Mission #033 ミッション終了

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機械の部品はかなり重く、クラムとラクア、エレナはまだ良かったが、身体の出来上がっていないアカツキとヒトミ(特にヒトミの方)はかなり難儀した。
途中で何度か小休止を挟みながら、一時間ほどかけてビエンタウンまで運び入れた。
二人してかなり疲れているようだったが、泣き言一つ口にせず、真剣な面持ちで部品を運んでいた。
どうやら、双子同士でライバルということもあって、互いに負けたくないという気持ちが強く働いたらしいが、それについては年長者の三人も微笑ましい光景として見ていた。
やっとのことでビエンタウンに入ったのだが……

「ムックゥ〜♪」
「ヒコ〜っ♪」

前方から聴こえてきた声に、アカツキは知らず知らずに下向いていた視線を上げた。

(この声……ムックだ!!)

声の主を知覚すると同時に、視界に大好きなパートナーポケモンの姿が飛び込んできた。
機械の部品の運搬でかなり疲れていたが、その疲れも一気に吹き飛ぶような明るい笑顔を向けながら、ムックはアカツキの傍までやってきた。
同じように、ルッチーもヒトミの傍までやってくる。

「ムック、ただいま」
「ムックゥ〜♪」

アカツキが笑顔で声をかけると、ムックは当然とばかりに嘶き、彼の肩に留まった。
どうやら、ムックにとって一番居心地の良い場所らしい。
小柄で身体も軽いこともあり、機械の部品を抱えながらでも、負担はそれほどかからない。
ムックがそこまで理解した上でアカツキの肩に留まったかどうかは定かではないが、少なくともアカツキは嫌がっていなかった。
むしろ、元気になってくれて良かったと、ホッと胸を撫で下ろしていた。

「ルッチー、ただいま」
「ヒコっ♪」

ヒトミもルッチーに笑みを向けていた。
洞窟の近くで突然倒れた時には驚いたものだが……アカツキがラミルやムック共々連れ帰ってくれたおかげで、元気になったのだ。

(アカツキに感謝しなきゃいけないのよね。貸しを作っちゃったみたいでシャクだけど……ま、それはそれってことで)

ラクアの指示があったからとはいえ、アカツキが連れ帰ってくれていなければ、どうなっていたか。
幸い、ポケモンがおかしくなっていたのは洞窟の中だけだったし、今にして思えば問答無用で襲われるような場所に置いてきたわけではなかったが……
それでも、やっぱりパートナーのことを心配しないレンジャーなどいないのだ。

「ムック、それじゃあ戻るよ。まだ、仕事終わってないからね」
「ムックゥ〜♪」

アカツキはムックに言葉をかけると、機械の部品を抱えて歩き出した。

「あたしたちも負けてられないわよ、ルッチー」
「ヒコっ!!」

ヒトミも同じようにルッチーに言葉をかけ、歩き出した。
双子だけあって、よく似ている。
性格は違うが、雰囲気や行動パターンはある程度似ているところがあるようだ。

「やっぱり双子ってところだね」
「まあ、いいんじゃない。悪いところが似ているわけじゃないんだし」
「そうね。あたしたちも行こっか」

クラムたちは先に行ったアカツキとヒトミを微笑ましげに眺めながら会話を交わしていたが、すぐさま彼らの後を追った。
仕事はまだ終わっていない……アカツキの言葉が事実である以上、油を売るわけにはいかなかった。
そこのところは先輩としての感覚が強く働いたようだった。

(でも、ムックとルッチーが元気ってことは、ラミルとミーナも同じくらい元気になったってことだよね。良かった良かった)

ラミルとミーナはレンジャーベースで自分たちの帰りをおとなしく待っているだろう。
ムックとルッチーはまだパートナーと出会って半月……まだまだパートナーを『不必要に心配する』ところがある。
普段の様子を見る限り、信頼関係はそれなりに成り立っているようだが、まだまだ足りない。
もっとも、そこのところはゆっくりやっていけばいい。焦って絶交などということになっては目にも当てられない。
それはそうと、新人が配属になって半月が経つが、アカツキとヒトミが自分たちと明らかに違うことが分かった。
平たく言えば意気込みのようなものだろうか。
雑用だって嫌な顔一つせずにやってくれるし、指示には従うが、自分の意見もはっきり述べることがある。
自分で考えて頑張っていく……レンジャーとして大切な自立心をすでに芽生えさせつつあるのだ。
適度に指導しつつ、自分の力で頑張ることを学んでもらうのが一番だろうか。
そんなことを思いながら、レンジャーベースまでの道のりを行く。
クラムたち三人は途中でアカツキとヒトミに追いつき、そこからは五人が一緒になってレンジャーベースに戻った。

