Mission #005 はじまりの誓い

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「わたしがオペレーターになろうって思ったのは、子供の頃にテレビでポケモンレンジャーの特集をやってて、カッコいいなあって思ったからなんだ」

曰く、子供の頃に観たテレビ番組で、ポケモンレンジャーとオペレーター、メカニックの現場の特集を見て、レンジャーにテキパキと的確に指示を飛ばしていたオペレーターの凛とした姿にいたく感銘を受け、自分もそんな風になりたいと思ったのがキッカケだったそうだ。
元々、勉強に関しては良く出来ていた方だったので、レンジャーとして現場第一線で活躍するよりも、裏方としてバックアップすることの方が自分に似合っているとも思っていたらしい。
リズミの話を聞き終えて、ダズルが口を開いた。

「オレも同じなんだよなあ。
フィオレ地方じゃ、アルミア地方と番組は違うけど、フィオレ地方もレンジャーって結構多いから、よくテレビで取り上げられるんだ。
……んでさ、レンジャーってすっげーカッコいいんだ。カッコいいだけじゃなくって、誰かの役に立つって、すごくいいことだもんな。
フィオレのトップレンジャーのカヅキさんとかヒナタさんとかアリアさんとか、もうなんつーか、チョーカッコいいって言うか」

目をキラキラ輝かせ、手など組みながら……それこそ夢みる乙女のような面持ちで言う彼に、リズミとヒトミは思わず後退りなどした。
てっきり、やんちゃな性格とばかり思っていたのだが、意外とロマンチストな一面もあるらしい。
しかし、彼がそうやってロマンチストになるのも頷けた。
ここアルミア地方や、ダズルの故郷であるフィオレ地方では、数多くのポケモンレンジャーが活動し、平和や自然を守っている。
ポケモントレーナーと違って、ポケモンを傷つけることなく平和や自然を守るというポリシーは言うまでもなく、レンジャーの活躍する姿をテレビ越しに観るだけでも、年頃の少年少女は嫌でも憧れてしまうものなのだ。
ダズルだけなく、アカツキやヒトミも似たようなところがある。

(トップレンジャーかあ……そういえば、カッコいいんだよね。トップレンジャーって)

アカツキはダズルが言った『トップレンジャー』に想いを馳せていた。
トップレンジャーとは、言葉の通り、ポケモンレンジャーの中でも特に優れた能力を持った者を言う。
キャプチャしたポケモンの数が一万体を越えたとか、輝かしい実績の持ち主であるとか、トップという称号を冠するだけあり、普通のポケモンレンジャーとは明らかに格が違う。
ダズルの言ったカヅキ、ヒナタ、アリアは、フィオレ地方のトップレンジャーだ。
トップレンジャーは全世界でも数十人しかいないため、トップレンジャーはすべてのレンジャーの憧れの的なのだ。
しかし、トップなりの責任や義務は重く、上層部ミッションを与えられなくても独自に行動することが許される反面、失敗した時の責任の度合いも違ってくる。
そういった意味でも、トップレンジャーは真のポケモンレンジャーにしか名乗ることが許されない称号と言えるだろう。
レンジャーになるなら、誰もがトップレンジャーに憧れ、なりたいと思うものだ。
ダズルがロマンチックに夢を語るのも、決して大げさなことではない。むしろ、それくらいの憧れがなければ話にならない。

「……って感じなんだよ。アカツキはどうなんだ?」
「あ、ぼく……? ぼくはね……」

何がなんだか良く分からないうちにダズルの話は終わり——終わり方が分からなかっただけで、中身は何気に濃いものだった——、次はアカツキの番だった。
リズミやダズルとは明らかに理由が異なっているが、それでもポケモンレンジャーになりたいと思った気持ちは同じだ。
だから、気後れすることなく、ポケモンレンジャーになりたいと思った理由を話した。

