59話 真剣

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「へへっ」
 笑いながら鼻の下を指でこする。俺の残りサイドは五枚で、対戦相手の沙羅さんは六枚。
 俺のバトル場には草エネルギーのついたスピアー(DP4)110/110。ベンチにはネンドール80/80、草エネルギー一つついたスピアー(DPt2)110/110、スピアー(DPt2)110/110、スピアー草(DP4)110/110、ダメージを負っているフィオネ20/60。
 相手のバトル場には新しく登場した炎エネルギーが三つついているブーバーン100/100、ベンチにはデルビル50/50。まだまだ俺の方が有利だ。
「喜ぶにはまだ早いぞ。私のターン」
 しかし沙羅さんの手札は今ドローしてもようやっと二枚だ。たった二枚じゃ俺のこのリードは揺るがないさ。
「手札の炎エネルギーをデルビルにつけて、ベンチにユクシーを出す。そしてこの瞬間にポケパワー発動。セットアップ!」
 ユクシー70/70が新たにベンチに現れると、ユクシーの周りにカードを象った長方形が七つどこからともなく出てきた。
「このポケモンを手札からベンチに出した時、自分の手札が七枚になるようにデッキからドローする。今の私の手札は0。よって七枚ドローする」
 なんということだ。一気に相手の手札が潤ってしまった。文字通り開いた口が塞がらない。
「そしてブーバーンをブーバーンLV.Xにレベルアップさせてサポーターカード、ミズキの検索発動。手札を一枚戻し、ポケモンのカードを一枚手札に加える。私はヘルガーを手札に加え、ベンチのデルビルを進化させる」
 沙羅さんの手札はあっという間に四枚まで減るものの、バトル場には悠然とブーバーンLV.X130/130、ベンチにはヘルガー80/80とユクシー70/70が構えている。
「ブーバーンLV.Xで攻撃。火炎太鼓!」
 ブーバーンLV.Xがバトル場のスピアーに向かって大きな咆哮をあげると、それに遅れてブーバーンLV.Xの体から溢れんばかりの火炎がほとばしり、それは拡散しつつも確かにスピアーを狙った。
 スピアーのHPバーは減り続ける。半分を切り、四分の一を切り、そして0。
「えっ、もう気絶!?」
「ブーバーンの火炎太鼓は威力は80と高いけど、自分の進化前にブビィが無ければ自分の手札のエネルギーを二枚トラッシュしないと使えないワザ。私のブーバーンLV.Xはブビィから進化しているからカードをトラッシュする必要はないわ。更にスピアーの弱点は炎+30。よってスピアーが受けるダメージは110!」
「110って、スピアーのHPと同値じゃねえか……。くそっ、俺はスピアー(DP4)をバトル場に出すぜ」
「サイドを一枚引いてターンエンド」
「たった一ターンで追いつかれるとは思わなかったな。俺のターン! 手札からグッズカード、夜のメンテナンスを使うぜ。トラッシュの基本エネルギーかポケモンを合計三枚までデッキに戻す。俺はビードル、コクーン、スピアー(DP4)をデッキに戻してベンチのスピアー(DPt2)のポケパワー、羽を鳴らすを発動。その効果によってデッキからビードルを手札に加える。さらにもう一匹のスピアー(DPt2)の羽を鳴らすを発動してスピアー(DP4)を手札に戻す! ビードルをベンチに出して不思議なアメを発動。ベンチのビードルをスピアー(DP4)に進化させるぜ」
「倒したばっかりなのに?」
 俺のベンチには再びスピアーが三匹並んだ。沙羅さんは驚いて絶句しているようだ。
「倒されても諦めねー! それが俺の根性だ。バトル場のスピアー(DP4)に草エネルギーをつけ、ネンドールのポケパワー、コスモパワーを発動。手札を二枚デッキボトムに戻し、デッキから五枚ドロー!」
 またたく間にデッキの残り枚数は二十七枚になる。流石にドローしすぎかな?
