※この短編は伊崎つりざおさん作【滅ビシ獣ラ】の三次創作になります。
※時間軸想定は本編開始前となってます。
※作中ではメガシンカやダイマックス。Zワザにテラスタルを自由に使える世界観になっております。
※また、それらとは別に境界解崩という特殊な必殺技を使用します。
もし、そのような世界観に興味があれば、連載本編もどうぞ。
『正気ですか、万緑の庭師さん』
スマホロトムが映し出すチャット欄の“虹の黎明”は、ひどく気乗りしない様子で万緑の庭師こと、ソテツ・センバに『やはり、思い留まりませんか?』とテキスト入力を続ける。
学園GAIAでバトルのプログラムの試験官をしているソテツは『それでも』と虹の黎明が開発したとある模擬戦闘プログラムを訓練に使用したいと頼み込む。
『そこをなんとか頼むよ、虹の黎明さん。どうしても、練習場が欲しいんだ』
『しかしですね、いくら個人的に改良を進めて脅威は減ったとはいえ、到底オススメできるものではありませんよ、アレは』
『どうしてだい?』
『メンタル面に非常に強いストレスと負荷がかかるからです。使用者の安全を保障できません……私は人殺しにはなりたくありませんので』
『おおう……他には?』
『模倣と言えどあくまで対戦相手はAIによる計算結果なので、現実との齟齬は大きいです。コンピュータとの対戦ゲームなので、本人の方が高いポテンシャルとスペックを発揮するでしょう』
『ふむふむ、他は?』
『その上で貴方がボコボコに負けるからです』
『断言するね』
『ええ、断言しますとも。貴方の望むようなポケモンバトルは出来ないでしょう、とね』
きつく言われ、ソテツは「手厳しいね」とため息と共に零した。
しばしの沈黙のあと、虹の黎明は続ける。
『万緑の庭師さん、貴方はどうして強さを追い求めるのですか』
『お、そこ聞くのかい』
『聞きますとも。少なくとも聞く権利は私にはあると思います』
『そうだね……うん現チャンプとルカリオとのバトルは楽しかったなあ……』
『? 話を逸らさないでください』
『つまりはそう言うことだよ』
『は?』
『だからだね……』
察せないでいる虹の黎明に、ソテツは言葉の限りを尽くして説明する。
ソテツ自身もこんなに流暢に入力できるのか、と思いながら長文を打ち込む。
そして、帰って来た相手の反応は、
『…………………………馬鹿ですか?』
心底呆れて信じられない、と言った様子だった。「(あ、これは頭抱えているだろうな)」とソテツは画面の向こうの虹の黎明を想像しつつ、『理解はされなくていいよ』とぼやいた。
『頭のまわる馬鹿だったんですね』『幻滅です』『まったく、あの方が可哀想です』『なまじ強いだけに腹が立ちます』などと言った罵倒の末、虹の黎明は折れた。
『馬鹿につける薬はありません。が、もしこのプログラムが薬になるなら、使った方がいいです。そして痛い目見ればいいと思います』
『おお、ありがたい』
『ただし、私がモニターしているときだけにしますからね。毎回パスワードも変えますし、いつでも中断する権利は私に持たせてください。良いですね?』
『うん、それがいい』
しばらくして、虹の黎明からそれにアクセスするためのパスワードが送られてくる。
夜間のライナーに揺られながら、ソテツはその地に足を赴く。
その場所は、ユニオンルーム。ポケモン交換やバトルなどを世界各国様々なトレーナーと行える仮想空間である。
ルームを作って見知らぬ人から知り合いまで募集をかけたりすることもできるこの仮想空間。
その待機室にて、ソテツは指定されたルームにパスワードを入力する。
すると、ソテツの目の前に、一つのシステムメッセージが現れた。
『welcome_to_another_side▼』
「アナザーサイド……ね。出てくるのは亡者共かな」
虹の黎明制作アナザーサイドは、基本的にはユニオンルーム用の機械端末から接続できるが、一般のシステムサーバーとは異なる裏サーバーになっている。一般回線に認知されない閉鎖的な裏ルーム。逆に言えば妨害も助けも来ないというこの暗めのこの空間の先に、ソテツはひとりの小柄なトレーナーの姿を認識する。