(やっと帰ってきたぁ……何時間も経ってないのに、なんかすごく長かった気がする)

左右に押し開かれた自動ドアをくぐり、白いロビーに足を踏み入れたところで、アカツキは小さくため息をついた。
幸い、誰にも咎められることはなかったが、やはりため息をつきたくなるような気持ちだった。
疲れてはいるが、それは時間の経過のせいではないだろう。
今日だけでかなりの距離を歩き回り、あるいは走ったりしてきた。
終始そうしていたわけではないが、疲労を量としてカウントできるのだとしたら、相当な量になると思われる。

(でも、これくらいのことで弱音吐いてちゃダメなんだ。レンジャーの仕事って大変だって分かってるんだから)

ポケモンレンジャーの仕事は、昼夜を問わない。
緊急事態が発生したら、夜中でも召集されるし、現場に向かうことだってある。
レンジャーの仕事が大変なのは、最初から分かっていたことだ。
慣れないことが多くて疲れやすくなっているのを差し引いても、何もない時にジョギングするなどして、体力をつけておくことが必要だろう。
ただでさえ、年上で身体も出来上がっているクラムやラクアについていくのが難しい状況なのだ。
年齢を言い訳にしたくないし、やらなければならないことがある時に、疲れて動けなくなったのでは話にならない。
……と、そこまで考えたところで、レイコと何やら話をしていたバロウがアカツキたちの帰還に気づいて、顔を向けてきた。

「リーダー、ただいま戻りました」
「うむ。ご苦労」

相変わらず厳つい表情をしていたが、アカツキたちが抱えている機械の部品を見て、眉を上下させた。

「ふう、重いなあ……」
「ホント……」

レンジャーベースに戻れば、もう安心だ。
アカツキとヒトミは深々と息をつき、抱えていたものを床に下ろした。
がちゃり、と小さな音。
バロウは床に置かれた機械の部品を見やると、視線をアカツキとヒトミの腕にやった。
身体が出来上がっていない二人が運ぶにはやや難儀したのだろう、腕が真っ赤になっていた。

(なるほど……かなり重かったようだな。
しかし、その様子だと何も言わず、黙々と運んできたんだろう。思いのほか芯が強いな)

同じ年頃の普通の男の子でも、見るからに五キロ以上はあろうかというものを運ぶのは難しいだろう。
レンジャーとして必要な知識・技能・体力等をスクールで身につけていることを差し引いても、運ぶのは容易ではない。
アカツキとヒトミの二人が、思ったよりもずっとたくましいのが表情や仕草からも伝わってくるだけに、バロウは思わず口の端を緩めた。
リーダーが新人の思わぬ成長に喜んでいることなど露知らず、クラムたちも抱えていた機械の部品をその場に置いた。

「リーダー、ご報告があるんですが……」
「うむ。何があったのか、話してもらおう」

アカツキたちの中では一番年長のクラムが、代表して今回のミッションの報告を行った。

——謎の機械が発していた異音によって、洞窟内のポケモンがおかしくなったと思われる。

内容はその一言に尽きた。
機械が発していた異音が原因としか言いようがなかったし、そこのところはエレナが噛み砕いて話をしてくれたが、調べていない段階ではまだ何とも言えなかった。
一通り報告を聞き終えて、バロウは厳つい顔で眉間にシワなど寄せて、小さく唸った。
レンジャーになって十数年が経つが、謎の機械が発する異音によってポケモンが人を襲ったなど、初めてのケースだ。
日々、科学技術は進化している。
……となれば、新手の犯罪が誕生したところで不思議はないし、まだ分からないことが多い現状でも、今回のケースがその類に属するであろうことも理解できる。