「スピアー(DP4)で攻撃。皆で襲う!」
 またスピアーの大群がブーバーンLV.Xに襲いかかる。130あるブーバーンLV.XのHPがあっという間に10まで削り取る。
「よっし、ターンエンド!」
「私のターン。……、それにしても正直驚いたわ。まさか倒した次のターンにポケモンをすぐ並べるだなんて」
「俺にとっては造作ないことですさ」
「そう。だったらそのリズムを崩すとこから攻めていくわ」
 沙羅さんが余裕の笑みに。思わず俺は身をグッと構える。
「まず手始めに。あんたのポケモンが手早く進化する流れを断つ。新しいスタジアム、ポケモンコンテスト会場を発動。新しいスタジアムが発動されたため、破れた時空はトラッシュされる」
 暗い背景が元の展示場に戻ると、今度は明るいポケモンコンテスト会場がバックに現れる。辺りもヨスガシティの栄えた街になり、平和な光景が広がった。
「そしてポケモンコンテスト会場の効果発動。お互いのプレイヤーは、自分の番ごとにコインを一回投げれる。そして表だった場合、自分のデッキからたねポケモンを一枚ベンチに出してポケモンのどうぐをつけることができる。……表ね、デッキからデルビルをベンチに出し、達人の帯をつける」
 コンテスト会場の扉が開くと、中から達人の帯をつけたデルビル50/50が現れる。しかし、達人の帯の効果でHPが20増えてデルビルのHPは70だ。それ以外にも達人の帯をつけたポケモンはワザの威力が+20され、気絶させられた場合相手はサイドを二枚引くという効果もある。
「ブーバーンLV.Xに炎エネルギーをつけて、ブーバーンLV.Xのポケパワー発動。灼熱波動!」
 ブーバーンLV.Xが深く息を吸い込むと、紅蓮の吐息を俺のバトル場のスピアー(DP4)に吹きかける。吹きかけられたスピアーには火傷マーカーがつけられた。
「灼熱波動は相手のバトルポケモンを火傷にするポケパワー。このポケパワーで火傷になった場合、火傷で受けるダメージは通常の20から30になるわ」
「30!? いや、でもまあある程度は余裕あるか……」
「草ポケモンをサーチし続けるスピアー(DPt2)は厄介だけど、それ以上にドローエンジンとなるネンドールが一番厄介。ブーバーンLV.Xでネンドールに攻撃。フレイムブラスター!」
 ブーバーンLV.Xは真正面にいるスピアー(DP4)ではなく、ベンチにいるネンドールに向けて真っすぐに右腕を突き出すと唸るような低い音と共にすさまじい火炎が放たれ、それは広がりはしないものの不規則に荒れ狂いながらネンドールを包み込んだ。そしてネンドールのHPは瞬きする間に80から0へ下がって行く。
「一撃でこんなにやられるとは」
「フレイムブラスターはブーバーンLV.Xについている炎エネルギーを二個トラッシュしなくてはならない上に次の番にこのワザが使えないデメリットがあるけど、相手の場のポケモン一匹に100ダメージを打ち込む大技よ。『相手』ではなくて『相手のポケモン一匹』だからベンチのネンドールを攻撃できたってワケ。サイドを引いてターンエンド」
 沙羅さんの番が終わったため、ポケモンチェックが行われる。コイントスボタンを押すと、儚い願いは届かず裏。スピアー(DP4)の体が一瞬だけ炎に包まれるエフェクトが発生し、HPバーが110から80へ緩やかに削られる。
「俺のターン! 手札の草エネルギーをベンチのスピアー(DP4)につけ、俺もポケモンコンテスト会場の効果を発動させるぜ。コイントス!」
 今度こそと憤ってみるも、またもや裏。俺には分かる。こういうときはダメだ。運も流れもついてこない。
「バトル場のスピアー(DP4)をベンチに逃がし、今エネルギーをつけたばかりのベンチのスピアー(DP4)を新たに場に出すぜ。逃げるエネルギーは0だからエネルギーはトラッシュしなくて済む上に、ベンチに逃がすことで火傷も回復だ」
