HR39:「あー、話がややこしくなるぞー」の巻

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 すみません、1日遅れの更新となってしまいました。
 チコっちが守るセカンドとリオが守るセカンド。この時点で色んな動きがあって大変そうだよな。だけど新しい友達として支えあっていけるようになれたら良いよね。特にチコっちとピカっちという幼なじみとしか仲良くできなかった僕は…………。


 「いっけええぇぇぇぇ!!!」


 ライトのラッシー先輩から中継し、バックホームをしたチコっち。果たして若芽と闘志が込められた送球は三塁ランナーのホームイン(生還)を阻止できるのだろうか!?


 「ルーキーだからってナメんなよ!!」


 ホームベースではキャッチャーを任されたユーマ先輩がいた。ボールの行方を追いやすいように、自らの顔面を護っているキャッチャーマスクをぶんと投げ捨て、その青いキャッチャーミットでしっかりと“二つの想い”を受け取る!そしてすかさず突っ込んできた三塁ランナーの脚がホームベースに触れないように、低い姿勢になってタッチしにいったのである!!


  ザザァァァーーー!!


 ランナーはホームベースに向かって頭から滑り込んできた。二足歩行の種族であれば脚から滑り込んでくるだろうけど、四足歩行ならばこの方がラクという話は聞いたことはある。ちょうど“たいあたり”や“ずつき”みたいな動きが出来るから…………という理由らしいけど。何はともあれ砂ぼこりが起きて、一瞬ホームベースの様子がわからなくなってしまった!!


 「アウトーーー!!」
 「え!?」
 「よっしゃ………!!」
 「やったぜ………!」
 「やったわあああああ!!!」
 「チコっちちゃん、ナイスプレー!!!」


 判定はタッチアウト!!!ユーマ先輩のミットがランナーの前脚に見事タッチされていたのである。そのコールが響いた瞬間、ブイブイ先輩、ラッシー先輩、ユーマ先輩、それからチコっちにリオ。みんなが喜びに満ちた声をあげたのは言うまでもない。そしてチコっち自身も手応えを感じたのである。どんどん練習をしていけば、きっとみんなの足を引っ張らなくて済むんだということを。そればかりかこんな大きな目標を掲げたのである。


 (よ~し!頑張るわよ!なんならファーストのレギュラーを奪ってみせるんだから!)




 …………………しかし、背番号“8”の目標が達成されるまでには様々な壁があった。もうダメかと思われたことが何度もあった。自暴自棄に陥り、1年生メンバーの友情に亀裂が入りそうな危機にもつながった。




 (それでもキミは負けなかった…………。まるで嵐が過ぎるのを待ってゆっくりと芽生えた若葉のように………着実に大地に根付いて大きく育って咲いた大輪の花のように。キミは最後の最後で最高に輝きを放ったんだよね)


 少し冷たさを感じる秋風の中、僕はグラウンドに散らばるたくさんの物語を思い返してしまう。自分でもその理由がよくわからなかったけど、始まりを告げる春、挑戦の夏、そして願い叶う秋。そこに至るまでの物語を…………………。




 「凄いなチコっち!!ちょっと離れているうちに結構上手くなってるなんて!」
 「そうね。スロープの上から観ていたけれど、なかなか良い感じじゃない。他のメンバーにも良い影響を与えてると思うわ♪」


 一瞬だけ静まり返ったグラウンドに響いた拍手。そこまで大きい音ではなかったので、内野手のメンバーしか気づかなかったが、そこには確かにマーポとラプ先輩の姿があった。ベンチからシャズ先輩が姿を見せ、二匹に声をかける。


 「ラプさんにマーポくん!…………ということは、カゲっちくんは大丈夫だったんですか!?」
 「まあね。先生からも心配ないって言われたの。だから戻って来たんだけど」
 「ピカっちは心配だからって、まだ残っているぜ。よっぽどカゲっちのことが気になるんだなぁ。あんな頼りない男のどこが気に入っているんだか」
 「こら、マーポ!!!調子に乗って女の子の気持ちをからかったらダメだよ!!」
 「そうだったな!ハッハッハ!悪ぃ悪ぃ!」
 「もう、本当にわかってるのかな?」
 「アハハハ………」


