HR34:「三者三様な外野手」の巻

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:16分
 お待たせしました。急遽投稿します。今回も野球の説明がメインとなります。
 いよいよ始まった守備練習。僕の出番はまだまだ無いけれど、ブイブイ先輩がピカっちと馴れ馴れしくしてるのがなんか嫌な感じ…………。


 キュウコン監督がノックした打球はセンターを守るラビー先輩の方へとみるみるうちに飛んでいく。ジュジュ先輩のように経験者であれば、恐らくさほど苦労せずにキャッチ出来る打球なんだと思う。しかし、ラビー先輩は全くの初心者である。いくらサッカーという別の球技をして運動神経を鍛えたとはいえ、畑違いの野球にはそれが上手く通用してなかった。……………だが、それでも彼女に悩んでる暇はなかった。


 (シャズがどうしてうちのことをこんな外野に指名したのかわからないけど、サッカーで培ったこの瞬発力を舐められちゃ困るんだよ!)


 ラビー先輩は落下点へとまっしぐら。さすがは元サッカー選手。迷いから初動こそ遅れたものの、それを取り返すくらいの瞬発力だった。


 「多分この辺だね!!絶対にキャッチしてやる!」


 おおよその見当が付いたのか、ある程度の場所で彼女は立ち止まる。そうしてからさっきルーナやジュジュ先輩たちに教わった形で、赤いグローブを青空に向けて構える。そして一言大きな声を出すのである!


 「オーライ!!」


 この掛け声をするのは、二人以上の選手が同じ打球を追いかけたそのときに、誤って選手同士がぶつかるのを防ぐ意図がある。そのようにリオが僕に解説をしてくれた。


   パスン!
 「よっし!!キャッチ出来た!!」
 「ナイスプレー!!!」
 「良いぞー!!」


 無事にボールは彼女の赤いグローブに収まった。周りのメンバーから温かいエールや拍手が聴こえてくる。しかし、当の本人は素直にそれを受け止めようとはしなかった。


 (ケッ、なんだい。たった1球ボールをキャッチ出来ただけじゃない!この程度で満足されたら困るね!)


 慣れないスポーツだからと言って、それに甘んじたくないということなんだろう。彼女はなんだか納得出来ないような様子で、再びジュジュ先輩とバトンタッチした。


 (それにしてもシャズのヤツ。なかなか良いポジションの決め方だよな。外野のレギュラーは俺たち3年生メンバーがガッチリ固めているとはいえ、ラビーをセンターにするなんてな)


 レフトを守る背番号「6」、ラージキャプテンはシャズ先輩の仕事っぷりに感心する。もちろん最終的にはキュウコン監督が決定しているのだろうけど、彼女だってグラウンドに立つメンバーの足を引っ張りたくないって気持ちは同じなのは間違いなかった。そのため縁の下の力持ち的な存在となるために、どうしたらみんなが気分を害することなく野球部の活動をしていけるのかを、必死に考えていることは…………先輩たちの方がよく理解を示していた。


 さて話が脱線してしまったが、ここで説明を入れておこう。もちろんこれもリオから教わったことをそのまままとめているだけなので、上手く伝わるかどうかは不明だが。


 外野手には既に記述しているように、レフト、センター、ライトと3つのポジションが存在している。もちろん頭を越されてしまうと後ろには誰もいないので、全てが大事なポジションであることは間違いない。しかしながらセンターに関してはキャッチャー、セカンド、ショートと共に「センターライン」といって、野球の守備に関しての要になるため、特に要求されるレベルが高くなる。


 ①ファールゾーンに面したレフトやライトと違って、センターはファールゾーンには面していない。→必然的に守備範囲が広くなり、打球判断能力と守備範囲をカバー出来る脚力が必要。

 ②①に関連して。ときには攻撃力強化の為に起用されている守備に多少難のあるレフトやライトの守備範囲をカバーする。

 ③グラウンド全体を眺めやすく、更にバッテリーの延長線上でもあるポジション。その為打者の特徴など情報を得やすいことから、レフトやライトへ指示を送る役目。→外野陣をまとめるリーダーシップが必要

