25話 ギリギリの攻防

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「ここでドレインドレインの効果発動。このワザにより相手を気絶させた場合、自分のダメージカウンターを全て取り除く!」
「す、全て!?」
 ユレイドルのドレインドレインでゴウカザルが倒されたが、それでもユレイドルのHPは残り10/120。この程度ならいくらでも取り返せる。
 そう思っていた矢先のこの異常なまでの回復力。あっという間にユレイドル120/120は元の元気を取り戻し、目の前に大きな壁として立ち憚る。
「サイドを引いてターンエンドだ」
 今、サイドを取られたため石川のサイドは残り一枚。場には草エネルギーが二枚ついたユレイドル120/120に、ベンチにプテラ80/80。
 対する俺のサイドは二枚。しかも炎エネルギーが二つついたアチャモ60/60が唯一俺を支えてくれる仲間である。
 場もサイドもそうだが、それに加えて手札の数でも石川に大きく劣る。俺の手札は今三枚。それに対して今の石川は六枚だ。しかも俺の手札はアチャモ、ノコッチ、不思議なアメと今すぐに活きるカードがない。どちらが有利かだなんて火を見るより明らかだ。
 しかし頭で考えるだけでは何も進まない、対戦は理論だけじゃない。流れだ。ピンチの後にはきっとチャンスがある。そう、信じている!
「俺の番だ!」
 この一枚で命運が決まる。
 恐る恐る引いたカードを確認すれば……、オーキド博士の訪問。このカードは山札を三枚引き、その後手札を一枚山札の下に置くサポーター。まだワンチャンスがある、このチャンスを信じよう。
「俺は、サポートカードのオーキド博士の訪問を発動!」
 一枚ずつカードを引く。炎エネルギー、炎エネルギー。ダメだ、そんなに固まらなくてもいいじゃないか。引けるカードは一枚だけしかない。どうにかして逆転の一手を導き出さないと。
 緊張のせいか手が汗ばみ、意識していないのに心なしか呼吸のペースが早まっている気がする。落ちつけ。無念無想だ、余計なことは考えるな。
 数度深く息をし、平静を取り戻す。そして一気に三枚目のカードを引く。
「逆転の兆しは見えた! オーキド博士の訪問の効果で、手札を一枚山札の底に戻す。俺はノコッチを戻す」
「この圧倒的に俺が有利な状況でどう逆転するつもりなんだ? アチャモをいくらワカシャモに進化させても程度は見えている」
「惜しい、でも違うぜ。俺は手札から不思議なアメを発動! 自分のたねポケモンを手札の一進化、あるいは二進化ポケモンに進化させる。俺はアチャモをバシャーモへと進化!」
「バ、バシャーモだと!」
 アチャモの足元から光の柱が現われ、すっぽりアチャモの姿を覆い隠す。光の柱の中でアチャモの背丈が大きく伸び、敵を捕える力強い腕、大地を駆け抜ける屈強な脚。フォルムが変わり、光の柱が消えていくと勇敢なバシャーモ130/130が姿を現わす。
「バシャーモに炎エネルギーをつけて、ユレイドルに攻撃っ。炎の渦!」
 バシャーモが豪快に放った力強い炎の渦がユレイドル120/120を包み込む。このワザの威力は100。それに加え、ユレイドルの弱点は炎+30。受けるダメージは100+30=130ダメージ、これでユレイドルを撃破だ。
「炎の渦のデメリット効果により、俺はバシャーモについている炎エネルギーを二つトラッシュする。そしてサイドを一枚引くぜ」
 石川は呆気にとられていたが、やがて首を振って最後のポケモン、プテラ80/80をバトル場に送りだす。
「これであっという間に状況がひっくり返ったぜ。プテラが攻撃するにはエネルギーが二つ必要。でもお前のプテラにはエネルギーがない、今度こそ押し返してやった」
「それはそっちもだろう、エネルギーが二つトラッシュされては炎の渦は連発できない」
「そいつはどうかな」
 俺のバシャーモは炎の渦以外にも無無で威力40の鷲掴みというワザも持っている。確かにこれではプテラを倒すには至らないが、それでもワザさえ打てないプテラよりよっぽどいい。
 そういう含みを込めた挑発を石川にすれば、むっと顔を作られた。
「俺のターン。プテラに闘エネルギーをつけ、ベンチにひみつのコハク(40/40)を出し、俺の番は終わりだ」
 やはり攻撃出来ず、か。ならば叩きこませてもらう。
「今度は俺の番だ。俺はバシャーモに炎エネルギーをつけてポケパワーを発動。このポケパワーは相手のバトルポケモン一匹をやけど状態にする。喰らえ、バーニングブレス!」
 焼けるような真っ赤な吐息がバシャーモから放たれると、それはプテラを覆い、苦しませる。
「くっ。プテラは火傷になったが、この瞬間プテラのポケボディーも発動する。原始のツメ!」
 バシャーモの火炎の吐息に抗うように、苦しみながらもプテラは果敢にバシャーモにツメで襲いかかる。
「相手がポケパワーを使う度に、ポケパワーを使ったポケモンにダメージカウンターを二個乗せる」
「これぐらいのリスクなんてことないぜ。バシャーモで攻撃。鷲掴み!」
 跳躍一つでプテラの前に躍り出たバシャーモ110/130が、鋭く腕を伸ばしてプテラの首根っこをガッシリ掴む。そしてこのワザを受けたプテラ40/80は鷲掴みの効果によって次の番、逃げることが出来ない。
 これで次の番にじっくり攻撃をすればプテラは倒せるはずだ。
「俺の番が終わったのでポケモンチェックだ」
 やけどの判定はポケモンチェック毎にコイントスを行い、ウラならば20ダメージを受ける。今のプテラのHPでは二回ダメージを受けるだけでノックアウトだ。
 コイントスボタンを押す石川の顔が、心なしか楽しそうに見える。きっとアイツもこの勝負が楽しくて仕方ないんだろう。
「よし、オモテだ。これでプテラはやけどのダメージを受けることはない」
「とはいえ鷲掴みで逃げられない状況に変わりはないぜ」
「それくらい分かってる、俺のターン。プテラに草エネルギーをつけて攻撃。超音波!」
 首根っこを掴まれたままのプテラが口を開き衝撃派を放つ。バシャーモは左腕で顔をガードするがそのHPは着実に削られていく。超音波の威力は30だから、残りHPは80/130。
 しかしプテラの攻撃技はこの超音波だけだ。威力自体は大したことはない。
「超音波の効果発動! このワザを受けた相手を混乱状態にする」
 混乱はワザを使うときにコイントスをしてウラならワザは失敗かつ30ダメージを受ける厄介な状態異常。うかつにワザを打つと逆にこっちが危なくなってしまう。そして石川の番が終わると同時に鷲掴みの効果も切れ、バシャーモはプテラの首をそっと離す。
「ここでもう一度ポケモンチェックをしてもらうぜ」
「……、オモテだ」
 思うようにやけどでダメージを重ねれない。しかし、ここは些細なダメージで一喜一憂してる余裕はない。
「俺のターン。バシャーモに炎エネルギーをつけ、バシャーモでプテラに攻撃。炎の渦!」
「ここでバシャーモの混乱の判定をしてもらう。ワザを使う時にコイントスをしてオモテならワザは成功。ただしウラならワザは失敗の上バシャーモにダメージカウンター三つ乗せる」
「分かってらぁ……、ウラか」
 プテラに近づこうとしたバシャーモだが、寸でのところでつんのめってしまい、残りHPが50/130に減少する。マズい、あと超音波二発で倒れてしまうか。
「お前の番が終わったことでプテラのポケモンチェック。……、ウラなのでダメージカウンター二つ乗せる」
 しかし相手も同じく限界に近づく。プテラも残りHPが20/80、互いに状態異常のコイントスによって決着がつきそうでもある。
「俺のターン。もう一度超音波!」
 プテラから発された超音波が俺のバシャーモのHPを20/130まで削る。もう後がない。
 次の俺の番に攻撃する際、混乱のコイントスでウラが出れば俺の負け。だが次のポケモンチェックで石川がウラを出す、あるいは俺の番に攻撃する際混乱のコイントスでオモテが出れば俺の勝ち。全てはコイントスの、二分の一の確率に委ねられた。
「ポケモンチェックだ!」
 ウラが出れば、さっさとこの勝負にキリがつく。頼むからウラでいてくれ……!
「オモテだ!」
 声高に石川が言い放ち、続けて深く息を吐く音が聞こえる。流石にそこまでうまく行かなかったか。だがまだツーチャンスはある。
「俺の番、バシャーモで攻撃する。まずは混乱判定だ」
 固唾を飲み、コイントスボタンを押す。一秒一秒がひどく長いように感じてしまう。早く終わってほしい気持ちと、まだ終わって欲しくない気持ちが混ざりあい、視界が溶けてしまいそうだ。
 どれだけ経ったか分からないが、気付けばコイントス判定はオモテを指していた。一瞬自体が飲みこめなかったものの、気付くと内側から悦びが爆ぜ出す。嬉しさあまりに頬が緩み、強く握りこぶしを作ってしまう。
「っしゃあ決まった! バシャーモでトドメだ。炎の渦!」
 俺の声に呼応して、バシャーモがプテラに向けて最後の攻撃を放つ。炎のエフェクトの向こうで、石川の表情はそこが清々しいものがあった。



