32話 拓哉のゴーストデッキ

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「さあ、行くぞ!」
 ただでさえ負けられない戦いだと言うのに、余計そうなってしまった。怒り、というよりも逆恨みに我を忘れた拓哉の目を覚まさせるには戦うしかない。
 風見杯準決勝、互いの最初のポケモンは一匹ずつ。俺のポケモンはアチャモ60/60に対し、拓哉のポケモンはフワンテ50/50。超タイプのポケモンを使うのか。今まで見てきたデッキとは違うデッキのようだけど……。
「先攻は俺からだ。俺のターン。まずはアチャモに炎エネルギーをつける。そしてアチャモでバトルだ。火の礫! このワザはコイントスをしてウラの場合、ワザが失敗する」
 エネルギー一つで威力20ダメージを叩き出せるワザだが、ワザの可否はコイントスに委ねられてしまう。大事な一手目なので、しっかり決めておきたいところだが。
「よし、オモテだ。ダメージを受けてもらう!」
 アチャモは大きく息を吸うと、自身の顔の大きさ程ある火球を打ち出しフワンテにぶつける。ダメージを受けたフワンテ30/50はその煽りで遠くまで吹き飛ばされるが、ゆるりゆるりと場に戻る。
「けっ、早速やってくれるじゃねえか。今度は俺様の番だ。まずはフワンテに超エネルギーをつけ、フワンテでワザを使う。絡みつく」
 フワンテはアチャモに近づくと、体についている紐のようなものをアチャモに巻きつける。
「このワザの効果はコイントスをしてオモテの場合、相手のポケモンをマヒにさせる効果だァ!」
 マヒになるとワザを使うことや、逃げることなどありとあらゆる行動を封じられてしまう。序盤の急ぐ時に鬱陶しいことを。
「ちっ。ウラかよ。運の良い奴め。これで俺様の番は終わりだ」
 アチャモは体をぶんぶんと繰り返し横に振ると、フワンテは振りほどかれて拓哉のバトル場に舞い戻る。よし、良い感じだ。このまま畳み掛けてやる。
「俺の番だ。お、いいカードを引いたぜ。俺はバトル場のアチャモをワカシャモ(80/80)に進化させ、ワカシャモに炎エネルギーをつけてからこいつを発動する。オーキド博士の訪問だ」
 オーキド博士の訪問は山札からカードを三枚引き、その後手札から一枚山札の下にカードを戻す効果。ハンドアドバンテージとしては一枚しか稼げないが、不要なカードを一度手札から放すことを可能とする。
「続いてヒコザル(50/50)とノコッチ(60/60)をベンチに繰り出し、ワカシャモで攻撃する。火を吹く!」
 この火を吹くもコイントスが絡むワザだが、アチャモが使った火の礫とは違い、ウラでもダメージを与えることが出来る。
 このワザの基本威力は20だが、オモテならそれに20加算する事が出来る。……が、結果はウラ。
 もしもここでオモテを出していれば40ダメージを与えることになり、フワンテ30/50のHPを消し飛ばすことが出来た。あと一歩届かないか。
「だがしかし、しっかりダメージは受けてもらうぜ!」
「ぐうっ!」
 ワカシャモの口から橙色に燃える炎が吐かれ、フワンテ10/50を包み込む。次の番、あと一つでも有効打を与えれば有利な状況のままフワンテを気絶させれる。
「やってくれるじゃねえか。今度は俺様のターンだァ! ふん、フワンテに超エネルギーをつけ、フワンテを進化させる。さあ来いよ、フワライド!」
 フワンテの姿が光に包まれながら、まるで風船が膨らむようにどんどんと大きくなり、新たなフォルム、フワライド50/90へと進化を遂げる。
 もしもさっきフワンテを火を吹くで倒せていたら、拓哉のベンチには他にポケモンが存在しないためその時点で試合続行が不可となり、俺の勝ちとなった。
 しかし進化してきたということは何かあるはず、過ぎたことを悩んでも仕方は無いのだが、それでもやはり惜しいことをしたと胸に突っかかりが残る。
「俺様はフワライドのワザ、乗せてくるを発動する。このワザの効果で、俺は自分の山札のたねポケモン二匹をベンチに出し、さらにそのポケモンそれぞれに山札から基本エネルギーを一枚ずつつける!」
「な、何だと!?」
 ベンチに突如現れたヨマワル40/40と、ムウマージGL80/80。これで拓哉の場があっという間に潤ってしまった。
 マズい。後攻なのに俺の場のポケモンよりもエネルギーの数が多い。まだ攻撃してこないのが幸いと言うべきか。
 攻撃してこない。そうだ。あれだけ俺にいちゃもんをつけておいて一切攻撃する素振りを見せない。どういうつもりなんだ?
