HR27:「始まり?ゴメン。終わりなんだ」の巻

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 新型コロナの影響が続いてますね。皆さん、どうかしっかりと対策をしてやり過ごしていきましょう。
 マーポの気迫が凄すぎる。あそこまでとは言わないけれど、僕も言いたいことハッキリと言えるようになりたいな。


 「いよいよ僕の出番だ。緊張するなぁ………」
 「カゲっち!そっちは左打席だぞ!?」
 「え!?」


 マーポの言葉に、一瞬グラウンドに笑い声が響いた。幼なじみのカゲっちやピカっちは途端に恥ずかしくなっている。僕はというと初めはポカンと立ち尽くしていたが、周りのその様子に慌てて本来いるべき反対側の右打席に立つ。もちろん初心者なんだから、仕方ないだろうって腹立たしい気持ちも抱えながら。


 「本当にアイツ、大丈夫か?」
 「初心者には荷が重い勝負だよな、きっと」
 「さすがにヒートだって余裕だろう」


 ベンチに座る他の先輩たちからこんな声が聞こえる。おかしい。さっきまでの温かい雰囲気が全く無い。何だか冷たく笑われてる感じ。


 (うるさい。そんなこと分かりきってる事なんだ。僕だって勝てる勝負じゃないって事くらいわかるよ。こんな勝負で僕が望んでる“答え”が見つかるかどうかもわからないし)


 僕は腹立たしさから来るぐちゃぐちゃな気持ちに整理がつかないまま、自らの炎を彷彿とさせる赤いバットを構えた。リオやマーポの姿を見様見真似しただけだったから、それが果たして理にかなってるものなのか、それさえもわからない。多分経験者からしたら滅茶苦茶だろう。不安。とにかく不安だ。


 「カゲっちくん………大丈夫なのかな?」
 「大丈夫なわけ無いじゃない。まるっきりの初心者なんだから。最初からダメで元々よ!」
 「うん、そうだよね………」


 ベンチの中では不安そうに僕に視線を注ぐピカっちへ、チコっちが力強く励ます。今までの僕のことを知ってる彼女たちだからこそ、そこまで大きな期待はしてはいないだろう。別に僕が野球初心者だからとか、そういうのを抜きにしても。僕がアガリ症でハートが弱いからということを知っているのだから。


 「へへ。さすがに腕を怪我した今の俺でも、初心者に打たれるほど落ちこぼれてなんかいねぇよ。さっさと片付けてやるぜ………」


 手負いのエース、ヒート先輩はマウンドで薄ら笑いを浮かべた。そして僕へこのように突き付けて来たのである。


 「いくぞ、カゲっちとやら!何を理由にこの野球部を入部しようと考えてるか知らないが、木端微塵にしてやるからな!カッカッカ………」
 「負ける………もんか………」


 マウンド上でヒート先輩がボールを振りかぶる。………これが僕への1球目!!


 「うわっ!!見えない!!?」
 「落ち着け!!あんまり固くなるな!!」
 「そんなこと言われたって!!」
 「おい!余所見してる場合かよ!」


 マーポが懸命にアドバイスをしてくれる。それはありがたい話だったけど、そんな一言でこの状況が劇的に変わるほど甘い話ではなかった。


   バシィィィィィィィィ!!
 「ストライク!!」
 「……………」
 「あちゃ~…………」


 マーポが思わず額に手を当てる。何も出来ずに僕は立ち尽くしただけだった。こんな目に見えないようなボールをマーポやリオは打っていたのか…………そうやって考えると、この勝負にどうやっても勝ち目が無い気がした。


 「見たか?威勢良く勝負を挑もうたって、まるっきりの初心者に負けるほど落ちてないんだよ。懲りたらさっさと降参するんだな?」
 「てめぇ!?まだこっちがリードしてるんだぞ!?」
 「勝負が終わってるヤツは引っ込んでろ」
 「なんだと?」
 「マーポ、止めなさい!」


 ヒート先輩の嘲笑する姿に、マーポのイライラが募っていく。このままでは喧嘩になるだろうと考えたリオがその後ろで必死になって押さえつけていた。


 「僕は続けるよ。まだ1球だけしか終わって無いじゃないですか。実際の試合だったらまだ2球ストライクにならないとダメなんですよね?だから続けます………!」
 「そうか。ククク…………面白い。でもまぁどのみちすぐに終わるだろうけどな?」
 「そんなことやってみないとわからないだろ!?」
 「なんだと…………このガキが…………!」


 僕は彼の鋭く“こわいかお”に怯みそうになったけど、懸命に“こらえる”。僕の反論する姿が面白くなかったのだろう。どんどん彼の口調は荒くなっていく。


 「てめぇに打てるボールなんてねぇんだよ!!」
 「来た………!」


 ヒート先輩が僕に向かっての2球目を振りかぶって投げてきた!!


