Mission #130 アプライトの日記

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「アンヘル・コーポレーションの前社長……?
確かにアンヘル石油の社屋から前社長の日記帳が見つかること自体は珍しくもないけど……」
「……あんま、面白くない想像には行き着いちまうな」

教授の言葉に、ハーブとセブンが表情を曇らせた。
ハーブの言うとおり、アンヘル・コーポレーションの前身であるアンヘル石油から、前社長の日記帳が見つかったとしても不思議ではない。
……これがただの日記帳であれば、の話だが。

(あの日記帳には、闇の結晶のことが書かれてた。
書いたのがアンヘルの前の社長だったら……ヤミヤミ団とアンヘル・コーポレーションがグルって可能性があるってこと?)

面白くない想像だが、否定できる根拠はない……
アカツキは後頭部を棍棒で一撃されたかのような衝撃を受けていた。
昨日読んだところによると、闇の結晶を発見したのが日記の執筆者であることは間違いない。その執筆者はアンヘルの前の社長だった。
そうなると、ヤミヤミ団とアンヘル・コーポレーションがグルだと思われても仕方がない。
無論、アプライト——アンヘルの前社長——が闇の結晶を見つけただけで、実際に持ち出したり闇の石を使ったりしていたのがヤミヤミ団だったという可能性もあるわけだが、こちらの方は説得力が弱い。
教授の衝撃の発言に、場の雰囲気が一気に重く険しいものとなる。
この場の全員が、ヤミヤミ団は自分たちが思っていたよりもずっと大きな組織かもしれない……と揃って考えていたからだ。
断定できるだけの、そして否定できるだけの根拠が両方とも存在しないだけに、なまじ現実味のある想像を消去するのは難しかった。
重苦しい雰囲気に誰もが閉口していたが、沈黙は長く続かなかった。

「ヤミヤミ団がアンヘル・コーポレーションとつながっている可能性……それは皆無ではありませんが、まだ断定できるだけの証拠がないのが事実です。今のところは」

議長が穏やかな——しかし、力強さを秘めた声で言うと、一同の下がりかけていた顔が上向いた。
まだ想像は想像の域を出ない……
当たり前なことではあったが、人は悪い想像を抱くと、知らず知らずに考えがネガティブな方向に向かってしまうのだ。

(でも、焼け焦げてたって言うし、なんかおかしいよなあ……どうなってるんだ?)

ただの日記帳なら、わざわざ焼け焦げている必要はない。
なにか作為的なものを感じるが、それが『誰かの手によるもの』という証拠もまた、確実に存在しているわけではなかった。
なんとも言えない気持ちで疑問を頭の中で浮かべていると、議長の言葉を継ぐ形で教授がこんなことを言った。

「日記帳だけでは根拠として薄いと言わざるを得ない。
だが、可能性としてはかなり濃密だと思われる……無論、可能性としては、の話だが」
「じゃあ、日記の内容にはそれを示すものがあるということですか?」
「うむ……そう取らざるを得ない表現ではある」

セブンに訊ねられ、教授は苦々しいものでも噛み潰しているような渋面でゆっくり頷いた。
口ではぼかした言い方をしているが、考えとしては確信に近いものを抱いているのが表情から見て取れた。
それだけに、今後はとにかく厄介な事態になっていくであろうことも、想像に難くなかった。
重苦しい雰囲気を払拭するでもなく、むしろこの現状を再確認した上で先へ進もうと言う意志を示すかのように、シンバラ教授が言う。

「その紙にも書いてあるが、順を追って解説しよう。
……アプライト氏の主観である点だけ、注意して聞いてもらいたい」

そう。
この日記はあくまでも執筆者の主観に基づいたものであり、事実が記載内容と異なる可能性は相応に高い。
それを前提に話を進めなければならないことは、誰もが承知していた。
誰かが頷き——それを合図に、教授は一枚目の紙を示して口を開いた。

「『このごろは採れる石油の量が目に見えて減ってきている。新しい油田を開発しようにも、資金の目処が……』と書いてあるが、これはアンヘル・コーポレーションの会社要覧から察するに、二十年ほど前のことと推測される」
「二十年前……アンヘル石油がアンヘル・コーポレーションになる五年ほど前のことですね」
「うむ……」

議長の言葉に、教授は小さく頷いた。
二人からすれば二十年前などそう遠くない昔の話だろうが、アカツキにとっては途方もない昔のように感じられた。

(二十年前か……ぼくとヒトミは生まれてすらいないんだよな。遺伝子の一つもなかったのかも)

