Mission #180 進め、道の先へ

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「ムック、風起こし!!」
「マイナン、電磁波!!」

アカツキとカヅキの指示を受け、ムックが周囲に強風を起こし、マイナンが電磁波を放つ。
タワー内部に潜入した途端、中にいるポケモンたちが一斉に襲いかかってきたのだ。
表情に覇気がまったく感じられなかったことから、機械によって操られているものと思われる。
ムックの風起こしで動きが鈍ったところに、マイナンの電磁波が直撃――タイプや特性で麻痺を無効化できるポケモン以外はことごとく動きを封じられた。
中には地面タイプや『柔軟』の特性を持つポケモンもいたため、電磁波で動きを封じられないポケモンに対しては、セイルとルッチーが攻撃を仕掛け、体力を削り取る。
阿吽の呼吸でそれぞれがパートナーに指示を出しながら、タワー上層へと続く螺旋階段を登っていく。
周囲の状況をつぶさに観察することを怠らない。
なんらかの罠が仕掛けられていないとも限らないのだ。
タワーの全長は百メートルを超える。制御室へ向かうまでにはかなりの距離を登らされることになるだろうから、そういったところも警戒しなければならない。
その一環として、カヅキはイオリに訊ねた。

「イオリ君、タワーの内部に人はいるのか?」
「いないはずです。いるとすれば、装置を直接制御できる最上層だけです」
「あと、バリアの解除装置は?」
「最上層の手前にある制御室です。最上層の扉をロックしてるシステムも一緒にあります」
「オッケー、それだけ分かれば十分だ」

突然の問いかけにも、驚くことなく言葉を返してくる。
さすがに、ここまで来れば覚悟も決まっているだろうし、アンヘルの社員として電波塔のシステムにも多少は携わっているため、内部にもかなり詳しい。

「でもさ、制御室に人がいなくていいのか?」
「セキュリティ上は中枢と言えるけど、装置の命令系統の中枢は最上層の制御装置だから」

ダズルの問いにも、淡々と返すイオリ。
一般人の目線からでは至極当然の疑問なのだが、制御室はセキュリティの中枢であり、命令系統……つまり一番の核となる部分の中枢は最上層の制御装置なのだ。

「それに、ヤミヤミ団の大幹部は全員が出払ってるんだ。
……ここで一般の団員なんか置いたってしょうがない。その分、操ったポケモンたちに任せてるってところなんだろう」
「アイスって人に、ミラカド……それから、さっきの女の人ですか?」
「そうだよ」

カヅキの推論は、正解だった。
ヤミヤミ団が誇る大幹部『地獄の三人衆(トリオ・ザ・ヘル)』は各所を守っていたが、アイスはカヅキによって退けられ、ミラカドとケイノはバロウとラクアが足止めをしている。
ヤミヤミ団の首領からすれば、信頼の置ける三人の大幹部には要所を守らせていたはずだ。
その三人を突破したとなると、そこから先に戦力としては彼ら以下の有象無象の団員を配置したところで仕方ない。
むしろ、機械で操り人形にしてしまったポケモンの方が、何も考えずに淡々と侵入者を始末してくれる。
アカツキもカヅキの言葉には納得していたが、どうにも腑に落ちない点がある。

(あの人がまだ出てきてない……)

今まで散々苦汁を舐めさせてくれた、あの女の姿をまだ見ていない。
いかにも研究者然とした物腰とは裏腹に、悪辣な策を弄する、ヤミヤミ団随一の参謀だ。
このタワー……新兵器がヤミヤミ団にとっての悲願を成就させる鍵になるのなら、タワーの防衛は最大にして最優先の任務となるはず。
――にもかかわらず、彼女が出てきている形跡がないのだ。
もし彼女がなんらかの形で携わっていれば、こんな簡単にタワーに侵入できるはずがない。
アカツキがなんとなく不安に思っていることに、ヒトミが誰よりも早く気づいた。

「あんた、あの女のこと考えてるんでしょ」
「うん。今回も絶対関わってると思うんだけど……それらしい動きがなかったから」
「あんたの言いたいことは分かるわよ。あたしも似たこと考えてたし」

あまりにも順調に行きすぎている。
順調に越したことはないのだが、逆に順調すぎて、どこかに罠があるのではないかと勘繰ってしまうのだ。
ここは敵の本拠地かもしれない場所。
罠を警戒するのは当然のことだし、誰よりも警戒している相手が策士として嫌な意味で優秀な人間なら、なおさらだ。
しかし、不安に思う若いレンジャーたちに、カヅキが言葉をかけた。

