57話 俺流

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「さあ、ポケモンチェックだ。エクトプラズマーの効果によってお前のポケモン全員にダメージカウンターを乗せる」
 沙村のポケモン達は各々の姿勢で苦しみだす。そしてそのままHPバーは緩やかに減少していく。
 バトル場にいる鋼の特殊エネルギーが二枚、基本エネルギーが一枚ついたボスゴドラは100/130。ベンチのジバコイルは90/120。鋼の基本エネルギーが二つ、鋼の特殊エネルギーが一つついたディアルガLV.Xは80/110、ココドラは40/50。
 それに対して俺のバトル場のポケモンは超エネルギー一つついているゲンガー110/110、ベンチには同じゲンガー110/110、ベンチシールドのついたネンドールは80/80。
 残りのサイドは互いに四枚だが、主導権は完全に掌握している。
「俺のターン。ゴースとヤジロンをベンチに出し、ゲンガーで攻撃する。シャドールーム!」
 ゲンガーは両腕を自分の腹部に持っていく。すると右手と左手の間に黒と見違えるほどの濃い紫色の立方体の謎の物体を作り出す。ゲンガーが腕を広げるとその立方体もそれに合わせて大きくなる。ある程度の大きさになると、ゲンガーはその立方体を投げつけた。
 謎の立方体は沙村のバトル場にいるボスゴドラに───。少なくとも沙村はそう思ったはずだ。実際には、謎の立方体はボスゴドラの脇腹の横を通り過ぎてベンチにいるココドラにぶつかった。
 ぶつかっただけならまだしも、謎の立方体はココドラを包み込む。謎の立方体にココドラが捕えられる様子になった。
「なっ」
 ココドラのHPバーが40から10へと減少すると、ココドラを包んでいた謎の立方体は霧散した。
「シャドールームは『相手のポケモン一匹』にダメージカウンターを三つ乗せる技だ。そこのデカブツみたいに真正面しか殴れないと思うなよ。ポケモンチェックだ!」
 休む間もなく沙村のポケモンが苦しみ始める。ボスゴドラのHPは90/130、ジバコイルは80/120、ディアルガは70/110。そしてココドラのHPは尽きた。
「サイドを一枚引くぜ」
「くっ、僕のターン! ジバコイルにマルチエネルギーをつける」
(マルチエネルギーはポケモンについてる限り全てのタイプのエネルギー一個ぶんとして働くエネルギーだね)
「あいつのジバコイルのワザには鋼エネルギーと無色エネルギーしか必要としねぇはずだ。何かあるかもな」
「そしてグッズカードのエネルギーつけかえを発動。ディアルガLV.Xについている鋼の基本エネルギーをボスゴドラにつけかえる! 更にサポーターのバクのトレーニングを発動」
 バクのトレーニングとは、自分の山札からカードを二枚引くサポーターだ。しかし効果はそれだけでなく、このカードを使用したターンはポケモンのワザの威力を10上げるのだ。
「来いよ、潰してみろ!」
「ボスゴドラでゲンガーに攻撃。ハードメタル! ボスゴドラに40ダメージを与えることによって、ワザの威力は60から100へ。更にバクのトレーニングの効果によってゲンガーに与えるダメージは110!」
 鈍色の光に包まれたボスゴドラが地面を蹴り勢い良くゲンガーに肩からぶつかっていく。ゲンガーを地面に叩き伏せるようにのしかかると、ボスゴドラは思い切り頭をゲンガーの頭に叩きつける。爆ぜるような音が衝撃の強さを物語り、頭突きを見舞ったボスゴドラでさえ、ふらつきながら後退るとゲンガーから距離をとった。
 ゲンガーのHPは110から一気に0へ。ボスゴドラのHPは70/130。ハードメタルの効果で自らも40ダメージを受けるはずだが、現に20しか受けていない。
「ハードメタルの効果でボスゴドラが受けるダメージは、鋼の特殊エネルギーで軽減できる。ボスゴドラについている鋼の特殊エネルギーは二つ。よって受けるダメージは20軽減され、20ダメージ」
「まーたトリガー引いたな。再び天国か地獄かのターニングポイントだ! ゲンガーのポケパワー発動。死の宣告!」
「倒したはずなのに……」
「倒されたときに発動するポケパワーなんだよ。今から俺様はコイントスをする。裏なら効果はないが」
 出来るだけ相手に緊張感や動揺を与えれるようにわざと言葉を区切る。
「表だった場合は問答無用でボスゴドラは地獄送り(気絶してトラッシュ)だ!」
 バトルテーブルを叩きつけるようにコイントスのスイッチを押す。結果は、
「わりぃな、表だ」
 倒されたゲンガーの影がすっと伸びてボスゴドラの影と重なり、重なった影はゲンガーの形を形成した。ボスゴドラが異変に気づいて振りかえったのが最期、なんと影が立体と化してボスゴドラを殴りつけた。70も余力のあったボスゴドラのHPはあっという間に0になる。
 今まで無表情、それかかろうじて悪意の眼差ししかしなかった沙村の顔が初めて負の色に包まれた。思い通りにいかない動揺、予想しない出来ごとの連続から来る驚愕。
「ようやくいい表情しはじめたじゃねえか」
「……ゲンガーが気絶したことによってサイドを一枚引く。新しいバトルポケモンはジバコイル」
「俺も引かしてもらうぜ。ベンチにいたもう一匹のゲンガーをバトル場に出す。そして楽しみポケモンチェックだ」
 何度目だろうか、またも沙村のポケモンが苦しみ始める。先ほどよりもポケモンの数が減ったのでうめき声の音量は控えめだ。今回のエクトプラズマーによってジバコイルは70/120、ディアルガLV.Xは60/110へ。
「俺のターン、ドロー。ゴースに超エネルギーをつけ、ヤジロンをネンドールに進化させてベンチシールドをつける」
 これでベンチにベンチシールドがついたネンドールが二匹ずつ並んだことになる。
