Mission #035 パトロール~前兆

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「しっかし……エレナさんって仕事早いわよね〜」
「音波を消す機械まで作ってたなんて、知らなかったです」
「まったくよね」

ビエンタウンとレンジャースクールを結ぶ道を歩きながら、アカツキとラクアはエレナが作った『ポケモンをおかしくする音波を打ち消す、別の音波を発生させるマシン』について話をしていた。
とはいえ、話に夢中になってパトロールがおざなりになってしまっては意味がない。
あくまでも『他愛ない話で、ともすれば緊張感に凝り固まりそうになる気持ちを多少なりとも解すため』である。
謎の機械を発見し、レンジャーベースに持ち帰って早十日。
エレナは一人で機械を分解したり、様々な実験を行ったりして調査をしていたのだが、今日説明を受けるまで、何も教えてはくれなかった。
食事の時などは、レンジャーベースに残っている全員が一同に会すが、その時も何も言わなかった。
不確定なことを話して誤解を招きたくないと考えていたのだろう。
十日間、じっくり調査して、別の音波でパートナーポケモンの異常を無効化する方法まで提示したところで説明したのだ。
彼女のことだ、パトロールなどで外に目を向けているアカツキたちに気苦労をかけたくないと考えてくれていたのかもしれない。
そんな気遣いが伝わってくるようで、アカツキもラクアもエレナの配慮に感動しきりだった(実際のところはどうだったのか不明だが)。

「でも、これで安心して仕事できるわ。
またあんなのが出てきたらどうしようって思ってたけど……アカツキも気になってたでしょ」
「はい。ムックがあんなに疲れるのを見たら、不安になっちゃって。
でも、これでそういうのがなくなるんですよね」
「そういうこと。エレナさんには感謝しなきゃね」
「そうですね」

十日という期間が長いのか短いのか、正直なところ分からない。
どちらとも取れるからだ。
しかし、エレナが対策を施してくれたおかげで、少なくとも自分たちのパートナーポケモンに関しては大丈夫だ。
本来ならポケモンたちがそういった脅威に脅かされないような平和が一番である。
自分たちが頑張っていかなければならないことに変わりはないが、それでも大助かりだ。
メカニックでなければできない仕事だけに、アカツキは自分ではとても考えられない大仕事をやり遂げたエレナを改めて尊敬していた。
……と、肩が妙にザワつくのを感じて、歩調を少し緩めながら顔を向ける。
ムックが身体をもぞもぞと動かしているが、どこか窮屈そうな様子だった。
首に結わえ付けられた巾着が気になっているらしい。

「ムックゥ……」
「ムック、やっぱり気になる?」
「ムックゥ……」
「そっか……」

声をかけると、ムックは何とかしてほしいと懇願するような眼差しを向けてきた。
鳥ポケモンだけあって、少しでも気になる状態だと空を飛ぶのに支障が出るらしい。
できるだけ邪魔にならないように結わえ付けたつもりなのだが、それでも気になるということは……

(ぼくの付け方が悪かったわけじゃないんだよね。
後でクラムさんと同じようにしてもらおうかな……エレナさんには悪いけど)

ムックの身体を傷めないよう、慎重に結わえ付けたつもりだ。
そうなると、これはムックの意識の問題なのだろうが、持ち前のパフォーマンスを十分に活かせない状態では、それこそミッションの遂行にも影響が出てくるかもしれない。
身体構造からして結わえ付けることが難しいラミルに関しては、マシンの出力を強める代わりにクラムが常に持ち歩くということで調整がついた。
機械を引き続き調査しているエレナに頼み事をするのは気が引けるが、ムックのためである、同じようにしてもらうしかない。
考え至り、アカツキは笑顔をムックに向けた。

「ムック。パトロールから戻ったら、エレナさんに頼んでみるよ。ラミルと同じようにしてほしいって。
少しでも気になると、思うように空とか飛べなくなるかもしれないし……それって危ないからさ」
「ムックゥ〜♪」