「そこは大丈夫だよ。タワーに罠が仕掛けられている可能性はほとんどない。
イオリ君がシステムの最終調整の時に、ちゃんとチェックしてくれてるから。
レンジャーの侵入対策にいくつか罠を仕掛けてたらしいけど、電子的なアプローチがなければ発動しない類の罠だったから、すでに解除済み。
新しく仕掛けなおす時間はないはずだ」
「でも、あの人が……」
「あの人? ……ああ、あの時の人か」

カヅキは眉根を寄せた。
しっかりと前を見据え、マイナンに必要な指示は与えながらも、脳裏に浮かぶのはアカツキとヒトミを絶体絶命のピンチに追いやった白衣の女の、虫をも殺さぬ清々しいばかりの表情だった。
いろいろな人からその女のことは聞いているし、彼も一度は相対したことがあるから、おおよその人となりは理解しているつもりだ。
敵に回すと、確かに恐ろしい相手。
その相手がまったく姿を現していない。それどころか、策を弄した痕跡さえ見受けられないのだ。
アカツキたちが不安に思うのも、当然と言えば当然だろう。
あからさまに見える罠よりも、見えない罠の方が怖いに決まっている。
その気持ちをなまじ理解できるからこそ、今は立ち止まっている場合ではないことも理解していた。

「どんな罠が仕掛けられてたって、突破していくだけだ。
今は立ち止まってる場合じゃない。
もしヤミヤミ団の新兵器が起動するようなことがあったら、アルミア地方中のポケモンが苦しむことになる。
それを止められるのは、レンジャーである僕たちだけなんだよ」
「…………!!」

至極真っ当なことを言われ、アカツキたちはハッとした。
当たり前なことほど、こういった時には忘れてしまいがちになる。
ポケモンレンジャーになってもうすぐ一年になるのに、そんな基本的なこともついうっかり忘れていたのかと思うと、穴があったら入りたい気持ちにもなってくる。

(そうだ……誰が待ってたって、ぼくたちは進んでかなきゃいけないんだ。
バロウリーダーとラクアさんが、ぼくたちを信じて足止めを買って出てくれてる。裏切るわけにはいかないじゃん……!!)

アカツキはぐっと拳を握りしめた。
それぞれが自分にできることを精一杯やる。
そうして全員が力を合わせてこそ、ミッションの成功につながるのだ。どんな罠が仕掛けられていようと、誰が待ち構えていようと、関係ない。
経験豊富なトップレンジャーに勇気をもらったようで、先ほどまで胸に渦巻いていた不安が嘘のように立ち消えていくのを感じていた。
……と、そこでイオリがおずおずと口を開いた。

「新兵器の起動ってことで思い出したんですけど……」
「なんだい?」

立ちはだかるポケモンたちから目と意識を逸らすことなく、カヅキが訊ねる。

「本格的であるかどうかは別にして、兵器自体はすでに起動してるんです」
「なんだって!? どういうことだよ、イオリ」
「話違うじゃん!!」

イオリの言葉に、ダズルとヒトミが声を上げた。
当然と言えば当然だろう。
テレビ塔としての機能が使用開始となり、なおかつアンヘル社創立70周年となる午前0時がタイムリミットだと思っていたのだから。
しかし、イオリの言い方に含みがあると理解していたカヅキとアカツキは、ヒトミとダズルほど大げさな反応は示さなかった。

「本格的って、どういうこと?」
「午後六時……今から四時間半くらい前に、タワー内部のポケモンたちにだけ効果を発揮するように、起動を始めてるんだ。
いきなりフルパワーでアルミア地方全土に範囲を広げたら、装置に大きな負荷がかかって壊れてしまうことにもなりかねないんだよ。
だから、少しずつ出力を上げていって、日付が変わったらフルパワーになるように設定されてるんだ」
「今は十時半……もうタワーの外にまで影響範囲が広がっている可能性が高いな。
プエルタウンには避難勧告が出てるから大丈夫だとは思うけど……」

一般的に、設備を最初に動かす時は、出力を抑え気味にすることが多い。
それはイオリの言う通り、最初からフルパワーなど出してしまえば、突如大きな負荷がかかることで装置にダメージを及ぼす可能性が高い。
だから、徐々に出力を上げ、装置を慣らしていくのだ。

「なんだ、そういうことか」
「最初にそう言ってよ。ビックリしちゃったじゃない」

皆まで言われて、ヒトミとダズルも納得したようだった。
とはいえ、すでに新兵器が出力を控えめにしながらも起動を開始しているという事実は無視できない。
いくら『ドカリモ』や『モバリモ』を破壊しても、タワーの新兵器が健在していれば、根本的な解決にはならない、ということなのだ。