なにしろ、生まれていない時代の話なのだ。
当時のアルミア地方がどんな状況であったのかなど分からないが、日記の内容から察するに、エネルギー事情は決して明るいものでなかったであろうことが窺える。
あるいは、アンヘル石油という会社の経営状況が芳しくなかったか……どちらにしても、笑って話せるようなものでないのは間違いないだろう。

「そこから数ページは新たな事業に乗り出そうとしたとか、そのための資金繰りに奔走したという内容だったから飛ばすとして、次はここだ」

教授の指が二枚目の紙を指し示すと、一同の視線がそこに移った。

「『仲間がまた一人、会社を去ってしまった。
家族は私を励ましてくれるが……その励ましが、今の私にはとても辛い。
もはやこの場所での石油発掘だけでは会社は成り立ってゆかない。
限界を知っているから辛い……石油の量は、去年の半分ほどもない。
このままでは、アルミアのエネルギー事情が逼迫するのは目に見えている……』とある。
当時は世界的な石油危機が叫ばれていた時代だった。
その二年後には某国で大規模な油田が複数見つかったことで、明るい展望が拓けてきたんだが、それまでのアンヘル石油はかなり厳しい経営状態だったようだ」

アンヘル石油の厳しい状況は昨日、アカツキが日記を読んだ時にも感じたことだった。
当時、全世界的にエネルギー事情が厳しい局面を迎えていたことまではさすがに知らなかったが、その二年後には大規模な油田の発見により、アンヘル石油の経営状態も改善し、期せずして事業拡大の一環として展開していた生活用品事業が成功したため、マンモス企業への足がかりを得たのだ。
だが、その前に闇の結晶が登場する……

「『しかし、採掘現場から今までに見たことのない黒い結晶が見つかった。
偶然、掘り進めていた時に広い空間にたどり着いたのだが……』このあたりの時系列はどうもはっきりしないが、文面から察するに、経営状態が改善する以前のものと推測される。
『この闇の輝き……なんという魅力か……私の心がこの闇に……』どうやらアプライト氏は、闇の結晶に秘められた力に気づいたらしい。
……とりあえず、現在までに分かっているのはここまで。
ただ、この分だとアプライト氏は闇の結晶の研究に乗り出したのかもしれん。
そこから先は今後の復元作業を待たなければならないが、先はかなりひどく焼け焦げているから、慎重に慎重を期して臨まなければならんところだ。
議長、今しばらく時間を頂戴したい」
「そうですね……」

議長は頷くと、しばし何かを考え込むような表情を見せていたが、やがて教授に顔を向け『お願いします』とだけ言った。
明らかになったのは、アプライト氏が闇の結晶を見つけたことと、闇の結晶に魅力と称するだけの力が秘められていることだけだった。
ヤミヤミ団とアンヘル・コーポレーションがつながっているという表記は一切存在しない。
結局、可能性は可能性の話でしかない、ということだ。

「これはなかなか難儀しそうだな……
直接的な証拠がない分、動くに動けないところだな」
「そうね。結局のところは疑念が芽生えただけ。それを調査することは今の時点じゃできそうにないわ」

トップレンジャー二人の意見は一致していた。
アンヘル石油の社屋で闇の結晶にまつわる日記が発見されたのだから、無関係であると言い切ることはできないのだろうが、日記に書かれていることだけで調査はできないし、証拠もない。
可能性の域を出ない限りは、手出しのしようもない——悔しいが、現状では打つ手がなかった。

(…………この日記は何を意味してるんだろう)

アカツキは最後の一枚を見やり、疑問を浮かべていた。
確かに、今はどうしようもない。
しかし、アプライト氏がこの日記を書き記したことには何らかの意味があったはずだ。あるいは意図が。
今の時点で分からなくても、きっと何かしらの意味はあったはず。
それが分からない限り、本当に解決に向けて動き出せないのではないか……言い出せる雰囲気ではなかったが、そう思わずにはいられなかった。
全員が黙り込む。
ヌリエ高原から持ち帰ったこの日記は思わぬ事実を提起したが、それ以上の突破口を拓くには至らなかった。
新たな視点からの可能性を提示したという意味では価値のあるものと言えるが、そこから先は未知数。今後の復元作業を待つことになる。
日記の件に区切りがついたところで、シンバラ教授が助手になにやら耳打ちした。
助手は頷くと、壁際に設置されたパソコンのキーボードを叩き始めた。
全員が『一体何をするつもりだ』と言わんばかりに視線を向けていると、教授の眼前の床が音もなく左右に割れ、床下から台座が競り上がってきた。

(これって……!!)

