どきどき☆愛の溢れたクラフト番組

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作者:草猫
読了時間目安:13分
 覆面作家企画11において投稿させていただいた作品となります。
 色々な意味で挑戦作なのですが、お楽しみいただけると幸いです。



 ちゃーーちゃらっちゃっちゃっちゃーちゃっちゃららららーーちゃらららっちゃらっちゃーーーーちゃらっちゃらーーーちゃっちゃららーーーー
-ポポポポ--ポ-ポ--ポ--ポ-ポポポポ--ポポポポポポポ-ポ-ポポポ-ポポポポ-ポ-ポポポ-ポポ-ポポポポ-ポポ--ポ-ポ-ポポポポポ-ポポ-ポ-ポ

 でーん!








「はーい皆様こんにちは! 新番組『ドキドキ☆古代のあれこれクラフト!』のお時間です! この番組のコンセプトについて、まずはご説明いたしまーす! それでは、VTRどうぞ!」




 ~VTR~

 うむ、それではこの番組の目的について説明するでたてまつる!

 昔、まだこのシンオウ地方がヒスイ地方と呼ばれていた頃! 開拓民達はクラフトの力で多くの物を作り上げていたと言われているでたてまつる。 昔の人々はあらゆる場面で創意工夫に溢れていたでたてまつる。

 しかし、現代の人間はどうでたてまつるか?

 当たり前のように誰かが作り上げた文明を享受し、自分では目玉焼きぐらいしか生み出さず。挙げ句の果てには文句のオンパレード。 階級が上がればエスカレート。 僕だって頑張っているのにずっと安い給料で、
 はっ!おっと失礼。 ついつい本音が出てしまったでたてまつるね。


 さあ、そこででたてまつる!

 
 この番組は職人からかつてのヒスイの技術について教わり、その洗練された技術、昔の人のクリエイティビティを世に伝えること! それが何より大事な使命なのでたてまつる。


 それでは、さっそく行ってみるでたてまつる!












 今日教えを乞うのは文化の伝承者として名高いボンさん!なんと今年で齢111!よろしくお願いするでたてまつる!

「はいはい。お願いしますよ。」

 それでは、今日は何を作るでたてまつるか?
 
「ヒスイ地方時代のモンスターボールを作ってみますよ。 現代のモンスターボールは高性能ですが、手作りの方が暖かみがあるものです。 充分普段の生活でも使えると思いますよ。」

 暖かみ、それこそクラフトの醍醐味ってもんでたてまつる!早速やってみるでたてまつる!!








〜 1.ぼんぐりの中身をくり抜こう! 〜

「まず、このぼんぐりを半分に割って中身をくり抜きますよ。これがボールの基礎になります。穴を開けないよう、慎重にやりましょう。」

 わかったでたてまつる!カリカリカリカリカリ

「初めてにしてはお上手ですね」

 ありがとうでたてまつる! ところでボンさん。ぼんぐりのくり抜いた中身はどうなるんでたてまつるか?

「地面に埋めて肥料にするんですよ。ぼんぐりは自然の恵み。ちゃんと土へと還してやるべきです。」

 そうなんでたてまつるか。自然を大事にしてるんでたてまつるね!
 ただ、正直これもいいご飯になりそうでたてまつる。給料の封筒が薄すぎて今お米しか無いんでたてまつるよ。
 ぼんぐり炊き込みご飯、限界生活の今ならきっと美味しくいただけるでたてまつる。






〜 2.上半分を漆喰で塗ろう! 〜

「ちょうどモンスターボールの赤い部分になりますね。ここを玉石からできた赤漆で塗っていきます。ムラができないように塗りましょう。ちなみに、これが玉石の現物です。」

 綺麗でたてまつるね。いくらするんでたてまつるか?

「昔は近場から多く手に入ったもんですけどね。今はいいものだと万単位になってしまいましたね。取りに行くにも年なもので、最近は弟子に教わったねっととかいうものから。 自分で現地で選んだ方がよいのかもしれませんが、まだ弟子には任せられないので。 画面越しでも自分の目で見て選びますよ。」

 万単位! 僕の給料じゃ何ヶ月も溜めないとそんな石のために払えませんよ、はっ! たてまつるよ。

「普通の方から見ればそうでしょうね。でも、質の低いものだと色がきれいに乗らないんですよ。見た目が同じように見えても、実は大分違うんです。だからここで節約はできない。伝統を残していくには、こういうところも大事なんですよ。」

 そうなんでたてまつるか。僕もまだ勉強不足でたてまつるな。

 




〜 3.ぼんぐりに金具をつけよう! 〜

「金具は作るには難しいと思いますので、今日は既に出来ている物を使いますよ。ちなみに私の弟子はこれを作るところで11年止まっています。」

 11年は途方もないでたてまつるね。

「ここは職人の世界ですから。金具がしっかりしなければボールもただのぼんぐりに過ぎません。そこは厳しくやらせてもらいますよ。」

 プロ意識の塊でたてまつるね。ちなみに、その間食費とかはどうなってるんでたてまつるか?