 「落ち着けよ、カゲっち!しっかりボール見ていけ!!固くなりすぎるな!」
 「う………うん!!」


 マーポが懸命にアドバイスをしてくれる。そうだ。僕がちゃんと赤いバットを振れない場所はストライクゾーンじゃないんだ。落ち着け………落ち着け。


 (わ…………わからない!良いや。振っちゃえ!!)


 僕はこの勝負が始まる前に、マーポやリオから教わったように全身でバットを振った!イメージ的には燃えてるしっぽで相手を叩くような感じ。思い切り力を込めて。


  ブンッッッ!!
 「ストライク!!」
 「!?」


 しかし、結果は空振りだった。タイミングも全然バラバラで、いかにも初心者という感じ。やっぱり今日初めて野球を経験する僕が、経験者相手に勝負を挑むなんて無謀にも程がある気がした。


 「おい!落ち着けって言ってるだろ!!体が前に突っ込みすぎだ!!それじゃしっかりとボールに力は伝わらねぇ!がむしゃらに振れば良いって問題じゃねぇぞ!!」
 (そんなこと言われたって………)


 マーポが懸命にアドバイスを送ってくる。けれどもそんな簡単に実行できれば誰も苦労しない。段々と投げやりな態度になっていくのが自分にも感じた。


 (そもそもなんで僕が最後なんだよ。経験者の二人が後に来れば良かったじゃん。素人が勝てるわけじゃん………。もういいや)


 僕はこの勝負に勝つことを諦めた。ここまで2連敗。通算で見れば11勝11敗。マーポが作ってくれたアドバンテージは簡単に失ってしまっている。ヒート先輩が腕に怪我を負っていること以外に、僕がここから挽回できる要素なんて恐らくどこにも無い。だとしたら、何もしないで黙って負ける方が良いだろう。マーポやリオには悪いが、僕からしたら絶対に入部する部活動が野球部じゃないとならない理由は特に無い。ピカっちやチコっちにも悪いけど、別に幼なじみ3匹が全員一緒の部活動じゃなきゃいけない理由だって僕にはない。


 ……………情けない話だけど、中途半端な僕には元々努力なんて向いてないのだろう。ラプ先輩の「今の自分の気持ちを凄く大事にすべきだと思う」という言葉は、僕の中では「中途半端な僕には他の場所で良い」と言うような解釈も出来る。なんか最低な考え方で嫌になるけど。





 「カゲっちくん。無茶だけはしないでね?お願いだよ………?」
 「ピカっち…………」


 一塁ベンチ側でピカっちが必死に祈りを捧げていた。その様子をどこか浮かない表情で見守るチコっち。彼女は知っているのだ。ピカっちが小さい頃からずっと人一倍僕のことを、まるで姉………いや母親のように面倒見たがりだということを。その理由は全く一度も聞いたことはなかったが。


 (本当に仕方ないわね。まぁ、仕方ないか。カゲっちって元々あんな情けない子じゃなかったしね。どちらかと言うと、私たちのことを守ってくれるくらい頼もしかったんだから………)


 オレンジ色に染まりつつある大空を見ながら、チコっちは過去の出来事を思い出していた。彼女は普段こそ姉御肌のような強気な姿勢を見せているが、根底は不安しかなかった。だからこそ思うこともある。


 (でも、いつまでもあんなこと引きずっちゃダメよ。過去は過去。いくら悔やもうとも変えることなんかできないんだから。…………そうね。むしろその前の自分を思い出しなさい。カゲっちが輝いていたその時を。そうすればあんなことなんか消すことは出来なくても、きっと少しでも薄めることができるんじゃないかしら?)