 ④センターのフェンスは、ライトやレフトのフェンスより遠くなる(だいたい20mくらいの差)ので、当然ながらホームベースへの距離も遠くなる。味方のピンチの時、外野まで打球を飛ばされたとき、それによって生還を狙うランナーを刺すために……………つまり、相手チームの得点の阻止の為に、直接ホームベースへボールを投げられる(“バックホーム”と呼んだりする)だけの肩の力が必要。ただし、肩の力に関してはライトの方が必要になるので、あくまで優先度は守備範囲をカバーできる脚力。


 ここまで述べたら伝わるだろうか。シャズ先輩が、未経験者にも関わらずラビー先輩にセンターというポジションを任せた理由。彼女はサッカー部をやっていて鍛えていた脚力、まだ初日にも関わらず、先輩たちが固まっている外野手メンバーの中でも物怖じしないその強気な性格に……………外野手レギュラーに何かアクシデントが出たときの代役リーダーを担わせようとしているのである。


 (さすがですね、ラビーさん。まだまだこれから練習を重ねていけば、必ずや“カントリー・リーグ”を代表する選手になるはずです。頑張ってくださいね。それから…………)


 シャズ先輩はベンチの中で自信に満ちた小さい笑顔を覗かせる。そうしてからチラッとファーストを守るルーナの方へと視線を移しながらこのように思考を巡らせる。


 (ユーマさんといい、新しいメンバーを誘って頂いて感謝ですよ、ルーナさん。このチームが悲願のリーグ優勝をしていくためにはある程度のメンバーの加入が必要でしたから。そして、いずれはあなたとラビーさんで外野手を引っ張って頂こうと思います。そうすれば現レギュラーに疲れが出てきても、大きくチームが失速する………なんてことも防げるでしょうから)


 今年のリーグで6チーム中3位以内に入らないと廃部になってしまう野球部。結果を残すためならあらゆる策を講じる覚悟をシャズ先輩は決めていた。この野球部を強くする……………それが自分と尊敬する先輩との約束だから。






 さて、再び視線を守備練習の方に戻そう。ここまで4球ノックが終了して、ミスは誰にも起きていない。良い感じでスタートが切れて、緊張感はさすがに和らいでいるように感じた。この調子でドンドン守備の感覚を養っていこう…………と、キュウコン監督から話があった。当然全員がウンと頷く。果たしてこれからどのような展開が待ち受けているのだろうか。


 「それじゃあ行くぞ!!」
 『こーーーーい!!』


 グラウンド中に選手の声が響く。そんな状況でキュウコン監督が再びノックをした!


   カーーーーン!
 「お、次は俺のところか!」


 打球はまた外野へ向かって飛んでいく。今度はレフトのラージキャプテンの方に向かって。さすがに野球経験者だし、ここも無難にボールは彼の持つ青いグローブへと何事もなく吸い込まれていくのだと…………、特に僕たち新入部員は思っていた。…………だが!!


 「わっ、しまった!!?意外にセンター寄りだった!!」


 打球は今までと異なり、野手の正面には飛んでいかず、センターのジュジュ先輩と彼のちょうど中間地点へと伸びていた。いや、若干レフト寄りか。なんとかラージキャプテンが落下地点へとたどり着けるかどうかって感じだった。


 (ちっくしょう!俺の脚力じゃあ…………間に合わない!!)