「さすがも11年は出せませんよ。ちなみに弟子はバイトでまかなっているそうです」

 バイト!?

「どうしました?もちろんうちの店の売り子も任せていて、その分のお金もあげているので、生活に困るということはないはずですが」

 いや、そっちの意味じゃなくて、いやその人も大変そうだなとは思うんでたてまつるんですけど、きっとうちの局より時給いいのかなぁ?ってなってしまってたてまつる。

「そこは弟子に聞いてみないとなんともですな。ところで手元が乱れていますよ。」

 おっと、すいませんでたてまつる!






〜 5.ボールに火薬をとりつけよう! 〜

「さて、大分ボールらしくなりましたね。初めてにしてはお上手だと思いますよ。かなり神経を使うでしょうに、さすがですね。」

 残業とご飯の価格比較にいつも気を張ってるから、神経使うのには慣れてるのかな......でたてまつる。
ところで、最後は何をするんでたてまつるか?

「これだけでも一応ボールとしては機能するのですが、便利さを求めるとなると、火薬を取り付ける必要がありますね。」

 なんででたてまつるか?

「シンオウがヒスイ地方だった時代では、人が草むらに隠れ遠くからポケモンを狙い撃ちにしていたそうです。その時は金具の閉まる音も聞きづらいですし、ポケモンが抜け出る危険を考えると下手にボールにも近づけない。そのため、火薬をつけて捕まえた時に花火が上がる仕組みにするんですよ。そうすれば遠くからでも安全にボールの状況を確かめられますからね。」

 なるほど、先人は頭を使ったでたてまつるね。

 にしても火薬。かやく、うっ頭が!!

「どうしました?」
 
 失礼したでたてまつる。ちょっとインスタントラーメンのあいつが頭をよぎったんでたてまつる。1週間あれしか食えなくて体壊したこともあって。

「さっきから流してましたけど、あなた生活大丈夫ですか?」

 はっ、大丈夫でたてまつる!大丈夫でなくても大丈夫と言うしかないんでたてまつる!

 







 ぺっぺぺーーん!!


「完成ですね。お疲れ様でした。」

 ふおおおお、これでたてまつるか!形はモンスターボールだけど、そこはかとないあったかみを感じるでたてまつるよ。

「そうでしょう。そう言ってもらえると嬉しいですよ。このボールは差し上げますよ。ポケモンとの縁ができた時にでも。」

 えっ、いいんでたてまつるか。

「もちろんですよ。生活大変そうですけど、励みにでもしてあげてください。」

 ──ありがとうございます、でたてまつる!













 
 みんな、いかがだったでたてまつるか? 次回はほしのかけらを作るでたてまつる。 お見逃しなくでたてまつる!

 ちなみにこのたてまつるは仕様ってもんでたてまつる!

 それじゃあ、またねでたてまつる〜!



ポポ------ポ-ポポ-ポ-ポポ-ポ--ポポ-ポポ-ポポ-ポポポポ-ポポ-ポポ-ポポポ--ポポポポポ----ポ-ポポ- 


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 ──コトブキTV局。ここで2人の男がこの番組の編集後の見直しを行っていた。何事もなければ結構すぐに通りそうなものだが、ここで若い方の男が内容に難色を示す。

「新番組これでいいんですか?部長」
「いい。 これしか頼れるものはないのだ」
「しかし、なかなかに内容が挑戦的といいますか」
「だまれい!!」

 部長と呼ばれた上司が机をばーーーんと叩く。切羽詰まったその顔はオクタンのように茹で上がり、ヒゲはデデンネのように斜め上に向かって逆立っていた。

「これぐらいしなければ視聴者のハートをがっちりキャ〜ッチ⭐︎ など不可能なのだっっ!!それに、私達の薄給が番組にアクセントを与える一助になるなら!!」
「いやちょいと待ってくださいよ。なんか最後いい感じに締まってたけど、途中ちょっと普通に滑ってませんか?そんな薄給ネタこすったところで何になるんですか?」
「いやきっと大丈夫だ!寧ろこれぐらい特殊なネタを使わないともう視聴者は振り向いてなどくれないんだ!!それくらい我々は追い込まれているのだ!!!」

