食の権化

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第二話です。
森の南で暮らしていたルカリオに化けたゾロアークは、ひょんなことからグレイシアを助け、住処の洞窟で暮らすことに。しかし彼女は助けられたことも良しとせず、仲間にも問題を抱えている様子。薬草を取りに行き襲われたグレイシアをまたも助けたゾロアークは、洞窟で“妹”を名乗るニンフィアと出会うが……。
「もう、こんな洞窟にいたら見つかるわけないよぉ!」

 朗らかに笑う彼女の大声が、洞窟内に木霊する。

 俺はその声にたまらず耳に手で蓋をする。

「もう少し声のボリュームを調節できないのか!?」

 ニンフィアに文句を言う。

「あは、ごめんね?」

 素直に謝るようだ。

 ニンフィアは俺と気を失っているグレイシアの方に近づいてくる。

「ほら、帰るよ!起きて!お姉ちゃん!」

「お前の姉だったのか?」

 俺はグレイシアの呼び方が気になって尋ねる。

「そうだよ?お姉ちゃんは私のお姉ちゃんだよ?」

 言い回しがやけに子どもっぽい……というより本当に子どもなのだろう。

「うう……」

 グレイシアが頭を押さえながら目を覚ます。

「あっ!お姉ちゃん!私だよ?分かる?」

「その馬鹿デカい声はあんたしかいないから分かるわよ……」

 心配する妹に、不機嫌な声で答えるグレイシア。

「もう!みんな心配してたよ?」

「早く帰ろっ?」

(この流れは……。)

 俺は心の中でガッツポーズをした。

 このまま帰ってくれるなら、俺も静かな生活に戻れるというものだ。

 そういうことならとっとと連れて帰ってもらって……。

「嫌よ。帰らない。」

 グレイシアのセリフを聞いて、胃が2、3センチ沈んだ。

「今更帰ったところで何にもならないわ。私はここで暮らすの」

(いや、帰れ……!頼むから……!)

 俺は彼女が折れることをひたすら祈る。

「そんなぁ! 私だってお姉ちゃん連れて帰らないと家に戻れないよぉ!」

「知らないわよ。じゃあ“彼女”を謝る気にさせたらどうなの!?」

「そ、それは……」

 姉だというのに妹に容赦なく、えげつない言いようだ。

「で、でも、ここ南側だよ? 食べられちゃうよ?」

「ここにいれば怪物も来ないから大丈夫よ。そうよね?」

 グレイシアは俺の方を見た。

 俺は迷った。ここで来ないと言ってしまえば、帰らなくなるかもしれない。

 俺は悩んだ末に、一刻も早く静かな暮らしになるであろう方を選択する。

「いや、まあ、今までがそうだっただけで安全とも言い切れないような……」

「何よっ! この前と言ってること全然違うじゃない!!」

 グレイシアは怒って俺を睨む。

「お姉ちゃん……」

「最悪。もういいわ。帰るわよ。帰ればいいんでしょ!?」

 グレイシアは立ち上がり、ルカリオの俺の鼻の前に指を突き付ける。

「ケガの手当てはどうも! もう二度と会うことはないけどね!」

 グレイシアは怒りに任せた大声でそう言い放ち、洞窟から出て行った。

「待ってよ! お姉ちゃん!」

 ニンフィアはグレイシアを追いかけて走り去ってしまった。

 この南の洞窟に残ったのは、俺だけ。

 この静けさが当たり前だったのかと思うと、胸になんだか違和感が残った。

「二度と来ねぇ、か……」

 まさか自分が望んでいたことを相手に言われるとモヤモヤが晴れない。

 まあ、これでもう誰かと暮らさなくていい。そう思うと俺の心は自由を実感していた。



 * * * * *



 グレイシアとニンフィアが去ってから数日経った。

 俺は以前の生活に戻り、自由に暮らしていた。

 自分が怪物を見せていたことを思い出したが、この数日間は誰も南に来なかった。

 もちろん、あいつらも。

 俺はいつも通り木の実を採りながら食べ物、薬草などを探して歩き回っていた。

 一つの木から取りすぎないようにしているので、この辺りだけでも十分な食料は集まるのだった。

 いつも通り木の実採集をしていると、最近変な出来事があって警戒が緩まってのもあり、不覚にも足元にあった“何か”に気づかなかった。

 1メートルほどの距離に近づき、視界に入ったので驚いて警戒する。

 若干だが地面の色と同化していなくもないその“何か”は、ポケモンのようだ。

(迷い込んだのか……?)