 試合終了のブザーが鳴り響く。カードを片づけふと石川を見ると、首を上げて脱力してただただドームの天井を見つめている。
「楽しいバトルだったぜ」
 ついそうぽろりと言葉が零れる。すると、石川は右手で目の辺りを拭ってこっちを向く。その顔は、どこか赤い。
「ああ、俺もだよ。どうしてか負けてもなぜか悔しくない。むしろすっきりしたよ」
「さっきとは大違いじゃないか」
 嫌味を一突きしてやると、石川は微かに微笑む。どうしてなかなか綺麗な笑顔じゃないか。
「一言うるさいっ。……奥村、この先の試合も頑張れよ」
「翔でいいよ。元からあんまり名字で呼ばれないからこっちの方が慣れててさ。じゃあな」
「……ああ。またきっと」
「カードを続けている限り、きっとどこかでまた会えるさ」
 最後に自分のデッキをトントンとテーブルに叩きつけて揃え、ステージから立ち去る。
 石川の気持ちを背負った分、次の対戦は余計に負けられなくなった。いいじゃないか、上等だ。しっかり気合いを入れて、次に挑もう。



翔「今日のキーカードはふしぎなアメ!
  たねポケモンから一気に2進化ポケモンにもなれるぞ!
  2進化ポケモンが多いデッキには必須のカードだ」

ふしぎなアメ トレーナー (DP4)
 自分の「進化していないポケモン」を1匹選び、そのポケモンから進化する「1進化カード」、またはその上の「2進化カード」を、自分の手札から1枚選ぶ。その後、選んだ「進化カード」をそのポケモンの上にのせ、進化させる。

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