Page 005

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:21分
Page 005
カノコタウン


(ここがカノコタウン……)

目の前に広がるのどかな風景に、アカツキは無言で見入っていた。
カノコタウン――自分が生まれ、七歳まで過ごしていた故郷。
色濃い森の緑が町をぐるりと取り囲み、ビルの一棟もなければ派手な佇まいの建物も見当たらない。
カノコタウンはイッシュ地方の最東部に位置する町で、多くの人たちからは片田舎という印象を持たれているが、それはおおよそ正しい認識と言える。
タンバシティと大して変わらない佇まいを見やり、アカツキは何とも言いようのない気持ちを覚えていた。
今までに感じたことのない懐かしさ……これが、郷愁というものだろうか。

(覚えてないはずなのに、なんかここを知ってるような……そんな気がする)

アカツキだけでなく、ソロも五年ぶりに見るカノコタウンの町並みに明るい表情を覗かせていた。
彼と違い、ソロはイッシュ地方で過ごしていた頃に辛い思い出がない分、よく覚えているのだろう。

(アカツキ君、懐かしいって思ってるんだろうな……)

無言で町を眺めている彼を見やり、ナナは落ち着くまで待とうと思った。
旅行先で両親と死別し、故郷に戻ってきたかと思えば親戚にたらい回しにされ、挙句の果てに縁もゆかりもない地方で過ごすことになった。
ようやく戻ってきたが、それまでに約五年……正確には四年半の月日を要した。
年端も行かぬ子供には辛い経験を経て戻ってきた故郷に、何かしら思い入れがあったとしても不思議はないだろう。
ヒウンシティを発って約三時間。
陽が傾き、空がうっすらと茜色に染まり始めている。
アララギ博士の愛車であるバギーに乗って、ヒウンシティとイッシュ地方東部の島を結ぶスカイアローブリッジを通り過ぎ、森を貫く高速道路を一気に駆け抜けて。
今晩はアララギ博士の家に一泊し、明日から旅に出ればいいとの提案に、アカツキは素直に甘えることにした。
多くのポケモンが生活している研究所を見てみたいと思っていたし、イッシュ地方で旅立つトレーナーに与えられる初心者用のポケモンが気になっていたのだ。

(ここからオレの旅が始まるんだ……!!)

アカツキはぐっと拳を握りしめた。
ポケモントレーナーとしての旅が、生まれ故郷であるこの町から始まるのだ。
二人の父親のような立派なトレーナーを目指して、見知らぬ土地で、見知らぬポケモンたちと出会い、たくさんのバトルを経験して少しずつ強くなっていく。
次第に気持ちがヒートアップしていくのを感じていると、アララギ博士が話しかけてきた。

「アカツキ君、そろそろ研究所に行きましょうか。
あなたに渡しておきたいと思っているポケモンも、首を長くして待っているわよ」
「あ、はい」

久々に見る故郷の町並みにあれこれと感じる中、何も言わずに待ってくれていたのだ。
これ以上待たせては失礼だろう……アカツキが乗り込むと、アララギ博士は車を発進させた。

「久しぶりに戻ってきた感想はどう?」
「覚えてないはずなのに、なんか懐かしいです」
「アカツキ君にとっては五年ぶりだもんね。
だけど、五年前じゃ今とあんまり変わってないんだよ」
「そうなの?」
「うん。変わったって言えば、ウチの研究所の敷地が広くなったことくらいじゃない?」
「そうなんだ……」

五年も経てば、町並みは変わる。
大規模な開発でもあれば、見違えるように変わっていても不思議はないだろうと思っていたのだが、カノコタウンは生憎と開発とは無縁の土地柄だった。

「ナナの言う通り、この町はあんまり変わっていないわ。
アカツキ君が懐かしいって素直に思えたのは、町が変わっていないからかもしれないわね」
「おばさんは変わってない町のことが好きなんですか?」
「ええ。穏やかな時間が流れている場所の方が、落ち着けるわ。
それはアカツキ君も同じでしょう?」
「うん」

