Mission #103 正面突破(後編)

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読了時間目安:22分
「ポケモンレンジャーだと!?」
「同じ日に二度続けて乗り込まれるとは……!!」
「このままではあの方にお仕置きされてしまうぞ!!」
「それだけは阻止するんだ!! ドカリモを総動員……」

黒ずくめの集団による怒号が飛び交う中、アカツキたちは次々と襲いかかってくるポケモンたちのキャプチャに臨んでいた。
ヤミヤミ団に見つかってしまったからには、相手が態勢を整える前に懐深くに入り込み、一気に決着をつける。
そのつもりでやってきたのだが、思わぬところで時間をかけてしまうことになった。

(あのドアを破らないと……!!)

一体のキャプチャを終了し、次にキャプチャするポケモンを見定めるために周囲に視線をめぐらせる最中、アカツキは進路を塞ぐように立ちはだかる扉を見やった。
ヤミヤミ団のアジトの入り口であろうと思われるその扉の高さは三メートルを超え、左右にスライドして開くタイプらしく、幅もそれなりのものがあった。
奥に進むためにはドアを開かなければならないが、まさかこの場にドアを開く鍵(リモコンなど)を持っている人間がいるとは思えない。
なんとかしてドアを破らなければならないのだが……

(ポケモンが多すぎて、そこまで手が割けない!!)

アジトの入り口だけあって障害物はそれほど多くなかったものの、アジトの中にドカリモが設置されているらしく、特殊な音波で操られたポケモンたちが我先にと群がってきては襲いかかってくる。
炎タイプのポケモンが中心で、一本道の細長い通路で炎など吐かれては逃げ場もないのだが、ドカリモに操られたポケモンは自らの身体を武器にして襲いかかってくるだけだった。
そこはアカツキたちにとっても、ヤミヤミ団にとっても幸いと言うべきところだろう。
どちらにしても、襲ってくるポケモンが多すぎて、それらを捌ききるまでは——少なくともある程度の数を減らすまでは、扉を開くために人員を割くことができそうにない。
しかも、扉をぶち破るとなると、ルッチーとミーナくらいしかパワーにあふれたポケモンはいない。

(でも……ヤミヤミ団はこっちに手を出せないみたいだし、なんとかならないかな?)

ヤミヤミ団はドカリモに操られたポケモンに攻撃されていない。
攻撃されているのはアカツキたちだけだった。
しかし、ヤミヤミ団の団員たちがアカツキたちに手を出せないのは、操られたポケモンたちの攻撃のとばっちりを恐れているからだ。
これをなんとか利用できないか……?
そう思いつつも、次のポケモンのキャプチャに入る。

「キャプチャ・オン!!」

真正面に飛び出してきたブーバーに狙いを定め、ディスクを射出する。
ブーバーは炎タイプのポケモンで、炎タイプの技の使い手だが、それ以上に『炎の身体』という特性が厄介だ。
触れた相手に火傷を負わせるという、身体が凶器と言わんばかりの特性。
単純に触れられただけで、容易に致命傷を負わされるのだ。
ブースターやリザードのように、触れるだけなら平気なポケモンと違って、早々にキャプチャする必要がある。
ブーバーはディスクを射出したアカツキを敵と認識したようで、一直線に向かってきた。
周囲の状況を確認し、多少の余裕——他のポケモンが襲ってこないことを見て取ると、アカツキは周囲を忙しなく飛び回っているムックに指示を出した。

「ムック、あの人たちを攻撃しない程度に襲って!!」
「ムックゥ〜!!」

アカツキの指示に、彼のやりたいことを悟って、ミソラもエアルに指示を出した。

「エアルもムックと一緒に行って!! こっちは大丈夫だから!!」
「すばーっ!!」

それぞれのパートナーから指示を受け、ムックとエアルが扉の前に立ち塞がっている(実際には避難しているわけだが、扉を開くことができずにいるようだ)ヤミヤミ団員に襲いかかった。
もちろん、普通に攻撃などさせるはずがない。
適度に混乱させて、こちらの状況を中にいる団員に伝えられないようにすればいい……それだけのつもりだった。
ドカリモに操られたポケモンたちのキャプチャで手一杯と高を括っていたヤミヤミ団員たちは、ムックとエアルが襲いかかってきたことで統率を失ってしまった。

「こら、あっち行け!!」
「そこだけは、そこだけはぁぁぁぁぁぁっ!!」
「髪が乱れちゃうじゃない!! こら、あっち行きなさいよ!!」
「頼むから糞だけは落とさないでくれ、一張羅なんだーっ!!」

飛び交う悲鳴と怒号。
指揮を執る人間がいないせいか、統率は赤子の手を捻るよりも呆気なく失われた。
思った以上の効果が出ていることに驚きつつも、アカツキは安心してムックとエアルにヤミヤミ団員の撹乱を任せることにした。

(あっちはムックたちに任せて、ぼくたちは少しでも早くポケモンたちを落ち着かせるんだ……!!)