——やっぱりキミなら分かってくれると思っていた♪

ムックはアカツキの言葉にパッと表情を輝かせ、翼を広げた。
広げた翼が頬を掠め、風で髪が揺れる。
普通なら『近くでそんなことするなんて危ないじゃないか!!』と怒るところだが、アカツキは怒らなかった。
むしろ、ムックらしくて良いとさえ思っていた。
さすがに頻繁にやられると『お願いだからそんなにやらないでね』くらいは言うが。
アカツキとムックが仲睦まじげにしている様子を、ラクアは複雑な面持ちで見ていた。
ミーナがどうしたのかと言いたげな表情で見上げていることにも気づいていない様子だったが、

「ね、アカツキ」
「はい?」

ラクアは気にするでもなく、アカツキに声をかけた。
複雑な面持ちはそのままに。
普段から笑顔を振りまいている彼女が、何やら考えているような面持ちを向けてくるものだから、アカツキの表情から笑みが消えた。
怪訝な表情で見つめ返す。

「キミとムックの仲がいいのは、レンジャーとして大事なことだからいいと思うけど。
……先輩として一言だけ言っておくわ」
「えっと……」

ずいぶんと大仰な前置きに、アカツキは戸惑いのあまり、思わず後退りしてしまった。
当人は気づいていないようだったが、詮無いことだった。

「甘やかすだけなら誰でもできるわ。
でも……それだけじゃダメ。時々は厳しくしなきゃいけないことだってあるの」
「それって、ぼくがムックを甘やかしてるってことですか?」
「……!!」

先輩として助言を与えるつもりだったのだが、アカツキは間髪入れず、言葉を返した。
眉を十時十分に近い形に吊り上げて、普段からは想像もつかないほど、目に強い光を宿している。
まさかそんな反応をするとは思わず、これにはラクアの方が戸惑ってしまった。

(……怒ってるわね。そんなつもりで言ったんじゃないけど。マジメなのも、裏返すと怖いわね)

勘違いさせてしまったようだが、今は発生した事象を論じてもしょうがない。
ラクアは戸惑いを踏み消して、冷静に努めた。

「そう思ったんだったらごめん。そんなつもりで言ったんじゃないわ」
「…………」

アカツキは言葉を返さず、鋭い眼差しで——睨みつけるようにラクアに視線を向けていた。
これは本当に勘違いしてしまったようだ。
マジメゆえ、思い違いをされて心外と思っているのだろう。マジメとはいえ子供だと思っていたが……やはりマジメなのだ。

「信頼関係を築くのに大事だって思うし、アカツキもよく頑張ってるって思うもの。
あたしにも経験があるから分かるんだけど……いざって時にべたべた甘えるだけの関係でいたら、その時にやるべきことができなくてミッションを失敗することだってある。
言い方が悪かったって素直に思ってるわ。
でも……そういうこともあるんだって、それだけは心の片隅に留めておいて。それが言いたかったの」
「…………すいません。なんか、ムキになっちゃって」

ラクアは手振りを交えながら、粘り強く交渉するように説明した。
彼女の言いたいことがちゃんと伝わったらしく、アカツキは少しの間何も言わなかったが、ため息混じりに言葉を返した。
彼女がそんなつもりで言ったわけではないと分かっている。
分かってはいるが……それでも『甘やかしているつもりはない』と考えているだけに、今の自分の姿勢を否定されているような気がして、ついムキになってしまった。

(ぼく、ラクアさんのこと信じきれてないのかな……そんなつもりはなかったけど)

もしかしたら、ラクアを信じきれていなかったから、ついムキになってしまったのではないか……?
そう思うとなんだか恥ずかしい気持ちになってくる。
十時十分の形に吊り上がった眉も、気づけば八時二十分に近くなっていた。

「…………?」

ムックはアカツキがいきり立ったかと思ったら一気にトーンダウンしたものだから、一体どうしたんだと思った。
どうやら自分との関係を悪く言われたらしい……そのように誤解したらしいことは分かったが、中身までは理解するに至らなかった。
どのように声をかけていいのか分からずにいると、ラクアが先にアカツキに声をかけた。