自然豊かな景色と、穏やかな時が流れるこの町を気に入って移住する人もいるくらいである。
出身者のひいき目を抜きにしても、とても過ごしやすくて暖かな気持ちになれる町だ。
アララギ博士がバックミラー越しに優しい笑みを向けていることに気づいて、アカツキは視線を前方に戻した。
道路は土をローラーで固めただけの簡素なもので、街灯にしても必要最小限しか設置されていない。
自然を大切にしているからこそ、穏やかな時間が流れているのだろう。
車を走らせること約十分、三人はアララギ博士の研究所にたどり着いた。
窓の外を改めて見やり、アカツキは嘆息した。

(ここがおばさんの研究所……)

背の低い柵に囲まれた敷地はとても広く、ずっと奥まで広がっている草原のさらに向こう……森まで敷地に含まれているようだった。
その敷地に、少し大きい一軒家が建っている。研究所と自宅を兼ね備えているのだろう。

「はい、到着~」

アララギ博士は車を止めると、ナナに指示を出した。

「ナナ、アカツキ君をリビングに通して。
わたしは敷地のポケモンたちの様子を見てから行くから。イッシュ地方のこととか、いろいろ教えてあげてちょうだい」
「うん、分かった」

さすがはポケモンの研究者。
プライベートな時間でも、一つ屋根の下で暮らしているポケモンたちを家族のように慈しみ、気遣っているのだ。

(すごいな、ポケモン研究者って)

アカツキは車から降りると、悠然と歩き出すアララギ博士を見送った。
自信がみなぎるその背中を見送る中、ナナはアカツキの肩を軽く叩いた。

「アカツキ君、行こ」
「あ……うん」

ナナの後について歩き出す。
左右に広がる研究所の敷地を眺めていると、見たことのない鳥ポケモンの番いが青々と生い茂る芝生に降り立った。
アカツキが足を止めてナナに問いかけると、彼女は嫌な顔を見せるでもなく、普通に教えてくれた。

「ナナ、あのポケモンは?」
「マメパトって言うんだよ。
カントーとかジョウトで言えば、ポッポに近いんだってママが言ってた」
「そうなんだ、ポッポに近いのか……」

言われてみれば、カントーやジョウトに棲息するポッポに体格が近いように見える。
芝生に降り立った番のマメパトは、くちばしを器用に使って、互いの翼を繕っていた。
灰色のハトといった感じの外見で、いかにも温和そうな雰囲気を放っている。
実際、見慣れない人の姿があっても気にすることなく、自分たちの世界に浸っているのだ。

(他のポケモンって、敷地の奥にいるんだろうな。後でおばさんに頼んで、見せてもらおう。
オレ、イッシュ地方のポケモンを全然知らないし)

ポッポに似ているとはいえ、種族が違えば進化形が異なるのは言うまでもないし、覚える技も違ってくる。
アカツキが知っているイッシュ地方のポケモンと言えば、ソロに代表されるゾロアと、その進化形であるゾロアークくらい。
ナナが話してくれたポカブやチラーミィはジョウト地方には棲息していないため、見たことも聞いたこともない。
少しくらいはその地方に棲むポケモンのことを知っておいた方が、いろんな意味で旅に役立ちそうだ。
そんなことを思っていると、ナナはアカツキの気持ちを察してか、こんなことを言った。

「研究所の敷地にはもっとたくさんポケモンがいるし、アカツキ君が良かったら後で案内しようか?」
「いいの?」
「いいよ。アカツキ君も、イッシュ地方を旅するんだから、ポケモンのこと知っておきたいって考えてるんでしょ?
だったら、あたしにとっても勉強になるから、付き合うよ」
「ありがとう、ナナ。本当に助かるよ」
「お互いさまだよ」

アカツキが礼を言うと、ナナはこれくらい当然と言いたげに微笑んでみせた。
実際、教導というのは教える側がある程度の知識を持ち合わせていなければ的確にこなせないものだ。
研究者の娘として常日頃からポケモンに関わってきたナナとしては、今までの勉強の成果を示す良い機会とも考えていたのだ。
無論、アカツキにイッシュのポケモンを知ってほしいという気持ちの方が強いのは言うまでもないが。

「ねっ、研究所の中にもいろんな資料があるから、見せてあげる。行こう」
「うん、分かった」

敷地は広いから、一日かけても隅々まで見て回れるかどうか……だが、その辺りは後で決めればいいだろう。
アララギ博士が戻るまでの間は、ポケモンに関する資料を見せてイッシュ地方への理解を深めてもらおう。
そんなことを思いながら、ナナはアカツキを連れて玄関をくぐろうとしていたのだが……

「クゥっ!!」
「どうした、ソロ?」

ソロがひときわ大きく嘶き、アカツキはソロの視線を追った。
研究所の敷地から、少年がポケモンを伴って歩いてくるのが見えた。
先ほどまで気づかなかったが、どうやら研究所の建屋に隠れて見えなかったようだ。

(誰だろう……?)

