55話 ケンカ

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「よし、決勝リーグ一回戦頑張ろう!」
 両頬をパチンと手のひらで叩いて気合いを入れる。すると、耳の奥から僕にだけしか聞こえない声が聞こえる。
(俺が出なくてもいいのか?)
 とある事情で二カ月ほど前に僕の中で生まれたもう一つの人格。彼が心の奥から声をかけてくる。
「大丈夫。予選も僕が勝ち抜いたし、僕だって出来るってことをさ」
(そうか。応援はしてるが、ヤバそうになったら俺が出るからな。例えば……能力者とか)
「分かってるさ、そのときは頼むよ」
 外からすれば独り言にしか聞こえない。そのため傍にいるスタッフがこちらを変な人を見る目で見つめる。
(ケッ、損な役回りだ事)
 心の中の存在のため、表情は見えないがきっと笑っているのだろう。
 スタッフに誘導され指定位置につくと、バトルベルトを起動する。
 かつてもう一人の人格がバトルベルトを使用したことがあるが、僕自身がバトルベルトを使うのは初めてである。そのためどう操作すればいいかわからない。
(おいおい。そんなんで本当に大丈夫か?)
「ごめん、変わって」
 折角頑張ろうと思ったのにこれじゃあどうしようもない。息を吸って目を閉じればもう一人の人格がなんとかしてくれるだろう。