「あたしも、キミの気持ちがちゃんと分かってなかったところがあるみたい。ごめんね」
「ラクアさん……ぼく、ムックを甘やかしたりなんかしてません。
甘やかすのと信頼関係築くのって、別物だって分かってます。
……でも、そういうこともあるんですよね」
「分かってるんだったら大丈夫ね。
あたしが過剰に心配しすぎてただけ……キミはもう、スクールを卒業して一ヶ月が経つし、一人前のレンジャーなんだもんね。
あたしの方が、かえって甘やかしちゃってる部分はあるかもしれない」

頭を振る彼女の表情は、どこか晴れやかなものだった。
主張の食い違いはあったが、それが表面化することで相互理解につながったからだろう。

「そういうわけで、今まで以上にビシビシ行くんでよろしく」
「えっと……はい」

ニコニコ笑顔で『厳しくします』と宣言されて、これにはアカツキも戸惑いを隠せなかった。
女心と秋の空……コロコロ変わりやすいもののたとえとして用いられる言葉が、知らず知らずに脳裏を過ぎる。
自分がムックを甘やかしているわけではないと分かってくれたようだが、それがどうしてそっちに転がっていくのやら。
とはいえ、厳しくされるだけの覚悟があって、レンジャーをやっているのだ。むしろ望むところ。

「そんじゃま、早いとこレンジャースクールの方までパトロールやって、何もなかったらレンジャーベースに戻った後でキャプチャの練習でもしよっか。
あたしも、マジでウカウカしてられなくなってきたし」
「ぼくなんてまだまだですよ。ラクアさんのキャプチャ、ホントにすごいじゃないですか」
「うふふ、ありがと。さ、行くわよ!!」
「はいっ!!」

少しヒビが入りかけた信頼関係も案外あっさり修復して、アカツキとラクアは改めて、パトロールを再開した。

「…………?」

ムックはアカツキとラクアがいとも容易く会話を終了……しかも円満な形で終了したものだから、訝しげに首をかしげた。
先ほどまでは険悪とまでは言わないものの、それなりに一触即発の雰囲気が漂っていた。
人間と比べて遥かに感覚の鋭いポケモンは、そういった雰囲気の変化を敏感に感じ取ってしまうものだ。
しかし、危険なニオイのする雰囲気も一気に和らいで、すっかり明るいものになっている。
アカツキと出会うまであまり人間と関わってこなかったムックには、この展開は不可解極まりないものだったが、それが人間というものだろうと思い、納得することにした。
それに……

——仲直りしたんだから、それでいいよね♪

……などと思っていた。
細かいことを気にしないのは、どうやらムックルという種族特有の習性らしい。
ムックが自己完結したのを尻目に、アカツキとラクアはパトロールを続けていた。
レンジャースクールのある半島へと続く道は相変わらず平坦で、何の変哲もないただの道だったが、アカツキにとっては懐かしさ漂う道だった。

(懐かしいなあ……前に通ったのって、卒業して家に帰る時だったんだよね。
一ヶ月も、この辺りをパトロールしてなかったわけだけど……)

道の両脇には小さな森。
チコレ村とビエンタウンを結ぶ道も同じような景色だが、向かっている場所が場所だけに、懐かしい気持ちに浸っていた。
将来のポケモンレンジャーを育成するための学校、レンジャースクール。
一ヶ月前、アカツキはスクールを卒業したばかりだった。
一ヶ月という期間を長いと言うか、短いと言うか……それは個々人の感覚によって捉え方が異なるところではあるが、レンジャーになってからは一日一日がとても充実しているアカツキにとって、一ヶ月はあっという間だった。
レンジャースクールでは三ヶ月間、ポケモンレンジャーになるのに必要な知識や技能を教え込まれた。
楽しいことばかりではなかったけれど、楽しい思い出しか残っていない。
スクールでできた友達は多くて、特にダズルとリズミ、イオリの三人はアカツキとヒトミが仲良くしていたクラスメート。
一ヶ月前に卒業してから、今まで特に連絡も取っていないが、それは互いに忙しい状態が続いているからだ。

(今は学ぶことがとても多くて忙しいけど、少し落ち着いてきたら、その時はみんなに連絡でも取ってみようかな)