「リズミやダズルみたいに、ぼくもテレビで観るポケモンレンジャーに憧れてたんだ。
でも、なりたいって一番思ったのは、子供の頃にポケモンレンジャーに助けられたことがあったからなんだよ」
「へえ、面白そうじゃんか。聞かせてくれよ」
「ええ、気になるわね」
「…………」

リズミとダズルは興味津々といった様子だった。

『子供の頃にポケモンレンジャーに助けられたことで、ポケモンレンジャーを志した』

実際に何があって、どうやって助けられたのか……嫌でも気になるだろう。
興味津々の二人を余所に、ヒトミは「あのことを話すのか……」と、少し表情を曇らせていた。
しかし、自分とアカツキがレンジャーを志すキッカケになった出来事だ。
話さないわけにもいかないだろうし、アカツキが話そうと言うのなら、結果的に自分の分まで話してくれることになる。
自分かアカツキか。
どちらかが話すのだから、今さら横槍を入れるのも無粋なだけだ。
ヒトミが意味ありげな視線を向けていることに気づいて、アカツキは小さく頷きかけてから、口を開いた。

「リズミは知ってると思うけど、ぼくたちの家があるチコレ村って、周りがみんな森なんだよね。
子供の頃のぼくたちって、結構やんちゃで、父さんと母さんを結構困らせてたんだ」
「え、そうなの?」
「ヒトミは分かるけど、アカツキがやんちゃだったなんて信じられねえや」
「こら、そこ!! ホントのことなんだからケチつけない!!」
「いやだって、素直に信じられないって」
「……あ、そう」

ダズルとリズミは、ニコニコ笑顔のアカツキが子供の頃、結構やんちゃで両親の手を焼かせていたことを素直に信じられなかった。
無理もない。
むしろそれはヒトミだけに当てはまると思っていたからだ。
しかし、事実は事実である。
完全に信じていないようだが、話を聞き終える頃には信じるだろう。
ダズルたちの茶々は入ったが、アカツキは気にするでもなく笑顔で続けた。

「毎日、森に遊びに出かけてたんだけど、その日はいつもより奥に遊びに行ったんだ。
ビッパとかスボミーとか、ポケモンたちがいっぱいいたから、もう夢中になって追いかけてたんだ。
だけど、帰り道が分からなくなっちゃって、夕方まで歩き続けたんだけど、それでも村に戻れなくって……不安でぼくもヒトミもわんわん泣き出しちゃったんだ」

子供の好奇心と体力は旺盛で、大人が考え付かないようなところまで遠出するようなことも珍しくはない。
増してや、アカツキもヒトミも周囲の子供とは明らかに次元が違っていた。
いつも通りの感覚で出かけたものの、子供の目には可愛いポケモンたちがこれ以上ないほど魅力的に映っていた。
だから、知らないうちに遠出して、帰り道が分からなくなってしまった。
夕方になっても戻れなくて、周囲が少しずつ暗くなっていくことに恐怖を感じて、二人して火がついたような勢いで泣き出した。
このまま森の中に取り残されてしまうのではないか……?
そう思うと、不安で不安で仕方なかった。
誰にも頼れなくて、どうしたらいいかも分からなかった。

——また今日もこんなになるまで遊んで……美味しいシチューができてるわよ。たんと召し上がれ。

母親の優しい笑顔と美味しい食事が遠のいていく気がして、どうしようもなく不安だった。
そして木漏れ日が消えて、夜の帳が降りて……森は鬱蒼とした空気に包まれた。
普段見慣れた樹木も、暗闇の中にかすかに浮かび上がり、風に枝葉が揺れると、木の形をした化物になって枝を伸ばして襲いかかってくるように思えて仕方ない。
不安を紛らわすのに、二人はひたすら泣くしかなかった。
やがて涙が枯れて、泣くに泣けなくなった頃、一人のポケモンレンジャーが二人の前に現れた。
どんな人だったのか、正直、良く覚えていない。
しかし、彼は自分たちを捜しに来たと伝えると、アカツキとヒトミの頭を優しく撫でて、良く頑張ったね、と優しい口調で褒めてくれた。

