エピローグ
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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
「それで?」
「捜査は難航、らしいで?」
カスムの返答に、キリは渋い顔をした。
――カント―を巻き込んだ、ヤマブキ事件が集結してちょうど1か月が経とうとしていた。
ヤマブキ全体を包み込んでいた結界が消えると同時にポケモン警察がなだれ込み、騒ぎの中心であるビルへ突入した。もっともそのころにはボスも四天王も姿を消しており、ブルーやグリーンにくっついていた群衆の一部を逮捕するに留まったが。
キリ・カスム・ユズルの3人は、心身の休養も兼ねてマサラタウンに戻った。ここは、キリの家である。
「厄介な……134……話だな……135」
キリは腕立て伏せをしながら呟いた。背中に乗っているのはカイリキー。妙なポーズを取りながらさわやかな笑顔を浮かべている。
「シゥウウウウ……」
キリの隣では、脂汗を流しながらフーディンが浮かんでいた。背中にはゴローニャがくくりつけられている。
「キリのかーちゃんも厄介やな?」
ギィ、と反対向きに座った椅子からカスムは身を乗り出した。チラリと壁に貼られた紙を見る。
『敗北の罰として、腕立て500×3か月。ポケモンは別メニュー』
キリは眉間に深いしわを刻んだ。
「慣れた。それより、ユズルは?」
「ん?」
「朝から姿が見えない」
「……えーっと」
カスムはキリから目を逸らした。キリがピタリと腕立てを止める。
「……おい」
「一応言ったで。聞かへんかっただけや」
キリががばっと立ち上がった。キリの背中からカイリキーが転げ落ちる。
「ユズ――ガゲブッ!」
「グァン」
飛び出しかけたキリの背中にカイリキーがフライダイビングした。派手に倒れたキリをカスムは同情気味の眼差しで見つめる。
「まぁ、過保護もほどほどにやで。キリ」
「うるさい」
マサラタウンから旅立つ少女がいた。
長かった黒髪はバッサリと切られ、少女の肩口で揺れている。黒のハイネックに上着を羽織り、胸元には神秘のしずくが揺れていた。
晴れ渡った空を見上げ、目を細める。
「気持ちがいいねぇ、メロンパン」
「カメ」
横に立つのは、ずっしりとした巨体のポケモン・カメックス。少女と同じく目を細めると、うんうんと頷いた。
「あ」
少女は神秘のしずくを首から外した。
「これ『いつか引きこもりが治った時に』ってもらったの。メロ、つけてあげるね」
かがんだカメックスの首に、少女は神秘の滴をかけた。カメックスの胸元で神秘のしずくが揺れる。中の水がキラキラと輝いた。
「さて、行こっか。メロ」
「カメ!」
しっかりと、前を見据えて1人と1匹は歩き出した。
〝メグル〟の旅はこれで終わり。
〝ユズル〟の旅は――ここから。