Mission #014 ソヨギの丘の懇親会

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「それじゃあ、自己紹介からね。
あたしはラクア。ビエンタウンのポケモンレンジャーよ」
「僕は前にお邪魔した時に紹介したけど、改めて……クラムです」
「俺はビエンタウン・レンジャーベースのリーダーをやってるバロウだ。よろしくな」

三つの重箱に入った弁当を前に、三人のポケモンレンジャー(ビエンタウンのレンジャーベース所属)と、三人のレンジャースクール生徒の一日体験学習が始まった。
レンジャーベースでミッションと称して頼まれた時にすでに始まっていたのだが、いわゆる仕切り直しというヤツである。
レンジャー三人が自己紹介し終えたところで、次はアカツキたちの番だった。

「あたしはヒトミです。チコレ村出身です。よろしくお願いします」
「あ……オ、オレ、ダズルです。フィオレ地方から来ました。今日一日よろしくお願いします」
「ぼくはアカツキです。ヒトミと同じでチコレ村から来ました。よろしくお願いします」

ダズルは緊張しているようだったが、アカツキとヒトミに関してはいつも通りの口調だった。
一通り自己紹介が終わったところで、リーダー——バロウに促され、弁当を食べながらいろいろと語り合うことになった。
一日体験学習と言っても、中身はそれぞれの受け入れ先で決めていいことになっているのだとか。
そのため、まずはミッションと称して、弁当をここまで運ばせてから交流を行う……それがビエンタウンのレンジャーベースにおける一日体験学習の伝統になっているのだそうだ。
それを決めたのは、他ならぬクラムだったりするのだが、彼が配属される以前も、似たようなことをしていたらしい。
ともあれ、一日体験学習、スタートである。

「やっぱ、苦労して運んだだけあってうめぇ〜。アカツキもそう思うだろ?」
「うん。とっても美味しいよね」

プロが作ったのではないかと思うような味の料理に、ダズルとアカツキは早くも舌鼓を打っていた。
人前だというのにすごい食欲を見せ付けている二人に微笑ましげな表情を向けるラクア。

「さっすが男の子。すごい食べっぷりだね」
「まあ、それくらい元気じゃなきゃな」

バロウも、年頃の男の子が見せる食欲に感心しているようだった。
ヒトミは元から小食なこともあって、アカツキとダズルほどガツガツ食べているわけではないが、それでも彼女なりに味わいながら食していた。
瞬く間に、六人分の弁当が半分以下に減る。
そのほとんどを食べたのはアカツキとダズルだが、遠慮せずに食べまくっている二人に、三人のレンジャーは熱い視線を向けていた。
弁当も減ってきたところで、食べるペースが落ちる。
反比例するように、会話の量が増えていった。

「アカツキ君……だったよね。何歳?」
「十三歳です。ヒトミとダズルも同じなんですよ」
「へえ、そうなんだ」
「そういえば、アカツキとヒトミは同じ村の出身だったよな?」
「そうです」
「……顔立ちも似ているし、もしかして兄妹か?」
「兄妹も何も、双子ッスよ。ヒトミが姉貴だって話らしいです」
「ほう、それは珍しい」
「ちょっと待って。その『姉貴だって話らしい』って何よ!!」

双子の姉弟が揃ってレンジャースクールに入学すること自体、かなり珍しいことらしい。
その上、一日体験学習の行き先まで同じと言うのだから、バロウが驚嘆するのも無理はなかった。
しかし、ダズルが余計なことを言ったせいで、眉根を吊り上げたヒトミが彼に詰め寄るという一幕もあった。

「まあまあ、落ち着いて。
ヒトミちゃんって、パワフルよね。男の子相手にも臆することなく立ち向かうんだもの。
その度胸って、ポケモンレンジャーにとって結構大事なものだよ」
「え、そう……?」
「うん。あたしはレンジャーになりたての頃、そんなに度胸なかったから、いろいろ大変な想いをしたわ」

それなりの剣幕で詰め寄っていたヒトミも、ラクアの言葉であっさりクールダウン。
それどころか、褒められて気分を良くしたようだ。
場の雰囲気を壊すことなくヒトミを諌めたラクアの巧みな話術に、アカツキとダズルは素直に感心するばかりだった。
ポケモンレンジャーは、無用な争いを好まない。
言葉で済ませられることなら、暴力沙汰になる前に相手を丸め込むことも必要になるのだろう。
これは素直に見習うべきところだろう。
しかし……