台座を見やり、アカツキは思わず息を呑んだ。
それは彼だけでなく、ハーブやダズルも同じことだった。
……というのも、台座には半球状のカバーがかけられ、中に黒い石が置かれていたからだ。

「闇の石……!? なぜここに!?」
「俺がサンプルとして持ち帰ったんだ。
ドカリモやモバリモに組み込まれてさえいなければ、これくらいの大きさの石は人にもポケモンにも影響を与えないらしい」

驚愕するハーブに、セブンがいたって冷静な口調で言葉をかけた。
曰く、以前ミッションでドカリモを破壊したことがあり、何かの役に立つだろうと闇の石を持ち帰り、シンバラ教授に渡したとのことだ。
教授は議長と助手にだけそのことを話し、密かに研究を続けていたのだが、『闇の石がドカリモやモバリモに組み込まれることでポケモンへの影響力を生じる』以上のことは分からずじまいだった。
近親者にのみ研究の旨を話したのは、どこからヤミヤミ団に情報が漏れるか分からないといった配慮からだったのだが、レンジャースクールにヤミヤミ団の幹部クラスと思われるミラカドが潜入していたこともあり、その配慮が活かされる形になった。

(……シンバラ教授って、やっぱりすごい人なんだなあ)

伊達にユニオンの最高顧問を務めているだけのことはあると、アカツキは教授の慎重に慎重を期した行動に感心しきりだった。
敵を欺くには味方から——という発想からだろうが、結果としてトップレンジャーにすら黙り通すことができたのだ。

「……それで、闇の石がどうかしたんですか?」
「密かに研究を続けてみたところ、一つの事実が判明した。
……もっとも、それが判明したのは昨日、しかも偶然の産物というヤツだったんだがね」

ハーブの問いに頷くと、教授はため息混じりに小さく肩をすくめてみせた。
偶然の産物ということがお気に召さなかったようだが、成果は成果として認識しているのだろう。

「それはわたしも初耳ですね」
「昨日はその実験を行うために費やしたものだからな……彼女をここへ」

議長に『なぜ教えてくれなかったの?』と言いたげな視線を向けられ、教授は苦笑いした。
確率がゼロでないなら、変化は必ず訪れる。それは必然だ。
だが、その必然と昨日、しかも自分が予期せぬ形で引き当てたのはタイミング的に偶然と言わざるを得ない。
教授の言葉に、助手の一人が携帯電話でどこかと話を始める。相手にここへ来るように伝え、十秒ほどで電話を切った。

(彼女……って?)

一体誰のことかと思ったが、アカツキが知らず知らずに浮かべた疑問符の表情が目に留まったらしく、教授は口の端に笑みなど浮かべながら言ってきた。

「なあに、きみのよく知っている子だよ」
「え?」

アカツキのよく知っている子……と言われても、すぐにはピンと来なかった。
だが、考えてみれば答えは一つだった。
ユニオン本部で自分がよく知っている人と言えば、そう多くない。
この場にいる人物を除けば、オペレーターのリズミ以外にいないのだが、どうして彼女をここに呼ぶのかという理由までは分からなかった。
それから程なく、部屋にリズミが入ってきた。

「あれ、なんでおまえがここに?」
「教授に呼ばれたのよ」

ダズルは彼女がここに来るとは思っていなかったらしく目を丸くしていたが、リズミは彼のやや失礼とも取れる反応を気にするでもなく、教授と議長に小さく頭を下げ、歩いてきた。

「仕事中にすまないね」
「いえ、構いません。もしかして……」
「うむ。始めてくれ」

何が始まるというのか。
ハーブもセブンも、リズミのことは知っている。アカツキとダズルのスクール時代の同期で、親友でもある少女。
オペレーターとして配属になって半年と経っていないが、通信量の多い本部のオペレーターとして十分な働きを見せている、将来がとても楽しみな逸材だ。

「そこのモニターと、この石の周囲をよく見比べてもらいたい」

言うと、教授が指し示した壁のモニターに縦長の棒グラフが表示された。
全員の視線が移り、教授は言葉を続ける。

「微弱ではあるが、石からは力が発せられている。
この大きさであれば、ドカリモやモバリモに組み込まれていなければさほどの害はない。
そこのグラフは石が発している力の量を示している」

グラフは多少の上下を繰り返していたが、棒の長さを考えれば安定していると言えた。
量がどれほどのものかは分からないものの、ムックやブイが何の反応も示していないところを見ると、本当に害はないようだ。

(見た目は石炭みたいな石なんだけど……どんな力を発してるんだろ?)