ブーバーは素早い動きを得意としていないため、多少疲れてはいても、アカツキでも十分に相手の動きについていくことはできた。
ドカリモに操られて正気を失っているせいか、動きは単調で雑。
これがポケモンバトルなら、相性が多少悪かろうと、進化前のポケモンでも十分に勝てるだろう。
まともに狙いを定めているとは思えないような突進を軽く避わし、他のポケモンからの攻撃を受けないように気をつけて立ち回りながらキャプチャを続け、三十秒ほどでキャプチャを完了した。

「キャプチャ完了……キャプチャ・オン!!」

休む間はなかった。
ブーバーが糸の切れた人形のようにその場に座り込んだのを視界の隅に収めつつ、アカツキは次のキャプチャに入った。
ポケモンレンジャーとドカリモに操られたポケモンたちが入り乱れての攻防は、五分ほどで終了した。
周囲のポケモンたちを完全に落ち着かせることができたのだ。
しかし、ドカリモの影響を受け続けていれば、再び襲いかかってくるだろう。その前に突破口を開かなければならない。
洞窟での猛暑とキャプチャの連続で、アカツキたちの体力も相当に削られている。
これ以上障害が立ちはだかると、先に進むことさえできなくなってしまう恐れがあるのだ。
だから、そうなる前に……

「ルッチー、マッハパンチであの扉ぶち破って!!」
「ウキャーっ!!」

ヒトミの指示に、ルッチーが巨大な扉目がけて地を蹴った。
いちいち開くのを待っていても仕方ない。無駄な時間をかけるくらいなら、ぶっ壊す方が早いに決まっているし、ヤミヤミ団は犯罪集団と言ってもいいような連中である。
その連中が所有する扉を壊したところで問題が出るわけでもない。
ルッチーが扉目がけて強烈なパンチを繰り出すのを尻目に、ヒトミは別のポケモンのキャプチャに入った。
アカツキたちのパートナーポケモンの中で一番の攻撃力を持つのはルッチーだ。
扉を壊す役目を担うのは当然のことだし、そのことでいちいち打ち合わせなどする必要はなかった。

「ウキャっ、キャ、キャっ!!」

ルッチーのマッハパンチが扉に突き刺さるが、かなり頑丈にできているらしく、一発で壊すには至らなかった。
少しはへこませられたが、破壊には程遠い。
だが、ルッチーは焦ることなく、とにかく同じ箇所にマッハパンチを連続で叩き込んだ。
マッハパンチは、ポケモンバトルにおいて速攻可能な格闘タイプの技である。目にも留まらぬスピードでパンチを叩き込む。
威力はそれほど高くなく、相手がポケモンなら一発で大ダメージを与えることが難しいが、相手がポケモンでなければ話は別だ。
連続で叩き込まれたパンチが、扉の中央部をさらにへこませ、十数発目が突き刺さったところで大きな亀裂が入り、中央部をくりぬく形で破壊した。

「みんな、中に入るわよ!!」

人が通れるだけの大きさの穴ができた。
これで中に入ることができる。
ラクアの指示に、アカツキたちはキャプチャを中断し、ルッチーが開いた突破口目がけて走り出した。

「おのれぇぇぇぇぇ!!」
「なんで中に入るのよーっ、中にはなんにもないのにーっ!!」

ムックとエアルに追い立てられているヤミヤミ団員たちに、アカツキたちを止める術などあろうはずもない。
ドカリモに操られたポケモンたちが追いかけるも、人が通るのがやっとの大きさの穴に殺到したものだから身動きが取れなくなってしまう。
扉に空いた穴を潜り抜け、アカツキは背後を振り返った。
殺到したポケモンたちが我先にと穴を通ろうとするが、身体の一部が挟まった状態で押し競饅頭などしているものだから、どうしようもない。

(後ろは大丈夫だ、それより……)

