34話 遡行せよ、蘇生せよ!

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 運ばれていく藤原を見送り、準決勝第二試合が始まる。先ほどの異常とも思える光景から平静を取り戻した会場は、再び熱気を巻き起こしている。
 第一試合の勝者は翔。既に決まっている。つまり、これから始まる第二試合。俺か、長岡恭介のどちらかが決勝で翔と戦うことになる。
『準決勝第二試合を始めます。選手は試合会場八番にお集まりください』
 俺の対戦を観ると言っていた松野さんの姿が見当たらないが、今は集中だ。翔には既に二度痛い目に遭っている。今日こそ、この場で大々的にリベンジを目指す。
 そのためには目の前の一勝を取らなくては話にならない。たかが三十枚しかないハーフデッキを右手で握り、意を決してステージへ向かう。
「風見、俺はお前に勝つぜ!」
 ステージに着くなり長岡の堂々とした勝利宣言が待っていた。さすがに準決勝まで勝ち進んだからなのか、まだカードを始めたばかりの初心者とは思えない、ある種の風格を僅かに感じる。
 対戦相手としては悪くない。最低限の条件はクリアだ。
「笑わせる。返り討ちにしてやる」
「へっ、そうはさせないぜ。俺のターンからだ!」
 バトルポケモンにプラスル60/60、ベンチポケモンにはエレブー70/70を並べた長岡が先攻で始まる。俺はフカマル50/50のみだ。
「まずは手札からウォッシュロトム(90/90)をベンチに出す。続いて水エネルギーをウォッシュロトムにつけてプラスルのワザを使うぜ。欲張りドロー! 自分の手札が相手の手札の数より一枚多くなるよう山札からカードを引く。今俺の手札は四、お前の手札は六枚だ。よって三枚カードを引く」
「ふん、中々面白いワザだな。今度は俺の番だ」
 しかし手札が芳しくない。ボーマンダ二枚に炎エネルギー、水エネルギー、スージーの抽選、不思議なアメ、ガブリアス。重たいポケモンが被ってしまい、身動きが取り辛い。
 もしかして運の強い長岡は俺の手札をも悪くしたとでも言うのだろうか。それはともかくこうなった以上は作戦変更、ここまでは何も予定内だ。
「不思議なアメでフカマルをガブリアス(130/130)に進化させる。そしてスージーの抽選を発動」
「スージーの抽選……。手札をトラッシュしてトラッシュした枚数に応じて新たにデッキからドローできるカードか」
「俺は手札を二枚トラッシュする」
 トラッシュするカードはボーマンダと水エネルギー。躊躇い無くトラッシュしたそれらのカードをモニター越しに確認した恭介が驚愕する。
「えっ、ボーマンダをトラッシュすんのかよ!」
「そして俺はカードを四枚引いてターンエンドだ」
「何でボーマンダをトラッシュしたんだろう……。まあいいや、俺のターン! ウォッシュロトムに雷エネルギーをつけて手札からワープポイントを発動だ」
 プラスルとガブリアスの足元に青い穴が開き、青い穴にそれぞれのポケモンが吸い込まれていく。
「このカードの効果によって、互いにバトルポケモンとベンチポケモンを入れ替える。俺はプラスルをベンチに戻してウォッシュロトムを場に出すぜ」
 ウォッシュロトムの足元にも青い穴が開き、穴へ落ちていった。するとウォッシュロトムが落ちた穴からプラスルが。プラスルの落ちた穴からウォッシュロトムがそれぞれ入れ替わるように現れる。
「俺のベンチにはポケモンがいないのでガブリアスは入れ替わらない」
 こちらは滑稽にもガブリアスが落ちた穴からガブリアスが這い出て来た。落ちる必要性がなかったなと軽く一笑する。
「ウォッシュロトムでガブリアスに攻撃だ。脱水!」
 恭介は技の宣言と共にコイントスをする。脱水はウラが出るまでコイントスをして、オモテが出た数だけ相手の手札をトラッシュさせるワザだ。所詮確率なんて高が知れている。という認識はあまりにも浅はか過ぎた。
「オモテ、オモテ、オモテ、ウラ! 30ダメージと同時にお前の手札を二枚トラッシュするぜ。左側の三枚だ」
「さ、三枚だと!? くっ。ボーマンダと炎、水エネルギーの三枚をトラッシュする」
 ウォッシュロトムの攻撃が襲いかかり、弾ける水の音と共にモニターにダメージカウンターが加算されていく。ガブリアス100/130が体勢を持ち直す横で、二枚目のボーマンダがトラッシュされたためか、恭介がかすかにガッツする。同じカードはハーフデッキは二枚までしか入れられない。つまり俺は新たにボーマンダを加えることが出来ない。そう思っているのだろう。