石炭の親戚のような石に秘められた力。
ドカリモやモバリモに組み込むことで特殊な音波を発し、ポケモンの中枢神経を一時的に麻痺させる。
だが、単体ではさほどの害は及ぼさず、増してや人体への影響も確認されていない。
ドカリモやモバリモはポケモンへの影響を与えるために作成されたものだろう。

「ではリズミくん。石の傍へ」
「はい」

教授の言葉に従い、リズミが石の傍に立つ。
すると、彼女の胸元が淡く光り出した。同時に、闇の石からも淡い光が発せられる。

「これは……?」
「リズミが光ってる……」
「こいつの胸が?」
「違うわよっ!!」
「いてっ、なにしやがんだっ」
「こらこら、フザけてる場合じゃないだろ」
「そうよ。
……でも、これは一体……」

ダズルのデリカシーを欠いた言葉で一瞬だけ雰囲気が白けたものの、思いもかけぬ現象の発生に、アカツキたちは驚愕していた。

「そこでこのグラフを見てもらいたい」
「……あら、先ほどと比べると減っているように見えますね」
「ご名答」

改めてモニターのグラフを見てみると、先ほどと比べて明らかに量が減っていた。
左側に先ほどの、右側に現在のグラフをそれぞれ表示させ、対比させれば火を見るよりも明らかだった。
リズミが近づいた途端、グラフに変化が発生した。
……となると、この光と関係あるのは間違いなかった。

「これはリズミくんが特殊な力を持っているというわけではなく、彼女が首にかけているペンダントによる変化と思われる。
では、ペンダントを」

教授に促され、リズミは首にかけているペンダントを外した。
確かに、淡い光はペンダント……いや、ペンダントにはめ込まれた石から発せられているのが分かる。

「光るペンダントなんて珍しいですね……」
「だが、これはもしかして……」

ハーブとセブンが目を細める。
普通のペンダントに、闇の石を光らせる効果などあるはずもない。ペンダントの石に何かしらの力が秘められているようだ。

「リズミくん。離れていいぞ」
「分かりました」

リズミがペンダントを持ったまま離れると光は消え、グラフの棒が再び伸びた。左右のグラフが一致する。
ペンダントを近づけると、石から発せられていた力が一時的に減った。
この事実が意味するところは……

「彼女のペンダントにはめ込まれた石が、闇の石の力を若干ではあるが打ち消しているようなのだ。
量で表すとするなら、約三分の一といったところか」
「なるほど……だとすると、これは切り札になり得るかもしれませんね」
「うむ」

闇の石に秘められた力がどのようなものであるかは分からない。
だが、ドカリモやモバリモがこの力を利用したものであるなら、非人道的な効果の源とも言える力を若干でも打ち消すことができれば、その効果も相対的に弱まる……議長が切り札とまで言うのも納得できた。

(すごい……こんなことがあるなんて。だけど、今まで気づかなかったのはなんでだろう?)

まさかペンダントの石にそんな力があろうとは、誰も想像すらしていなかったのだ。
あらゆる可能性を模索しても、考えの及ばないところまではそれに含まれない。本当の意味での盲点で、教授が『偶然の産物』と言うのは至極当然だった。
このペンダントが切り札になりうるなら、どこで手に入れたものなのか……?
それを知ることが急務と考え、アカツキは敢えてリズミに訊ねた。

「リズミ、そのペンダントはどこで手に入れたの?」
「これ、お父さんからの誕生日プレゼントにもらったものなの。
わたしのお父さん、ヒアバレーで雪原の調査隊を指揮してるんだけど……」

アカツキの問いに、リズミはペンダントを入手した経緯を話してくれた。
彼女の父親は雪原の調査隊を指揮しており、現在はアルミア地方北西部の氷雪地帯であるヒアバレーにキャンプを構えているそうだ。
その父親から、誕生日プレゼントにと、ヒアバレーで採れる水色の石をはめ込んだペンダントが送られた……それが彼女が今手に持っているペンダントだった。