「ラクアが度胸なかったって? 冗談きついなあ。
誰だっけ、そこのパートナーの『飛び跳ねる』で僕にドロップキック食らわしてくれたの」
「…………覚えてないわ。どこのミミロルがそんなことしたの?
あたしの相棒は、それこそそんな度胸ないわよ。ねぇ?」
「ミミ〜っ」

クラムがツッコミを入れるも、ラクアは少し表情を引きつらせつつ、何とか追撃を避わした。
そういったところも、見習うべきところか……?
アカツキとダズルは思わず顔を見合わせ、苦笑した。
正規のポケモンレンジャーは堅苦しい人ばかりじゃないかと思っていたが、そうでもなかったみたいだ。
バロウはやや硬い性格の持ち主のようだが、少なくともクラムとラクアは明るく話しやすい雰囲気の持ち主だ。

「それより、この前クラムが青空スクールでお邪魔した時、途中でミッションが入っちゃったのよね。
……ごめんね、中途半端な形で終わらせちゃって」
「いいんですよ。ミッションの方が大事だし、ミッションが成功したって、報告ももらいましたから」

アカツキは笑顔で言葉を返した。
どうやら、クラムとラクアは、青空スクールが中途半端な形で打ち切りとなってしまったことを気にしてくれていたようだ。
しかし、レンジャーならミッションを優先するのは当然のことだし、ミッションのレポートをスクールに提出して、アフターフォローまでしてくれたのだ。
それ以上を望むのは筋違いというものだろう。
アカツキたち三人はまったく気にしていなかったが、それだけでは穴埋めも不十分と思ってか、クラムがこんなことを言った。

「あの時、桟橋にボートが接岸しただろ?
あのボートを操縦してたのはラクアなんだよ」
「ちなみに、クラムと連絡取ってたのはリーダーなんだよね」
「へえ……」

そういえば……と思い返す。
クラムにボイスメールを送った声の主は、よくよく聞いてみればバロウだった。
ボイスメールの中で、ラクアという名前を確かに聞いたような気がした。
なるほど、この三人が連携を取っていたのだ。
三人とも仲が良さそうだし、普段からコミュニケーションをしっかり取っているからこそ、いざと言う時も慌てることなく連携することができるのだろう。
何気ない会話の中からでも、見習うべきところはいくらでも掘り出せるものだ。

「まあ、レンジャーとして頑張っていれば、誰でもできるようになることだ。
そんなに難しいことじゃない。それより……」

大したことはないと言い、バロウはプチトマトを口の中に放り込んだ。
それから、聞きたいことがあると前置きして、アカツキに質問を投げかけた。
どうやら、彼は三人の中でアカツキがリーダー格であると思ったようだ。

「どうしてレンジャーになりたいと思うんだ?
スクールの授業は、大変というほど大変じゃないだろうが、決して楽なものでもないと聞いている」
「ぼくは……昔レンジャーに助けてもらったことがあるんです。
カッコよくて、ぼくもそんな風になりたいなって思って。
……でも、今は大好きな自然とか守りたいって思ってます。ぼくはアルミア地方が大好きだし、困ってる人がいるんだったら、助けたいから」
「なるほど……」

アカツキはダズルやリズミに話したのと同じ内容の言葉をバロウにも話した。
一度も口ごもることなく、しかも目を合わせたまま投げかけられた言葉には、少なからず重みがあった。
表情や口調こそ子供っぽさが多分に出ていても、自然な気持ちは取り繕いようがない。
本当に、アルミア地方の自然を守りたい、困っている人を助けたいと思ってレンジャーを志していることが伝わってくるようだった。

(なるほど……こいつならいいレンジャーになれるかもしれないな)

リーダーであるバロウにそこまで思わせるのだから、鍛えてやればトップレンジャーにだってなれるかもしれない。
バロウの少し緩んだ口元を見て、クラムとラクアはそんなことを思った。
それからヒトミとダズルにも同じように、レンジャーを志す理由を訊ねたが、アカツキ以上のものは出てこなかった。
もっとも、二人とも自分なりに考えてレンジャーになろうと思っていることは伝わってきた。
バロウとラクアも、レンジャーになった理由を事細かに話してくれた。
理由としてはやはり自然が大好きで守りたいと思っていること、それから困っている人を助けたいというものだった。
一頻り盛り上がったところで、不意にラクアが立ち上がった。

「それじゃ、ポケモンレンジャーがどんな風にキャプチャするのか、いい機会だから見せてあげよっか」

言って、すぐ近くを飛んでいるスバメを人差し指で指し示す。
一日体験学習は正規のレンジャーとの交流が主だが、どうせなら実際にレンジャーがどうやってポケモンをキャプチャするのか、実演してみるのもいいだろう。
これにはアカツキだけでなく、ヒトミやダズルも興奮しまくっていた。