「フン」
 相棒がようやくしっかりしたかと思えば結局これかよ。以前にあの松野とかいうチビと戦ったことを思い出すのは癪だが、そのときに言われた通りベルトを起動させる。
「ねえ、この程度の操作も満足にできないの」
 既にバトルベルトを展開してバトルテーブルを組み立てた対戦相手が声をかけてきた。
「ああん? 今組み立ててんのが見えねぇのか」
「早くしろよな……」
「ケッ、どうしてこうもチビガキの相手ばっかり俺がしなくちゃいけないんだ」
 対戦相手の背丈からして中坊程度だろう。しかし相手の容姿で気になるのは背丈よりも左目にしている眼帯と、対戦をするというのに未だつけられているヘッドホンだ。
 肩にかかるぐらいに伸びたちょっとパーマ掛かった黒髪。そして上は半袖の白色Tシャツの上から手が隠れるほどぶかぶかな白のパーカだが、下は鼠色と黒のチェック柄のスーツというやや変わった格好がそいつの変わり具合を更に醸し出す。
「準備出来たぜキテレツ野郎」
「ちゃんと沙村凛介(さむら りんすけ)っていう名前があるんだけど」
「お前の名前なんて知ったこっちゃねえ。せいぜい俺に潰されるっていう程度でしか価値はねーよ」
「一々五月蠅いな……」
 今のはきっと本人にとって独り言のつもりで言ってるのだろうが、声が大きいため耳に普通に入ってくる。それが俺の苛立ちを加速させる。
(揉めても仕方ないよ)
「それくらい分かってる」
 デッキをデッキポケットにセットして、デッキ横の赤いボタンを押す。カードがオートでシャッフルされ、デッキの底から六枚サイドがセットされる。そしてデッキの上から手札となる七枚が突き出される。
 互いに最初のバトルポケモン及びベンチポケモンをセットする。
「さあ潰しあいと行こうか!」
 セットされたポケモンが表示される。俺のバトル場にはヨマワル50/50。そしてベンチには同じくヨマワル。一方、相手のバトル場のポケモンはドーブル70/70からのスタートだ。 
「先攻は僕がもらう。ドロー。ディアルガをベンチに出し、ディアルガに鋼エネルギーをつける」
 いきなりベンチに大型ポケモンのディアルガ90/90が現れたため、ドーブルがとても小さく見える。もちろんドーブルだけではなく俺のヨマワルもだ。
「ドーブルの色選びを発動。自分のデッキから基本エネルギーを三つまで選び、手札に加える」
 ドーブルが自分の尻尾で空中に絵を描く。鋼のシンボルマークが三つ描かれた。
「鋼ねぇ。まあ俺様のオカルトデッキの相手になんねえな」
「所詮エスパーじゃん」
「どこまでも喧嘩売んのが好きなガキだな。よっぽど痛い目に遭いたいと見た」
「そんなこと言ってると自分が負けた時すごくはずかしいから気をつければ?」
「ケッ。俺のターン! ベンチにヤジロンを出してバトル場のヨマワルに超エネルギーをつける。手札からサポーターのミズキの検索を発動する。デッキからたねポケモンか基本エネルギーをそれぞれ二枚まで選択して手札に加える。俺が選ぶのはゴースと超エネルギーだ」
 デッキ横の赤いボタンを押すと、デッキから指定通りのカードが出てくる。便利なこった。
「ヨマワルで攻撃。影法師! このワザの効果によって相手にダメカンを一つ乗せる!」
 ヨマワルは一瞬で姿を消すと、ドーブルの影から現れ右手でドーブルをはたく。ドーブルが振りかえる前にヨマワルは再び姿を消し、俺のバトル場に戻った。
「ターンエンドだ」
「僕のターン。ディアルガに鋼エネルギーをつけてベンチにコイルを出す」
 ディアルガの隣にコイル50/50が現れるが、ディアルガと大きさを対比すると小さいのなんの。
「そして手札のモンスターボールを発動。コイントスをして表ならデッキから好きなポケモンを手札に加える」
 そうして沙村はデッキ横の青いボタンを押した。ドーブルとヨマワルの間に大きなコインが現れ、虚空にトスされる。示された結果は裏。沙村はおもむろにバツの悪そうな顔にする。
「ドーブルでもう一度色選び」
 再び鋼のシンボルマークが三つ、ドーブルによって描かれる。
「鋼しか入ってねえのかよ」
「いちいち五月蠅いなあ。ムカつく。マジでくたばっちゃえよ」
「そおかい。だったらお前に特別に地獄を見せてやる。まずはそのための下準備だ。俺のターン、手札からミズキの検索を発動。手札を一枚戻し、デッキから好きなポケモンを手札に加える。俺はネンドールを手札に加えさせてもらうぜ」
 手札のカードを一枚デッキトップに置いて青いボタンを押すと、ネンドールがオートで選ばれデッキから突き出される。俺がネンドールを手札に加えるや否や、デッキは再びオートでシャッフルしだす。
「ベンチのヤジロンをネンドールに進化させ、バトル場のヨマワルに超エネルギーをつけてサマヨールに進化させる!」
 それぞれのポケモンが進化する。ポケモンの右下に表示されるHPバーはサマヨールが80/80で、ネンドールも同じ80/80だ。
「ここでネンドールのポケパワーを発動だ、コスモパワー! 自分の手札を二枚まで好きな順にデッキの底に戻し、自分の手札が六枚になるまでドローする!」
 手札のクロツグの貢献をデッキボトムに戻す。これによって俺の手札は0。よって六枚きっちりドローすることができる。
「手札のポケモンの道具、ベンチシールドをネンドールにつける。ベンチシールドがついたポケモンはベンチにいる限りワザのダメージは受けなくなる」
 ベンチにいるネンドールの前に六角形の水色の薄い盾が現れる。
「ここでサマヨールで攻撃だ。闇の一つ目!」