 俺はとっさにイリュージョンを見せようとするが、発動前に俺の気配を感じたのか、足を掴まれた。

まるで死に際に藁にも縋る思いで助けを求めるような這いずり方。しかしその力は弱く……。

「ぐぅ~~……」

 腹の虫が鳴った。俺のではないが。

 そのポケモンは俺の足を掴んだまま今にも消えそうな小声で話す。

 何かを喋っていることに気づいた俺はしゃがんで耳を近づける。

「ご飯、を、わけて、くだ、さい……」



 * * * * *



「いや~本当にありがとうございます~」

 そのポケモンは俺が集めた木の実を凄いスピードで食べていく。

 “遠慮”という二文字はこいつにはなさそうだった。

「わらひ、ひーひあほ、ほうひまふ」

「食い終わってから言え。何言ってるかさっぱり分からん」

 飲み込んだ後、俺の方をもう一度向く。

「私、リーフィアと申します」

「飢え死にしかけていたところを助けていただいて、ありがとうございます~」

「お礼にできることならするので何でも言ってくださいね」

 俺はがっかりした。こいつもここに居座る気がしたからだ。

「いらねぇ。食い終わったのなら帰れ。住み家はこの辺りじゃねぇだろ。」

「そんなこと言わずに、何でも言ってください~」

 俺は追い払う前に疑問を投げかける。

「じゃあ聞くが、何であんなところで倒れてたんだ」

「それは、家族を追いかけてたら、見失っていつの間にか……」

リーフィアは頭の葉を分かりやすく萎れさせて答える。

「その家族は?見つかったのか?」

「いいえ……どこに行ったのかわからなくて……」

 どうやら家族とはぐれてしまったのは本当のようだ。

「木の実も高い場所にあって取れても量が少なくて……死ぬかと思いました」

 笑いながら話しているが、俺が助けなかったら笑い話では済まなかっただろう。

「ところで、お名前は?」

 リーフィアは俺に尋ねてくる。

「何で名乗らないといけないんだ」

「名前を尋ねるときは、まず自分から、って言うじゃないですか?」

(俺別に訪ねてない…使い方間違ってるだろ…)

 あまり頭がよくなさそうだと思う。

 それもそのはずついこの間あったニンフィアと同じくらい体も小さく、どこか幼さが見える。

 このリーフィアが少しだけ大人びていると感じさせられるのは彼女の話し方だけであり、それ以外は食べ方含め幼さを感じさせられる。

「名前、教えてくれないんですね……」

 急にブラウンの瞳を潤わせ悲しそうな顔をされたことに驚いて、俺は口から言葉がひとりでに出た。

「誰とも一緒に生活していなかったから、名前がないだけだ。種族名はルカリオだが……」

 俺が名前を口にした途端、頭の葉を元気に立て、目を輝かせて俺を見る。

「じゃあとりあえずルカリオさんって呼ばせてもらいますね?」

「勝手にしろ」

 分かりやすく揺れるリーフィアの尻尾を横目に、そっぽを向く。

 俺はまた一匹の暮らしをこのリーフィアに邪魔される未来を悟るのだった。




 * * * * *



登場ポケモン紹介

グレイシア♀ (姉?)

きつい性格の女の子。機嫌によって言動が変わる。妹に対しても一切の容赦無し。

自分の嫌なことは嫌だとはっきり言うタイプ。

年齢:??歳

好きな食べ物:甘いもの(あまり知られたくはない)

嫌いな食べ物:苦味のあるもの、辛いもの、熱いもの



ニンフィア♀(妹?)

声が大きく、明るい女の子。よく笑う。

どんなに言われても、姉が自分を嫌ってはいないことが分かっているため、めげない。

年齢:??歳

好きな食べ物:姉の手作り料理

嫌いな食べ物:辛いもの



リーフィア♀(??)

礼儀正しく、敬語も使えるが、まだまだ幼さの抜けない女の子。

食べることに関しては遠慮がなく、大型ポケモンに負けない量食べる。

年齢:??歳

特に好きな食べ物:野菜全般

嫌いな食べ物:なし
お読みいただきありがとうございました。
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