50話 精神戦

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:12分
「風見君!」
「松野さん」
 夜の闇に包まれた駐車場に松野さんが現れた。多少走ったのか肩が上下している。息を整えながら、場を見渡しているようだ。
 俺のサイドは残り五枚で、久遠寺のサイドは残り六枚。俺のバトル場にはギャラドス130/130に、ベンチにはレジアイス90/90、水エネルギーのついたガブリアスLV.X60/140。
 対する久遠寺のバトル場は草エネルギーを二枚つけたハッサム100/100、ベンチポケモンにチェリム60/80。
「今のところは優勢ね」
「まだ始まったばかりですけどね。ところで久遠寺が能力者っていうのは?」
 能力者。この前の風見杯で起きた藤原拓哉の例を思い出す。もしかしてやはりまたあのような事が起こりうるのだろうか。
「やっぱり藤原とかのように……」
 藤原の能力は『相手を消すこと』だった。本人は『次元幽閉』と言っていたが、やはり久遠寺も──。
「久遠寺さんの能力は『位置検索』よ」
「は?」
 かなり身構えていたのに帰ってきた答えが意外と小さいことで気が抜けた。しかし位置検索? いや、でも確かに俺の住所を教えていないのに俺の家を知っていたのは説明が行くが……。どうもしっくり来ない。
「だから、まあ負けたとしても消されたり病院送りとかそんなことはないはずだけど、決して気を抜いちゃダメよ」
 松野さんはグッと目に力を入れてこちらを見る。やはりこの人の目力は恐ろしく強い。思わずシャキンと背筋が伸びる。
「それに、能力者と戦う事だけで精神的に負担になるんだから。能力者との戦いで一番大事なのは強い心! さあしっかりね」
「……分かりました」
「そろそろわたくしのターンを始めてもよくって?」
「ああ、すまない。始めてくれ」
「わたくしのターン。ハッサムに達人の帯をつける」
 ハッサムの突出したお腹の辺りに帯が巻かれるが、ちょっと不格好。
 達人の帯は装備したポケモンのHPと与えるワザのダメージを20増やすポケモンの道具だが、達人の帯がついているポケモンが気絶したとき相手が引くサイドは普段より一枚多くなる。久遠寺はそれを承知で打点を増やしに来た。
「続いてサポーターのハマナのリサーチを発動。このカードの効果はもちろん分かっていらして?」
「たねポケモンおよび基本エネルギーを合計二枚までデッキから手札に加えるカードだ。馬鹿にするな」
「ふふっ。その効果でわたくしはストライクとチェリンボを加えますわ」
 しかし加えたところでベンチには出せないはずだ。出したとしても、出した番には進化できないからレジアイスでバトル場に引き出され、俺のギャラドスの餌食になる。久遠寺もそれを分かっているのかポケモンをベンチに出してこない。
「さ、参りますよ。ハッサムでギャラドスに攻撃。振りぬいてくださって!」
 一つ跳躍してハッサムがギャラドスにハサミを振りぬく。居合切りのような瞬間的な一撃が、ギャラドス30/130の豊富なHPをあっという間に虫の息まで追い詰める。
 振りぬくは自分の場にポケパワーを持つポケモンがいなければ威力が30上がるワザで、更にチェリムのポケボディー、日本晴れによって草タイプであるハッサムの威力が10、達人の帯で20上昇している。よって元のダメージが40のはずの振りぬくが100という強力な威力に変わる。
 気持ちで負けたら飲み込まれる。確かにハッサムの一撃は強力だったが、俺のギャラドスもそれに対して劣らぬ強力な一撃を放つポテンシャルを持っている。焦ることはない!
「行くぞ、俺のターン!」
 しかし引き札に恵まれない。手札は三枚。まずはあのハッサムをどうするかを考えるんだ。。
 今の俺の場には満身創痍のギャラドス、ベンチには傷を負ったガブリアスLV.Xとレジアイス。レジアイスのポケパワー、レジムーブは手札を二枚トラッシュして相手のベンチの進化していないポケモンをバトル場に出させるモノだ。しかし久遠寺の場にそれに合う条件のポケモンがいないので使えない上、ギャラドスは逃げるエネルギーが多くて逃がすこともできない。
「俺もハマナのリサーチを発動する。その効果でフカマルと超エネルギーを手札に加え、フカマル(50/50)をベンチに出し、超エネルギーをフカマルにつける」
 これで手札は残り二枚。最低二枚はレジアイスのポケパワーの発動コストとして常にキープしていたいが……。
「行くぞ、ギャラドスで攻撃だ。テールリベンジ!」
 テールリベンジはトラッシュのコイキングの数×30ダメージを与える変則的なワザ。今のトラッシュにはコイキングが三枚。よって30×3=90ダメージを与えられる。
 ハッサムが両手の鋏でバリケードを作るも、荒々しく振り下ろされたギャラドスの尻尾の一撃に叩きつける。なんとか立ちあがって姿勢を整えるハッサム30/120だが、これで十二分に消耗させてやった。
 調子は悪くない。このまま押し切ってやる。
「さあ、お前の番だ」