「むやみにキャプチャするのは良くないけど、これもキミたちの将来のためだもん。
それじゃ、やりますか〜♪」

バロウとクラムは止めなかった。
自然を大切にすることを身上とするポケモンレンジャーは、自然の一部であるポケモンを必要以上にキャプチャすることを潔しとはしない。
それでも、ラクアのキャプチャ技術は、彼らをして見習うべきところが多いほど卓越している。
それなら、アカツキたちにも一度見てもらった方がいいだろう。
期待と興奮の眼差しを受けても、ラクアはまったく緊張した様子を見せず、腰のホルダーからスタイラーを取り出すと、起動させた。
不規則な軌道で飛び回っているスバメに狙いを定め、

「キャプチャ・オン!!」

掛け声と共にスタイラーからディスクを射出、キャプチャを開始した。
緩やかな円を描きながら、ディスクがスバメ目がけて宙を駆ける。
スバメは突然迫ってきたディスクに慌てふためき、ただでさえ不規則な軌道をさらに複雑にしながら、ディスクから逃れようとする。
しかし、ラクアはスタイラーを巧みに操って、スバメの進路に先回りするようにディスクを操作した。
そして、ものの三秒と経たないうちに幾重にも囲い込み、スバメのキャプチャに成功した。

「す、すげえ……」
「早い……!!」
「…………」

ただでさえ動きの素早い飛行タイプのポケモンを、ものの三秒でキャプチャしてしまうとは……
あまりの早業に、アカツキもヒトミもダズルも、開いた口が塞がらなかった。
正規のレンジャーの腕前は、やはり今の自分たちとは比較にならないのだ。
経験がモノを言うのだろうが、それでもすごいと思うほかなかった。
一度もキャプチャ・ライン(ディスクの描く軌跡のこと)を切られることなく、あっさりとキャプチャしてしまった。
呆然と立ち尽くすアカツキたちを余所に、ラクアはキャプチャしたスバメをすぐ傍に来させると、笑顔で頭を撫でた。

「いきなりキャプチャしてごめんね。
……はい、これ。美味しいでしょ?
それじゃあ、またね」

いきなりキャプチャしたことを詫びた後で、弁当の牛肉を一切れ食べさせて、すぐにリリース(解放)する。
ポケモンレンジャーはキャプチャしたポケモンの力を借りるが、いつまでも力を借りっぱなしでいるわけではない。
必要なことをしてもらったら、感謝の気持ちと共にリリース——自然に帰すのだ。
リリース自体はレンジャーの言葉一つで完了するため、スタイラーの操作は必要ない。
突然キャプチャされて戸惑っていたスバメも、美味しい肉を食べさせてもらえたことに満足したらしく、明るい表情を残して飛び立っていった。

「はい、いっちょあがり」
「すごーい……」
「キミたちも、頑張ればこれくらいできるようになるよ。
スクールじゃあまり動きの素早いポケモンはキャプチャさせないみたいだけど……これからの努力次第ってトコかな」

アカツキたちはラクアのキャプチャの腕前だけでなく、ポケモンを優しくリリースしたところにも感銘を受けていた。
惜しみない拍手を受けて、ラクアもまんざらではなかったらしい。
心なしか、頬に朱が差していたが、バロウもクラムも彼女に任せた手前、特に言及しなかった。
ラクアはスタイラーをホルダーにしまうと、バロウに目で合図を送った。
あたしの仕事は終わったと言わんばかりだったが、バロウは黙って頷いた。

「さて、いろいろと話もできたし、レンジャーベースに戻るとしようか。
レンジャーベースにはいろんな機械がある。
見ておくだけでも今後のためにはなると思うが……どうする?」
「お願いします!!」
「分かった」