 ピカっちの「無茶しないで」という形とは違っても、チコっちにも僕のことを考えてる気持ちがあることは変わらない。「思い出してほしい」願いがあるのだから。


 …………ただ、肝心な僕には二人の気持ちが届いていなかったけど。


 (ケッ!不覚にもあのマーポってヤツに腕を攻撃されたときはどうなるかと思ったが、最後にド素人が控えてくれて助かったぜ。恐らくアイツに出番が回んないように俺に勝とうとしたんだろうが、その思惑も失敗みたいだな!残念ながら後は俺の独壇場だ!)


 ヒート先輩は不敵な笑みを浮かべ、僕に向かって3球目を投げた!!


   シュッッッ!!
 「来た!!ちくしょう!!えーい!!」
 「バカヤロー!!お前、人の話聞いてんのか!?」


 マーポが身を乗り出して叫んだ。無理もない。何せ僕はまたしてもタイミングもスイングも全然様になってないようなものを披露してしまったのだから。だが、明らかに空振りのタイミングだ………と、思ったその時だ!!


 「わわっ!?右足のつま先が突っ掛かって………バランスが取れない…………ヤバイ!コケる…………!!!」
 「馬鹿かアイツ」
 「何だよそれ…………」


 頭を抱えるとはこの状況のことを言うのだろう。マーポは呆気にとられ、その後地面に向かって呟いた。ベンチに座るピカっちやチコっちも恥ずかしさから赤面している。


 僕はスイングしたときに体が前に突っ込んでいた。そのせいで後ろにあった右足も踏ん張りきれずに前へとズレ込んでしまったのである。それだけならまだ良かった。しかし、つま先が地面に突っ掛かってしまいバランスを崩してしまった。その結果、僕は打席内で派手にコケてしまったのだった。しかし、それがとんでもない結果を生み出すことになった。


    コンッ!!
 「…………ッ!?」
 「はっ!?」
 「何!?」


 コケた弾みで思わず手放してしまった赤いバットにギリギリボールがかすったのである。しかもその場所は白線より外側…………つまりファールゾーンだった。判定はファール。ということで仕切り直しということになったのだ。


 「ちっ、命拾いしやがった…………めんどくせぇな」


 ヒート先輩はつまらなそうに一言吐いた。彼も余裕を装っているが、内心は焦りもあった。なぜなら、


     ズキッ!!
 (…………ぐっ!!?腕が痛てぇ。ちくしょうめが!!黙れ!収まれ!!)


 投球を重ねる度に彼の右腕の悲鳴は激しくなるばかりなのだ。しかし、少しでもボロボロな姿を見せれば、シャズ先輩によってこの勝負が中止になってしまう。それは彼にとって全く無意味。何がなんでも勝利を掴まないと彼のプライドは許されなかった。その為1球でも早く勝負を決めたいのである。


 (初心者のカゲっちくんだから捉えきれてないけど、確実にヒートの投げるボールが悪くなってる感じがするわ。というか、怪我も大丈夫なのかしら?)


 不安を感じてるのは、彼の投球をキャッチしているラプ先輩も同じだった。彼女としてはそもそもこんな勝負をしていること自体無意味だと感じているし、手負いのエースのことも考えると今すぐにでも中止したかった。


 しかし、やはりずっとバッテリーとしてこのチームを支えてきたという感情もあるのだろう。お互いの意志が噛み合わないとき、彼女はヒート先輩の意見を尊重することにしていた。つまり彼が勝負を続けると言うのならば、自分もそれに従うと………そのように決めていたのである。


 (私が最初からそうすれば良かったのかも。この勝負だって。変に意地なんか張らないで彼の思うようにさせていれば、ここまで長丁場な勝負にはならなかったかもしれないわ…………)


 ラプ先輩は自責の念に陥る。しかし、そうした所で今さら遅い。それよりも今の彼女は、ヒート先輩の怪我のこともあるし、この勝負をいかに早く終了させるかだけを考えていた。そうしてたどり着いた結論。


 (カゲっちくんには悪いけれど、ここからは手加減抜きよ。勝負を終わらせるわ)


