10話 Serious stroke

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読了時間目安:6分
 モンスターボールを取り出し、人差し指、薬指、小指で挟み込む。引いて、突き出すようにボールをスローイングした。
「あん?」
 新川は躊躇わずフィールド中央に躍り出たボールに迷いなく突っ込んだ。バリアソードを左手に持ちかえ、ボールを掴もうと右手を前にする。
 しかしボールは寸前で潜水するように落ち、地面にバウンドした。
 しかも、バウンドしたまま正面に進むのではなく、あたしから見て左に。前回の二の舞にはさせない!
「なっ、パニックブラストか」
 虚を掴んで前回り受け身を取る新川を尻目に、特殊な回転によって通常とは違うバウンドをして見せたボールを追うように、あたしは走り出す。イクイップホルダーから防塵ゴーグルを取り出して装着した。
「砂嵐!」
「臆せず突っ込め!」
 ボールから放たれたフライゴンはすぐさま自分を中心に、円上に砂の嵐を竜巻状に巻き起こす。そして、砂嵐が身を叩くにも構わず、砂嵐の竜巻の中に飛び込んだ。
 反対側から右手に「気」をたっぷり溜めて、今にも殴り付ける体勢でオーダイルがやってきた。
 馬鹿力だ、と直感的に察知した。あれを受けてはいけない。本能的な何かが急げと告げた。
「吹き飛ばしてっ!」
 ちらとフライゴンと目が合った。フライゴンは翼を幾度もはためかせる。オーダイルの動きが止まった。あたしも風を直撃しているオーダイル程ではないが、その煽りを受けて動けなくなっていた。
 やがて徐々に強くなった風は、オーダイルの巨体を後退させ、弾き飛ばし砂嵐の渦から飛び出た。急いでイクイップホルダーからパワーグローブをしっかりと装着。防塵ゴーグルで砂嵐の外を見ると、新川がオーダイルが地面に叩きつけられる前にボールに戻し、砂嵐に耐えられる固い体を持ったメタグロスに替えていた。
 三匹目はメタグロスだったか。試合に応じてパーティーを変えられるほどたくさんのポケモンを育てられることを少し妬ましく思いつつも、最後のブーバーンのボールを握った。フライゴンのボールを足元に置いて、ブーバーンのボールを、伸ばした腕の延長線上にメタグロスが交わるように両手でしっかり構える。少しでも新川に余裕を与えてはいけない。今仕掛けなくては。
 気持ちを落ち着かせる。篠原さんの笑う顔が浮かんだ。いつも期待してくれる篠原さんになんとしても応えたい。絶対に。そのためには相手が誰だろうと負けない、勝ってみせる。それがあたしのプロとしての誇り!
 左足で足元のフライゴンのボールを操作して砂嵐を続けていたフライゴンをボールに戻し、力一杯両腕を前に突き出す。アクセルサモン、必ず決めてみせる。
「オーバーヒート!」
 衝撃を吸収してくれるはずのパワーグローブでさえも吸収しきれなかった衝撃が走った。ただそれ以上にボールから飛び出した熱にやられそうになった。
 砂嵐の壁を突き破って放たれたブーバーンは、炎の矢となり高温の塊を鎧にしてメタグロスに飛び込んでいった。
「まも――」
 指示を出しきる前にブーバーンがメタグロスと接触、激しい爆発と爆風を巻き起こす。メタグロスから距離を取っていたとはいえそれ相応の場所にいた新川は、爆風に煽られて体が宙に浮かぶ。あたしでさえも後ろに吹き飛ばされ、フェンスに背をぶつけ、意識が飛びそうになった。客席も阿鼻叫喚の地獄絵図寸前の騒ぎに。
 黒煙が晴れ、ようやく二匹の姿が見える。その中で、体を燃やしながらもメタグロスはまだ右腕を振り上げていた。
「炎のパンチで迎撃!」
 メタグロスはブーバーンの右腕に、流れる彗星のごとくコメットパンチを振り下ろす。が、ブーバーンは体を半分捻り交わし、左手に炎を蓄える。あたしのブーバーンは左利きなのだ。新川の指示を得られなかったからか、安直に飛び込んでくれたメタグロスに軽く感謝をする。
 ようやく立ち上がった新川はさせまいと最後の抵抗のリードレイ、ブーバーンに向かって自分のボールを投げつけた。それだけはなんとしても阻止、許してはいけない!
「はあああっ!」
 フェンスにぶつけて痛む腕に鞭を打ち、ボールを新川のボールめがけて投げる。ブーバーンに当たる前に二つのボールはぶつかり、互いに違う軌道を描く。相手のボールの妨害をするボールテクニック、プリベントショットがなんとか決まった。新川の舌打ちが響いた。
 そして、ブーバーンはメタグロスの横部に炎のパンチを叩き込み、メタグロスは少しだけ宙に浮かぶ。すぐにメタグロスはズシンとその体重を地に預けた。
 両膝に手を置き、肩で息をするブーバーンの手前、メタグロスの戦闘不能のコールが響く。
 無名トレーナーによる予想外の展開に、客は沸き立ち、各々興奮の声をした。
 新川は迷わずメタグロスを戻し、さっき投げられたボールからオーダイルが現れる。遅れて、ブーバーンをボールに戻そうとしたがボールがおかしい。
 確認すれば熱と衝撃でボールが一部変形していたのだった。これではブーバーンを戻せない。
 顔を上げればオーダイルがブーバーンにアクアテールを打ち込み、相性もあってかブーバーンは数歩よろけて仰向けに倒れた。

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