「ちゃんとリクエスト通りに設定してもらえたようだね」
薄闇の中ぼんやりとした輪郭を纏った、濃いピンクの髪に青の大輪の薔薇飾りをし、黒を基調とした荘厳な衣装に身を包んだ女性、GAIAの学園長であり試験官のひとり、『極点零下の武器商人』、トレンチ・コートを模したAIは、凍てつくような鋭い目つきのまま、不敵に笑った。
『なんの用? 忙しいから手短に済ませて頂戴』
「……いやねー、他の先生方もとても強いのは骨身にしみているし、若い子でどんどんバトルが強い子が増えているのも肌で感じている。その中でオイラはついて行けているんだろうかって心配にもなる時もある。だがね、」
『…………』
「理想を求めるには、最低限でも並び、そしてその先を生きるしかないんだ」
『……人生相談でもしに来たの?』
「ある意味ではそうかもね――――じゃ、おしゃべりはこの辺で、まずは一戦、よろしくお願いするよ」
トレンチAIが『あっそ』と呟くと、暗闇の世界が一転する。
そしてライトで照らされた観客の居ない試合会場へと、ルームが変質する。
『……じゃ、ルールを確認するわ。試合は3on3のシングルバトル。特殊介入は3回、境界解崩も3回。それで大丈夫?』
「ああ」
『オッケー。じゃあ、全力で挑んできなさい』
* * * * *
連敗につぐ連敗。それが今のところの戦績だった。
しかしソテツはめげるどころかどこか楽しそうに、「次はどうするかな」と作戦を練っていた。
その様子をモニターしていた虹の黎明は、ソテツに質問を投げかける。
『何故、彼女を訓練相手に選んだんですか?』
虹の黎明に問われ、ソテツはさも当然のように答える。
「何故ってそりゃあ、今一番負けたくない相手だからだよ」
疑問符を掲げる虹の黎明に、「少し昔の話をしようか」とソテツは己の経緯と心境を吐露した。
「オイラたちの故郷の地方の騒動が収まって、リーグやジムを作ろうって流れになってチャンピオンを任された時、研究に色んな地方の大会の映像記録をひたすら見ていた時があってね。そこでトレンチ・コートさんを知っていたというわけなんだが……」
「トレンチさんの初めてイジョウナ地方でチャンピオンになったバトルの最終局面を見た時、オイラはこう思ったんだ」
「楽しそうだなあ……とね」
「今までは地方を、国を守るために負けられない闘いが多くて、必死に勝って勝って勝っていたら、いつの間にか強者の側にカウントされていて、いつしか周りと全力で戦うことも少なくなっていた」
「強敵との戦いも、実戦が多かったからね。あんまり全力で楽しむことは出来なかったのかもしれない」
「だから現チャンプとルカリオに負けた試合で、負けてもいい環境で全力を出せる試合がこんなに楽しいのか、ってことを、知ったんだ」
「そして、世界にはまだまだそういう場があると思うと、居てもたってもいられずに旅立っていたよ」
「だけどね」と。楽しそうな笑みから一転して、ソテツは苦笑を浮かべる。
「最初は、正直わくわくしながらGAIAの戸を叩いたね。あのトレンチさんがトレーナーを育てるために強者を求めているって聞いて、期待していたよ」
「だが、蓋を開けてみれば、そんな生易しいものなんかじゃなかった」
「勝者と敗者を容赦なく選別し、勝者を企業への売りにする。しかもそれを歳半ばの生徒で、だ。アフターケアもへったくれもない、負けた者は“無能”の烙印を押され、世界から爪弾きにされる、扉の中はそんな若者を娯楽の道具と食い物にする地獄だったよ」
「オイラは思ったよ。トレンチさん、キミはいつからつまらない“商人”になってしまったんだい。キミはポケモンバトルを心の底から楽しめる、同類じゃなかったのか? とね」
「誰かが言わなくちゃいけないと思ったよ。“こんなのは間違っている”ってね。でも、彼女達は敗者の言うことは聞かないんだ。だから、オイラは勝者にならなければならない。でも、ただ勝者になるだけではダメだ。それでは彼らと同じだからね」