次はレンジャーベースの中をいろいろと見せてもらえるらしい。
将来、ビエンタウンのレンジャーベースに配属されるかは分からないが、基本的にレンジャーベースはどこも同じ造りになっているため、一箇所でも見ておけば、どこに行っても困らない。
まさか一日体験学習でレンジャーベースの中を見せてもらえるとは思っていなかったので、アカツキは鼻息を荒くしていた。
先ほどはレンジャーベースのロビーしか見られなかったため、ロビーの奥にある扉の向こうに何があるのか……気になってしょうがなかったのだ。
せっかくの機会だ、いろいろと見て、いろいろと質問して、今後に役立てよう。
息巻く生徒たちを笑顔で見やり、バロウたちは弁当の残りをあっという間に平らげると、重箱を片付けた。
時間にして約三十分程度だったが、アカツキには二時間、三時間も経っているように感じられた。
それはヒトミとダズルにとっても同じことが言えた。
ビエンタウンへの道中も、すっかり気を許し合った六人はあれやこれやと話に花を咲かせていた。
どうしようもなく寒いジョークも時々飛んだが(発生源はいずれもクラムであった)、先輩の言葉は様々なことを教えてくれた。
今の時点で、すでに一日体験学習の目的を達成したのではないかと思えたが、時間はまだたっぷり残っている。
吸収できることは一つでも多く吸収しておきたい。
並々ならぬやる気が三人の生徒から感じられたこともあり、レンジャーたちも「やってやろう」という気になっていたようだった。
話に花が咲き、楽しい気分でビエンタウンにたどり着けるかと思いきや、予期せぬ事態が待ち受けていた。

「きゃーっ!!」
「こら、あっち行け!!」

ナビキビーチに差し掛かった時だった。
出し抜けに、女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聴こえてきた。
声の方に顔を向けると、ビキニ姿の女性と海パン一丁の男性(いずれも二十代と思われる)が、六体のポケモンに囲まれているのが見えた。

(ムックルにヒコザル、ブイゼル、それからゴンベにパチリス、カラナクシ……全然違うポケモンばっかりじゃないか)

いずれも小型で、進化前のポケモンだ。
パチリスは進化しないポケモンだが、他のポケモンと同様、小型であることに変わりはない。
タイプもバラバラで、生息地の統一性もない。
普通に考えれば、同じ場所に集うことなどありえない……レンジャースクールに入学する前に猛勉強して蓄えた知識から、アカツキはこの状況がいかに異常なものであるのか、すぐに察していた。
もっとも、ポケモンたちは男女を囲んでいるだけで、特に攻撃するような素振りは見せていない。
ただ、明らかに雰囲気が変だった。
攻撃的でもなければ、落ち着いているわけでもない。
鳴き声一つ上げず、ただ男女を取り囲んで、周囲を走り回っているだけ。むしろ、それが異常なのだ。
遠目ではハッキリと確認できないが、ポケモンたちの顔には感情らしい感情が浮かんでいないように見受けられる。

「な、何よあれ……」
「なんか変じゃね?」

ヒトミとダズルにも、目の前の光景が異常であることは容易に理解できた。
ポケモンたちもそうだが、海水浴スタイルの男女が明らかに困っていることも。
生徒三人がそんなことを思っている間に、レンジャー三人は素早く対応していた。
ビーチに飛び降りながら、バロウが指示を出す。

「クラム、ラクア、一体ずつキャプチャだ!!
アカツキ、ヒトミ、ダズル、おまえたちもキャプチャを手伝ってくれ!!
スクールで教わったとおりにやれば大丈夫だ、頼んだぞ!!」

振り返らず、一方的に言い放ち、砂浜を駆けてゆく。
クラムとラクアは戸惑う様子も見せず、さも当然と言わんばかりの足取りで現場へ向かう。

「…………」

場数の違い……とでも言うべきか。
レンジャーとして活動している彼らには、異常時の対応が身体に染み付いてしまっているのかもしれない。
ただ、正規のレンジャーであろうと見習いであろうと、レンジャーであることに変わりはない。
予期せぬ横槍で『ミッション』と定義されていないものであっても、目の前の状況を見過ごすことなどできはしない。
突然のことに戸惑いは隠せなかったが、アカツキはビーチに飛び降りて、バロウたちの後に続いた。
どのポケモンをキャプチャするかなど、考えている場合ではない。
バロウたちがキャプチャしていないポケモンをキャプチャすればいい。
ヒトミとダズルも数歩遅れてビーチに飛び降り、スタイラーを手に現場へ向かった。
目の細かな砂に足を取られそうになりながらも、足腰に力を込めて進んでいく。
先に現場にたどり着いていたレンジャー三人がキャプチャを開始する。
残った三体を、アカツキたちが一体ずつキャプチャすればいい。偶然だろうが、六人で六体のポケモンをキャプチャする。
余計な邪魔が入らないという意味では、キャプチャとしてはやりやすい方に入るだろう。
アカツキは一番奥に位置するムックルに狙いを定め、スタイラーからディスクを射出した。

「キャプチャ・オン!!」

波が穏やかに寄せては返す砂浜に、凛とした声が響いた。






To Be Continued...

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