「でもさ、それって早く装置止めなきゃヤバイってことじゃねえの?」
「どっちみち止めるのがあたしたちの目的なんだから、やること自体は変わらないわよ」
「ま、そりゃそうだ」

そう。
どんな状況でも、自分たちのやるべきことに変わりはない。
ダズルとヒトミのやり取りから改めて確認し、アカツキは肩越しに背後を振り見やった。
タワーの中央部はエレベーターが通っているため、エレベーターを挟んだ螺旋階段の向こう側は見えないが、だからこそ操られたポケモンたちは進行方向から襲いかかってくる。
幸い、道を切り拓いてきた背後にポケモンの姿はなく、当分は挟み撃ちに遭う心配もなさそうだ。

(これなら、前から襲ってくるポケモンに対処してれば大丈夫だ。
イオリも、怖がってない……大丈夫)

キャプチャの合間を縫って、周囲の状況を確認する。
すでにカヅキが何度もやっていることだが、彼一人に負担を押し付けるわけにはいかない。
トップレンジャーとして、自分たちよりもずっと有能で実力者である彼なら、それくらいは簡単なことかもしれないが、誰よりも戦力になるからこそ、余計な負担をかけたくはなかった。

(でも……これだけのポケモンを揃えるなんて、簡単なことじゃない。
ボイルランドで誘拐した以外にも、たくさん同じことをしてたんだ……!!)

襲ってくる多種多様なポケモンのキャプチャを行いながら、アカツキはヤミヤミ団が各地からポケモンたちを連れ去り、防衛のために利用していることに対して怒りを露わにした。
もし、自分たちがボイルランドでの事件を解決していなかったら、誘拐されたゴーリキーたちはここで自分たちに襲いかかってきたのかもしれない。
四人合わせて、すでに数十体のポケモンをキャプチャしている。
アカツキが知る限り、アルミア地方に棲息していないポケモンも中に含まれていることから、ヤミヤミ団がアルミア地方だけでなく、他の地方でもポケモンの誘拐などの悪事を重ねてきたのは間違いない。
それに……

(ヤミヤミ団は一体何がしたいんだろう……?)

今になって、不意にそんな考えが脳裏を過ぎった。
今までは大して考えたこともなかった。
悪事を働き、ポケモンを苦しめたり平和を乱したりしているのだから、相手がどこの誰だろうと許してはならない……ポケモンレンジャーとして当然の考え方を抱いていたからだ。

(今までそんなこと、考えもしなかったな)

当然と言えば当然だが、何事にも理由がある。
ヤミヤミ団が『何のために』ポケモンを操る機械を開発し、アルミア地方の平和をいたずらに脅かしてきたか?
そして今、アルミア地方中のポケモンを掌握しようとしているのはなぜか?
何かしらの理由があるのは間違いないが、ただ一つ言えるのは、その理由とやらがロクでもないものであるということだ。

(いつかは分かることなんだろうけど、相手の目的が分からないってのは、なんか気持ち悪い)

悪人の目的や考えなど、自分が考えるだけ詮無いのは分かりきっているが、何をしようとしているのかも分からないというのは、梅雨時の肌にまとわりつく湿気のように気持ち悪いものだ。
とはいえ、アカツキが考えていることは、この場の誰もが同じように考えていることでもある。
誰も口にしないのは、それを今この場で議論すべきことではないと思っているからだ。
そこから先は誰も口を開かず、ポケモンレンジャーの四人は襲いかかってくるポケモンたちをひたすらキャプチャし、イオリは邪魔にならないよう彼らの仕事を見守りながら、少しずつ階段を登りタワーの上層へと向かった。
タワー突入から約一時間後、優に数百体のポケモンをキャプチャし、アカツキたち一年生は言うまでもなく、トップレンジャーのカヅキですら疲労をにじませていたが、タワーの外周に沿って築かれた螺旋階段を登りきることができた。
階段を登った先は展望台のようなフロアになっており、フロアを挟んで下り階段と反対側に、さらに上へと続く階段があったが、途中で分厚いシャッターに遮られ、先へ進めなくなっている。
そして、エレベーターはこのフロアが最上階らしく、さらに上へと進むには階段を登るしか道はなさそうだった。
いわば一般人が立ち入れるのはここまでで、三百六十度をガラスで覆っているところからすると、展望フロアといったところか。