「だから、オイラはオイラのやり方で勝たねばならない」
一呼吸おいて、その自身のやり方をソテツは語り始める。
それは、脆くも純粋な夢のような、願いだった。
「それは、『真剣勝負は、ポケモンバトルは楽しいんだ』って想いを生徒たちに忘れないで強くなってもらうこと。そのためにはオイラ自身が強くなきゃハナシにはならないだろう?」
「そうしてそういう考えを持つ強者をより多く育てれば、このおかしい現状に少しでも種をまくことができるかもしれない。まあ、そこはあんまり他力本願しちゃいけないのだけれども」
「試験官は生徒たちにとって乗り越えなければいけない壁だ。だがオイラたちは壁である前に先生であるべきだ」
「理不尽に大人げなく蹂躙し振るいにかけるだけがオイラたちの仕事じゃない。生徒たちの成長を促し、時には導く。それが試験官だ」
「たとえ馬鹿にされても、決して受け持った生徒に“勝てなくてごめんなさい”と泣きながら謝られるそんな先生であってはならない。ならないんだ」
握る拳の力を強めて、ソテツは虹の黎明へ作り笑いを作り、「さて、休憩もこの辺で。もう一戦セッティング頼むよ」と訓練の再開を頼んだ。
心配する虹の黎明をよそに「大丈夫、まだ笑えている。笑えなくはなっていないから」とソテツは自身にも言い聞かせるように呟いた。
* * * * *
しんしんと、バトルフィールドに雪が降り始める。
試験官の役割も担うトレンチ・コートの専門タイプは『氷』。故にトレンチAIのバイバニラも登場と同時に、氷タイプの防御を固める雪の天候の起点を、その身に持つ特性『ゆきふらし』によって作り出す。
「凍土の中でも大輪咲かせ――――『キョダイマックス』」
凍える息を吐きながら、ソテツは自身のフシギバナに『キョダイマックス』をさせ、姿を変化させる。
ハンドサインと共に先手で『キョダイベンタツ』の巨大蔓を振るうフシギバナ。
直撃する間際、トレンチAIがジャストタイミングの指示でバイバニラは『オーロラベール』を展開させる。雪天候に加え、そのベールでダメージを大幅に軽減した。
そこからバイバニラは『とける』で防御力をさらに上げようとする。
だが『キョダイベンタツ』の残した置き土産のスリップダメージがじわじわとバイバニラを苦しめる。それは重ねた防御をもすり抜けていく。
しかし、守りを固められては決定打にならないのはソテツも解っていた。
バイバニラがその身をどろどろに溶かし地上を移動し始めた時、ソテツはフシギバナに指示。
「今だフシギバナッ『ダイアシッド』ッ!」
『Giiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiira!!!!!』
『ッ、なるほどね……!』
毒液の波にさらわれるバイバニラ。『オーロラベール』で軽減しているとはいえ予想外の方向からのダメージに、バイバニラは溶けた身体を再構築するまでに時間を要してしまう。
元の姿に戻ろうとしているバイバニラに、再び『キョダイベンタツ』が襲い掛かる。
毒液の中に戻るか、そのまま巨大蔓を『オーロラベール』で受けに行くか。
その2つの選択肢、どちらでもない選択をトレンチAIはした。
後続のつなぎの為に、あえてバイバニラで攻撃を避けずに受けるという選択をとった。
……トレンチAIはすぐさま境界解崩を使用。
『 Type - Ice / Category - Environment 』
『悪いけど、この凍雪は私のモノ。貴方の思惑には嵌らない。《絶凍下限突破・零点》』
瞬間、辺り一帯に振り始める霜。極寒の空気が満たされえていくフィールドに、毒液すらも凍りつき、スケートリンクのごとく固まる。
この境界解崩は気温の最低値、絶対零度すらも超えて下がり続けるという、とんでもない代物である。
氷タイプ以外すべてが動けなくなるまでのタイムリミットが課されるこの空間。
特に氷を苦手とする植物の草タイプには、致命的なデバフ空間だった。