年の頃はアカツキとナナと同じくらいだろうか。
知的な雰囲気が漂う顔つきに、黒いフレームのメガネが妙に似合っている。
その少年が連れているのは、オレンジの子豚に見えるポケモンと、チンチラに似たポケモンの二体だった。
二体とも少年にはよく懐いているらしく、明るい表情を見せていたが、アカツキとナナに気づいて、視線をこちらに向けてきた。
……と同時に、少年が手を振ってきた。

「チェレン、来てたの?」
「ああ。研究所のポケモンたちの顔を見てみたくなってね」

ナナが声をかけると、少年――チェレンは口の端に笑みなど浮かべながら答えた。

「ほら、ブータ、ラミー。ナナが帰ってきたよ」
「ブーっ」
「ラミキュ~♪」

促され、二体のポケモンは一目散にナナに駆け寄った。
ナナは膝を折ると、駆けてきた二体のポケモンたちに微笑みかけた。

「ブータ、ラミー。ただいま~」
「ブーっ♪」
「ラミ~♪」

鳴き声から察するに、子豚の方がブータで、チンチラに似た方がラミーという名前らしい。
子供の頃から仲良くしていたポケモンがいると聞いていたが、どうやら彼らがそのようだ。
ナナは二体のポケモンたちと触れ合うのも程々に立ち上がり、アカツキに向き直った。

「アカツキ君。この子たちがさっき話したあたしのポケモンだよ。
こっちがポカブのブータ。で、こっちがチラーミィのラミー」
「初めまして。オレはアカツキ。こっちはオレの相棒のソロ。よろしく」
「クゥっ!!」

紹介され、アカツキとソロは笑顔で名乗った。
ナナのパートナーなら、自分たちにとっても友達も同然。
ブータとラミーはそんな彼らの気持ちを理解してか、すぐに懐いてきた。
じゃれついてきたブータの頭を撫でると、ほのかに暖かかった。

「暖かい……もしかして、炎タイプ?」
「そうだよ。火豚ポケモンって呼ばれてるんだ」
「ラミーってチンチラに似てるけど……?」
「あ、鋭いね。チンチラポケモンって言われてるの。見た目が似てるからって話らしいよ」
「へえ……」

ラミーも人懐っこい性格らしい。
身体の割には若干大きめの尻尾を振って、くすぐってきた。

「クゥッ、クゥゥっ」

くすぐられることに非常に弱いらしく、ソロはその場に寝転がり、脚をバタバタさせていたが、ラミーはそんなソロの反応を見るのが楽しいのか、さらに尻尾でくすぐった。
傍から見ていると、初対面とは思えない和やかな雰囲気が流れていたが、アカツキはすぐに気付いた。
先ほどから、チェレンが自分に視線を注いでいて――そして、その目には穏やかではない感情を宿していることに。

(敵意……みたいだな。初対面のはずだけど)

視線が放つ雰囲気は、ずいぶんと剣呑なものだった。
ナナは気づいていないようだが、アカツキには突き刺さらんばかりに感じられる。
格闘技を習ってきた影響だろう、敵意に対しては嫌と言うほど敏感に察知できてしまう。
とはいえ、初対面の相手からいきなり敵意を向けられるのは、いい気分ではない。
動機不明な敵意を放つ相手にどう声をかければいいか考えあぐねていると、剣呑な雰囲気に気づいていないナナが陽気な声で言った。

「アカツキ君。彼はチェレン。あたしの幼なじみだよ。
チェレン。前に話したアカツキ君。ジョウト地方から来たんだよ」

ナナの前で露骨な態度を見せても仕方がない……アカツキは小さく息をつくと、チェレンに手を差し出した。

「初めまして。ジョウト地方から来たアカツキです。よろしく」
「…………チェレンだよ。キミのことはナナから聞いてる。よろしく」

チェレンはしばらくアカツキが差し出した手を見ていたが、同じことを考えて握手を交わした。
それでも、視線に潜む敵意はまったく衰えていない。

(オレのこと知ってるみたいだけど、なんでそんな風に見られるのか分かんないんだよな……)