 それを聞いた部下も机を両手でばばーーーんと叩く。最早机がかわいそうになるぐらいやばい音が鳴っているのだいやほんとマジで。

「血迷っているのはあなたの方です部長!何が視聴者のハートをがっちりキャ〜ッチ⭐︎ですかふざけんな!正気に戻れ糞上司!!!!」
「なんだと上司に口答えするのか!!!」
「いくらだってしてやりますよ!目を覚ましてください上司!確かにこのTV局の評判は駄々下がりです!スポンサー契約を一方的に結ばれたと思えば不祥事起こしまくったギンガ団のCMが今も凄い頻度で流れたりね!!大炎上待ったなし!!
 でも!!オレたちテレビマンには!!矜持があるんです!!クラフト番組を装った闇しか吐かない番組なんて要らないのです!!オレたちの作る番組は、」

 真摯な目が熱く燃える。
 炎が揺れ、いつしか溶岩になり、ついには太陽中心部にも匹敵しそうな。

 上司が長らく忘れていた、若者の目!!



「夢 と 希 望 が 友 達 な 番 組 な ん で す! ! ! !」















 「ぐはっ!?」


 それはまさに某人気アニメの必殺技のように、上司の心へと突き刺さる。 だが、彼もそう簡単にはめげない。 少し狼狽えた後に、反撃に出る。
 あの山吹色のお菓子が、夢などで上書きされるわけがない!!

「お前はまだそんなものを信じているのか!? オレは知っているんだ、夢と希望だけではどうにでもならない現実がこの世にはある!金が、あの輝きがなければ、オレたちは希望など持てない!!」

 上司はその場に泣き崩れ、社員もまた手痛い反撃にたじろぐ。確かに、と納得せざるを得なかった。
 なぜなら、生活の中で最も夢と希望を感じる日は、もはや給料日だけとなってしまったのだから!!











「──部長」

 社員の優しい声に上司は顔を上げる。社員はすっと1枚の紙を差し出す。

「どうした」
「部長、これ見てください」
「なんだこれ。手紙じゃないか。しかも百均でありそうな便箋。お前上司に書類を出すときは」
「僕のじゃありません。うちの子供の物です」
「は?」

 急に子自慢か?そんなことを考えながらとりあえずその便箋を開いてみる。

 そこにあったのは、コトブキTV局によって1年前に作成され今は最早伝説となっている番組、『赤いギャラドスを追え!』のファンアートだった。

「これは」
「ギャラドスですよ、娘の描いた。うちの番組で純粋に喜んでくれる子はまだいるんですよ。目を覚ましてくださいよ、部長。まだTVは全てお金に潰されてるわけじゃないんですよ。愛情だって、まだゼロじゃないんですよ。
 そんな経済面の苦しさを訴える番組にしなくてもいいんですよ。元は凄くいいじゃないですか。クラフトへの愛に溢れてるいい番組じゃないですか。経済面に的を絞った番組ならまだしも、これは悪手です。伝わる魅力も伝わりませんよ。うちの局が信用を失っている中でも取材を快く受け入れてくださった、あの御年111歳のおじさまが僕はかわいそうでならない」

 社員の目元がどこか赤い。それを見た上司は一瞬目を伏せ、続けた。

「そう、か。確かに取材行ったやつ、凄い嬉しそうに帰ってきてたな。あんなに優しくされたの、お袋の元を離れて以来だって」

 その後、上司は立ち上がる。その目には謝罪の意がにじんでいた。

「部長?」
「すまない、私が間違っていた。まだ勉強が足りないな」
「部長!!」
「金と愛は、正しく力のこもった番組にこそついてくる!!さあ、早速色々改善するぞ!!」

 社員は満面の笑みで、歩き去る上司についていく。
 彼には、その背中はいつもより2倍くらい大きく見えたとか。

「はい、部長!!!」






 
















 ──そして、給与の安さに苦しむ上司の心は救われた。何だったんだ一体。
 なんやかんやで『どきどき☆昔のあれこれクラフト!』は表現を一部見直した上でお茶の間に放映され、『赤いギャラドスを追え!』に匹敵するほどの視聴率を獲得したらしい。

 これにはTV局はウッハウハ。 上司と部下もコイキングのように何度も跳ねるほど喜んだ。

 やはり愛は全てを救う─

「いやあいいですねぇ、部長!給料いつ上がるんでしょう!?」
「わからん!!」


 ─のか?

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