 ガヤガヤと一部のメンバーが賑やかになる。何はともあれ僕の無事がわかったことで、メンバーの表情に安堵が感じられる………そんな風にチコっちは感じていた。


 「凄いな。私も早く練習に戻りたい………」
 「ララさんと同じ意見です、自分も。まだ一度も練習に参加してないので緊張感が抜けないから…………」


 共に行動をしていたララとロビーの表情はどこか暗い。どんどん上達をしている同級生の姿に焦りを感じていたのである。だから素直にチコっちたちの活躍を讃えることが出来なかった。そればかりか今日出会ったばかりの彼女に若干嫉妬まで覚えてしまった。


 「ララ、ロビーもお疲れ様。さ、一緒に練習頑張りましょう…………?」
 「え?」
 (なんでだ?)


 その証拠にニコリと笑って声をかけてきたチコっちに、二匹は応えることもなくその場を過ぎていく。言い様のない感情がチコっちに押し寄せる。別に彼女が悪いなんてことは全く無いのに。それでも二匹の気持ちを素直に汲み取れる彼女がそこにはいた。


 (そうよね。誰かがレギュラーとしてスポットライトを浴びるってことになれば、その代わりに誰かがずっと影に隠れてしまうってことなんだから。その関係が同級生…………しかも同じスタートラインだったら、自分に余裕が無くなっても不思議じゃないよね)


 自分たち幼なじみ三匹組の約束は………もしかしたら図々しいものかもしれない。僕とピカっち、それから彼女が一緒にグラウンドに立つんだってその約束が成し遂げられたら、その分他に一生懸命頑張っている“仲間”や“友達”の出番を奪うことにもなるからだ。そのように考えれば考えるほど、チコっちに迷いが生まれる。いつしか“暴走”と比喩されるほどのありったけの元気が消えていくのであった。







 「それじゃあメンバーを変更しよう。チコっちとチック、それからヒートとジュジュもベンチに入るんだ。代わりにファーストにはマーポ、サードにララ、センターにはラビーが入れ。ピッチャーはロビー!みんな頑張るんだぞ!」
 『はい!』


 ある程度メンバーが揃ったところでキュウコン監督から指示が出た。それに従ってベンチに下がるメンバー、グラウンドに散らばるメンバー、それぞれが動き出す。改めて新しいメンバーを確認してみよう。ちなみに()内の数字は背番号である。


 ◎ピッチャー:ロビー(#18)
 ◎キャッチャー:ユーマ先輩(#24)
 ◎ファースト:マーポ(#15)
 ◎セカンド:リオ(#16)
 ◎サード:ララ(#14)
 ◎ショート:ブイブイ先輩(#25)
 ◎レフト:ルーナ(#13)
 ◎センター:ラビー先輩(#22)
 ◎ライト:ラッシー先輩(#9)


 なぜキャッチャーであるマーポがファーストに回ったのか。その理由はキャッチャーだけにこだわってしまうと、現状ではラプ先輩という絶対的なレギュラーがいるため、試合出場のチャンスが減ってしまう可能性が高いからである。そのため他のポジションを兼任させることで、彼にその能力をアピールできる機会を作ったのである。しかもセカンドには彼と仲が良いリオだっている。だからなおさら慣れないポジションでも上手くこなしてくれるだろう…………そういう監督の期待の表れでもあった。もちろんその意図はマーポにも充分伝わっている。…………しかし、それでもついつい不満は出てくるものだ。


 「キャッチャーで慣れておきたかったな。同級生バッテリーをロビーと組めるチャンスだったし…………」
 「仕方ないじゃん。僕だって久しぶりにセカンドを守っているんだから。ここはチーム方針に合わせて練習していこう?初めて野球をするメンバーに早く慣れてもらうためにも………さ」
 「まぁ、そうだけどよ…………」


 リオに慰められたおかげか、彼はそれ以上何も言わなかった。そうだ。自分がここである程度我慢することで、他の初心者たちがグラウンドに出て練習をしていけば、もっと野球のことを好きになってくれるかも知れないじゃないか。今はまず野球に興味を持ってくれたらそれで良いんだ…………と、そんな風に言い聞かせながら。


 (よし。さっきは中途半端になっちゃったけど、今度はしっかり練習しなくちゃ!)


