え、こんな楽しそうに夢をみているのにいいのかって?ばっかだなぁきみは、こいつは起きたら暴れだして大変なんだから!」
サボネアにぐいぐい押されて、サザンドラのお腹に手を伸ばし潜り込ませたあたりで、ゴビットはこの後何が起きるのかをふと思い出したような気がしました。そしてもう取り返しなど、とうにつかなくなっているということも。

ずりゅりとサザンドラの魂を抜くと、サボネアはこちらに背を向け落ちてくる王冠に手をかけたので、ゴビットは気づかれないようにそーっと近寄って、サボネアの魂を抜き、塵になっていく二匹の体と一緒に落ちてきた王冠を取りました。内側には邪悪なるものを封印する古代文字が刻まれていました。

ゴビットは玉座を退かして城の地下へと降りていき、見覚えのある扉に七つの魂を捧げ開け、地上へ向かって一歩踏み出すと、ものすごい地響きが起こり、扉は崩れてなくなってしまいました。
王冠を両手で抱きしめて、ゴビットは一匹寂しく洋館に帰るのでした。

きょうのおはなしは、これでおしまい

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