「来ないならこっちが攻めるぞ。俺のターンッ! よし。ワカシャモを進化させる。現れろ、バシャーモ!」
 ワカシャモの体躯がより屈強かつ大きくなり、見慣れた頼れるバシャーモ130/130へと進化する。このデッキの二本柱のうちの一角だ。そしてもう一角を続けて呼び出す。
「手札の不思議なアメを発動。その効果でベンチのたねポケモンを、一、或いは二進化ポケモンへ進化させる。ベンチのヒコザルをゴウカザルに進化だ」
 足元から突如現れたアメを一舐めしたヒコザルの体が光り輝き、あっという間に姿を変えて進化前のひ弱さを見せぬ大柄なゴウカザル110/110へと進化する。
「まだだ。サポーターカード、ハンサムの捜査を発動。その効果で相手の手札を確認する」
 このカードの効果で相手の手札を確認した後、俺か拓哉の手札を全て山札に戻しシャッフル。その後手札が五枚までカードを引くことが出来る。
 モニターに映された拓哉の手札は超エネルギー、ワープゾーン、ゴージャスボール、ポケモン入れ替えが二枚の計五枚。
「俺はハンサムの捜査の効果で自分の手札を戻し、五枚までカードを引く。今の俺の手札は0。よってカードを五枚引くだけだ」
 一応最初から自分の手札の補給をするつもりだった。いかに拓哉の手札が良かろうと、俺の手札が無ければどうしようもない。
 それにこのドローによって炎エネルギーを手札に加え、バシャーモにつければ威力100の炎の渦が使え、フワライドを気絶させることが出来る。
 いかに拓哉の場の方がエネルギーに富んでいるとは言え控えにいるのはまだ貧弱なたねポケモンばかり。さっさと倒すに限る。
「くっ……!」
 だが手札はそうはならなかった。狙ったか、と問いたいように炎エネルギーが来ない。これではフワライドが倒せないじゃないか。
 いや、まだ可能性は0じゃない。百パーセント、にならないのが悔しいがまだ道は残されている。
「バシャーモのポケパワーを発動する。バーニングブレス! その効果で相手のポケモンを火傷状態にする」
「やってくれるじゃねえか!」
 濃い赤の絵の具で塗りたくったような赤い炎がバシャーモの口から放出され、フワライドを苦しめる。火傷のポケモンはポケモンチェックの度にコイントスをして、ウラなら20ダメージを与える状態異常。これで足りない分を補うしかない。
「バシャーモで攻撃。鷲掴みだ!」
 軽いフットワークであっという間にフワライドまで間合いを詰めると、鋭い突きがフワライド10/90を刺したと同時にフワライドを放さぬようしっかりと押さえつける。
「鷲掴みの威力は40だが、次のお前の番にこのワザを受けたフワライドは逃げることが出来ない」
「やってくれるねェ。さあ! 俺の番の前にポケモンチェックだ。……オモテ。火傷によるダメージは無し。残念だったな」
「だが逃げるを封じた以上、フワライドの状態異常を回復する術は僅か。次のポケモンチェックで気絶するかもしれないぞ」
「ここさえ凌げば特に問題はねぇよ! 俺様のターン。さァ、ゴージャスボールを発動だ。その効果で山札のサマヨールを手札に加え、ヨマワルをサマヨール(80/80)に進化させる。続いて手札からエネルギー付け替えを二枚発動! その効果でフワライドに付いている超エネルギー二枚をサマヨールに付け替える」
 二枚移動したことでフワライドについている全てのエネルギーがサマヨールに移動した。フワライドを棄てるつもりなのだろうか。
「さらにサポーターカード、シロナの導きを発動だ。自分の山札の上から七枚を確認してそのうち好きなカード一枚を手札に加える。そして超エネルギーをサマヨールにつける。ここでフワライドのワザを発動。お届け。その効果でトラッシュに存在するカード一枚を手札に戻す。俺が選択するのはゴージャスボール!」
「手札に戻すだと?」
 ゴージャスボールはトラッシュにゴージャスボールがあると使えない。だから普通は一度しか使えないのだが、使ったそれを手札に戻してしまえばもう一度使えると言う訳か。
 なんてコンボだ……。しかもお届けはエネルギーなしでも使えるワザ。それも考えてエネルギー付け替えでエネルギーを全て移し替えたのか。