 マーポとちゅうど対称的な位置、サードのポジションについた背番号“14”、ララは気持ちが入っていた。もしかしたらこの場所が自分にとって輝ける場所かも知れないと考えていたからだ。


 (ここなら頑張っていることを認めてもらえそうだし、同級生が助け合っているように感じる。だから独りぼっちを感じることも少なそうだから…………だから頑張らないとね)


 ララはカラカラ。こどくポケモンと呼ばれているだけあってか、新しい環境には馴染めない………いわゆる引っ込み思案。なかなか友達も出来ずに苦しんでいた。たまたま同じクラスで隣り合わせだったロビーが話しかけてくれたおかげで、ある程度きっかけは出来たのだが………肝心な部活を決められずに困っていたのだ。いくつか部活動見学に足を運んでみたものの、果たして自分にやり遂げる自信があるのかって問いかけては断念というパターンを繰り返しながら。


 (野球のこと余り詳しくないけど、ロビーくんは朝練を見学して感じるものがあったって目を輝かせていた。それが何なのか…………私も知りたい。そして自分の居場所を作って、みんなの役に立てるようになりたい………!)


 緊張しながらマウンドに登った背番号“18”の姿を、背中越しに見つめながら彼女はそのように決意を固めた。そして周りを見てゆっくりと腰を落とす。今はまだ見よう見まねだけど、少しずつ慣れていけば良いなって想いながら。


 (ララさんは防御力のある種族。ホットコーナーと呼ばれて鋭い打球が飛んできやすいサードですが、きっと大丈夫でしょう。最初は怖いかも知れませんが、いずれ内野陣はあなたと同じ1年生のメンバーで固めていくつもりです。お互いに励まし合って独りじゃないってことを実感しながら、練習に臨んでください)


 ベンチの中でシャズ先輩がニヤリと笑う。今季はもちろんのこと、今の主力メンバーである3年生たちが卒業してもチーム力が落ちないように、そうなった状況を想定してメンバーを決めるのが彼女の真の目的だった。特に内野陣は手薄だったため、今のうちからこうして1、2年生………それも初心者を積極的に起用できる利点があったのである。


 (サードはリオさんのメインポジションらしいですけど、他に経験があるセカンドでカゲっちくんのコーチ役に徹して貰います。その間にララさん、あなたが少しずつ慣れていけばますます戦力は厚くなる。チックさんと同じサードでなかなか出番がなかったルーナさんを外野手やファーストで起用できるようになりますし、そうなれば主力にアクシデントがあっても柔軟に対応出来ますから)


 野球は個人の力だけでなく、チーム全体の力も試されるスポーツ。そのためグラウンドに散らばる9つのポジションのレギュラーだけでなく、ベンチに控える選手の力も試されることになる。特に主力の調子が落ちたり、ケガをしたときにすぐに対処出来るか出来ないか…………それだけでもチーム成績に大きく影響してくる。そんなときに控え選手がきっちりカバーできるだけの力を保持させたい………というのも、シャズ先輩の目的だった。そんなことなど全く知らないララではあったが。





 さて前回までは主にファーストとセカンドの役割をテーマにしてきたが、今回からはサード、それからブイブイ先輩の守るショートについても簡単ではあるが、見ていこう。


 (それにしても………どうして私がサードになったのかなぁ?誰も教えてくれないからわからないけど………)


 それだけがララの疑問点だった。本当なら練習が始まる前にでもシャズ先輩や他の先輩たち、あるいは同級生にいる経験者に確認をするべきだったのかもしれないが、いかんせん引っ込み思案がちな彼女には難しいことだった。


 ララの守るサード。このポジションは“ホットコーナー”と呼ばれている。その名の通り、特に右打者からの強烈な当たりが飛んできやすい。そのためボールを怖がらないこと、強烈な当たりにも瞬時に反応出来る反射神経の良さを求められるポジションだった。


 それから一塁ベースから直線距離で38.796mと、最も離れている三塁ベース付近から送球しなければならないので、肩の強さも必然的に必要となってくる。参考までに一塁ベースから二塁ベース、あるいは二塁ベースから三塁ベースまでが27.431mなので、概算でも11m近くは差があるので、どれだけ離れているかわかるだろう。