「イオリ君、制御室はこのフロアにあるのかい?」
「え、ええ……」

カヅキの問いに、イオリは息も絶え絶えに答えた。
ポケモンレンジャーの四人は多少息を切らす程度で済んでいるが、運動が苦手で、普段からあまり運動に縁のないイオリには、ここまでの道中は苦行だったに違いない。
額にびっしり浮かんだ汗と、肩で繰り返す荒い呼吸が、色濃い疲労を漂わせていた。
自分たちとは明らかに疲労の度合いが違うことが見て取れて、アカツキたち三人は口々に言葉をかけた。

「イオリ、大丈夫?」
「あんたしかプログラムいじれないんだから、あんまり無理しないでよね」
「歩くの無理だったら言えよ。オレがおぶってやっから」
「なんとか大丈夫……だと思う」

心配そうな顔を向けてくる三人に小さく息をつきながら微笑みかけ、イオリは言葉を返した。
タワー突入からここまで一時間ほどかかっているが、その間中、走りっぱなしだったわけではない。
むしろ、立ち止まっている時間の方が多かったくらいだ。
しかし、襲いかかってくるポケモンから逃げ回ったり、アカツキたちの足を引っ張らないような位置取りを心がけたりと、精神的な疲労の方が強かった。
それでも、ポケモンレンジャーの四人が必死にポケモンたちのキャプチャを行っているのを見て、自分が先に弱音など吐くわけにはいかない……ここまで泣き言一つ言わなかったのだから、大したものだ。

「イオリ君、あまり無理はしないように。それで、制御室は?」
「あそこです」

イオリが指差したのは、上へ続く階段だった。
正確には、階段の真下に位置する小部屋。

「階段の下に、制御端末(コンソール)の置かれた小部屋があるんです。そこからなら、なんとかなるかと思います」
「上へと続くシャッターの開閉もできるかい?」
「はい。なんとかしてみます」
「分かった。
アカツキ、ヒトミ、ダズル。君たちは下からポケモンが上がってくるようだったら、キャプチャして食い止めるように」
『了解!!』

カヅキの指示に頷き、アカツキたち三人は今しがた上がってきた階段の前に陣取った。
フロアにはポケモンの姿が見当たらないが、下手に暴れて上層へのシャッターを壊されてはたまらないと、ヤミヤミ団が配慮(?)しているのかもしれない。
ならば、操られたポケモンがやってくるとすれば、下から。
最初の方にキャプチャしたポケモンたちも、そろそろ機械の影響を再度受けて、こちらへ向かってきている可能性が考えられる。
イオリの作業が終わるまでは、ポケモンたちを近づけさせてはならない。
万が一制御端末を壊されるようなことがあれば、目も当てられない。

(……頼んだよ、イオリ)

制御室へと向かうイオリとカヅキを肩越しに見やりながら、アカツキは胸中でつぶやいた。
アンヘル本社のコンピュータールームよりも上位に位置する場所からなら、制御を受け付ける可能性がある。
最初から制御を受け付けない状態では話にならないが、そうでなければ、イオリなら何とかしてくれるはずだ。
だったら、自分たちは自分たちに与えられた仕事をするまでのこと。
アカツキたちが階段の見張りに立つ中、カヅキとイオリは制御室へと足を踏み入れた。
扉が壁に擬装されていたが、見る人が見ればすぐに分かるものだった。
制御室にはパソコンが一台置かれているだけで、広さも二人入ればそれなりに窮屈さを感じるものだったが、今はそんなことを言っている場合ではない。
イオリはすぐにパソコンを起動させると、新兵器のプログラムにアクセスした。
真剣な眼差しをモニターに注ぎ、凄まじい速さでキーボードを打つ少年の後ろ姿を見て、カヅキはこう思った。

(アカツキたちのために、時間はかけられないと思ってるんだろうな……)

新兵器が本稼働を開始するまで、あと三十分。
もはや、影響範囲がどこまで拡大しているかも分からないが、あと三十分でプログラム面からの無力化を試み、もしも無理ならば最上階に向かって、兵器を直接叩いて壊す。
カヅキはあと三十分で何から行うべきか考えていたのだが、途中でイオリが上げた声に、考えを中断せざるを得なかった。

「あっ……!!」
「どうした、イオリ君?」
「ダメです。システムの制御は十分前にロックされてます。バリアなんとか取れましたけど……」
「ここからでもダメか……」

イオリの言葉は、予想の範疇だった。
もしもここでプログラムの無力化が不可能なら、最上層へと続くシャッターを開けて、直接乗り込むしかない。
カヅキからすればプランの一つが潰れたくらいで、状況が絶望的に傾いたわけでもないのだ、特に驚いたりはしていない。
少なくとも、タワー最上部を覆っているバリアさえ取れれば、上空から『王子の涙』を近づけることはできる。