 さらに続くポケモンチェックでもオモテで火傷のダメージをかわす。火傷で自然と倒れてくれればよかったものの、トドメを自ら刺さなくてはいけないから攻撃が一度手間になる。
「っ……。俺のターン! よし、ヒコザル(50/50)とアチャモ(60/60)をベンチに出し、バトル場のバシャーモに炎エネルギーをつける。フワライドにトドメの一撃だ。鷲掴み!」
 バシャーモの一突きがフワライドを捉え、HPを最後まで削り取る。不本意な形だが、倒したことには変わりない。
「へっ。俺はムウマージGLをバトル場に出す」
「サイドを一枚引いてターンエンドだ」
 いくら思い通りの展開では無いとはいえ、まだ俺は一切のダメージを受けてない。問題無い、まだまだ良い調子のはずだ。
 しかし突っかかりはある。もしかしてこの後一発大きいのが来る予兆なのか? だとしてもそれに耐えきれるようなアドバンテージを稼がないと。
 今の俺のバシャーモなら威力100の炎の渦が使える。これで並大抵のポケモンには対処出来るはずだ。来い、来てみろ拓哉。お前の力を見せつけてみろ!
「俺様のタァーンッ! ゴージャスボールだ。その効果でヨノワールを手札に加え、ベンチのサマヨールをヨノワールに進化させる」
 サマヨールを黒い靄が包み込み、形をヨノワール120/120へ進化する。至って静かだが、それでいて重みのある存在感を放つそれに思わずたじろいでしまった。
 ただ一点に俺を睨みつけるヨノワールは、ひたすらプレッシャーをかけてくる。目線をヨノワールから逸らそうとしても、ヨノワールの視線を感じてしまい引き戻される。ただ見つめるだけの無言の圧力に圧殺されてしまいそうになり、胸が苦しくなる。
「まだ俺様の番は始まったばかりだぜ。ムウマージGLに超エネルギーをつけ、トレーナーカード発動だ。ワープゾォーン!」
 突然バシャーモとムウマージGLの足元に青い渦が現れ、二匹を飲みこんでしまった。かと思えばベンチにも青い渦が湧き、そこから飲み込まれたかと思ったバシャーモとムウマージGLが再び現れる。何のつもりだ。
「このカードの効果で互いにバトルポケモンをベンチポケモンと入れ替えなくてはならない。俺はムウマージGLの代わりにヨノワールをバトル場に出す」
 エネルギーがついているバシャーモが次の番に猛攻をかけることを察して遠ざけたか。だったら。
「俺はゴウカザルをバトル場に出す」
 ゴウカザルの逃げるエネルギーは0。次の番、ノーリスクでゴウカザルとバシャーモを入れ替えて攻撃すれば……。
「これでジャストだ! ヨノワールのポケパワーをここで発動する」
「何っ?」
「ヨノワールのポケパワーは相手のベンチポケモンが四匹以上の時、自分の番に一度だけ使う事が出来る。相手のベンチポケモン一匹を選び、そのポケモンとそのポケモンについているカード全てを山札に戻す」
「な、なんだと!?」
 今の俺のベンチにはノコッチ、アチャモ、ヒコザル、バシャーモの四匹。うっかり前の番にアチャモとヒコザルを出したのが軽率だったか。
「俺が戻すのは当然、バシャーモだ! 闇の手のひら!」
 ヨノワールが右手で拳を作り、それをやや後ろに引いてから閉じた手を開いて前に突き出す。突き出された手から発せられた濃い紫の靄がバシャーモめがけて直進し、バシャーモを包み込む。靄はやがて薄くなると、バシャーモと共に消え去っていく。
 このエフェクト、対戦前に拓哉が男の子を幽閉したのとほとんど同じエフェクトじゃないか。
「ククク……。どうしたどうしたどうしたァ! ビビッてんじゃねえぞ。戦いはまだまだこれからだァ! ポケモンの道具、達人の帯をヨノワールにつける。このワザをつけたポケモンのHPは20上昇し、与えるワザのダメージを20増加させる。その代わりこの道具をつけたポケモンが気絶した場合、相手はサイドを一枚多く引くことが出来る」
 達人の帯でHPが140/140に上昇したヨノワールは、両手で拳を作り力を蓄えている。威力を上げるのも厄介だが、俺のサイドは残り二枚。こいつさえ倒してしまえば。勝つことが出来る。ここは堪え時だ!