 サマヨールが目を閉じて息を大きく吸うと辺りが暗くなった。サマヨールが勢いよく目を開くと、まさにインパクトは大。ドーブルは衝撃で後ろへ吹っ飛ばされる。ドーブルのHPバーは60/70から40/70へ。
「闇の一つ目の効果によって、俺は手札を一枚捨てる。そしてお前も手札を一枚捨てるんだ」
 俺は手札からヨマワルを捨てる。相手は鋼エネルギーを捨てたようだ。
「僕のターン。手札の鋼エネルギーをドーブルにつける。ベンチのコイルをレアコイルに進化させてサポーターカード、スージーの抽選を発動。手札を二枚トラッシュしてデッキから新たに四枚ドローする」
 沙村が手札からトラッシュしたカードは鋼エネルギーとディアルガLV.Xだ。
(LV.Xのカードを捨てるって一体……)
「なんかしらのサルベージ手段があンだろな」
「手札からゴージャスボールを発動。デッキからLV.X以外のポケモンを手札に加える。僕が手札に加えるのはジバコイル」
 ドーブルの横にゴージャスボールが現れ、パンと軽快な音を立てて開く。中からはジバコイルの拡大コピーの絵が現れた。
「ドーブルでトレース。このワザはコイントスをして裏ならば失敗する」
 再びコイントス。さっきのモンスターボールで外れたせいか、今回はきっちり表を出した。
「トレースのダメージや効果は相手のベンチポケモンのワザと同じになる。あんたのネンドールのワザをもらうよ。回転アタック」
 ドーブルがコミカルに回転し、サマヨールに突撃していく。
「わりぃな。サマヨールの抵抗力は無色だ。よってサマヨールが受けるダメージは40から20へ減少する」
 サマヨールのHPバーは60/80。まだまだ余裕はある。
「さあ俺のターンだ。ドロー。ゴースに超エネルギーをつけてゴーストに、サマヨールをヨノワールに進化させる!」
 これでヨノワールのHPは100/120。一気に40上昇だ。ゴーストも80/80までHPが上がる。
「ネンドールのポケパワー、コスモパワーを発動。俺は手札を一枚デッキボトムに戻して六枚になるよう、つまり五枚ドローする。ベンチのヨマワルをサマヨールに進化させ、サポーターのシロナの導きを発動する。自分のデッキの上から七枚を見て、そのうち一枚手札に加える。残りをデッキに戻してシャッフル!」
 上から七枚めくって確認する。コール・エネルギー、ヨノワールLV.X、アンノーンQ、ネンドール、ミズキの検索、不思議なアメ、ゴーストの七枚だ。
「ケッ、憎いほどいいタイミングだな」
 黙ってヨノワールLV.Xを手札に加える。シロナの導きの効果によって手札に加えたカードは相手に見せるまたは知らせる必要はない。残りの六枚をデッキに戻してシャッフルさせる。
(場は揃ってきたけど油断は禁物だよ)
「はいはい。だがまあまずは目の前のドーブルを潰すとっからだな」
 今の手札は五枚。ヨノワールを効率よく動かすには一枚邪魔だな。
「ゴースをベンチに新たに出すぜ」
 これで俺のベンチはサマヨール、ネンドール、ゴースト、ゴースの四匹がいることになる。空きスペースに入れるのは残り一匹か。
「ここでヨノワールのポケパワーだ。影の指令! デッキからカードを二枚ドローし、手札が七枚以上ならば六枚になるようにトラッシュする。その後ヨノワールにダメージカウンターを二つ乗せる」
 手札をわざわざ四枚にしたのはこのためだ。用無く手札からカードを捨てるのはあまり得策ではない。
「ダメカンを乗せてまでドローしたいの?」
「俺がわざわざ手札を引きまくった理由を教えてやる。ヨノワールでダメージイーブン!」
 ヨノワールの腹にある口が開き、四つの赤い玉が現れる。
「さっさとそのドーブルを潰させてもらうぜ」
 頬の筋肉が痛くなりそうなほど笑ってやる。ヨノワールが放出した赤い玉はドーブルに突き刺さり、HPバーを削って0にする。するとドーブルは急に力を失ったように前に倒れこんだ。
「ダメージイーブンはヨノワールに乗ってるダメージカウンターの分だけ相手のポケモン一匹にダメージカウンターを乗せる。影の指令でダメージカウンターを乗せなきゃドーブルのHPは20しか削れず20/70で耐えられるが、わざわざカードを二枚引くだけでお前のドーブルは気絶だ。ざまあねえな」
「っ……。次のバトルポケモンはディアルガだ」
「ケッ。サイドを一枚引いてターンエンドだ。この俺様にケンカを売ったんだ、もうちょっと楽しませてくれよ?」



拓哉(裏)「今回のキーカードはヨノワールだ。
      影の指令、ダメージイーブン、ナイトスピンとそれぞれ方向性が違う。
      このカードを使うトレーナーのプレイングが鍵だ」

ヨノワールLv.48 HP120 超 (破空)
ポケパワー かげのしれい
 自分の番に、1回使える。自分の山札からカードを2枚引き、自分の手札が7枚以上になったら、6枚になるまで手札をトラッシュ。その後、このポケモンにダメージカウンターを2個のせる。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
超無  ダメージイーブン
 自分のダメージカウンターと同じ数のダメージカウンターを、相手のポケモン1匹にのせる。
超超無  ナイトスピン 50
 次の相手の番、自分は、ついているエネルギーが2個以下のポケモンから、ワザのダメージや効果を受けない。
弱点 悪+30 抵抗力 無-20 にげる 3

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