「ポケボディー、竜の威圧がこのタイミングで発動する。このポケモンがバトル場で相手からダメージを受けたとき、そのポケモンのエネルギー一個を手札に戻させる。雷エネルギーを戻してもらおう」
「マジかよっ……。めんどくさい効果だな!」
「何とでも言え。俺の番だ」
 すっかり寂しくなった手札が賑わいを見せる事は無いが、良くぞこのタイミングで来てくれた、と手を打ちたい。序盤から全速力で攻める好機だ。
「お前がトラッシュにカードを大量に送ってくれたことで、俺のコンボが早々に完成することになる。感謝するぞ。さあ、俺はガブリアスをレベルアップさせる!」
 ガブリアスに一瞬だけ白い光が包み込む。ガブリアスの咆哮と共にその光は弾け消えていき、モニターにもガブリアスLV.X110/140と表示される。
「そしてこのレベルアップした瞬間、ガブリアスLV.Xのポケパワー、竜の波動が発動する。コインを三回投げ、オモテの数ぶんのダメージカウンターを相手のベンチポケモン全員に乗せる。……ウラ、オモテ、ウラ。計10ダメージだな」
 ガブリアスが再び体を前に傾けながら長岡のベンチにいるエレブーとプラスルを一瞥してから咆哮した。見えない力かプラスル50/60とエレブー60/70は衝撃波を食らったかのように後ずさる。
「レベルアップしただけでダメージかよ!」
「ここからが本番だ。ガブリアスLV.Xのワザを使う。さあ、遡行せよ! 蘇生!」
 ベンチゾーンに光る白い穴が開く。そしてその中から這い出るようにボーマンダ140/140が姿を現す。予定調和だ、いい感じで事が進んでいる。
「このワザは俺のトラッシュのポケモンを一体選び、たねポケモンとしてベンチに出す。その後トラッシュの基本エネルギーを三枚まで蘇生したポケモンにつける。ボーマンダに炎エネルギー一枚と水エネルギー二枚をつけて俺の番は終了だ」
「なっ、わざわざトラッシュしたのはこのためか! なんのっ、俺のターン!」
 苦虫を潰したような顔をチラと見せた長岡だったが、引いたカードが良かったのか再び喜色満面になる。忙しいやつだ。
「よし、まずはサポーター、プルートの選択を発動するぜ。バトル場のウォッシュロトム(90/90)を山札のスピンロトム(70/70)と入れ替える!」
 洗濯機に憑依していたロトムが分離すると、洗濯機の元に白い穴が開いてそれが吸い込まれていく。それに代わるように扇風機が穴から出してきて、ロトムはそれに憑依する。
「そしてスピンロトムに雷エネルギーをつけてエレブーをエレキブル(90/100)に進化させる! まだだぜ、風見。目ん玉ひん剥いてよーく見とけよ。スピンロトムのポケパワー発動。スピンシフト! スピンシフトは自分の番の終わりまで、スピンロトムを無色タイプとして扱うポケパワーだ」
「無色タイプに。なるほどな、ガブリアスLV.Xの弱点は無色タイプだ。それを狙ってか」
「そういうこと! スピンロトムで攻撃、エアスラッシュ!」
 スピンロトムが不可視の衝撃でガブリアスLV.Xを弾くように攻撃する。本来は60ダメージなのだが、無色タイプとなったスピンロトムはガブリアスLV.Xの弱点をついている。60ダメージが二倍となって120ダメージだ。残りHPが尽きたガブリアスは天井を見上げるように仰向けに倒れ、気絶に追いやられた。
「そしてコイントス。ウラならスピンロトムのエネルギーを一枚トラッシュする。……オモテ、セーフだ」
「それだけじゃないぞ。ガブリアスのポケボディー、竜の威圧を忘れてもらっては困る。雷エネルギーを戻してもらう」
「でもガブリアスLV.Xが気絶したから俺はサイドを一枚引く。ターンエンド」
 長岡の番が終わることでスピンロトムは元の雷タイプに戻る。虚を突くようなプレイングで予定よりも早くガブリアスLV.Xが倒されたが、まだエネルギーが大量についているボーマンダ140/140がいる。
「勝負はこれからだ。今度は俺から行かせてもらうぞ」



翔「今日のキーカードはスピンロトム!
  こいつは無色タイプにもなれる!
  せんぷうで2進化、LV.Xのポケモンを手札に戻してやれ!」

スピンロトムLv.46 HP70 雷 (DPt2)
ポケパワー スピンシフト
 自分の番に一回使える。この番の終わりまで、このポケモンのタイプは無色タイプになる。
無無 せんぷう
 コインを1回投げオモテなら、相手と相手についているすべてのカードを、相手プレイヤーの手札にもどす。
無無無 エアスラッシュ  60
 コインを1回投げウラなら、自分のエネルギーを1個トラッシュ。
弱点 悪+20 抵抗力 無色-20 にげる 1

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