Mission #041 二人のパトロール

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:22分
はぁ……
すぐ傍で聴こえたため息に、アカツキはそれこそため息をつきたくなる気分だった。

「ヒトミ、そんなに現場検証に行きたかったんだったら、リーダーに言えば良かったじゃないか」
「言えるような雰囲気だったと思う?」
「ヒトミなら言えたんじゃないの?」
「……あんたってさあ、時々横暴よね」
「そうでもないよ。そう聴こえるってことは、自覚があるってことじゃない?」
「はぁ……」

ため息の代わりに、ちょっとトゲの生えた言葉を投げかけてみたが、彼女の反応は予想通りのものだった。
とはいえ、彼女の気持ちは分からなくもなかった。
明るく活発で行動力が無駄に有り余っているような女の子がため息をつくなど、普通は考えられなかったからだ。

(でも、現場検証ってプロがやらなきゃ意味ないんだよなあ……ぼくたち、ポケモンレンジャーで給料もらってるって言っても、まだ新人だし。
そりゃあ、プロ意識は持ってるつもりだけど)

いつまでも彼女の方を見ていたら、こっちまで無駄にため息で幸せを逃がしてしまいそうだったので、アカツキは視線を前方に戻した。
ビエンの森が火事に見舞われた翌日——つまり今日から、レンジャーユニオンと警察が合同で現場検証を行うことになったのだが、レンジャーユニオンからは、消火活動に携わった側として、ビエンタウンのレンジャーベースのエリアリーダーであるバロウと、エリアレンジャーのクラム、ラクアの三名が現場へ向かった。
アカツキとヒトミは、二人でビエンタウン周辺のパトロールを行うようにと言いつけられ、パトロールを行っているところである。
現実的な言い方をするならば、経験の浅い二人を現場検証に連れて行くより、経験豊富なクラムとラクアの方が、現場検証が捗るという考え方があったのだろう。
ビエンタウンの火事はアルミア地方全土を震撼させるに足るレベルの事件だけに、一刻も早い現場検証と解決が望まれている。
それゆえに、バロウとは『新人の育成』と『事件の早期解決』を天秤にかけた結果、後者を優先させることに決めたのだ。
アカツキもヒトミも、実際にそう言われたわけではないのだが、それくらいの事情があることは察していた。
それでも、不満がないわけではない。
アカツキはおおむね納得しているが、ヒトミに関しては、言いたいことを言う性分のためか、こうして彼に愚痴をこぼしている。
このまま放っておくと延々と愚痴られるかもしれないと思い、アカツキはヒトミの気持ちを切替えさせることにした。

「ヒトミの気持ちは分かるけど、今はパトロールに集中しなきゃ。
リーダーもクラムさんもラクアさんも、みんな現場検証に行っちゃったから、この辺りのパトロールできるの、ぼくたちしかいないんだよ」
「分かってるって。あたしだってさ、いつまでもグダグダ言う気はないんだから」
「えー、ホントかなあ……?」
「あんた、あたしをどーゆー目で見てるわけ?」
「ヒトミはどーゆー目で見られてると思ってるの?」
「…………それはまあ、アレよね。アレ」

アカツキがわざとらしい表情と口調で言うものだから、ヒトミは眉を十時十分の形に吊り上げて問いかけたのだが、案の定、揚げ足を取られて返す言葉を失っていた。
しかし、それだけで十分に気持ちが切り替わったことは確認できたので、アカツキもそれ以上は意地悪なことを言わなかった。

「……あんたが言いたいことは分かるわよ。
新人二人でパトロールして、何かあった時にちゃんと対応できるようにって、リーダーがそこまで考えてくれてるんだって言いたいんでしょ」
「うん」
「でも、やっぱりなんか悔しいじゃない?」
「そりゃそうだよ。もしかして、ぼくがなんとも思ってないって思ってた?」
「そんなわけないじゃない。『大人の事情』ってヤツだし、早く現場検証が終わった方が、より平和だってことなんでしょ」