 俺にちょくちょくカードを教えてくれた風見が、「運が向かないと思ったらコイントスは避けろ」と言っていたのを思い出す。思えばあいつのデッキにはコイントスを要するカードがほぼないな……。と余計なことを考えていた。
「よーし。スピアー(DP4)で攻撃だ。皆で襲う!」
 本日何度目だろうか、スピアーの大群が残りHP10しかないブーバーンLV.Xにとどめの一撃を───いや、スピアーが大勢で襲いかかる様を一撃と言い表すのには無茶があった───食らわす。
「サイドを一枚引いてターンエンドだ」
 次の沙羅さんのポケモンは先ほどポケモンコンテスト会場の効果でベンチに出した達人の帯つきのデルビルだ。
「私のターン。流れを断ったと思ったら考えは甘いわね。手札のグッズ、ゴージャスボールを発動。自分のデッキからLV.X以外の好きなポケモンのカードを手札に加える。私が加えるのはもちろんヘルガー。そしてバトル場のデルビルを進化させる。
 小柄なデルビルの体が二倍程大きくなってヘルガーとなる。達人の帯をつけているせいでHPが通常のヘルガーより20大きい100/100だ。
「そしてこのヘルガーに炎エネルギーをつけて、傷を焦がす攻撃!」
「へへん、傷を焦がすは威力たったの20! 達人の帯と弱点の効果で20、30と加算していったところで俺のスピアー(DP4)が受けるダメージは70だぜ!」
「甘いわね。ヘルガーには復讐の牙というポケボディーがあるの。私のベンチポケモンの数があなたのベンチポケモンより少ない場合、ヘルガーがバトルポケモンに与えるワザのダメージは+40される。今の貴方のベンチにはスピアー三体とフィオネの四体。私のベンチはヘルガーとユクシーのみ。よってポケボディーが働き、このワザでそのスピアー(DP4)に110ダメージを与える」
「110って俺のスピアー(DP4)の最大HPと一緒じゃねえか!」
 気付いた時にはスピアー(DP4)はぐったりと倒れていた。仕方なく、さっき火傷を受けたスピアー(DP4)70/110をバトル場にだす。
「残念ね、サイドを一枚引いてターンエンドよ」
「俺のターンだ。えーと、くそ! どうすんだ」
 俺の手札は今八枚ある。しかし、内訳がネンドール、草エネルギー二枚、コール・エネルギー二枚、フィオネ、アグノム、ミズキの検索。このピンチを打開する手がない。アグノムやフィオネをベンチに出せばヘルガーのポケボディーで……。
 焦りを通り過ぎてイライラしてしまっていた。風見に「どんな不利な状況であっても自分をしっかりと保て。チャンスは必ず来る」とアドバイスを受けていたのだがそれさえ思い出す余裕がなかった。
「ベンチのあらかじめ草エネルギーが一つついてあるスピアー(DPt2)に草エネルギーをつけ、バトル場のスピアー(DP4)で皆で襲う攻撃!」
 しかしヘルガーを倒しきることは出来なかった。スピアーの数が減ったため、皆で襲うの威力は90しか出ずにヘルガーのHPを10だけ残すという状況で俺の攻撃は終わった。
「私のターン。ベンチのヘルガーに炎エネルギーをつけ、傷で焦がす攻撃!」
 またも110の三ケタダメージで俺のスピアー(DP4)は気絶。さっきエネルギーをつけたスピアー(DPt2)をバトル場に出す。
「サイドを一枚引いてターンエンド」
 俺のサイドは四枚なのに沙羅さんのサイドはもう二枚だ。どうすれば勝てるんだ。どうやったら。
「俺のターン、スピアーに草エネルギーをつけて攻撃だ。ニードルショック!」
 さっきみたいにスピアーをまたトラッシュから速攻でベンチに戻すコンボは、トラッシュのカードをデッキに戻してから始まる。しかし俺の手札にはそれを可能にさせるカードがない。だからがむしゃらに攻撃するしかない。
 本来ニードルショックは相手を毒とマヒに出来るワザだが、残りHP10のヘルガー相手ではその効果も無意味。勿体ないな、と思った。
「私はベンチのヘルガーをバトル場に出すわ」
「今倒したヘルガーは達人の帯をつけていたため、俺はサイドを二枚ドローできる!」
 ようやく夜のメンテナンスが来た! 間に合うか……!?