(そうなんだよね。まだ機械のことが分からないから、どうしてそうなったのかが分からない。エレナさんに任せるしかない)

クラムがバロウに話した中身を頭の中で噛み砕いてみながら、アカツキは機械が発していた異音を思い返していた。

『キリキリキリキリ……』

本当に機械的で、無機質。
機械だからこそ発せられる音。

(あの音が原因だって思うけど……音だけでポケモンがおかしくなるなんて、そんなことあるのかな? なんか、信じられない)

正直なところ、音だけでポケモンがおかしくなったりするのだろうか?
音でなく『音波』というならまだ理解もできるのだが……やはり、ここはエレナに調査を任せるのが一番だろう。

この場の全員が、エレナに任せるしかないと理解していた。
それを雰囲気から十二分に察しているようで、エレナが口火を切った。

「そういうわけなので、リーダー。わたしがこの機械を調査します。
……なにぶん、見たことのない機械ですので、少々お時間をいただきますが……」
「分かった。きみに任せよう。時間はあまり気にしなくていい。きみのペースで頼む」
「それでは早速、地下の機器室で調査を始めたいので、他にミッションが入っていないようでしたら、運び込みたいんですが」
「分かった。今は特にミッションが入っていないから、全員で運ぼう。
運び終わったら、今日のところは休んでもらっていい。いろいろと疲れているだろうからな」

バロウは、地下の機器室まで機械の部品を運び入れれば、あとはエレナが調査等を行うから、アカツキたちは休んでいいと言った。
それ以上は言わなかったが、彼らが思った以上に疲れているのを見て取ったらしかった。
四人のレンジャーはリーダーの厚意に素直に甘えることにした。
肝心な時に疲れて動けないのでは話にならない。

(エレナさんとリーダーが、ぼくたちのこと考えてくれてるんだ。
……運び終わったら、休もうかな。ちょっと疲れちゃったし)

アカツキは呼吸を整えると、一度床に置いた機械の部品を再び抱え上げた。
特に配慮したつもりはなかったが、リーダーの厚意をありがたく思っているので、休める時に休んでおこうと考えていただけだった。
結果として、率先してエレベーターの扉を開け(自動だったが)、行き先のボタンを押して、クラムたち三人を出迎える形になった。

「ありがとね」
「いえ……」

エレベーターに入ってくると、ラクアが笑顔で礼を言ってくれた。
後輩の気遣いをありがたく受け取ったようだが、当人にその気がまったくなかったので、少し戸惑ってしまった。
それはともかく、五人はエレベーターで地下に降りて、機器室に機械の部品を運び入れた。

「じゃ、あとはわたしがなんとかするから。ここまでありがとう」
「よろしくお願いします」
「任せといて♪」

アカツキたちに笑みを向けると、エレナは道具を片手に、機械の組み立てに入った。
五つに分けた部品をさらにパーツごとに分解し始める。
どうやら、再び組み立てるのには、そっちの方が好都合らしい。
四人はエレナの邪魔をしないよう、足早に機器室を後にした。
廊下に出て、エレベーターホールまでやってきたところで足を止める。

「思ったより疲れたね。
今日はこれで仕事もオシマイだから、休もうか」
「そうね。あの機械、結構重かったし……
あたし、部屋で休んでるわ。ちょっと疲れちゃった」
「アカツキとヒトミも、ゆっくり休んだ方がいいよ。
今日は……二人が入ってきてからで一番大事だったから。じゃ、僕も休むからこれで」

『いざという時に動けるだけの体力がないと、後々大変だから』と言い残し、クラムとラクアはそれぞれの部屋に入っていった。
何年もレンジャーをしている彼らでさえ、今日の仕事は疲れたと言っていた。
機械の部品を運んできたこともそうだし、何の前触れもなくポケモンが襲ってきたり、意味不明な機械が人目に付かない洞窟に置かれていたのも初めてだったから、戸惑いで気疲れしたらしかった。
二人が部屋に入っていくのを見届けて、アカツキとヒトミはどちらともなく顔を突き合わせた。