「この石、ヒアバレーで採れるんだ」
「そうみたいね。わたしは石のことなんてよく分からないけど、とてもきれいで気に入ってるの」

リズミはペンダントにはめ込まれた石を見やった。
研磨されて丸みを帯びている石はやや透き通った水色を呈しているが、一見すると変わったところは見当たらない。増してや、闇の石の力を打ち消すなどという雰囲気があるわけでもない。

「でも、本当にきれいな石だなあ……」
「そうだよな」

アカツキとダズルはペンダントの石に心が洗われるような心地を覚えていた。
不思議な力が込められているようには感じられないが、それでもなぜか、見ているとそんな気がする……

「教授、その石が闇の石の力を多少なりとも打ち消せるとすれば、今すぐにでも採取に乗り出すべきでは?」
「そうだな。
とはいえ、大がかりにやるとヤミヤミ団に気づかれる。
こんな石があるって分かった日には、なにをしてくるか分かったモンじゃない」
「まあ、それはそうね」
「さて、どうしましょうか……」

ハーブが意見を述べると、セブンは性急すぎると言わんばかりに頭を振った。
確かに現状はそうすべきかもしれないが、ヤミヤミ団に石の存在がバレてしまえば、可能性の芽を摘むべく、なりふり構わぬ行動に打って出るかもしれない。
どちらにせよ、大がかりな行動は避けるべきだ。
打つ手はないかと、議長がリズミに訊ねる。

「とはいえ、この石がどんなものなのかも分からないのでは調査も採掘もできません。
リズミさん、お父様からなにか聞いていませんか?」
「ヒアバレーで採れる石としか……もしかしたら、調査隊の人なら知ってるかもしれません」
「そうですか」

リズミが申し訳なさそうに言うが、議長は気にしていなかった。
要は、『プレゼントでもらったきれいな石のことわざわざ調べる人はどれだけいるのか?』という話で、詮無いことである。

「そうなると、今後の方針は決まってきますね」

議長はハーブとアカツキの顔を交互に見やり、こんなことを言った。

「それではハーブ。アカツキ君とヒアバレーに行き、石について調査してきてください。
セブンはダズル君とアプライト氏についての調査をお願いします。場合によってはここに来てもらうことになるかもしれません」
「分かりました」
「了解です」
「…………」
「…………」

ユニオンの最高責任者として適切な采配であったが、アカツキとダズルは互いに顔を見合わせていた。
当分は二人一組で行動すると聞かされていただけに、ここで別々になるとは思わなかったのだ。
だが、そんな彼らの反応を最初から予期していたのか、議長は抜け目なく言葉を付け足してきた。

「アカツキ君、ダズル君。
二人にはそれぞれトレーナーとなるトップレンジャーと行動を共にしてもらいます。
トップレンジャーの傍で仕事をした方がいろいろと覚えることや参考になることもあっていいと思いますから」
「分かりました」

そこまで言われたのでは、言葉を返すこともできない。
むしろ、二人して『またトップレンジャーと一緒に働ける!!』と、なにげに大きな期待を膨らませていた。
昨日、セブンとほんの一時間ほど共に行動しただけで参考になることが山ほどあったのだ。
ササコ議長の采配は、自分たちの今後の成長を考えた上で最良のものだったに違いない。
アカツキはハーブに向き直ると、小さく頭を下げた。

「ハーブさん。よろしくお願いします」
「優しくはできないから。そのつもりでね」
「はい」

彼女の口元には、なんとも意味ありげな笑みが浮かんでいた。
『わたし、いろんなこと企んでます』と言いたげでどことなくコワかったのだが、今の自分は教わる側の立場だ。出しゃばったマネはできない。
一方、ダズルもアカツキと同じようにセブンに対して頭を下げていたが、こちらは友好ムードで、セブンが朗らかな笑みなど浮かべていた。

(……なんか、思いっきり温度差があるように見えるんだけど、気のせいかな)

無論、気のせいなどではなかった。
両者の違いは結局のところ、師事することになったトップレンジャーの性格の差でしかなかったのだが。
どちらに師事することになっても、自分たちがやっていくことに変わりはない。
途中経過をあっさり飛ばして結論に至ったところで、ハーブが声をかけてきた。

「それじゃあヒアバレーに行きましょう。
……その前に、防寒服を準備しなきゃね。こっちよ」
「はい」

善は急げ——もとい、ミッションを言い渡されたからには、行動は迅速に起こさなければならない。
アカツキはハーブの後について歩き出した。






To Be Continued...

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