「まずは一匹目のコスモパワーだ。俺は手札を二枚デッキボトムに戻し、手札が六枚になるよう。つまり三枚ドロー。さらに二匹目のコスモパワーもいくぞ。手札を二枚デッキボトムに戻して二枚ドロー。そしてベンチのゴースをゴーストに進化させる」
 一見手札をぐるぐる回してるだけに思える行為だが、「今自分に要らない手札」をデッキボトムに戻し、「これから必要になるであろう手札」をデッキから新たに探っているのだ。そして、そのためのピースは揃った。
 ケッ、もうサポーターを使う必要性も感じねえ。チェックメイトどころかもう、剣が体に突き刺さってるじゃねえか。後は息の根が止まるのを待つだけだな。
「ゲンガーで攻撃。シャドールーム!」
 再びゲンガーが謎の立方体を生み出す。今度はベンチのディアルガLV.Xに向けて投げられた。投げられた謎の立方体はディアルガLV.Xに届く前に自然と大きくなり、あの大きなディアルガLV.Xをも閉じ込めた。
「ダメージカウンター三つだけではまだディアルガLV.Xは気絶しない!」
「カードテキストも読めねえのか? シャドールームは確かに相手のポケモン一匹にダメージカウンターを三つだけ乗せる技だ。だが、乗せる相手がポケパワーを持っている場合は更に乗せるカウンターを三つ増やす!」
 今のディアルガLV.XのHPは60/110。きっちりHPは0となり、ディアルガLV.Xは足に力が抜けて崩れ落ちるように倒れた。
「タイムスキップで逆転の可能性もあったのにこうなっちゃどうしようもねえな。サイドを一枚引いてターンエンド。あれ、もう残りサイド一枚か?」
 沙村の舌打ちが聞こえる。だが、舌打ちだけじゃなかった。
「さっきからいちいち一言余計でむかつくんだけど」
 態度だけで我慢していた沙村だったが、ついに言葉に表した。
「むかつかせてんのはどっちの方だ?」
「くっ……!」
 返す言葉がないようだ。そしてジバコイルに再びエクトプラズマーの効果が適用され、HPは60/120まで下がった。
「僕のターン。ジバコイルに鋼の基本エネルギーをつけて、レベルアップさせる!」
 ジバコイルはレベルアップしたことによってHPが80/140へと拡張。それだけでなく新しい技をも使えるようになった。だが、その位想定内だ。
「ジバコイルLV.Xでゲンガーに攻撃。サイバーショック!」
 ジバコイルLV.Xを中心に、眩い青白い光が拡散する。眩さあまり思わず目を伏せ両腕で顔を隠したが、健康に悪そうな光ったらありゃしねえ。
 光が収まったので目を開いてフィールドを見ると、ゲンガーのHPバーは30/110まで一気に下がっていた。さらに、ゲンガーは体が麻痺しているのか、立っているだけでつらそうに見える。
「エネルギー二個でなかなか大技だな」
「サイバーショックは相手に80ダメージを与えて更に相手を麻痺にする技。自分についている鋼と雷エネルギーをトラッシュしなくてはいけないけど、効果は十分」
 沙村のターンが終わったのでポケモンチェックが入る。エクトプラズマーによってジバコイルLV.XのHPは70/120へ。
「俺のターン。まさかゲンガーが動けないからこのままターンエンド。……とか言うと思ったか?」
「……」
「手札からグッズカード発動。ワープポイント!」
 ゲンガーとジバコイルLV.Xの足元に青い渦が発生する。
「ワープポイントの効果により、互いにポケモンを入れ替える。ただ、お前は替えるポケモンがいないからそのままだな。俺はゲンガーとゴーストを入れ替える!」
 青い渦はゲンガーを飲み込んだ。ベンチのゴーストの足元にも青い渦が現れて、同様に吸い込む。そして互いに先ほどとは違う渦から現れる。沙村のジバコイルLV.Xの足元にあった青い渦は別段何もせずに消えていった。
「新しくバトル場に来たゴーストをゲンガーに進化させ、ジバコイルLV.Xに攻撃だ。シャドールーム!」
 これで三回目となるシャドールーム。謎の立方体がジバコイルLV.Xを包んだ。
「ジバコイルLV.Xには使われなかったが、ポケパワーがある。よって乗せるダメカン六つだ」
「ジバコイルLV.Xの抵抗力は超タイプ。だから受けるダメージは───」
「ダメージじゃねえよ。このワザは『相手にダメージを与える』んじゃなくて『相手のポケモン一匹にダメージカウンターを乗せる』効果だ。抵抗力はダメージに対してしか働かねえ。これでジバコイルLV.XのHPは10/140だな」
 沙村は左手に持っていた手札六枚をポロポロと落とす。そんな沙村とは関わりがまるでないように、ジバコイルLV.XのHPバーは残り僅かの赤へ減少する。
「そしてポケモンチェック。スタジアム、エクトプラズマーの効果発動だ」
 今度こそジバコイルLV.XのHPが0となる。急に浮力を失ったジバコイルLV.Xは金属音を放って落ちた。
「最後のサイドを引いて終わりだな」
 ようやく紫色の空間が消え、辺りは元の展示ホールへ戻った。「くっそぉ!」と声を荒げてバトルテーブルを叩く沙村に向けて言い放つ。
「俺は自分の場と相手の場にある全てのカード、全てのポケモンを最大限に活かして一つのバトルを組み立てる。そのためにあいつほどじゃねえが、俺も俺なりにデッキを信じてる」
 そうやって観客として試合を観ているはずの翔を探した。目があったが、それだけだった。再び沙村に視線を戻す。
「お前に足りないのはそういうものと、後は簡単に挑発に乗ってくる精神の弱さだ。ま、戦う分には最高ってくらいやりやすかったけどな」
 バトルテーブルを変形させて元のバトルベルトに戻し、その場から立ち去ろうと振りかえると背後から声がかかった。
「次は絶対ぶっ倒す」
「ケッ、そんときゃ精々スクラップにならないようにな」
 何はともあれ一回戦突破だ。誰にも見えないように拳をグッと握って小さくガッツポーズを作る。