「アカツキも休むんでしょ?」
「そうする。今日はホントに疲れたよ。
ヒトミだって、すごく疲れてるんじゃない?
立ってるのがやっとなんじゃないの?」
「……やっぱ、アカツキには分かっちゃうんだ」
「当たり前だよ。ぼく、ヒトミの弟だよ? 分からないわけないじゃない」
「そっか……」

ヒトミは深々とため息をついた。
話を持ちかけたつもりが、逆に持ちかけられてしまった。
しかし、アカツキの言うとおりだった。
正直なところ、重たい機械を運んできたのが大きかったらしく、立っているのがやっとの状態だった。
さすがに、十三年間も一緒にいた双子の弟の目を誤魔化すことはできなかったらしい……誤魔化すなどと少しでも考えたことが笑えてくる。

「クラムさんとラクアさんにはバレてたかな……?」
「さあ……分かってても言わなかったかもしれないよ」
「ま、いいわ。あたしも休むから、あんたも休みなさいよ」
「うん。ゆっくり休んでね」

アカツキは十三年間一緒に過ごしてきた双子の弟だ。
隠し事などしようとしても、ちょっとした仕草や表情、言葉遣いなどで察してしまう。
彼はいいとして、先輩であるクラムとラクアには悟られただろうか……?
今さら心配しても仕方のないことだが、気になってしまう。
ヒトミは疲れた身体に鞭打って、自室へ向かった。
隠し事などしても無駄だと分かっていても、双子の弟でありライバルでもある彼の前で弱いところなど見せたくなかった。
半ば意地と言っても良かったが、アカツキは何も言わず、ヒトミがかなり無理をしているのを黙って眺めていた。

(ヒトミって、ホントに意地っ張りだなあ……でも、気持ちは分かるな)

彼女は昔から、アカツキの前では弱いところを見せようとしなかった。
やはり、双子とはいえ姉としての矜持(プライド)があるのだろう。
自分がしっかりしなければならないという気持ちは立派だと思うし、彼女は元々そういった性分の持ち主だ。
そこは、いくら双子の弟と言っても、容易く口出しをしていいところではない。

(ぼくも負けてられないってことなんだけど……ま、いっか)

時には強がってでも何とかしなければならないことがある。
レンジャーになった以上、年齢を言い訳にすることはできない。身体が出来上がっていないのは自分自身が一番理解している。
しかし、強がらなければならない時と場所を間違わないようにしなければならない。
それを見極めるためにも、レンジャーとしてもっともっと頑張って、経験を積んでいかなければならないだろう。
臨機応変な判断と対応を求められるのがレンジャーという職業だ。
判断力に乏しいところのある自分が、もっと頑張っていかなければならない。
その場に立ったまま考え事をしていると、ムックに声をかけられた。

「ムックゥ?」

どうしたと言わんばかりの声音だったが、横手から不意に平手打ちを食らったような気がして、アカツキは我に返った。

「あ……ちょっと考え事。ぼくも、もっと頑張らなきゃいけないなって思ったんだ。
ムック、心配しなくて大丈夫だからね」

考え事をしていただけだが、どうやらムックは心配してくれていたらしい。
過剰に心配されるのもどうかと思ったものの、心配してくれている気持ちはありがたく受け取っておくことにした。
いつまでもここで突っ立っていてもしょうがないと割り切って、アカツキはムックに微笑みかけた。

「ぼくたちも休もっか。今日はゆっくり休んで、明日からまた頑張らなきゃね」

言い終えるが早いか、自室へ向かって歩き出す。
ムックは体力を取り戻して元気になったが、アカツキ自身はかなり疲れていた。
やるべきことをやって、緊張の糸が切れたこともあるだろうが、やはり重たい機械の部品を運んだのが大きかった。
ヒトミのように立つのがやっとという状態ではないが、身体は早急に休息するよう、先ほどから催促のシグナルを発していた。
明日からのミッションに備えて、今日は早めに休んでおくべきだろう。
明日を待たずに、緊急のミッションが飛び込んでくる可能性だってある。催促のシグナルに従って、休むとしよう。
まだ昼過ぎだし、一休みした後に軽く腹ごしらえをして、疲れがそれなりに取れたら……キャプチャの練習をしよう。
アカツキはこれからのことを脳内の黒板に書き記した。
ミッションを終えて疲れがどっと出てきた。文字通り噴出したような感じで、部屋に入るなり、そのままベッドにダイビング。
フカフカとはいえ、アカツキと一緒にダイビングするのは嫌だったらしく、ムックは彼が身体を傾けると同時に飛び立った。