「私のターン。手札の炎エネルギーを更にバトル場のヘルガーにつけて攻撃。紅蓮の炎!」
 ヘルガーが口をあんぐりと開くと、そこから真っ赤な炎が射出された。
「紅蓮の炎の威力は60。弱点とポケボディーの効果によって与えるダメージは130だ」
 HP110は本来決して低いという数字ではない。そのはずが、さっきから何度も何度も三ケタダメージばかりを食らっているのだ。どういうことだ。
「紅蓮の炎を使った後、コイントスをして裏ならヘルガーについている炎エネルギーを二枚トラッシュ。……表。よってエネルギーはトラッシュしないわ」
 もう後がない。ベンチの最後のスピアー(DPt2)をバトル場に出した。
「サイドを一枚引いてターンエンド」
「俺のターン!」
 手札の夜のメンテナンス。これを使えばまたスピアー(DP4)を呼び出せるかもしれない。
「手札からグッズカード、夜の───」
 いや、ちょっと待てよ? もしスピアー(DP4)を呼んで、攻撃できるようになったとしてもそのスピアー(DP4)と今バトル場にいるスピアー(DPt2)の二体しかスピアーがいないため、皆で襲うは60しか威力が出せない。それじゃあ今目の前にいるヘルガー80/80は倒せない。
 そして次の番、沙羅さんがヘルガーで紅蓮の炎をしたら……。
 そこから導き出せる結論、俺がすべきことは一つ。
「降参します」



 俺のナンパ計画は終わった。そのまま膝からがっくりと崩れ落ちるが、沙羅さんはそんな俺に見向きもせずにどこぞに行ってしまった。
 後ろの方で拓哉が対戦相手の中学生の男子に向かって「俺は自分の場と相手の場にある全てのカード、全てのポケモンを最大限に活かして一つのバトルを組み立てる。そのためにあいつほどじゃねえが、俺も俺なりにデッキを信じてる」と言っていた。
 翔ぐらいだと「ちゃんとデッキを信じずに自分の目先の欲望だけ考えてたからこうなったんだろ?」と言ってきそうだ。
 そこまで考えると胸に堅いものが突き刺さり、もう自力でそこから立てそうになかった。


蜂谷「今回のキーカードはブーバーンLV.X……
   レベルアップ前も非常に強くてバラエティに富んだ戦い方が出来るみたい……。
   帰っていい?」
翔「こないだ俺のセリフを俺を撥ね退けてでも無理やりでも言ったヤツとは思えないなぁ。っておい大丈夫か!?」

ブーバーンLV.X HP130 炎 (DP2)
ポケパワー しゃくねつはどう
 このポケモンがバトル場にいるなら、自分の番に1回使える。相手のバトルポケモン1匹をやけどにする。ポケモンチェックのとき、このやけどでのせるダメージカウンターの数は3個になる。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
炎炎炎炎  フレイムブラスター
 自分の炎エネルギーを2枚トラッシュし、相手のポケモン1匹に100ダメージ。次の自分の番、自分は「フレイムブラスター」を使えない。
─このカードは、バトル場のブーバーンに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 水×2 抵抗力 - にげる 3

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