『キョダイベンタツ』の効果は続く。だが、戦闘不能には、まだ足りない。
巨大化変身期間を終え、元のサイズに戻るフシギバナ。
ソテツは間髪入れずに次の特殊介入『メガシンカ』を切る。『あついしぼう』の特性を身に纏い、ある程度寒さに強くするためだ。
『その場しのぎのメガシンカ? そんなんじゃこの絶対零度下では通用しないわよ?』
「わかっているよ」
『ふうん? ま、いいわ。バイバニラ!』
トレンチAIは警戒を怠らずに必中になった『ふぶき』をバイバニラに放たせ、わずかに動きの鈍いメガフシギバナを狙い撃ちする。
ホワイトアウトしそうなほど凍てつく『ふぶき』が容赦なくメガフシギバナを襲う。
雪粒が目蓋に積もるほど強烈な吹雪の中、ソテツは、白い景色の先のフシギバナを……讃えた。
「よく耐えてくれたフシギバナ……その吹雪根こそぎいただくッ!!」
『!?』
白い視界が捻じれていくように、『ふぶき』が消えていく。いや、かき集められていく。
メガフシギバナの眼前に、圧縮されていく。
「ぶちかませッ!! 『ウェザーボール』!!!!」
凝縮された凍てつくエネルギー弾が、バイバニラを捉え、吹き飛ばす。
一瞬堪えたかに見えたが、ギリギリのところで『キョダイベンタツ』のスリップダメージで削り切られ、バイバニラはその場に倒れた。
バイバニラを戻しながら、トレンチAIは人間らしくわざと分析を述べる。
『天候で威力の上がる技……いや氷タイプに氷技は効果今一つのはず……メガシンカを込みとしても……まさか?』
「そう、正解は『ダイアシッド』。バイバニラの『ふぶき』を取り込むだけのパワーを『ウェザーボール』に与えるために、特殊攻撃力を上げていたってことだ」
『それが貴方のバイバニラ対策ってことね。じゃあ、これはどうかしら』
次のボールをすぐに手に取り、トレンチAIはフィールドにハルクジラを出した。
試合再開と共にトレンチAIは二度目の境界解崩を発動。
『 Type - Ice / Category - Status 』
『ここからが私の真骨頂ッ……武器商人の名に恥じぬ戦いをご覧に入れて差し上げるわッ!《絶凍武装展開・零式》ッ!!!』
青白い光がハルクジラの隣に現れる。それは、ハルクジラの巨体をも超える大きさの氷でできた……巨大戦車だった。
さらにハルクジラの手元には、グレネードランチャーとその予備の手りゅう弾の山。
そういった武器や兵器を生み出し行使する、それがこの境界解崩の特徴だった。
「(いやオイラたちは武器商人である前にポケモントレーナーだろ? なんて言っても通じないんだろうなー……まあ今回は、サテライトレーザーじゃないだけ、まだマシか)」
白い溜息を吐きながら、「そっちが真骨頂なら、こっちは本髄、見せてやるよ」と境界解崩を構え、解き放った。
『 Type - Grass / Category - Move 』
「全て押し流し眩ませてしまえッ!《激流葉隠葬送波》ッ!!!!」
メガフシギバナの背後から轟、と木の葉型のエネルギーが怒涛の勢いで押し寄せ、メガフシギバナごとハルクジラも戦車も全て飲み込む。
『落ち着きなさい、ハルクジラ……フシギバナはどこかに姿を隠しているだけよ……!』
全体攻撃でハルクジラに少なくないダメージは入っているもののトレンチAIはあくまでも分析で自らの有利を導き出す。
何故ならハルクジラとフシギバナの間には……少なくない地雷が埋まっているのだ。
いくらソテツの境界解崩が攻撃後に姿を隠すものだと言っても、こちらを狙う限りはアクションで居場所がわかってしまう。
だから有利はトレンチAIとハルクジラにある……はずだった。
地雷原が全て見抜かれ『はっぱカッター』で的確に処理されてしまうまでは。
「ま、あると思ったよ。その戦車下方面の装甲厚いしね。自分が踏んでもへっちゃらだーってことだろ?」
『???』
「おいおい、オイラたちはもともと一地方一国家を守っていたんだぜ? 兵器カタログを読むのは趣味だったしなんならダミー弱点も把握しているよ。もっとも……」