 自らが招いた新入生にこんな仕打ちをするのは、出来れば避けたかった。恐らくがっかりされるだろうと覚悟もしていた。しかし、このチームに課された運命を考えたら、どう考えてもエースの力は必要になってくる。ここで腕に負った怪我が変に悪化させてしまう方が、このあとに控えてる「カントリー・リーグ」に向けて大きなデメリットになると考えたのだ。


 (行くわよ。最後の一踏ん張り。ここまで来たら勝ちましょう?)
 (当たりめぇだっつーの…………)


 ラプ先輩から送られるサインを覗きこんで頷くヒート先輩。ここにきて再びバッテリーの結束力が強くなったのである。


 こうして仕切り直しとなった3球目を彼は投げてきた。








 (うわわ!やっぱり速いよ!!)


 僕はそのボールの勢いに思わず怯んでしまう。さっきは単なるまぐれ。まともに打てるはずがなかった。そこへ、再びマーポの叫ぶ声が聞こえてきた。


 「落ち着け!何度も言ってるだろ!!腕だけで打とうとするな!しっかり体全体を使ってバットを振り切るんだ!そしたらお前でもボールは飛んでいくから!!とにかく落ち着け!自分が打てそうだと思ったら手を出していけば良いんだ!」
 「そうだよ!!慌てないで!まだタイに持ち込まれただけだから!!」
 「しっかりしなさいよ!!」
 「頑張って、カゲっちくん!!」
 (みんな…………)


 マーポの声をきっかけに、リオやチコっち、ピカっちの声も飛んできた。それは確かに嬉しいことではあるが、だからと言って劇的に状況が変わるとは思えなかった。それくらい僕は怯んでしまったのである。その結果、


   バシィィィィィ!!
 「ストライク!!」
 「……………」
 「よし…………!!」
 「ああ…………」


 チック先輩の声が響いた。僕は全く身動きが出来ず、結果的に見逃しという形になってしまった。これで通算成績11勝12敗と相手にリードを許しただけでなく、成す術なく3連敗を喫したことになる。思わずその場でうなだれてしまった。なんて自分は無力なんだろうと。


 (あと4球で勝ちが決まるのか。あと少し………あと少しだ)


 一方のヒート先輩。彼は主導権を確実に取り戻せてることに、少しだけ気分が楽になっていた。相変わらず腕の痛みは続いていたが、それも勝負を制するためだと考えれば、気にもならない。都合の良いことに相手のヒトカゲも意気消沈してくれてる。このまま黙っていても勝てるだろう……………そのように分析していた。

 
 こうなるとモヤモヤしてくるのは新入生サイド。特にマーポは自分の感情を抑えるのに苦労していた。もう今にも“ハイドロポンプ”を発射しそうな雰囲気だと言えば伝わるだろうか。


 「おい、カゲっち!!お前やる気あるのか!?手抜きするのもいい加減にしろよ!!」
 「そうよ!!だらしないわよ!!しっかりしなさいよ!」
 「そんなこと言われたって………」


 マーポだけでなく、チコっちまでゲキを飛ばしてくる。しかし、そのおかげで僕はますます体が固くなるのを感じた。もうどうしたら良いのかわからない。このまま責め続けられるのもゴメンである。いっそのこと、降参した方がマシだと思った。



 「どうするの、カゲっちくん。このまま勝負を終わりにする?」
 「………………そうしても良いですか?」
 「何それ!?」
 「落ち着いて、チコっちちゃん!」
 「おい!!ふざけんじゃねぇぞ!?」
 「マーポも落ち着いて!!」


 審判役のチック先輩に質問され、僕はこの勝負を断念する意志を伝えた。直後にマーポやチコっちの失望の意味合いが込められた怒号が響いた。それぞれそばにいたリオとピカっちが慌てて押さえつけるが、それさえも振り切ってしまいそうな勢いだった。


 「本当に棄権ってことで良いんだね?」
 「……………ええ。初心者の僕には荷が重いんで」


 何となくチック先輩が不機嫌そうな表情に見えた。そんな彼に再度念を押されるような形で確認されたが、僕の気持ちが変わることはなかった。


 「………わかったよ。ゲームセット!!!この勝負、ヒートの勝利!!」
 「マジかよ…………」
 「見損なったわ………」
 「フン……………最初からそうやっておとなしくしとけば良いんだよ、クズめが」