「やるわね彼」
 今の勝負を静観していた松野がようやく口を開いた。ずっと腕組みして試合を見続けていた風見は腕組みを解いて松野に話しかける。
「藤原だってなんだかんだ言って元能力者ですしね。松野さんは今の勝負見ていてどう思いました?」
「まず最初の方で、わざわざ自分でヨノワールにダメカンを乗せてダメージイーブンを放ったときに感覚でやってるのじゃないというのは感じたわね。あの挑発も、感情的にやってるものかと思えばそうではなくて相手の冷静さを欠くもの。私と戦った時より全然成長して、今は立派な策士ね」
「このまま順当に昇って行けばあいつは準々決勝で能力者の高津洋二との対戦、ですか」
「風見くんも勝ち続ければ準決勝で山本信幸との対戦よ」
「まずは目の前の一勝を、ですね」
 能力者の足音が聞こえる位置にいることを、風見は改めて自覚した。



拓哉(表)「今日のキーカードはジバコイルLV.X。
      サイバーショックはリスキーだけど威力も効果も高レベル!
      エネルギーが足りなくなったらポケパワーでつけなおそう!」

ジバコイルLV.X HP140 鋼 (DP5)
ポケパワー でんじトランス
 自分の番に、何回でも使える。自分のポケモンの雷エネルギーまたは鋼エネルギーを1個選び、自分の別のポケモンにつけ替える。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
雷鋼  サイバーショック 80
 自分の雷エネルギーと鋼エネルギーを、それぞれ1個ずつトラッシュし、相手をマヒにする。
─このカードは、バトル場のジバコイルに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 炎×2 抵抗力 超-20 にげる 4

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