さすがにナナの前で『どうしてオレに敵意抱いてるんだ?』と訊ねられるはずもない。
後で、二人で話をするという手も考えられるのだが……
対応を思案するアカツキに、チェレンが言葉をかけてきた。

「アカツキって言ったね。
ナナから聞いたけど……キミはポケモントレーナーなんだって?」
「ああ、そうだよ」
「じゃあ、ポケモンバトルを申し込みたい。受けてくれるかい?」

ポケモントレーナーが一般的な職業として浸透している今の時代、挨拶代わりにポケモンバトルを申し込まれることは珍しくもない。
そして、ポケモンが戦えないなどやむを得ない事情がある場合を除いて、申し込まれた勝負は断らないというのがトレーナーの流儀なのだが、アカツキは断ることを考えていなかった。

「分かった。そのバトル、受けるよ」
「ありがたい。それじゃあ、こっちに」

当然と言えば当然の結果。
チェレンは無表情のまま、少し離れた場所にアカツキを案内した。
研究所の敷地から離れた空き地で、町の子供たちがポケモンバトルをするのによく使っている場所だ。
少し離れたところに腰を下ろし、ナナは二人を交互に見やった。

(チェレンはカノコタウンの子じゃ一番強いけど……アカツキ君だってジムリーダーのお父さんからいろいろ教えてもらってるだろうし、結構強いんだろうな。
どっちが勝つんだろ?)

チェレンはカノコタウンの少年少女の中で一番強いトレーナーだ。
しかし、アカツキもジムリーダーの養子として、様々なことを教わってきたはず。
普段この場所で繰り広げられるものよりも熱く激しいバトルが見られるのではないかと思うと、気持ちが逸る。
ギャラリーの胸中など露知らず、バトルを行う本人たちはそれぞれ別のことを考えていた。

(彼がアカツキ……五年前にカノコタウンを出て行ったって聞いたけど、戻ってたとはね。
確か、僕たちと同い年だったはず……十二歳になればイッシュ地方で旅に出られるって分かって戻ってきたんだろうけど、ナナは僕が守るんだ。
このバトルできっちり教えてやる……!!)

チェレンは、アカツキがジョウト地方で暮らすことになった事情はある程度理解していたが、彼に敵意を抱いたのは『事情』そのものではなかった。
チェレンがナナと出会ったのは、父親の仕事の都合でカノコタウンに引っ越してきた時。
アカツキがジョウト地方で暮らし始めて数日が経った頃のことである。
父親がアララギ博士の大学の同級生だったこともあり、引っ越しを機に家族ぐるみの付き合いを行うようになった。
引っ越しから数日、博士の自宅に招かれた時にチェレンが見たのは、ベッドの上で膝を抱えて泣いているナナの姿。
何がなんだか分からないけれど放っておけなくて、必死に慰めたのだ。
その時に、友達がいなくなってしまったから淋しくて、悲しくて泣いていたのだと知った。

(キミにもやむを得ない事情があったんだろう……だけど、ナナが淋しくて泣いてたなんて知っているか?
……ナナの悲しみも知らないで親しげに話すなんて、信じられない)

ナナがアカツキに親しげな様子を見せるのはともかく、その逆――何も知らずに五年ぶりに戻ってきたアカツキが、彼女と親しげに話すなど座視しがたかった。
無論、それはチェレンの一方的な敵意だったが、それだけナナのことを想っているからに他ならない。
悲しいかな、ナナはチェレンの強い想いに気づいていないのだが、それでも良かった。
チェレンはズボンのポケットからモンスターボールを取り出し、中にいるパートナーに話しかけた。

「ボルト……僕たちの力、見せつけてやろう」

今まで、トレーナーとして旅に出られる年齢まではこの町で強くなろうと頑張ってきたのだ。
多少腕に覚えがあろうが、勝つのは自分たちだ。



チェレンが一方的な敵意をむき出しにしていることを気にするでもなく、アカツキはアカツキでソロに話しかけていた。

「ソロ。ジムの外で戦うのは初めてだけど、いつも通りやればいいからな。一緒に頑張ろう」
「クゥっ!!」

ソロはアカツキの言葉に大きな嘶きで返した。
タンバジムでトレーナーとしての基礎知識や技術を叩きこまれてはいたが、実戦はこれが初めてだった。
練習と勝手は違うのだろうが、特別なことをする必要はない。
ソロが全力で戦えるようにしっかり指示を出していけばいいのだ。