アカツキは視線を前方に戻した。
扉の先は巨大な空間が広がっていた。
洞窟内に設けられた基地と言っても過言ではない規模で人の手が加えられ、天井から床に至るまで金属板で補強されている。
しかも、その中央部には貨物船が横付けされている桟橋があり、奥に向かって水が張られているのだ。
どうしてそこまで見通しが良いかといえば、最奥から光が差し込んでいるからだった。

「こんなトコにドックを作ってたなんて……!! これじゃあ見つかるわけないわ!!」

普通の人がまず立ち入らないような火山の洞窟の奥にアジト(見た目はドックであったが)を設けていれば、そう簡単には見つからない。
さらに、そこから外に出られるようにしていれば、どこからでも簡単に戻ってこられるだろう。アジトとしてはうってつけの場所と言えた。
ヤミヤミ団員たちはアカツキたちの姿を認めるなり、殺到してきた。
パッと見た目、ドカリモは設置されていない。恐らくは設置されていないのだろう——そうでなければ、人海戦術という言葉が似合うように殺到してきたりはしない。
アカツキたちは全員が、そう思っていた。

「貨物船……まさか、ポケモンたちをあの中に入れてどっかに運ぼうとしてるってか?」
「たぶんそうね。
なるほど……貨物船に詰め込んで普通に運んでる分には、まずバレないって寸法なんでしょ。
とりあえず、貨物船を押さえるわよ!!」

タイキが怒りを押し隠せないと言わんばかりに叫ぶと、ラクアが舌打ちなどしながら頷いた。
火山の洞窟に入っていったポケモンたちが今まで一体も見当たらなかったところから見ると、まず間違いなくヤミヤミ団がドカリモで操ってここまで誘導していたのだ。
さらに、ここで貨物船に入れて、どこかに運んだとしたら……なるほど、上手に考えたものだ。貨物船なら、よほどのことがない限りは船舶への立ち入り検査が行われることはない。
『荷物』の積み下ろしにしても、やり方はいくらでもある。
誰が考えたかは知らないが、本当に嫌らしいやり口だ。

(どうやったらあんなところに押し込められるんだろ……んっ?)

見た目は普通の貨物船。
横っ腹にペイントされているのは、アルミア地方では有名な食品メーカーのラッピング広告だ。
食品メーカーのラッピング広告を隠れ蓑に、連れ去ったポケモンたちをどこかへ運んでいるのだろう。
犯罪組織らしい考え方だが、無論、感心できるやり口などではない。
そんなことを考えていると、貨物船に程近いコンテナからヤミヤミ団の団員が十人ほど固まって出てきた。
隠れていたのかと思ったが、そうではなかった。
彼らはロープでぐるぐる巻きにされた男性と、同じようにぐるぐる巻きにされたポケモンを貨物船に運び入れようとしていた。

「ゴラァ!! とっとと離しやがれ、このスットコドッコイがっ!!」

ロープでぐるぐる巻きにされた状態で、男性——バロウが怒声を張り上げる。
彼と共にぐるぐる巻きにされているのはパートナーポケモンであるアンクルだった。
アンクルも怒っている様子だったが、顔つきが元々温和な印象を受けることもあってか、可愛いという感じしか漂ってこない。

「リーダー!?」

行方不明になっていたバロウが、ヤミヤミ団に捕らわれていた。
少なくとも無事であったことは、アカツキたちにとってうれしいことだったのだが、このままでは行方不明になったポケモンたちと同様に、貨物船に乗せられ、どこかへ運ばれてしまうだろう。
バロウは手足をロープで強く縛られていたが、とにかく抵抗しまくっていた。

「おいコラ聞いてんのか!? 地獄に叩き落とすぞゴラァ!!」

普段の彼からは想像もつかないような荒っぽい文言が飛び出し、顔など怒りに染まっていた。
アカツキたちがやってきたことには気づいていないようだったが、気づくだけの余裕がなかったのかもしれない。
それよりも、寡黙で口数が少ないという印象しか抱いていないアカツキたちにとって、これは意外と言うほかなかった。

(リーダーって、こんなに荒っぽい人なんだっけ……?)

思わず唖然と立ち尽くしかけたが、目の前に迫る黒い人混み……ヤミヤミ団の団員たちの姿に、立ち止まっている場合ではないと我に返る。
きっと、バロウはロープでぐるぐる巻きにされて相当に頭にきているのだ。そうでなければ、怒りに染まった顔で荒っぽい文言を口にするはずがない。

(リーダーを助けなきゃ!!)