「すごく優しいポケモンレンジャーで、ぼくたちの話を嫌がらないで聞いてくれてたんだ。
……それで、そのレンジャーと一緒に歩いて、なんとか村に帰れたんだよ。
まあ、父さんと母さんにはすごく叱られて、ゲンコツも食らったんだけど、ぼくたち、ずっとそのレンジャーのことばっかり考えてた。
……カッコよくて、優しくて。
大きくなったら、あんな風になりたいなって、ぼくはそれからずっとそう思ってきたんだよ」

カッコよくて、優しくて。
アカツキはポケモンレンジャーに助けてもらったことがキッカケで、レンジャーに興味を持ち始めた。
それからはレンジャーの言いつけを守って、遠くには出かけなくなった。
本やテレビでレンジャーのことを調べて、ポケモンの力を借りながら、自然や平和を守るのがポケモンレンジャーであることを知った。
まるで漫画やアニメに出てくるような存在だっただけに、興味が憧れに……将来の夢に変わるのに時間は必要なかった。

「ぼくは絶対レンジャーになって、困ってる人やポケモンを助けたいって思って、勉強して入学したんだよ。ヒトミも一緒に」
「まあ、そんなトコね」

アカツキは元々物分りのいい子供だったので、勉強は得意だったのだが、勉強が苦手なヒトミは苦労していた。
参考書を見ても分からないことが多くて、度々アカツキにヘルプを求めていたくらいだ。
しかし、二人揃って入学試験に合格し、晴れてレンジャースクールへの入学を果たした。
あとは停学を食らわないように気をつけながら授業を受けて、卒業すればポケモンレンジャーになれる。
アカツキの話を聞き終えて、リズミもダズルも驚嘆していた。
自分たちと違って、この二人には何気にドラマチックな展開があったのだと。

「へえ、レンジャーに助けられるのって、やっぱすごいよな。
くぅぅ……オレも一回くらい助けてもらいたかったぜ」
「いいよね。憧れちゃうなあ……」
「でも、あの時はホントに不安でしょうがなかったもん。それどころじゃなかったよね」
「そうそう。大変だったんだから……帰ったらお母さんにお尻叩かれるし、お父さんからはゲンコツ食らったし……
まあ、あれに懲りて、遠くには出かけなくなったんだけどね」

レンジャーに助けられることに憧れるのも当然と言えば当然だが、当事者からしてみれば、事後処理の方がとにかく大変だった。
両親に、これでもかとばかりにこってり絞られたからだ。
ともあれ、四人がレンジャーやオペレーターになりたいと思ったキッカケを一通り話し終えた。
人それぞれのキッカケではあるが、やはり夢に向かって突き進みたい、何があっても叶えたいという想いはホンモノだった。
それが確認できただけでも、何気に満足していた。

「それじゃ、改めて誓おっか。
あたし、絶対レンジャーになるわ。レンジャーになって、困ってる人を助ける!!」
「ぼくも!!」
「オレも!!」
「わたしはオペレーターだけど、やりたいことは同じ!!」

誰から言い出すでもなく、四人は手のひらを重ねて、夢を叶えると誓った。
腹の底から声を出して、拳を突き上げる。
目の前にいる三人は、共に学ぶ友達で——そしてライバルだ。
一緒に頑張っていきたいし、だからこそ負けたくない。
絶対に夢を叶えて、もう一度あの人に会いたい……名前は忘れてしまったが、顔立ちならおぼろげながらもなんとか覚えている。
ポケモンレンジャーになったら、もう一度会って、改めてお礼を言いたい。

(ぼくは、絶対にレンジャーになるんだ!!)

潮風に吹かれながら、アカツキはレンジャーへの夢に想いを馳せていた。






To Be Continued…

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