(チェレンって言ったっけ。なんか強そうだけど、オレたちだって負けちゃいないんだ。
どんなポケモンが出てきたって、全力でぶつかってくだけさ)

恐らくは自分が見たことも聞いたこともないような、イッシュ地方特有のポケモンを繰り出してくるだろう。
だが、どんな相手が来ようとも、全力で戦えば道は拓けるはずだ。

(ソロは悪タイプ。格闘タイプと虫タイプが来なきゃ、まだなんとかなるな)

実戦を前に、改めてソロの能力やタイプを振り返っておく。
ソロに代表されるゾロアは悪タイプの持ち主。
やや攻撃的な能力配分で、守りよりは攻撃に向いている……が、ガンガン攻めるよりは補助技を駆使したトリッキーな戦い方の方が得意。
ソロの戦い方を頭でイメージして、準備は整った。

「ソロ、頼んだぞ!!」
「クゥっ♪」

任せておけと言わんばかりに嘶き、ソロはアカツキの前に躍り出た。

(なるほど、相手はゾロア……相性は悪くないし、防御力の低さは僕にとって有利に働く)

やる気満々のソロを冷静な眼差しで見やり、チェレンは自分の優位を確信した。
パートナーが入ったモンスターボールを軽く頭上に放り投げ、その名を呼ぶ。

「ボルト、バトル・オン!!」

チェレンの言葉を受けてか、モンスターボールが開いた。
中から飛び出してきたのは、ギザギザのたてがみを持ったシマウマのようなポケモンだった。

(見たことないポケモンだ……なんてポケモンだろう?
少なくとも、格闘タイプと虫タイプじゃなさそうだ。弱点を突かれる心配はないかな)

ソロの防御力はお世辞にも高いとは言いがたい。
弱点のタイプの攻撃を受ければ一気に窮地に陥ってしまうが、その心配が取り除かれた(と推定される)だけでも、心理的にずいぶんと楽になる。
アカツキが探るような目でこちらのポケモンを見ていることに気づき、チェレンは彼に自分のパートナーのことを教えてやった。

「僕のポケモンはシママ。電気タイプのポケモンだ」
「…………?」

自分からわざわざポケモンのことを教えるなど、何を考えている?
アカツキは疑問符を浮かべたが、チェレンの次の言葉に納得するのだった。

「どうせ戦うならフェアな方がいいと思って。
キミ、イッシュ地方のポケモンのことはほとんど知らないんだろう?
その状態じゃ、フェアとは言えないからね」
「そっか、ありがとう。助かるよ」
「いや……礼を言われることでもないさ」

親切心などではなく、フェアな勝負を望んでいる。
ただそれだけのことだったのだが、アカツキにとってはそういった心配りが本当にありがたかった。
彼が心底納得したような表情で礼を言ってきたので、これにはチェレンも思わず間の抜けた表情を見せてしまった。

(…………なんか、思ってたのと違うな。
でもまあ、バトルで倒すことに変わりはない。戦略はすでに練ってあるし、いつも通りやっていれば勝てる)

気を取り直し、頭を振る。
相手はすっかりやる気になっているし、手加減無用で大暴れしても問題ないだろう。

「お手並み拝見と行こう。お先にどうぞ」
「…………」

チェレンの言葉を受けて、アカツキはシママ――ボルトを見やった。
いかにも穏やかそうな物腰だが、ソロに負けず劣らずやる気になっているのが雰囲気から伝わってくる。

(オレがどう攻めるのか見て、返す刃でバッサリって考えてるな。
でも、それならそれでいいさ。オレはオレの戦い方で行く)

先手を譲ってくれたのだ。
最大限、有効活用させてもらうとしよう。

(これがオレのイッシュ地方での第一戦だ。絶対、負けられないっ!!)

アカツキはグッと拳を握りしめると、ソロに指示を出した。

「行くぞソロ、挑発だ!!」






To Be Continued…
前の話を投稿して二ヶ月……ハマるゲームがあるとそっちのけになってしまうのが恐ろしいですね。
(ファイアーエムブレムifと大逆転裁判やってました)

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想