モクローに落石

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作者:IW:
読了時間目安:5分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「モクローに落石」
どうにも逃れようのないような、差し迫った状態や立場にあること。また、その例え。
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少年はうぬぼれていた。ポケモンは怖い生き物だ。それを忘れていた。
辺りは暗い。森の中だ。月が変わらず輝いている。


 まだスマホロトムも、機械製のポケモン図鑑もないこの時代、モンスターボールでポケモンと人間は少し繋がったとはいえ、ポケモンは人間に十分命の危険を与える。整備された拠点の付近なら助けも呼べただろう。ここが調査隊ナナツボシ以上しか入れない山奥でなければ。
 調査隊員は、14歳になれば志願し試験に通ることでなることが出来る。とにかく人手が足りないのだ。昔からポケモンと共に暮らしてきたここアローラの土地では、ポケモンを調査し、分類するという意識がまだ薄い。
 少年は14歳になるとすぐに調査隊入隊を志願し、2回目の試験で晴れてヒトツボシ隊員となった。しかし調査隊員とはいえ、所詮は14歳。見たこともないポケモンをひとたび見たら、規則など無視、つい飛び出してそれを捕獲したくなるものである。特に、先人たちの書き残した図鑑に全く載っていないようなポケモンは。
 少年にはそれなりの才能があった。3匹しか用意されない、調査隊隊長の選んだポケモンの内1匹を持っていた。ポケモンはモクロー。草羽ポケモン。草・飛行タイプだ。
 少年少女に最初のポケモンとして、草・炎・水のタイプのポケモンを与えるのは慣例として有名だ。タイプの相性を早いうちから学べるから、という説もある。
 しかしモクローはそれとは少しだけ違う。持っている属性は草タイプだけではない。飛行属性も持ち合わせている。

 少年はこう考えた。其処に居る野生のポケモンは見た目からして岩属性。モクローは草タイプ。葉っぱカッターで打撃を与え、その隙に接近。驚かすで怯ませ、その隙にヘビーボールを当て、捕獲する。巨体であるのでボールも当てやすいだろう。
 少年の指示は的確だった。モクローもそれに答えた。モクローは元々夜行性だ。しかも羽音もなく飛び、急激に接近する。残り二人の選んだニャビー、アシマリにはできない芸当である。この正体不明のポケモンを捕獲すれば見返せるかもしれない。この時少年の調査隊ランクはミツボシ。同期は間もなくヨツボシに昇格ではないかという噂も上がっていた。
 しかし、葉っぱカッターは傷一つつけなかった。驚かすもほぼ効果がない。とっさに泥団子を相手の目に向けて投げる。が、驚いたことに相手の目は一つや二つではなかった。
 少年は知る由もないが、その野生ポケモンに、のちの時代に与えられたコードネームはLAY。正式名称:ツンデツンデ。岩・鋼タイプである。草タイプの技は、等倍の相性だ。
 普通ならばその様なポケモンはこのメレメレ島には生息していない。比較的危険の少ない、安全な島だ。しかし、自然とは人間の「普通」がまかり通る場所ではない。彼らのテリトリーを犯した者には、それ相応の報復が与えられる。それは異世界のポケモンでも同じことである。
 そしてうぬぼれた少年は攻める事しか考えていなかった。確かに、草タイプは岩タイプに抜群だ。有利な相性である。しかしまた、岩タイプは飛行タイプに抜群となる。モクローにとって、攻撃値131から放たれる容赦のない落石は、それ即ち死か、それに値する意味を持つ。特別な身体的能力を持たない一般の人間にとっても、例外ではない。


少年はうぬぼれていた。ポケモンは怖い生き物だ。それを忘れていた。
辺りは暗い。森の中だ。月が未だ、変わらず輝いている。
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「モクローに落石」
どうにも逃れようのないような、差し迫った状態や立場にあること。また、その例え。
モクローには草タイプだけでなく、飛行タイプも存在するため、岩タイプに有利だと思い込んだトレーナーが成すすべもなく返り討ちにあった、という故事に基づく。アローラ地方ではことわざとして、言い伝えられている。

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