 一見サイドの枚数的にも風見君が有利のように見えるけど、今流れがあるのは確実に久遠寺麗華だ。
 あのハッサム30/120だけで風見君のポケモン二体は気絶させる程のポテンシャルを持っている。
 油断だけはしてはいけない。能力者との戦いは精神戦。先に心が挫けた方が負ける。能力者達は概して強い意思を持っている、もしも油断なんて見せるようでは勝てない。
 とはいえ相手は人間、揺さぶればその強固な意思も崩れるはず。なのだけど、残念ながら風見君はそういった会話能力が無い。力で打ち負かすことを祈るしかない。
「わたくしのターン。グッズカードのポケドロアー+を二枚発動。このカードは一枚単品で使った時と、二枚同時に使った時で効果が変わるわ。二枚同時に使ったので、わたくしはデッキから好きなカードを二枚加えてシャッフルします」
「ほう……」
「そしてサポーターカードのオーキド博士の訪問を発動。山札から三枚引いてその後、手札から一枚デッキの底に戻します」
 手札を増強してきたわね。一気に動いてくるはず。
「手札からスタジアムカード発動。破れた時空!」
「破れた時空だと」
 周囲の風景が一変し、禍々しい空と突き出るような槍の柱が現れる。
「このカードがある限り、互いにその番に場に出たばかりのポケモンを進化させれますわ。私はストライクをベンチに出し、ハッサムに進化させて草エネルギーをつけまして。バトル場のハッサムで攻撃! アクセレート!」
 アクセレートのワザの元々の威力は30だけど、チェリムと達人の帯によって威力は60まで上昇する。加速して踏み出したハッサムがすれ違いざまに一閃、一撃を受けたギャラドス0/130は動きを止め、横に倒れて行く。
「なんのこれしき! 俺の次のポケモンはガブリアスLV.Xだ」
「わたくしはサイドを一枚引いてターンエンド」
 久遠寺はギャラドスを倒した、いや、それだけじゃない。
「風見君! アクセレートの効果に気をつけて!」
「効果……」
「アクセレートで相手のポケモンを気絶させたとき、そのハッサムは次の風見君の番ではワザのダメージも効果も与えれないわ」
「ガブリアスにエネルギーをつけてガードクローをしようとしても、わたくしのハッサムには傷一つ付きませんわ」
「なるほど、やはりそういうことか。だったらやることは一つだ!」
 風見君の目に強い闘志が宿った。さあ、どんな戦術を見せてくれるのかしら。
「フカマルをガバイト(80/80)に進化させる。そして俺も破れた時空の効果を使わしてもらうぞ。今進化したばかりのガバイトをガブリアス(130/130)に進化だ! 更に水エネルギーをガブリアスにつける」
 風見君の手札が一気に消費されて残り一枚になる。
「俺は手札からユクシーをベンチに出す。そしてこの瞬間にポケパワーを発動だ。セットアップ!」
 セットアップは手札が七枚になるまでドローする強力なポケパワーだ。しかし、当のユクシー70/70自体のステータスは乏しく、HPはわずか70
「手札のスージーの抽選を発動。俺は手札のニドラン♀と不思議なアメをトラッシュしてデッキから四枚ドローする。そしてガブリアスLV.Xのワザを使わしてもらう。蘇生!」
 空いているベンチに白い穴が形成された。そしてその穴の中からギャラドス130/130が、舞い上がるように飛翔して出現する。
「ガブリアスLV.Xの蘇生は、自分のトラッシュのLV.X以外のポケモンをたねポケモンとしてベンチに出す。俺はその効果によってギャラドスを戻した。ターンエンドだ」
「一度倒されたポケモンを戻してきたところでどうなるのかしら」
「どうとでも言え」
 どうやら少しずつ、自分のペースを取り戻してきたようだ。本人に自覚はないかもしれないが、どうも彼は思っているよりも周りに流されやすい。しかしそれは一度だけ。自分のペースを取り戻した彼はもう迷わない。
「わたくしのターン。手札のポケモン図鑑を発動しますわ」
 ポケモン図鑑は自分のデッキのカードを上から二枚を確認し、片方を手札に。もう片方をデッキの底に戻すグッズカード。グッズなのに新たにカードを手札に加えることが可能という扱いやすさがウリだ。
「続いてチェリンボ(50/50)をベンチに出します。続いてサポーターのデンジの哲学を発動。手札が六枚になるまで引きます。今のわたくしの手札は0。よって六枚引かせてもらうわ」
 さらに久遠寺は手札を一瞥すると、左から二枚目のカードを抜き取り、バトルテーブルに叩きつける。
「チェリンボをチェリム(80/80)に進化させます。そしてベンチのハッサムに草エネルギーをつけて、そのガブリアスLV.Xに攻撃をしますわ。アクセレート!」
「またアクセレートかっ!」
 一気に加速したハッサムが鋏でガブリアスLV.X0/140の腹部を強く打撃するように突進する。わずかに宙に浮いたガブリアスLV.Xは、そのまま受け身も取れずに仰向けに倒れた。
「サイドを一枚引きますわ。これで追い抜きましたわね?」
 確かにサイドは久遠寺麗華が一枚上回っている。その上、彼女の場には次の番に攻撃を受けないハッサム。ベンチには同じくすぐに攻撃に移れるハッサムがいる。そしてそのハッサムを支援するチェリムが二匹。それに対して風見君のポケモンは、置物と化したユクシーとレジアイス。そして蘇生したばかりのギャラドス、エネルギーが二個ついたガブリアス。状況的には風見君が責められ続けているという感じだ。
 それでも。
「だったらガブリアスが次の俺のポケモンだ」
 風見君の表情は、どこか純粋なところから来る笑みに包まれていた。



風見「今回のキーカードはチェリム。
   ベンチにいてこそ活躍するカードだ。
   ポケボディーの日本晴れで炎、草タイプのワザの威力が上がるぞ」

チェリムLv.30 HP80 草 (破空)
ポケボディー   にほんばれ
 自分の草ポケモンと炎ポケモンが使うワザの、相手のバトルポケモンに与えるダメージは、すべて「+10」される。
  あまからかふん 20
 自分のポケモン1匹から、ダメージカウンターを2個とる。
草無無  ソーラービーム 50
弱点 炎+20 抵抗力 水-20  にげる 1

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想