「分かった。このフロアから下に降りるところのシャッターを閉じて。それと最上層へと続くシャッターを開けられるかい?」
「はい、それくらいなら」

カヅキの言葉を受け、すぐにイオリは指示されたシャッターの開放を行った。
新兵器のプログラムへの回路はすでに閉ざされているが、タワーの機能とは独立したものであるため、タワー内の制御であれば可能なようだ。
アカツキは背後でシャッターがゆっくりと上昇していくのを重そうな音で察知していたが、目は階下に向けていた。
同時に、階下へと続くシャッターが閉まる。
道を拓くと共に、下からの襲撃を阻止したのだ。

(シャッターを開けたってことは……)

制御室に入ってから数十秒。
成功の話が来る前にシャッターを開けたということは、考えられることは一つだった。

――プログラム面からの無力化が失敗。

直後、フロアに轟音が響いた。

「……!?」
「な、なんだぁ!?」

何の前触れもなく響いた音に、アカツキたちは思わずフロア全体を見回したが、最上層へと続くシャッターが開いた以外、特に変わったところは見当たらなかった。

「シャッターが開いたけど……」
「その割には無駄に大きな音じゃなかった?」
「だよなあ」

階下から襲撃される危険性がなくなったことから、アカツキたちは手分けしてフロアの状況を確認したものの、異常は見受けられなかった。
異常はないが、ただの物音にしてはあまりに大きすぎる。

(……もしかして……)

アカツキたちはほぼ同時に、カヅキとイオリがいる階段下の制御室に目を向けた。
タイミングを合わせるように、制御室の方からカヅキの声が聴こえてきた。

「アカツキ、ヒトミ、ダズル!! こっちに来てくれ!!」
「……!!」

三人が慌てて制御室へ向かうと、そこには扉の代わりに鉄格子がはまっていて、カヅキとイオリは中に閉じ込められていた。
格子は太く丈夫そうで、並大抵の力ではとても破壊できないように思えた。
先ほどの轟音は、鉄格子が勢いよく落下する音だったのだ。
あと十センチ後ろに立っていたら、落下する鉄格子がカヅキの脳天を直撃していたのだが、辛うじて無事だった。
二畳もないような狭いスペースに立ったまま閉じ込められ、イオリは不安を隠せない様子だった。
対照的に、カヅキは冷静そうに見えた。
今まで幾多のミッションを経験し、こういった状況にも慣れているからだろう。
淡々と構えている様子は、ともすればイオリと同じように不安に囚われそうになるアカツキたちの気持ちを辛うじて上向かせていた。

「カヅキさん、大丈夫ですか!?」
「大丈夫。
こっちに罠が仕掛けられているとは思わなかった……さすがに、予想外だった」

アカツキの言葉に頷き返し、カヅキは状況を手短に説明した。
プログラムへのアクセスに失敗したため、最上層へ向かう階段を閉ざしているシャッターを開いたまでは良かったが、シャッターを開いたことで罠が作動し、制御室に閉じ込められてしまった。
恐らくは、制御室にシステムを扱える人間を閉じ込めることで、最上層でのアクセスを封じようという腹積もりなのだろう。

「じゃあ、この檻をぶっ壊しちまえば……」
「ダズル、それはダメだ」

ダズルが鉄格子の破壊を提案したが、あっさりとカヅキに否決された。
なぜだと言いたげな彼に穏やかな目を向け、続ける。

「檻だけを壊せればいいけど、余波でここのシステムに影響を与えるようなことがあったら、何が起こるか分からない。
せっかく上へと続く道が開けたのに、また閉ざされるようなことにもなりかねないんだ。
幸い、タワーのシステム自体は生きてるから、イオリ君にこの罠を解除してもらうことはできる。
それよりも……」

カヅキはアカツキたち三人の顔を順番に見やった。

(カヅキさん、どうしたんだろう……?)

トップレンジャーが閉じ込められるなど、予想外の事態だ。
だが、彼はとても落ち着いている。この状況を必ず打破できると考えているからだろう。

(だったら、ぼくたちが心配なんかする必要、ないじゃん……)

カヅキも、パートナーポケモンのマイナンも冷静に構えている。
自分たちがわざわざ心配する必要はない……いや、心配するよりも先にやらなければならないことがあると見せつけているかのよう。

「イオリ君が罠を解除してくれるまで、僕はここを動けない。
だから、君たちが先に進むんだ」

カヅキの言葉は、ポケモンレンジャーとして考えるなら当然のものだったが、トップレンジャーを置いて先へ進めという意味では、アカツキたちに多大な衝撃を与えるものだった。






To Be Continued...

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