 センターのジュジュ先輩、それからライトのラッシー先輩に比べて脚力ではどうしても劣ってしまうラージキャプテン。それを補うために波音や潮風の僅かな違いを感じるため発達したヒレを利用して打球音の違いを感じとり、初動の段階で立ち位置を微妙に変化させていていたが、その読みにまさかの誤りが生じてしまったのだ。


 「しょうがないな!それっ!!」


 その次の瞬間だった。ジュジュ先輩がグローブをはめた左手を思い切り手を伸ばしながら、横っ飛びをしたのである!!その結果、ボールも見事にキャッチすることが出来た!沸き上がる拍手と「ナイスプレー!!」という声。そんな周りの盛り上がりにもジュジュ先輩は表情一つ変えず、素早く元の位置へと戻っていくのであった。


 「サ、サンキュー………」


 ラージキャプテンが背中を向けている状態になっているジュジュ先輩へ感謝を伝えたが、それも彼の耳には届いてはなかった。キャッチ出来たということで、またラビー先輩とチェンジという形になったのだ。


 ……………さて、このレフトというポジション。ここはセンターやライトと比べたら守備の負担は少ないポジションのため、どちらかと言うと打撃に自信がある選手が守りやすい。あるいは外野手に初めて挑戦という選手が守りやすいようだ。


 その理由としてはこうだ。少年野球などではまず左打者が少ない。右打者も技術が成熟してないからかなり打球も飛んでくるため、センターに次ぐくらいの守備力が必要になるのだが、競技レベルが上がるほど逆に左打者の数も増えて、右打者もランナーが進めやすいためセンターからライト方向へ狙い打ちしてくるので、結果的にレフトへの打球は飛んで来にくくなるのだ。


 連携プレーに関しても動きが少ない。せめてランナーが三塁にいるときにカバーリングをするくらいだと思われる。肩の力に関してもまず直接一塁に送球は皆無だし、バックホームだって中継に入るサードやショートが強肩であることが多い(内野の深いところから一塁に送球しなきゃいけないため)ので、さほど強くなくても賄えるのだ。


 強いて言えばレフトは右打者からの強い打球が飛んでくる可能性が高く、しかも落下点がファールゾーンというパターンもしばしばあるので、そんな打球に追い付ける脚力や技術、経験があると望ましいか。


 それから打球処理の早さ。先ほどの例ならば、センターのジュジュ先輩の好プレーがあったので事なきを得たが、あのような場合で打球がセンターとレフトの間に落ちてフェンスまで到達する可能性もある。そんなときに打球処理にもたついていたら、ランナーが一塁だけでなく二塁、三塁まで到達する可能性もある。最悪な場合ダイヤモンドを一周するランニングホームランという形で、一気に本塁まで到達して失点…………ってパターンまであるわけだ。そうならないように、打球を素早く中継に戻せる能力は最低限求められる。もちろんその時に肩の力や送球に自信があれば中継ではなく、直接内野やバックホーム出来るので…………レフトの守備力が高ければ高いほど、外野手のレベルも高いと言えるかもしれない。


 (俺も別に守備に自信があるって訳じゃないからなぁ。本当に打撃でカバーしてきたって感じ。入部したときにたまたま外野手のレギュラーだけが決まってなかったから、なんとか打撃で認めてもらってそのまま試合に出られてるけど、キャプテンを任された以上は守備もしっかり頑張らないとな…………)


 ラージキャプテンは元の位置に戻りながらこんなことを考えていた。今年3位以内でゴールインしないと廃部。恐らくそのことが生んだ危機感で、今までこの野球部がやってこなかったことにもどんどん取り組むだろう…………そんな予感も彼の心の中にはあった。








 その予感は確かなものだった。6月に始まる野球部として最後の戦いの舞台になるかもしれない“カントリー・リーグ”に向けて、この時点で既に、キュウコン監督のプラン通りに物事は進行してるのだ。


 (まだみんなには伝えていないが、今年はレギュラーを白紙にして全員でリーグ優勝を狙うことにしよう。新入生や未経験者のメンバーにもチャンスを与えていく。そこで活躍するメンバーを見て、今のレギュラー陣がより活発化することを願うばかりだ)


 バットを握りしめてノックを続けるキュウコン監督。みんなと同じ野球帽を被る彼の視線には、もはや「存続への最低条件」に留まらず、悲願の「リーグ優勝」しか見えていない。そんな監督を間近で見ているシャズ先輩には、強く熱い想いが伝わっていた。だからこそ彼女もメンバーの競争心を高めようと考えていた。


   カァーーーン!!