今すぐは無理なのは分かっている。
何ヶ月か経って落ち着いたら……その時は連絡を取ってみるのもいいだろう。
それに、卒業して一ヶ月が経ったのだから、今頃はレンジャースクールにも新しい生徒が入学し、ポケモンレンジャーを目指して勉学に励んでいるはずだ。
後輩……と呼ぶには年齢が同じくらいなので少し躊躇いがあるが、結果論から言えば自分の後輩になるかもしれない生徒たちの様子を見てみるのもいいかもしれない。
アカツキがどこか楽しげな面持ちを浮かべているのを見て、ラクアは口の端を吊り上げた。

「懐かしい?」
「そりゃあ、まあ……今頃はぼくの後輩になる子も入ってるだろうし、気になりますよ」
「あたしも。卒業したのは何年も前だけど、今頑張ってる子が配属になるかもしれないもんね。気になるよね」

短い会話の中で、アカツキはラクアがわざわざレンジャースクール方面のパトロールを選んだ理由を察した。
彼女なりに、レンジャースクールに通っている後輩が気になっていたのだろう。
今日はクラムたちがチコレ村やソヨギの丘方面(南西部)のパトロールを希望したこともあり、これ幸いと東部及びビエンの森方面(北部)のパトロールをすることにしたのだ。
上手いこと巻き込んでくれたものだと、アカツキは思わず苦笑したが、それはそれで彼女なりの気遣いだと思ってありがたく受け取っておいた。
……と、不意に思い至るところがあり、アカツキはラクアに質問した。

「ラクアさん。
ぼくがまだスクールにいた頃って、何度かこうやってパトロールで様子を見に行ったりしたことってあったんですか?」
「そうだねえ……何度か見に行ったかな。
でも、その時は誰が誰だって分からなかったし、アカツキのこともあんまりよく覚えてないんだ。
やっぱり、一日体験学習くらいじゃないと、一緒にやった子は覚えてないかな」
「そうなんですか……」

ビエンタウンのレンジャーベースに所属するレンジャーは仕事柄、レンジャースクールの近辺もパトロールを行う。
アカツキとヒトミが配属になる前は、事件らしい事件が起こっていないこともあり、リーダーのバロウ、エリアレンジャー(一般的なポケモンレンジャーを指す)のクラム、ラクアの三人体制で仕事を行っていたそうだ。
ビエンタウンのレンジャーベースには十人以上のレンジャーが所属しているが、レンジャーユニオン本部から他の地方への応援を要請され、所属する大半のレンジャーが出払っていたため、必然的にスクール方面のパトロールに出る機会も増えたらしい。
ただ、授業の邪魔をするわけにはいかないので、簡単なパトロールをして、異常がなければすぐに引き揚げる。他の場所もパトロールしなければならないからだ。
生徒の一人一人までじっくり見ていられるだけの余裕がなかったため、クラムもラクアも、一日体験学習で会って話をするまでは、アカツキとヒトミのことをよく知らなかった。
返事を聞いて、アカツキは『そういうものなんだ……』と思った。
少し寂しいが、レンジャースクールに通う生徒よりも、アルミア地方の平和を守る方が大事に決まっている。
実際、アカツキもどんな後輩がいるのか気になる程度で、特に親しくなりたいと思っているわけでもない。

「一日体験学習の時は、キミが一番マジメでいいレンジャーになれるんじゃないかって思ったよ」
「え、そうなんですか?」

不意打ちもいいところだった。
突然投げかけられた思いもよらない言葉に、アカツキは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
一瞬、思考が麻痺する。
その隙を突くように、ラクアは笑顔で言葉を続けた。

「ヒトミと……あとダズル君って言ったっけ?
あの二人もいいなって思ったけど、あたしはキミが一番だってピンと来たね。
あの二人、結構おちゃらけたトコがあるでしょ。
それが悪いって言ってるんじゃないけど、あたしたちの話を誰よりも熱心に聞いてたのがキミだったの。
……それだけの理由でそんな風に思われちゃ迷惑かもしれないけど、ついでだから言っとこうと思ってね」
「そんなことないですよ。すごくうれしいです」