 …………と、ここまで読むとなおさら引っ込み思案なララが守るのは不適切なのではないのか…………そんな疑問を持つ読者さんもいるかもしれない。ところがこのポジションはファーストよりも守備の負担が少ないポジションとされており、多少の守備難でも目を瞑ることができるのである。


 なぜならまず三塁までランナーが到達することが少ないし、盗塁だって二塁よりも三塁の方がホームより近くキャッチャーからの送球からでアウトになりやすいので、相当の自信がないとランナーも試みることはない。つまり前回までのセカンドやショートみたいにベースカバーに神経を尖らせることもさほど無いだけでなく、ファーストのように別ポジションから送球が飛んでくる場面が自ずと少ないので、ボールを触る機会が少ないのだ。


 しかも自分が守るべき守備範囲も狭い。主に三塁ベース付近、それもマウンドの後ろ側とショートとの間くらい。そのためとにかく早い打球、それから勢いのない打球をダッシュして一塁でアウトにできる能力さえあれば、ひとまずなんとかなるポジションなのだ。実際に守備が悪くても打撃に魅力のある選手が起用されるケースも多い。


 (引っ込み思案ってことは、逆を言えば周りの気持ちを優先させる優しさを持っているって意味でもあります。大丈夫、その優しさがチームを助けたいってことに向いてくれたら例えレギュラーが難しくても、貴重な控え要員としてチームに必要な存在になりますから。特に今の主力であるチックさんがいる間は、彼のバックアッパーとして支えてください)


 シャズ先輩の想いにララは気付くことはあるのか、今はわからない。しかしそこに気付いたときには、ララはきっとこのチームに大切な存在となっているに違いない。


 (いいや。今はそんなこと考えても仕方ないし。とにかく練習して慣れていかないと………。頑張らなくちゃ!!)


 ララ自身も気持ちが固まったのか、途端に骨のヘルメットから見えるその視線が鋭いものへと変化していく。今日入部が決まったばかりでまだ野球帽はなかったけれど、それでも周りと想いは変わらない。


 「来ーーーーーい!!!!」


 他のメンバーと同じように、彼女もキュウコン監督のかけ声に呼応する。


 こうしていよいよ練習が再開される。ランナーなしという状態からスタートして。カーーン!という、ボールを打った音をグラウンドに響かせながら。


 「いきなり私のところだ………!!」


 しかも打球はララの方へと転がってきた。強い当たりでそのまま待ってても良さげな雰囲気はあったが、彼女はラプ先輩にアドバイスされたようにそのゴロに向かって走っていった。こうすることでバッターランナー………特に俊足のランナーが一塁に到達する前にアウトにできる確率を高くできるメリットがあるからだ。先程も述べたように、サードからファーストまでの距離は長い。少しでももたついてしまってもダメだし、だからといって焦ってしまえば思わぬミスを招く結果になってしまう。それだけに簡単に見えるゴロのキャッチからの一塁への送球も落ち着いて確実にこなしていく必要があった。


 「と、届くのかな?え、えーい!!」
 「お、おい!!しっかり投げろよ!!」


 ララは必死になっていたのだろう。あまり周りが見えてるような気配はなかった。結果として彼女はしっかりとゴロを茶色いグローブでキャッチするところまでは良かったのだが、肝心の送球が一塁よりだいぶ手前………マウンドの前で弾んでしまい、とてもファーストのマーポが掴むことが出来なかった。もちろんその間にバッターランナーは一塁に到達。内野安打となってしまったのである。


 「何やってんだよ!!ラプ先輩にも言われただろ!!しっかり相手のグローブ目掛けて投げろって!!全力を尽くしてのエラーなら誰も文句言わねぇけど、こんなつまらないことすんな!!落ち着いてひとつひとつ確実にやっていけ!!」
 「す、すみません………。マーポくん………」
 「まあまあ、落ち着いて…………」


 彼にとって相手が初心者だろうと関係ないって感じなのだろう。リオが宥めてるのもお構い無しに、想いが強くなってしまってララのことを叱咤してしまう。その姿を見た彼女は半ばパニック状態になってしまい、しゅんと落ち込んで謝罪の気持ちを伝えていた。これがララのプレーに影響しなければ良いが……………と、不安がグラウンドの中に立ち込めていく。