結局、アカツキが言わなくても、ヒトミはヒトミでちゃんと理解していた。
それでも、無駄なことを言ったとは思わない。
アカツキ自身も、現場検証に立ち会えないことを残念だと思っているし、一刻も早く全容を解明し、完全な形で解決するのに携われないことを悔しいと思っている。
だが、それはどうしようもないことだ。
ヒトミが言うところの『大人の事情』だし、アルミア地方の住人がビエンの森の火事で気持ちを煩わせずに済むようになるためには、全容解明が不可欠なのだ。
そんな時にまで、新人を現場に連れて行くことなど考えられるはずもないし、かといって周辺のパトロールを疎かにすることもできない。
だからこそ、バロウは新人二人でパトロールに向かわせたのだ。
自分たちがついていない時に何かが起こったら、二人で力を合わせて解決させるために。その力を養うために。
それも、二人はちゃんと分かっていた。
だから……無言で視線を交わし、この話はこれで終わりにしようと決めた。
余計なことを考えて、パトロールの妨げになるようなことがあってはならないし、現場検証がスムーズに進行するためにも、ちゃんとパトロールをして、異常があったら速やかに解決しなければならない。
バロウたちの手を煩わせては、解決の妨げになるのだ。

「……でも、ビエンタウンはあんまり混乱もしてないって感じよね」
「うん。ぼくたちにとってはその方がありがたいんだけどね」
「まあね」

アカツキの言うとおりだった。
現場に一番近いビエンタウンの町中をパトロールしてみたが、森を焼く火事の翌日とは思えないくらい、平穏だった。
昨日は町まで延焼するのではないかと騒然としていたそうだが、消火活動を終えて、アカツキたちが森から戻ってきた時には落ち着きを取り戻していたそうだ。
もっとも、ラクアと二人で町に戻った時は、固唾を呑んで事態の推移を見守っていた住人たちから、

「火事を消してくれてありがとう!!」
「やっぱりポケモンレンジャーってすげえ!!」

……と、全力で賞賛されたくらいだ。
幸い、その熱も冷めているようで、住人たちは普段どおりの生活を送っていた。
何度も『すごい』と連呼されると、うれしいと思う反面、恥ずかしいという気持ちにもなってくるのだ。

「……で、どこからパトロールするの?」

異常らしい異常は見当たらない。
事件など滅多に起こらないだけに、住民の気風は穏やかだ。
昨日の火事ではかなり混乱したものの、自分たちに脅威となるものは取り除かれて、安全に暮らせるという気持ちがあるからだろう。
アカツキとヒトミが一通りパトロールした限り、ビエンタウンは問題なさそうだ。
いつ何が起こるか分からないということを差し引いても、そろそろチコレ村やレンジャースクール方面へ向かってもいいかもしれない。
ヒトミの問いかけに、アカツキは周囲を一頻り見渡した後で、足を止めた。

「チコレ村の方に行こっか。
昨日の火事で、ビエンの森のポケモンも結構追い出されちゃった感じだし……現場検証やってる間は立ち入れないだろうから、もしかするとチコレ村の方の森に住処を移したポケモンがいるかもしれない。
なにかあったって聞いてないけど、元々棲んでるポケモンと諍いとか起こしてるかもしれないから、様子を見に行ってみようかと思うんだ」
「なるほど……そうね、そうしましょっか」

アカツキの言葉は尤もなものだった。
昨日の火事は、ビエンの森における生態系のバランスを狂わすのに十分な規模だった。
住処を追われたポケモンたちは、他の場所で居住することを余儀なくされたはずだ。
森という環境はアルミア地方において豊富に存在するが、ビエンの森の周辺は特に環境が似ている。
新しい住処とするには絶好の場所だけに、元々住んでいたポケモンたちとの間に諍いが起きたとしても不思議はない。
自然と平和を守るポケモンレンジャーとして、火種が存在している以上は放っておけない事柄だ。

(今はぼくとヒトミしかいないから、自分たちでいろいろ考えてやってかなきゃいけない。
……自分で考えなきゃ)