アカツキは釣られるように笑みを浮かべた。
彼女は元からアカツキに好意的だったが、一日体験学習の時から好印象を持ってくれていたらしい。それは素直に喜ばしいことだった。
誰だって、他人から良く思われるのを嫌だとは感じまい。
増してや、アカツキは共に仕事をしている先輩から好意的に思われているのだ。うれしくないはずがなかった。
そこのところは、マジメとはいえ年相応の子供らしさを漂わせていた。
ラクアはそんな彼を微笑ましげに眺めていたが……

「ムックゥ……?」

ほのぼのした雰囲気に水を差すように、ムックが小さく嘶き、きっ、と顔を上げた。

「ムック、どうかした?」

パートナーの突然の嘶きに、アカツキは笑みを潜め、顔を向けた。
人間とは比べ物にならない感覚を持つのがポケモンだ。
人間が感じないような微少な変化も、ポケモンなら普通に感じ取れることがある。
一般人ならともかく、ポケモンレンジャーは仕草や鳴き声などに現れるパートナーの些細な変化を見逃していては仕事にならない。
ムックは忙しなく周囲を見やると、翼を広げて飛び立った。そのまま真上に飛び上がると、改めて周囲を眺め——とある方角を向いたところで止まった。

「……ミミっ……?」

一体どうしたのかと訝しむアカツキとラクアを尻目に、ミーナも何かを感じ取ったらしく、耳をピンと立てて、遠くの音を聞き取ろうとするかのようにピクピク動かしている。

「ミーナ?」

二体が揃って何かを感じ取っている……これは明らかにただ事ではなかった。
アカツキとラクアは揃って緊張に表情を強張らせ、それぞれのパートナーの動きに注目していた。
ムックはその場に留まったまま、三十秒ほど同じ方角を見ていたが、やがてアカツキの肩に降り立った。

「ムックゥ、ムックゥ〜!!」

降り立つなり、翼をバタつかせながら声を上げる。
どうやら、何かしらの異変を察知したらしい。

「さっきムックが見てたのは……」

アカツキはしきりに声を上げるムックの頭を撫でながら、彼が先ほどまで見ていた方角に身体を向けた。
現在の時刻と太陽の位置から、おおよその方角は割り出せる。レンジャースクールで学んだ、自然の中に身を置く時の必須項目だ。

「確か、あっちは北西よね。ここから北西って言えば……」

さすがに、先輩であるラクアはアカツキよりも先にムックが見ていた方角に目をつけていた。
ミーナも、ラクアが自分の言いたいことを幾許かでも理解してくれたことを悟ったらしく、ムックと違ってすぐおとなしくなった。

「もしかして……」

アカツキはラクアに顔を向けた。
タイミングを計ったわけではなかったが、二人して同時に相手に顔を向ける形になった。

「ビエンの森……ですよね?」
「ええ。もしかすると、何かあったのかもしれないわ。こっちのパトロールは一時中断、ビエンの森に向かうわよ」
「分かりました」

現在地はアルミア本島の東端に近い場所。そこから北西となれば、ビエンの森しか考えられない。
方角的にはヒアバレーやイノチ崖といった場所も含まれるが、ムックがわざわざ声を発して知らせてくるのだから、遠方で何かが起きているわけではないだろう。
ビエンの森で何かが起こっている……?
漠然としすぎてはいるが、パートナーが何かを感じて、空から見た光景を疑うなんてことは考えられなかった。
二人は踵を返して駆け出した。
こんな時、こうしろというマニュアルはない。
ただ、人間を遥かに超越した感覚の持ち主が感じた何かを無視することほど、ポケモンレンジャーとして愚かしいことはないのだ。

「何かが起こってる……ってことよね。
ビエンタウンから近い場所だから、たぶんヒトミとクラムが先行してると思うけど、あたしたちも行かなきゃ」
「平和が一番なんだろうけど、そのためにぼくたちレンジャーがいるんですよね」
「そういうこと」

アカツキの言葉に笑みを浮かべて頷き返し、ラクアは足を速めた。
少し遅れて、アカツキもペースを上げた。






To Be Continued...

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