 気を取り直して次のノックがスタートする。なお、メンバーの入れ替えのときにキュウコン監督から「ある程度同じメンバーで練習を続ける」と、ルール変更が告げられていた。そのため集中力が途切れないようにみんなは必死だった。特にずっと練習に参加しているメンバーには少し疲労が見えている感じもする。それでも練習が止まることはない。







    カーーーーーン!!!
 「よし!サードゴロだ!ゲッツーいけるぞ!しっかりやれよ!!」
 「は、はい!!」


 マーポのアドバイスに従ってララがゴロをキャッチしにいく!!そして今度はしっかりと二塁ベースに入ったリオの方を目掛けて目一杯送球したのである!!


     パスン!!
 「アウトー!!」
 「やっ…………やった!」
 「よしっ!!ナイススローイング!!それっ!!」
 「アウト!!」
 「よしきたぁ!!ナイススローイング!!」


 結果は二塁フォースアウト、一塁もアウトで5―4―3のダブルプレーという形になった!!
初めて自らの手でアウトを奪えたってこともあり、ララの喜びは特別なものだった。恐らくきょう一番の弾けっぷりだっただろう。ニコニコと笑顔で喜びに浸っていたのである。


 「良かったね、ララちゃん!」
 「え?」
 「凄かったですよ!」
 「ロビーくん………」
 「やれば出来るじゃんか!!この調子でがんばれよ!」
 「マーポくん………!」


 周りのメンバー………特に同級生からの祝福が想像以上だったのだろう。ララは一瞬戸惑ってしまったが、すぐに感謝の気持ちを伝えた。そしてハッキリと心に決めたのである。温かい仲間に囲まれているこの野球部で頑張ろうと。


 ……………ただ、良いことばかりでもない。このときベンチではチコっちは実に不愉快な気分でいた。


 (何よアイツ。自分もチヤホヤされて満更でもないって感じじゃない………!さっきあんなに人に冷たく接してきたくせに)


 ブスッとほっぺたを膨らませて周りから祝福されているララのことを見ながら、彼女はこんなことを考えてしまうのであった。


 (…………いいわ。もう同級生だからって情けはいらない。絶対にアイツにレギュラーを譲ったりしないんだから!!)


 ララとチコっちは異なるポジション。それなのに彼女は対抗意識をメラメラと燃やし始めた。もはや同じグラウンドに立ちたくないということなのか。これではシャズ先輩の構想が崩れてしまうことになる。このまま放置するのは色々ややこしくなるような気もするが…………。


 本来的にはここにピカっちがいれば冷静さを持たせようと宥めたりするわけだが、運の悪いことにどこかの頼りない某カゲっちという主人公のせい……………って、名前ハッキリ言ってんじゃん!!!!ひどいよ作者さん!こんなの無いよ~~!!わ~~ん!!


 …………失礼しました。話を続けます。


 とにかく僕のことを心配してその場にいなかったピカっちがチコっちのブレーキ役だったということで、彼女の変な嫉妬からの変な対抗意識を防ぐ者は誰もいなかった。その結果としてこのあとの話がややこしくなることになろうとは、誰もわかるはずがなかった。







 (よし、次も頑張らなくちゃ)


 それから少しして練習が再開される。ララももう一度集中力を高めて打球が飛んでくるのを備えていた。もちろん他のメンバーも、それからベンチにいるメンバーも同じような気持ちだった。


    カーーーーン!!
 「また私のところだ!!」
 「ココロちゃん、落ち着いて!!」
 「ええ!!オーライ!!」
 「頼むぜ!!」


 キュウコン監督がノックした打球はまたもサードへと飛んでくる。ややショート寄り………つまり三遊間への勢いのあるゴロだ。それを体の正面でキャッチするため、ココロは多少ショート側へと移動する。「オーライ!」という自分がゴロをキャッチするという意志を示すための掛け声を出しながら。こうすることで同じくゴロをキャッチしようと、サードへ接近してきたブイブイ先輩との衝突を防ぐことができる。それだけではなく彼をココロのカバーリングへと向かわせることが出来るというわけだ。