バロウが激しく抵抗しているため、彼を運んでいるヤミヤミ団の団員たちは相当難儀な想いをしているようだが、それでも少しずつ貨物船から伸びたタラップに近づいている。
全速力で走り続けても、彼が貨物船に連れ込まれるのを阻止するのは難しいだろう。
そうなると……
ムックをけしかけて妨害するしかない。
アカツキがそう思ってムックに指示を出そうとした時だった。
視界にこぶし大の石のようなものが飛び込んでくるのを認め、思わず避けようとしたが、飛んできたものの正体に気づき、アカツキは左手でそれを受け止めた。
傷がくっきりと刻まれたスタイラー……バロウのスタイラーだった。
飛んできた方向に目をやると、ラクアと目が合った。彼女が投げてきたらしい。

(でも、どうして……)

いきなりスタイラーを投げて、頭に当たっていたらどうするつもりだったのか。
彼女のことだから、もしそうなっていたとしても『あ、ごめ〜ん』と謝意のかけらもないような謝り方で済ませそうな気がする。
想像にしては妙にリアリティのある内容に思わず戦慄しているアカツキに、ラクアから鋭い声が飛んだ。

「アカツキ、タイキ!! キミたちでリーダーを救出して!!
あたしとヒトミとミソラで足止めするわ!! ミーナ、冷凍ビーム!!」
「ラクアさん!?」

ラクアの指示に、アカツキは仰天した。
誰かがバロウを助け出さなければならないことは承知していたが、まさか自分に振られるとは思ってもいなかったのだ。
なぜなら、ラクアの方が経験は豊富で、自分よりも戦力的には充実している。
彼女が行くのが一番だと思っていたのだが、見事に予想を裏切ってくれた。
だが、立ち止まっているヒマがないことは、理解していた。
彼女がバロウのスタイラーを投げたのは、リーダーを救出しろという意味だったのだ。

「…………」
「アカツキ先輩、行くっスよ!!」
「分かってる!!」

一秒という時間は、短いようで実は長い。
ほんの一秒だけ考えていただけなのに、タイキはラクアの指示に従ってアカツキの脇をすり抜けて、少しだけ振り返って言葉をかけてきた。
長く引き伸ばされていた一秒が『一秒』に戻り、アカツキは考えを振り切って駆け出した。
ポケモンレンジャーが二手に分かれて、片方が貨物船に乗り込もうとしていることに気づいたヤミヤミ団の団員たちが総出で妨害を仕掛けてくるが、それを許すようなラクアたちではなかった。
ミーナが冷凍ビームを放つと、アカツキとタイキに殺到した団員たちの眼前の地面を凍てつかせる。
直後、凍りついた地面を踏んだ団員たちが揃って転倒した。
しかし、転倒した団員を踏み越えて、後続が迫る。

「ぐえっ!!」
「誰よ、わたしの背中踏んだの!?」

悲鳴と怒号が飛び交うが、緊迫した雰囲気の中においてはバックミュージックにすらならなかった。
前から横にかけて扇形を構成しながら迫る団員たちを見やり、アカツキはムックに蹴散らすように指示を出そうとしたが、それより早くヒトミが指示を出していた。

「ルッチー、火炎放射ぁっ!!」
「ウキャーっ!!」

ルッチーは嬉々とした表情で火炎放射を放つ!!
当然のことながら、相手に直撃などさせはしないが、結果的に直撃することなどまずない。

「うわわわっ!!」
「焼き豚にする気かよっ!?」

目の前を豪快に通過する炎の奔流を前に、団員たちの足が止まる。
後ろから来た団員が前の団員にぶつかって、前の団員が危うく炎の奔流に身を躍らせるところだったが、結果的に彼らの足止めには成功した。
だが、その間にもバロウはアンクル共々タラップを上り、貨物船の中に入ってしまう。
目的のモノを詰め込んだと判断したためか、貨物船のタラップが徐々に上がっていく。
甲板以外の出入り口が見当たらないため、タラップが完全に上がりきってしまうと貨物船に乗り込むことが不可能になってしまう。
幸い、ヒトミたちが全力で暴れてヤミヤミ団を足止めしてくれているおかげで、貨物船への進路はほぼ確保できていた。
ミーナの冷凍ビームとルッチーの火炎放射がヤミヤミ団の団員たちの進路を塞ぎ、他の道筋を探そうとする彼らを、エアルの電光石火で掻き乱す。
そうすると互いに打ち合わせたわけではなかったが、ポケモンレンジャーの連携とは、そういうものだ。

