ぴんっと伸びきった腕の先で、ひょこひょこと上下するてのひらを見ていた。白くて、細くて、つついたら折れてしまいそうなそれが、あんなにまぶしいのが不思議だった。
あれは、ニンゲン。
ニンゲンの、子ども。
ボクたちといっしょに暮らしてるけど、ボクたちポケモンとはちがう生き物。
輪になって座るニンゲンの子どもたち。その真ん中で、にっこりと笑って話すハカセ。ボクはそれを裏庭からそうっと見ていた。
研究所と裏庭を仕切るのはガラスっていう透明な板で、よく目を凝らさないと壁なんてないみたいだった。だからボクは、むこうとこっちは繋がってないんだとわかっていても、木の後ろに体を隠して中を覗いた。
ハカセが、子どもたちになにか配っていた。おいしいものかもしれないと思って、ボクもつい身を乗り出す。
それは赤と白が半分ずつの、小さくてまるいものだった。おいしそうじゃないから、食べ物ではないんだろう。ボクはちょっとがっかりした。
ふと、子どもたちのひとりがこっちを見た。さっき手を上げてひょこひょこしていた、色の白い子。ハカセと同じメガネというものをかけた目はまんまるで、音がしそうなくらいぱちぱちしていた。
その子の顔がぱあっと輝いた。こっちに身を乗り出そうとしたので、ボクはびっくりして木の裏に引っ込む。
少し待ってみたけど、その子がこっちに来ることはなかった。
そうっと、もう一度頭だけ出して研究所を見る。
その子はハカセがまた話し出したから、こっちに来るのをあきらめたみたいだ。
それでもちらちらとこっちを見ていて、だからまたボクと目が合った。
その子はぱっとうれしそうに笑った。
白くて細くて小さな手が、こっそりとボクにむけて振られていた。それがやっぱりまぶしかった。
ボクが生まれたばかりの季節。
まだ、なにも知らない頃だった。