最期の幻

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作者:ナルニ
読了時間目安:8分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

コトブキシティ GMステーション並びにユニオンルーム 集団幻覚事件について
 〇〇年×月△日 未明 当施設を利用者に、集団幻覚が発生。
 症状としては、該当者すべてにおいて低体温症、凍傷、しもやけが見られる。
 該当箇所に氷ポケモンの技や存在は確認できず、またカメラにも異常は見受けられない。
 該当者は皆 室内にいたはずなのに、雪原にいたと証言されている。
 気が付いたら雪原に一人で歩いており、猛吹雪に襲われたと利用者の証言
 当局は様々な視点からの捜査を開始せよ
 なお事件が解決するまでGMステーション、ポケモンセンター、ユニオンルームは封鎖するとし、事件の再発を努めるべし

「捜査っていわれても、これって全部丸投げってことよね」

「そうだね 原因を探ろうにも、どの専門家に聞いていいのかすらわからない初動捜査らしい。封鎖も、発生個所が一か所ではないこと。現場に痕跡が残ってないか探す点とコトブキ以外にも広がらないようにっていう配慮らしいよ」

 思わず愚痴る相棒エミにタケルは答えた。

 「発生当時は、幻覚原因がガスだとかテロだとかいわれて、搬送してすぐ閉鎖したけど監視カメラにも検知器にもなにも異常はなし、逃げ出した氷ポケモンの線も、ガス漏れの線も消える」
 「見えない冷気。でも雪原を見たっていうから、冷房の暴走でもない。幻覚の原因はなにかしら?」
 「とりあえず現場百遍っていうから行ってみましょう」

 そうして二人はポケモンセンターを訪れる。
 共有PC通信ルーム。ホロキャスターなどの発達により、かつては通話待ちの列ができていたそれは、いまはモンスターボールの通信を行うときに、通信先と連絡を行う時にしか使われず。すこし閑散としているのが、通常だった。
 理由は、コトブキシティには、ポケモンを交換するだけならGMステーション。
その大規模施設が存在し、交換した相手と交換先に送ったポケモンの安否確認。手厚いサービスといえば聞こえがいいが、そのやり取りに疲れたトレーナーはGTSを利用する。

 「ええ、宿泊と回復はポケモンセンターのサービスとして継続しますが、例の事件のためにポケモン交換、通信は停止しています」

 流石にポケモンセンターは、旅をするトレーナーのための施設のため、建物ごと封鎖ではなく、通信ルームのみ閉鎖することにしたらしい。

「発生箇所って今のところ二か所なのかな?」

ポケモンセンターを見終えてGMステーションへ向かうと途中タケルは、思いついたように呟いた。

「大規模、集団ってことで報じられたのは二か所だけだけど」
「うん 予想通り、急に寒気を感じたりした人が病院に搬送された人がいたみたい。そういう情報がSNSでも出回っている。ただ症状はずっと軽くって報じられてないみたいだ」

その言葉に、指令の文面を思い出しながら答えるエミを横目に、タケルは端末を叩いて、結果を導き出す。タケルはいつだってそうだ。人に話をしているようで、単なる独り言で情報を整理して、そしてそのまま調べごとに没頭する。

 「で、捜査範囲が広がっただけとかいうオチじゃないわよね」

 「発生箇所二か所とSNSの情報をマップに照らし合わせると、一定の円状をしている。おそらく鍵は中心だ。だが、二か所との他の症状の違いは?」

 実働担当はエミ、頭脳担当はタケル。それだけわかったら充分

 「中心部分はわたしが捜索するわ。なにかわかったら連絡する!」

 そしてエミが中心部と思わしき場所は、建物内でもない。街中の外であった。
 半透明な緑色のボール。それが落ちていただけで、他には何も見つからなかった。
 だが、エミにはよくわからなかったが、タケルに連絡すると、そのボールに入ったポケモンが送られるときに、中のポケモンが、電子変換と現実変換の二つの間に、強力なパルスを電子ウィルスのように放出してしまったらしい。
そしてその結果、人類は電子的な繋がりはないように思えるが、ポケモンは電子との親和性が高く、通信ルームは疑似VR空間のようになっており、一時的に一種の五感が、電子的な信号に過敏になる。そのため電子ウィルスをもろにくらって雪原の幻覚が強く出てしまい。
また通信ルームなどは電子的に多くのポケモンをやり取りするため、通信値が規制されてないという。逆に規制されていたために他の場所では電子機器から漏れ出る情報圧が少なく、軽症で済んだらしい。


報告 当事件はコトブキシティにて発見された、奇妙なボールに入った、未知のポケモンのものと判明。
 該当ポケモンはゾロアーク地域派生と思われ、転送時に特性が暴走、幻覚を電子ウィルス的に拡散させたと思われる。
 なお当ポケモンはすでにボール内で死亡。モンスターボールは、製造箇所不明。番号なし 未登録品のためトレーナーは探せず。
 専門家の意見からどこか知らない地域から転送ネットワークに割り込んできたボールと推察。今後再発防止のため、シンオウ地方においては、カントー、ジョウト、ホウエン以外のポケモンの入局を許可しないと、同時にネットワークを強化することを進言する。

「許せないというかやるせないね」

報告書を書き終えたタケルはいつものように、ぽつっと呟いた。

「えっ?なんかいった?」

片手にコーヒーを飲みながらエミが答える。

「今回の事件、ポケモンが原因ってことだけど、ポケモンはボールに入っている。誰かが強引に転送して、その結果今回のことが起こったんだ。何が目的かわからないけど、最悪ポケモンを使ったテロ兵器となるかもしれない」
「うわっ こわ」
「ミズキさんの話によると、通信ネットワークを無理やりこじ開けた結果だというけど、電子化しているポケモンが死んでしまうケースは、そのポケモンが違法に改造処置を施されているか、ネットワークに登録されていないかのケースが濃厚っていってたよ。どちらでも今後忙しくなりそう」
「確かにね、でもコトブキの平和を守るのが私たちの仕事だから、頑張りましょ」

 そういってコーヒー缶を一気にあおり、エミは、宣言した。

 ソレは、今回の事件を引き起こせたのは偶然だった。
 故郷の雪原にて暮らすソレは、人を好まず、幻影によって身を隠しひっそりと暮らしていた。
 だが、ソレはモンスターボールによって捕獲される。
 ソレは幻影を身にまとい。他者を欺くことに長けていた。
 だが同族しかいない集落では、まとうべき幻影、他の見姿を借りる必要がなかったのが、その種族には不幸なのか、幸せなのか
 とにかく、普段使わない機能、その能力は、本人すら意図しない能力を得る。
 ソレもはるか昔、捕獲されたゾロアークであった。
 はるか昔、ヒスイと呼ばれし地に存在していたゾロアーク。ソレはヒスイゾロアークと呼ばれるものであった。
 捕獲されたものの、トレーナーと相性が悪かったため、交換に出されることとなる。
 だが交換するにあたって輸送中にボールは行方不明になってしまった。
 そして現代に発掘され、転送されるとき。ボールの、ポケモンとしての電子的な親和性がソレの特性に変化をもたらした。
 時空の歪みを超え、長らく放置され、クラフトされたボールは変化し、中にいたソレにとって大きな負担となった。
 だがボールから解放され外に出れた瞬間、その特性は電子の親和性もあって一種のウィルスのように幻影は広がってしまった。
 ソレは最期に何を思って雪原の幻想を出したのか。
 人の恨みか郷愁か答えはわからない。

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