アカツキは拳を握りしめた。
いつまでもラクアが自分のトレーナーとして一緒にいてくれるわけではない。
彼女は優しいから、アカツキのことを思っていろいろとアドバイスをしてくれるが、それに甘えていてはいけないのだ。
バロウはトレーナーの期間を明言していないが、だからこそいつ独り立ちしてもいいように、自分で考え、行動することに慣れていかなければならない。
口数が少なく、必要なことしか口にしないようなリーダーだが、それも新人を育てようという強い意欲の表れだろう。
町を南北に貫く大通りに出たところで、二人は進路を南に採った。
ビエンタウンの周囲は緑豊かな森で占められているが、アカツキが南側を選んだのには理由があった。
東側はレンジャースクールの半島があるだけで、海に近いことから、森のポケモンたちが棲むには適さない。西側も同様にナビキビーチが森の傍にある。
北側はプエルタウンであり、人が多く住んでいることと、上記と同様、海が近い。
そうなると、残っているのは南側……チコレ村の周囲だけになる。
チコレ村の周囲も豊かな森が広がっており、他の方角から比べると、海からも遠い。
潮風にさらされることもないため、森のポケモンが住むには絶好のロケーションだ。
そこのところは、チコレ村で生まれ育った強みが出ていると言えるだろう。住み慣れた町とその近くの環境は、誰よりも理解しているのだ。

「そういえばさあ……」

周囲に目を光らせて歩きながら、ヒトミが小声で問いかけてきた。

「あたしとあんた、二人だけでやるのって今日が初めてよね。ナンダカンダ言ってさ」
「うん、そうだよね」

ちょっとした雑談なら、ともすれば緊張に凝り固まりそうになる気持ちを解すのにもちょうどいい。
現に、ラクアと二人でパトロールしていた時も、気を抜き過ぎない程度には雑談に興じていた。
緊張した雰囲気をずっとまとっているよりも、適度に笑みなど浮かべながら柔らかい雰囲気でいることの方が、住民に安心感を与えられるという意味合いもある。
もちろん、話に興じていても周囲への注意は欠かさない。
そこのところはムックとルッチーが、レンジャーの分まで抜かりなくやってくれているが。

「……正直、もっと先になると思ってたよ。
いつかは、ラクアさんから離れて、新人二人でペアを組めって言われるんじゃないかって気はしてたんだけどさ」
「リーダー、いつになったらってことは言ってなかったもんね」
「うん。今は緊急事態だし、しょうがないよ。
でも、リーダーのことだから、予定は早まったけどちょうどいい機会だって思ったんじゃないかな」
「言えてる」

どちらかというと衝突することの多い双子だが、何もない時まで衝突しているわけではない。
むしろ、何もない時には普通の姉弟と変わりない。

「……そういえば、ぼくたち、レンジャーになってから一ヶ月以上経っちゃったんだよね」
「早いわよね。
レンジャースクールの三ヶ月間もあっという間だったけど……毎日充実してて、大変なこともあるけど、楽しいって思えるわ」
「うん」

他愛ない話。
どちらも当たり前のように感じていることだが、だからこそ気持ちを解きほぐすのには適した話題と言える。
自分たちがレンジャーに向けて歩き出したのは四ヶ月ほど前のこと。
レンジャースクールの入学試験に合格して、入学を果たした。
そこでたくさんの友達に恵まれて、大変ながらも楽しい日々を過ごした。
三ヶ月が経って卒業して、レンジャー、オペレーター、メカニックとして、それぞれの道へ向けて歩き出した。
それから一ヶ月……ビエンタウンのレンジャーベースに所属するポケモンレンジャーとして、二人とも頑張ってきた。
初めてミッションを遂行した時に比べればたくましくなったし、顔立ちは十三歳だから子供っぽいのは仕方ないとしても、考え方や立ち振る舞いは立派なポケモンレンジャーだ。
知らないことが多くて、覚えるべきことが多くて。
自分たちよりも圧倒的にキャリアを積んだ先輩たちを追い抜くのは当分無理だけど、だからこそ手本にして、少しでも近づけるようにと頑張れる。
それなりに多くのポケモンと触れ合ってきて、彼らの活き活きした姿にはいい意味で刺激を受けてきた。
豊かな自然の中で平和に暮らしていることが何よりも尊いことだということも、よく分かった。
経験不足で、異常時の判断をとっさに下せないこともあるが、それはそれで一つ一つのケースを大事にしながら学んでいけばいい。
近くに先輩がいないから……というより、同じ境遇で頑張ってきた相手が傍にいるからこそ、少しくらい思い返してもいいだろうという気持ちになった。

(ぼくはムックと一緒に頑張ってきたけど、どうなんだろ……?
ラクアさんは『たくましくなってるよ』って言ってくれるけど、ぼく自身はよく分からないんだよねぇ)