「うおりゃあああああああああああっ!!」

タイキが腹の底から声を絞り出しながら走っていく。
アカツキも全力で走ってはいるのだが、いかんせんタイキの方が脚力は恵まれているらしく、差が詰まるどころか開いていくばかりだった。
そして、走っている間にもタラップが貨物船に収納されていく。
タラップの収納口の真上にある扉が、連動するように徐々に下がっていく。タラップが収納された時に、扉が完全に閉まるのだろう。
それまでになんとしても貨物船に侵入しなければならないが、かなり際どい。
タイキはあっという間に桟橋に到達し、大きくジャンプ!!
タラップに手をかけると、『ぐぬぬぬぬぬーっ!!』などと気合のこもった声を上げながら這い上がろうとするが、扉の向こうからヤミヤミ団の団員が姿を現した。
ポケモンレンジャーが貨物船に乗り込もうとしていることに気づいた一人が、タイキを追い出しにきたのだろう。
なにやら嫌らしい笑みなど浮かべながら話しているが、アカツキには遠すぎて聴こえなかった。
何を言おうと関係ない。今は……

「ムック、電光石火であの人を倒すんだ!!」
「ムックゥ〜!!」

アカツキの指示に、ムックが貨物船目がけて電光石火の勢いで飛翔する。
リンクがタイキの身体を這い上がってタラップに到達するよりも、ヤミヤミ団の団員がおもむろにタイキに足を振り下ろすよりも早く、ムックが渾身の体当たりで団員を吹っ飛ばしていた。

「ムック、サンキュ〜♪」

ムックのナイスアシストに口笛など鳴らしつつ、タイキはタラップに這い上がり、貨物船の扉の中に入った。

「アカツキ先輩、早く早く!!」
「ちょ……早くって言ったって……!!」

年頃の男の子の中では比較的運動神経に恵まれているといっても、火山の洞窟に立ち込める熱気が体力をすり減らしている状態なのだ。
全力疾走も、そうそう長くは続かない。
胸が焼けるように痛くなってきたが、構わずに走り続ける。

(ここでぼくだけ置いてけぼり食らったら、すっごくカッコ悪いんだろうなあ……ラクアさんたちのことだから、後で合流しようとは考えてるだろうけど)

……なんて思ってみる。
バロウのスタイラーを託されたのに、置いてけぼりを食らったとなれば間抜けもいいところである。
だから、なんとしても間に合ってみせる……!!
磨り減った体力と疲労を訴えかけている身体に鞭打って、渾身の力を込めて走る。
ようやく桟橋に差し掛かった時には、タラップも半ばが収まりかけており、最大級の力でジャンプしても到達するかどうかは疑わしい状態だった。
それでも、やらずにあきらめるほど往生際が良くはなかった。
桟橋の端から、残った力を振り絞ってジャンプ!!
タラップに手を伸ばしたが、一メートルほど届かなかった。
跳躍して、最高点に到達した後は……落ちるのみ。

「先輩っ!!」

タイキはタラップに身を乗り出し、アカツキに手を差し出したが、一メートルの差を埋めることはできなかった。

(まずいっ……!!)

このまま海に落ちたところで怪我などしないだろうが、タイキを一人で行かせるわけにはいかない。
貨物船は、下手をすればヤミヤミ団の巣窟と言ってもいい場所なのだ。
新人だからという理由ではなく、単に一人で行かせるのは危険だと思っていた。
だが、この状況は……

「ムックゥ〜!!」

こればかりはどうしようもないかと思いかけたその時、ムックの鋭い声が響き渡った。
アカツキが肩越しに背後を見やると、ムックが突撃してくるのが見えた。

(も、もしかして……)

もしかして、も何もなかった。
直後、背中にすさまじい衝撃が襲いかかった。
背骨が軋んで息が詰まり、声を上げることもできなかったが、背後からの衝撃に押し出されるようにして、アカツキの身体がタラップに乗っかった。
このままではアカツキが貨物船に乗れないと判断したムックが、体当たりで強引にタラップに乗せたのだ。

「先輩、こっち!!」

タイキがすかさずアカツキの身体を引き寄せて貨物船に入れ、アカツキに体当たりしたムックが彼の肩に留まる。
それから程なく、タラップが完全に収まり、搬入口の扉が完全に閉ざされ——貨物船が音もなく、穏やかな水の流れに押し出されるようにして出航した。






それから三分後。
ヤミヤミ団の団員たちを制圧したラクアは、奥へと消えていく貨物船の、ずいぶんと小さくなった後ろ姿を見やりながら、小さくつぶやいた。

「アカツキ、タイキ……リーダーのこと、頼んだわよ」






To Be Continued...

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