ハルクジラはいつでもメガフシギバナが来てもいいように反撃の『れいとうパンチ』を構える。しかしメガフシギバナの取った行動は……ハルクジラの背後の手りゅう弾をかすめ取り、戦車の背後や側面から弱点部に投げつけまくると言ったハルクジラを無視したものだった。
トレンチAIも『ちょ、何してくれてんのよッ!!! ハルクジラも止めなさいッ!!!』と怒りを表現し、ハルクジラも慌ててメガフシギバナへ『ゆきかき』で超速スピードになった『れいとうパンチ』を狙う。
一瞬で目前に迫っていたハルクジラの視点が、回る。
ハルクジラは自身が何をされたのか理解するのに、わずかに時間を要した。
まず気づいたのは、フシギバナの『つるのムチ』で器用に、スピードを逆手とられに空中に放り投げられていたこと。
次に気づいたのは、戦車は陥落していたこと。
そして最後に、空中で回転している自分に向かって飛んでくる手りゅう弾の数々。
トレンチAIがとっさに鋼『テラスタル』を切って防御を上げようとしたものの悲しいかな、自身の境界解崩の威力を知っているだけに、結果は無慈悲だった。
極寒のバトルフィールドに打ち上げ花火の如く爆発が轟いた。
それを見上げつつ、ソテツは思わずツッコんだ。
「戦車の弱点はいっぱいある。背後なんて装甲が薄い。だがそんな個人のマニアックな知識を求めるって、それ本当にポケモンバトルって呼んでいいのかい!!??」
返事はない。もしくは返答を計算する情報が欠如しているのかもしれなかった。
「撃たれる覚悟のある奴だけ武器を持て。それが嫌なら持つなよ!!」
『……言いたいことはそれだけかしら』
「本当は本人に言いたい事ごまんとあるけどさあっ! ってキミに言っても仕方ないか……ごめん」
『再開するわよ』
「うん……」
先に2体倒せたのはソテツ側にとっては大きなアドバンテージとなっている。が、しかし『あついしぼう』をもったエース、メガフシギバナだからこそ出来た荒業もいいところ。
着々と気温は下がって行き、メガフシギバナでも動けるリミットが限られてきていた。
それはつまり、ソテツ側のポケモンが身動きを取れなくなることを示唆していた。
『さて……いくわよ! オニゴーリ!!』
トレンチAIの最期の一体はオニゴーリ。
やや小柄なオニゴーリは登場するなり身構えた。
『まずはフシギバナッ! 確実にアンタを屠らせてもらうわッ!!』
「く……! フシギバナッ!」
オニゴーリとシンクロしながら、構えを決めていくトレンチAI。
それは『Zワザ』の構え。宣告通り、きっちりとメガフシギバナを倒しに来たのだろう。
『Zワザ』は基本的には回避不可能の超大技。ただでさえポテンシャルの落ちたメガフシギバナは『はっぱカッター』の急所狙いで切り抜けようとするも、オニゴーリの『レイジングジオフリーズ』にとうとう、土をついてしまう。
これで数は2体1。だが、エースを失った今、ソテツ側に残された突破口は、限りなく少ない。
それでもボールはカタカタと揺れる。
最後まであきらめるな、と揺れ続ける。
そのポケモンたちの期待に、ソテツは笑顔をもってして応える。
「頼んだぜ、アマージョ!!」
「ふぃるる!!」
ソテツの次鋒はアマージョ。歴戦を共に潜り抜けてきたパートナーの一体だった。
『真価を越えろッ! オニゴーリ!!』
万全にトドメを刺すために、トレンチAIはオニゴーリを『メガシンカ』させる。
より凶悪なメガオニゴーリとなるオニゴーリ。
だが、さらにトレンチAIは畳みかける。
『最終武装起動ッ!!起動しなさい、《絶凍機構乗着・零號》ッ!!』
出てきたたのは、境界解崩で発現した巨大な、無数の氷製武器でできた『機械巨人』。
そのサイズは先ほどの戦車とは比にならない。
身動きのほぼ取れないアマージョに対し、明らかな過剰戦力をもって、遥か上方から『フリーズスキン』の乗った『のしかかり』で潰しにかかるトレンチAIとメガオニゴーリ。