 そのことを理解していたのか、ブイブイ先輩は彼女の掛け声を聞いた直後にはすぐにカバーリングへと向かった。迷うことなく、自信を持って。


 (あのブイブイってやつ、シャズさんが姉とか言っていたな。だとしたら野球の話は色々聞いてるのかもしれないな。いくら特性に“てきおうりょく”があるからって、初心者って感じがしねぇや。ショートにはレギュラーがいないって言うし、こりゃあもしかしたらそのままレギュラーもあり得るかも知れないな)


 ファーストからその様子を見ていたマーポも彼のセンスに驚いてしまう。同時にいくらポジションが違うとはいえ、自分も周りに負けないようにしないといけないという競争心がメラメラ燃えてくるのであった。


 「よし!しっかり投げなきゃ!えーい!!」
 「アウト!!」
 「よし、ナイススロー!!」
 「良かった♪」


 その直後にララから送球されたわけだが、特に何も乱れることもなく彼はそれをきっちりキャッチした。バッターランナーが一塁に到達する前だったので、もちろん判定はアウト。思い通りにしっかりとボールを投げられたことが嬉しかったのか、ララはまた笑顔になった。


 「いい感じだな!!よし、次!!」
 『こーーーい!』


 再びキュウコン監督から、「カーン!!!」という音と共に打球が放たれる!!またしても三遊間をめがけて!!それも先程とは違って鋭いライナーという形。瞬時の判断が必要だった!!


 「キャッ!!」
 「ちくしょう!ダメだ!!」


 ララは完全にこの打球に怯んでしまい、その場で固まって何も出来ずにいた。一方のブイブイ先輩も必死になってライナーのキャッチを目指した。しかしどちらかと言うと三塁ベース寄りの打球だったために、結局追い付くことは出来なかった。結果としてレフトのルーナの前でボールは弾んだのである。


 「これでランナーは一塁か。それにしてもララのヤツ、ビビりやがって………」
 「まだ慣れていないだけだよ。もう少し我慢しなよ。最初から何でも出来る人なんていないんだから」
 「ちっ…………」


 リオの指摘してる点はもっともだ。マーポもそのように感じていたせいか、それ以上は特に何も言わないようにした。


    カーーーーン!!
 「うわっ!!でかい!!!」
 「長打になるぞ!!キャッチャーは一塁ランナーがホームに返ってくるかも知れないから、バックホームに備えろ!!ピッチャーは三塁方向から回り込んでキャッチャーのカバーリングに入れ!!ショートは二塁ベースカバー!サードは三塁ベースカバーに入れ!!オレとセカンドが中継カットをするからな!!」
 「あいよ!!」
 「はい!!」


 さすがは本職が「グラウンドの司令塔」とも呼ばれているキャッチャーをしているマーポだ。ファーストの守備をこなしながら、初心者でどうしたら良いかわからず初動が遅れたメンバーにひとつひとつ指示を送っていた。その圧倒的な姿に一度はビックリしたメンバーだったが、その後は落ち着いてそれぞれ与えられた役目をこなしに向かったのである。


 「そうはさせないよ!!」
 「ナメんじゃねぇ!!」


 一方で打球は青空へとグングン吸い込まれていた!!センターのラビー先輩、それからライトのラッシー先輩が懸命に追いかけていく!!…………しかし!!


   ガシャーーーン!!
 「ち、追いつけなかった!!」
 「うちの脚力でもダメだったか!!こうなりゃ!!うおおおおおおおおお!!!」


 打球はそのまま右中間のフェンスに直撃した。ラビー先輩が跳ね返ってきたボールを一足早くつかむと、そのまま土の内野の部分から芝生の外野の部分へと近づいていたセカンドのリオへと送球する!


 その間に一塁ランナーは二塁を蹴って三塁にたどり着いた。しかしラビー先輩の送球が強くて素早かったため、ラビー先輩から送球を中継カットしたリオはバッターランナーがたどり着いた二塁へと送球した。ボールを受け取ったブイブイ先輩は一連の流れでひとまずランナーに軽くタッチするだけに留めたのである。


 これでランナーは二、三塁。果たしてどんな展開が待っているのだろうか。次回もまだまだ守備練習は続く。

 
 













 













 






 次回は何事も無ければ5月29日(土)になります。お楽しみに!

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