 白球が再び外野へと飛んでいく。とはいっても、今度は今までとは逆のライト方向。ということで背番号“9”、赤いグローブをはめたラッシー先輩が動き出す!


 「俺の気合いとスピードならどんなボールだって追い付けるぜ!!」


 打球はグングン伸びていき、落ちてくる様子は見られない。ラッシー先輩は打球の行方を追いながら、自分が守っていた位置からフェンス側…………つまり後ろ側に向かってずっと走っていく!!果たして追い付けるか…………!?


 「外野のレギュラーは誰にも譲らねぇ!!」


 バクフーンであるラッシー先輩は背中の炎を爆発させた。クールな印象なジュジュ先輩、派手さは特に無いけれど、チームに貢献するために堅実な守備力に向上を目指すラージキャプテンと比べ、彼のプレースタイルが明らかに異なるものなのは誰が見ても明らかだった。


 「俺は熱血メラメラ全力プレーが持ち味なんだよ!!みんなが良いプレーしてんのに、俺だけだせぇプレーを出来るわけねぇだろう!!」


 自分の背番号が入った野球帽が落ちてしまうほどの勢いが、そんな彼の熱い気持ちを表していた。このままだと追い付けないと判断して、思いきってボールへとダイビングしたわけだが………………結果はキャッチ。若干ぎりぎりな感じもしたが、掴んだボールを離していないことを高らかにアピールするその姿はどこか誇らしげだった。


 …………さて、そんな熱いプレースタイルが魅力的なラッシー先輩が守るポジション、ライト。ここはレフトのような打力重視型選手、センターのようなスピードや守備力を重視したレベルがより高い選手とはまた別のカラーがある。


 まず、レフトとセンターのちょうど中間のようなバランス型選手が多い。これライトはファーストのカバーリング、ファーストやセカンドの守備のバックアップ、センターのバックアップなどレフトに比べたら動く割合が多くなることが多い反面、レフトと同じようにファールゾーンも近いこのポジションは、全くファールゾーンが存在しないセンターほどの守備範囲は広くないことが理由だった。だから打撃にも守備にもそこそこ自信がある選手が守りやすい。


 そしてこのポジションの一番の見せ所は、なんと言っても肩の強さではないだろうか。ランナーが二塁や三塁にいるチャンスの場面では、打者はホームベースから遠くランナーがホームインしやすいように、センターからライトに向かってヒットを狙ってくることが多い。特に三塁はライトから見て一番遠い所に位置するため、ライトはより肩の強さや送球が逸れにくい正確さが必要になるのだ。


 読者のみなさんは「レーザービーム」という野球用語をご存知だろうか。レフト、センター、ライトからより鋭く直線的な軌道を描くような送球を指しているのだが、特にライトは肩の強い選手が守りやすいことから、三塁送球やバックホームなどで、このような送球をする選手がいる。そんな選手からの送球によって、ランナーをアウトにして球場がより盛り上がる………野球の中でも魅力的なプレーのひとつとなっている。


 余談ではあるが、ライトは左投げの選手が若干有利なポジション。ファースト方向以外は体の正面から右側…………つまり利き腕と逆方向になるために、ボールを捕球してからスムーズに送球しやすい…………というのが理由である。逆にレフトだと利き腕方向に送球しないといけないため、若干投げにくさがある。


 …………とまあ、外野手に関してはこのような感じである。このあとの実際のプレーでまだまだ詳しい内容が出てくるでしょうから、読者のみなさんにはまだまだ楽しんで頂ければと思う。


 (まだまだ練習は続くからね。僕も早くセカンドに慣れたいな!!)













 


 


 本日をもって2020年の更新は終了です。次回は2021年4月25日(日)。1話あたり10000字ペースで作成していきますので、よろしくお願いします。そしてここまで「あさぽけ」への温かい応援をありがとうございました。

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想