 ペッとツバを吐き捨てて彼はマウンドを降りる。ラプ先輩やチック先輩も僕の姿を気にしつつ、彼のあとに続いた。


 …………問題はこのあとである。


 僕はその場に力なく座り込んだ。「あ~、終わってしまった………。なんてヤツだ、僕は」と罪悪感と自己嫌悪がたっぷり込められた一言を呟きながら。そこまでは良い。だが、マーポやチコっちの不満が収まってる様子はなかった。


 「二人とも落ち着いて下さい!!気持ちはわかりますけど、止めてください!!」


 シャズ先輩がベンチから飛び出してきた。一体何事かと、先輩たちがグラウンドの方へ視線を移す。


 「てめえ!!ふざけんじゃねぇぞ!?何のためのアドバイスだと思ってやがるんだ!!」


 まずはマーポ。彼が激怒するのも無理はなかった。僕に「友達になったから」と、あれだけ熱心に野球のことを教えてくれたのだから。そんな彼の期待を裏切り、逃げてしまった僕に釈明の余地など存在するはずがなかった。


 「アンタね!!どれだけ弱虫なの!?情けないわね、本当に!」


 そこへ更に追撃するように、チコっちが怒りをぶちまける。言い分は理解できる。いつも僕をからかってくるけど、心配してくれてるのは伝わっていた。


 「ふざけるんじゃねぇよ!!お前のせいで俺の楽しみが無くなっちまったじゃねぇか!!どうしてくれるんだ!!?」
 「そうよ!私たちだってまた振り出しに戻っちゃったじゃない!!何考えてるのよ!」


 二匹は鬼のような形相で迫ってくる。僕に反論する余地すら与えられている様子は無い。黙ってこの場をやり過ごすことしか出来なかった。でも、それさえもどこまで続くかわからない。


 「何か言えよ!?シカトしてんじゃねぇよ!」
 「そうよ!!」
 (うるさい……………黙れ!静かにしろ!)


 だんだん周囲への不満が込み上げてくる。しっぽの炎がそれに合わせて勢いを強くしている。無意識のうちに体がわなわなと小刻みに震えているのも感じた。目付きも悲しみのものから鋭いものへと変化する。恐らく今自分がされてる事が、言葉による必要以上の非難だと防衛本能が受け止めてるのだろう。いずれにせよ好ましい状態ではないのは確かだ。


 「マーポ!そんなにカゲっちくんばっかり責めてどうするの!?私やマーポがもうちょっと頑張ればカゲっちくんに回す前に勝負を決められたかも知れないんだから!私たちだって力不足だったんだよ!」
 「チッ!うるせぇヤツだ…………」


 リオの指摘に少しだけ気持ちが落ち着いて来たのか、マーポはそれ以上に僕を責め立てることはしなかった。でも、本当は彼女だって悔しいに決まっている。僕を傷つけてはいけないと敢えて我慢していたのだろう。僕と一瞬だけすれ違ったその赤い瞳は、決して優しく温かいとは言い難いものだった。


 そのリオの気持ちを感じ取ったのだろう。チコっちがますます憤りをぶつけてきた。


 「確かにヒート先輩はあんな感じだったけど、ラプ先輩や他の先輩たちだってあんなに温かく迎え入れてくれたのよ?そういう人たちの気持ちも踏みにじったってこと、理解してるの!?」
 (そんなこと言われても、僕だって困るだろ………)


 彼女の一言によって、一旦は収まりかけた僕の苛立ちがまた増えてきた。個人的な意見としては僕の出番を後半にしたことがそもそもの間違い。前半であれば僕が例え全敗を喫したとしても経験者の二人で巻き返しすれば良いだけの話なのだから。この順番には本当に納得出来ない自分がいた。まぁ、今ここでそれを口にしたところで言い訳にしか聞こえないだろうから、我慢してるけど…………それももう限界に近い。


 「本当に最低!!あの日より前の自分の姿、少しは取り戻してくれるって期待していたのに!!」


 感極まったのか涙ぐむチコっち。そんな彼女を連れて、冷たい表情をしたマーポやリオはその場をあとにした。


 僕だけがその場に残された。 




 



 


 


 

 


 






 

 







 


 
 プロ野球、今年は観られるのかな。

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