「うーん……疲れた」

ベッドに倒れ込み、アカツキはため息混じりにつぶやいた。
人前ではため息などつかないようにしているし、弱音だって吐かないようにしている。
自分はポケモンレンジャーだ、どのような理由があろうと甘えは許されない。わずかな気の緩みが大事故につながるかもしれないのだ。
しかし、誰も見ていないところでは……パートナーとして心を許しているムック以外、誰もいないところでは別だった。

「ムックゥ〜?」

枕元に降り立ったムックがこっちを向いて、頭を傾げる。
彼は平均的なムックルよりもやや大きめの体格で、体格から単純に人間の実年齢に換算すれば、アカツキよりは年上になる。
そのためか、常にアカツキのことを気遣い、年長者として心配しているような態度を見せるのだ。
アカツキは顔を向けると、ムックルの身体を優しく撫でた。

「ちょっと疲れちゃったから休むよ。
ムックも、体力は回復してると思うけど、またいつ忙しくなるか分からないから、ゆっくり休んで」

言い終えて、アカツキは目を閉じた。
全身を包む気だるさ。
疲れという名の生温い風がまとわりついているような感覚だったが、考えをめぐらせる。

(ムックたちがあんなに疲れたのって、あの機械の影響だったのかな……?
でも、それだったらなんで洞窟のポケモンたちは動けて、ぼくたちを襲ってきたんだろ?
よく分かんないけど、なんか嫌な感じだな……)

ナビキビーチの西端に位置する洞窟で起こった出来事。
普段は温厚なポケモンたちが、洞窟に立ち入ったレンジャーに襲いかかる……そんな出来事があったことなど、一般人はほとんど知る由もないだろう。
しかし、嫌な感じがして仕方がない。
誰が設置したかも分からぬ謎の機械。
エレナが分析をしてくれるが、プロのメカニックである彼女でさえ『時間がかかる』と言うくらいだ、調べつくすのはそれ相応に難しいのかもしれない。
あの機械が発した異音でポケモンたちがおかしくなったのだとしたら……そして、どこの誰か知らないが、その機械を設置したのだとしたら……
考えると、どんどん深みにハマっていきそうになる。

(またこんなことがあったら、嫌だな……)

しかし、深みにハマるよりも早く、睡魔が意識を蝕み始めた。
アカツキが嫌だと思っているのは、ポケモンをおかしくした機械を、誰かが作って、誰かがあの洞窟に設置したことだった。
ポケモンと一緒にいるようになったのはレンジャーになってから——ムックをパートナーとして迎え入れる前は、チコレ村の近隣に棲んでいるポケモンたちと触れ合ったことこそあったが、共に暮らしたり、長時間一緒にいたりしたことはなかった。
それでも、ポケモンは同じ自然の中で生きている仲間だと思っている。
だから、そんな風にポケモンを『狂わせようとする』こと自体が嫌らしいと思えてならなかった。
それにもし……今後、同じようなことがあったら……
今回は町から離れた場所だったから実害がなかったものの、もしビエンの森やユニオン街道といった、人の往来がそれなりにある場所に設置されるようなことがあったら、その時は怪我人が続出するだろう。
そうならないように平和を守っていくのがポケモンレンジャーの使命だが、どうしても考えてしまう。

(でも……ぼくたちは、そうならないように頑張らなきゃいけないんだよね。
今は休んで……また明日から頑張ろうっと)

大波に小舟が飲まれるがごとく、薄れゆく意識。
心地良い睡魔に身も心も完全に任せる寸前に。
どうあっても、ポケモンレンジャーは平和と自然を守るのが仕事だと思い、明日からまた頑張っていこう。
そう思った後で、アカツキは眠りに落ちた。






——そうならないように願ったことが、現実のものになろうとは、その時の彼には想像もつかなかった。無論、他のレンジャーたちも同じだった。






To Be Continued...

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