思い返してみると、ラクアはいつもニッコリ微笑みながら『キミってよく頑張るよね。入った頃に比べると、ずいぶんたくましくなってるよ』と言ってくれている。
後輩を奮起させるために多少は世辞が含まれているにしても、正直言うと、本人には『たくましくなった』という自覚が乏しい。
急激な変化なら本人が誰よりも早く気づくだろうが、息の長い変化なら、徐々に慣れていってしまうため気づきにくいものだ。
さらに、隣を歩いている双子の姉は自分と同じ環境で育ち、ほぼ同じ環境で仕事をしている相手だ。
似たようなペースで成長していることもあって、互いに相手と自分が成長していることが分かりにくい。
ある種の弊害と呼べるだろうが、本人がレンジャーになりたての頃と今の自分を比べてどれだけ成長したか分からないというのは問題だろう。
そこのところは当人の問題というより、周囲の要因が大きい。
どちらにせよ、レンジャーになった以上、やるべきことをやるだけだ。結果は後からついてくる。

(分かんないけど、たぶんたくましくなってるんだろうなあ。
……ぼくが分からなくても、先輩がちゃんと見てくれてる。ムックだって、ぼくのこと見てくれてるし)

ラクアが『たくましくなってる』と言ってくれるのも、本当にそう思っているからだ。
人は面白いもので、心にもないことは絶対に言えないようにできている。

(うん。ぼくが分かってなくたっていいんだ。見てくれてる人がいて、たくましくなったって言ってくれる。
それだけできっと変わってるんだ)

目に見えない変化なら、無理に気づこうとしなくてもいい。
むしろ、そちらに意識を取られて肝心なものを見失ってしまったり、見過ごしたりしては意味がない。
いちいち立ち止まって『自分はどれだけ変わったか』なんて、確かめるだけ詮無い事。

(ぼくはぼくにできることをしてくだけだ!!)

アカツキは顔を上げた。
少し、表情が明るくなったように思える。
いくら考えても、結果は同じ。
だけど、考えなければ答えは出ない。
……ただ、それだけのことだ。

「やっと終わった」
「なに?」

ヒトミが呆れたようにポツリ言うものだから、アカツキは顔を向けた。
相変わらずね……と言いたげな双子の姉の表情は、見慣れたものだった。
心の底から呆れているわけでもないのだろう。

「あんたって、考え出すとなかなか止まらないよね。
……まあ、マジメすぎるのは困りものだって昔から思ってるけど」
「ヒトミは考えもしないで行動するのやめた方がいいと思うけど」
「ま、あんたに見習うところは多いと思ってるよ。
もちろん、あんたにも同じことが言えるけどね」
「んっふっふっふ……」
「はははははははは……」

一頻り言葉の応酬を繰り広げた後、二人して不敵な笑みを浮かべる。
周囲の空気が瞬時、ギスギスしたものと化し、近くにいた住民が驚いた顔を向けてきたが、当然、二人にとって彼らの反応など蚊帳の外だった。

「ま、いいわ」
「うん。いつものことだし」

すぐにギスギスした空気が掻き消えて、二人の顔に笑みが浮かぶ。
時々は険悪(?)になることもあるが、基本的には仲のいい姉弟だ。
今回のことも、憂いを断って今後の行動に支障が出ないように考えをまとめるという意味では、有益なものと言えよう。
気を取り直してパトロールを続行する。
町には特に異常がないため、ビエンタウンとチコレ村を結ぶ道へ。

「見た感じ、何もなさそうね」
「うん」

土をローラーで固めただけの道を歩きながら、二人は周囲に視線をめぐらせた。
昨日のビエンの森の火事で、煙はアルミア地方のほぼ全土から確認できるほど高く立ち昇ったそうだ。
その煙が風に乗って各地に流れたようだが、近場であるこの辺りには然したる影響を与えずに済んだらしい。
十メートル先を、五体のビッパがのっそのっそと横断している。
とりあえず、ポケモンたちの営みに大きな変化はなさそうだ。
ビッパは比較的温厚と言われているが、温厚なのも、落ち着いた環境で暮らしているからこそ。