「勝利への道筋を照らせ、アマージョ『テラスタル』!!!!」
「ふぃるッ!!!!」
回転しながら押しつぶそうとしたメガオニゴーリのゴーレムの目の前から、アマージョの姿が消える。
かろうじてトレンチAIの視力がアマージョを捉える。
その、頭上に煌めく雪の結晶のテラスタルジュエルは、
『氷タイプ……!』
「氷タイプのポケモンたちがそんなに生き生きしているのなら、氷『テラスタル』は効くだろ? これこそ環境適応ってやつだ」
水を得た魚の如く、極寒のフィールドをアマージョは駆ける、駆ける、駆け巡る。
メガオニゴーリの『のしかかり』を器用に『はねる』で避けて、懐へ……巨大な巨人の左足の、人で言うなら腱の位置にたどり着く。
アマージョの放った技は、シンプルだった。
その細く鋭い持ち前の脚をもってして、『トロピカルキック』を仕掛けたのである。
一点特化の針の如きトロピカルキックを打ち込んでは離脱を繰り返すアマージョ。
やがて、何発も打ち込まれた巨人の脚が、その自重を支えきれなくなる。
崩れ落ちるゴーレム。トレンチAIはまだ境界解崩を解除せずにこだわる。
「決めろアマージョッ!!!!!」
「ふぃるるるるるるーッ!!!!!」
ついた腕の上を、アマージョが器用に『はねる』で武器の攻撃を回避しながら駆け上って行く。
そしてメガオニゴーリの眼前まで、アマージョは『マジカルリーフ』を展開しつつ迫る。
『まだよオニゴーリ!!!!』
トレンチAIはコックピットのメガオニゴーリに『はかいこうせん』を放たせる。
タイミングはばっちしに見えたが、今回はソテツたちが一枚上手だった。
アマージョが自ら展開していた『マジカルリーフ』を足場に、さらに飛び上がって『はかいこうせん』を回避。氷の軌跡が虚しくそびえる中、ソテツがヘアバンドを少しだけ、下げた。
「『とびひざげり』」
コックピットの壁から逃れられなかったメガオニゴーリを、アマージョの『とびひざげり』が襲う。
それは、一度ではなかった。
自ら展開し操っていた『マジカルリーフ』を足場にして、アマージョは何度も何度も、跳ね返るピンボールの如き勢いでメガオニゴーリの体力を削り切った。
それを見届けたソテツは、一次機能停止するAIに向かって呟いたのであった。
「ありがとう。やっぱり本物の方が強かったよ」
* * * * *
『万緑の庭師さん、今日はここまでにしておきましょう』
「そうだね。あんまりコンピュータ対戦ばっかりしていても、実戦の感覚忘れちゃうからね」
『そういえば、負けてもそこまで凹んでいませんでしたね』
「まあね。一応悔しいっちゃ悔しいけど、そこは慣れたんだと思う」
『ふむ』
「昔だったらめっちゃ凹むし傷つくし迷うなりしていたと思う、でも……」
フシギバナやアマージョたちとストレッチをしながら、ソテツは楽しそうに続きを言った。
「やっぱり必死に考えて読み合って、作戦が上手くいってポケモンたちの全力を引き出すポケモンバトルは楽しいからね。負ける時もあるけど、そうやって勝てた時はやっぱ嬉しいからさ。だからやめられないんだよ、ポケモンバトルは」
「ぎーらっ」
「ふぃるるっ」
フシギバナやアマージョに続いて、他の手持ちたちも鳴き声を上げる。
それはソテツと共にバトルを楽しんでいる、そんな様子だった。
ソテツは最初の質問『どうして強くなりたいか』の理由を要約した返答を、再び繰り返す。
「だからオイラたちは強くなる。それはポケモンバトルをもっと全力で楽しむためだ」
それに対して虹の黎明は、画面の向こうで、苦笑し呟いたのであった。
この、ポケモンバトル馬鹿。と……。
リザルト!
WIN ソテツ
×フシギバナ(キョダイマックス、メガシンカ)(《激流葉隠葬送波》)
○アマージョ(氷テラスタル)
―?????
LOSE トレンチAI
×バイバニラ(《絶凍下限突破・零点》)
×ハルクジラ(鋼テラスタル)(《絶凍武装展開・零式》)
×オニゴーリ(Zワザレイジングジオフリーズ、メガシンカ)(《絶凍機構乗着・零號》)