「ヨノワールで呪怨攻撃。このワザは相手のバトルポケモンにダメージカウンターを五個乗せる。更に相手が引いたサイドの枚数分のダメージカウンターを追加して乗せる。お前が引いたサイドは一枚、よって六個をそのゴウカザルに乗せる!」
 ヨノワールは拳を解いたと同時に腹を突き出すと、腹部の口が開き、そこから赤い火の玉が六つ現れる。ふわふわとヨノワールの周りを漂っていたそれは、ヨノワールが右手でゴウカザルを指すと同時に飛んでいき、ゴウカザルの体へ入りこむ。
 体を丸めてのたうつゴウカザル50/110のHPが半分程まで減ってしまったが、おかしい。達人の帯はワザの威力を上げる効果があるはず。だというのにその様子が見受けられない。
「そうそう。念のために言っておくが、呪怨はダメージを与えるワザではなくダメージカウンターを乗せるワザだ。だから達人の帯で威力を上げる効果の恩恵は受けられねえ。だがな、お前の今の場はエネルギーが0。そんな些細なことはどうだっていいんだよ!」
 確かに言われる通り、俺はバシャーモにばかりエネルギーを乗せていた。そのバシャーモが場から戻されてしまった以上どうすることも出来ない。
「それでも諦めねえ! エネルギーが無くなったからといって、勝機が無くなった訳じゃない。まだまだこれからだ!」
「ムカつく野郎だ。いいぜ、来いよ! 全力のお前をブッ潰してこそ俺様の喜びも、より大きなモノになる。クカカカカカッ、ハハハハハっ!」
 耳を突くような拓哉の笑い声が、ステージを覆う。どうにかしてあいつを止めてやらないと。さっきも言ったけど、チャンスは無くなったけじゃない。
 拓哉の怒りは逆恨みだが、その元となったのは俺だ。だからこそ俺が拓哉をなんとしてでも倒さなくちゃならない。
「思い通りにさせてたまるかよ! 必ず勝って見せる!」
 肝心なのは、次の俺の番。この一瞬の覚悟で全てが決まる。
「俺のターンッ!」



翔「今回のキーカードはヨノワールだ。
  やみのてのひらで相手のベンチを削りつつ、
  じゅおんでダメージを与えていけ!」

ヨノワールLv.42 HP120 超 (DP1)
ポケパワー やみのてのひら
 相手のベンチポケモンが4匹以上いるなら、自分の番に1回使える。相手のベンチポケモン1匹と、そのポケモンについているすべてのカードを、相手プレイヤーの山札にもどし、切る。このパワーは、このポケモンが特殊状態なら使えない。
超超無 じゅおん
 相手にダメージカウンターを5個のせる。さらに、相手プレイヤーがすでにとったサイドの数ぶんのダメージカウンターを、相手にのせる。
弱点 悪+30 抵抗力 無-20 にげる 3

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