「ムックゥ〜」
「ヒコっ」

ムックとルッチーも、森の環境が以前とほとんど変わっていないことを感じているようだった。
人間よりも遥かに敏感な感覚を持つポケモンだからこそ、人間が感じ取れないような微弱な変化ですら感じ取ってしまう。
それがないということは……昨日の火事による影響はほとんどないということ。

(良かった。ムックが落ち着いてるってことは、問題ないってことだよね。
でも、ちゃんとパトロールはしとかないと……自分の目で見なきゃ分からないことだってあるし)

アカツキは肩に留まっているムックの頭を撫でながら、そんなことを思った。
共に仕事をするようになって、早一ヶ月。
アカツキとムックは互いに信頼し合い、主義主張の違いからぶつかり合うこともなく、協力して頑張ってきた。
それでも、自分の目でちゃんと見て確かめたい。
ムックの感覚を信頼していないわけではないが、大事なことは自分の目で見て確認しなければならない。
それを忘れてしまったら、何でも他人の言うことを鵜呑みにしてしまう。
最終的な判断はすべて自分が下すということも、忘れてしまうのだ。
土を踏みしめて歩く感覚が、妙に心地良い。
昨日は火事で水分のほとんどない森を走り回ったかと思えば、カメックスの雨乞いで思い切り泥濘んだところを走ったり……いろんな環境の場所を渡り歩くのがレンジャーの仕事であるとはいえ、一日でこうも違った環境に足をつけるというのは、今までに経験したことがなかった。

「そういえばさあ、アカツキ」
「なに?」

周囲の景色に目をやりながら歩いていると、ヒトミが話しかけてきた。
鳥のさえずりはちゃんと聴こえているが、それでもただ歩くだけということに退屈を感じているらしかった。
アカツキとしても、ここで無視したら厄介なことになると思って、気楽に応じた。

「なんか、あたしたちがレンジャーになってから、変なことって結構起こってるよね。
今までもそうだったのかしら」
「海の洞窟の件と、昨日の火事のこと?」
「そう」
「考えすぎだよ。
それを言ったら、青空スクールの時だって、クラムさんがミッション入って、途中で中断になっちゃったじゃないか」

彼女の言いたいことは分かる。
ポケモンレンジャーになってから一ヶ月。
海の洞窟でポケモンの神経を麻痺させてしまう謎の機械を発見したり、ビエンの森が大火事に見舞われたり。
凶悪事件など滅多なことでは発生しないアルミア地方において、一ヶ月で二件、立て続けに意味不明な事件が発生するのは珍しい。
だから、変なことが結構起こってる……と、ヒトミはそう言ったのだ。
言わんとしていることは分からないでもない。
分からないでもないが……

「でもさ、ぼくたちが知らないだけで、実際にはそういう事件が起きてたのかもしれない。
ぼくだって、レンジャーとして頑張ってなかったら、海の洞窟であんなことが起きてたなんて、知らなかったと思うし。
レンジャーになっていろんなことが見えてきたってことだと思うよ」
「……そういうモンかしら」
「そういうモンだと思うな」
「まあ、いいんだけど……」

たぶん、そういうことなのだろうと思う。
自分たちが知らないだけで、事件は起きている。
事件を知らず、平穏無事に暮らしてこられたのも、警察やポケモンレンジャーが事件の解決に当たってくれているからだ。
今、レンジャーとして日々パトロールやミッションに当たっていると、それがよく分かる。
ヒトミだって、分からないわけではないはずだ。ただ、最近は確かに意味不明な事件が多い……それは事実なのだ。
気になって彼女の顔を見やると、釈然としないものを感じてはいるようだったが、アカツキの言葉に概ね納得している様子だった。
レンジャーになる前と、なった後。
立場が違えば、物事の見方や見え方が変わってくるのは当然だ。視点を変えなければならないのだから。
たぶん、自分もヒトミもそれに慣れていないだけ。
アカツキはそんな風に思っている。
これからレンジャーとして経験を積んでいけば、もっと広い視点で物事を見られるようになるはずだ。
今、考えても分からないことを無理に求める必要はない。
背伸びして足元が不安定になっては、いつかは転んでしまう。足元を固めてから背伸びして、手を伸ばしていけばいい。
二人して考えに一つの区切りがついたところで、俯き加減だった顔を少し上げる。
ちょうどその瞬間を待ち構えていたように、まっすぐに延びている平坦な道に、見慣れないものが映った。






To Be Continued...

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想