覆面作家企画8で参加させていただいた際に、投稿させてもらった作品です!
むかし、むかし。
一匹のホルビーがいました。
ホルビーは好奇心旺盛で毎日いろんな場所を探検していました。
ある日、ホルビーは植物図鑑を片手に森を歩いていると、だんだんと白い霧が周囲を包み始めました。
「うーん。 戻ったほうがいいかな? でも今日は珍しいお花を観察したいし、関係ないよね!」
好奇心旺盛なホルビーは霧の中だろうとお構いなしに進んでいくと、赤い花が咲き誇る花畑を見つけました。
「あっ、珍しいお花だ。 この花の名前はえーと・・・」
「彼岸花だよ」
そう教えてくれたのは、いつの間にかホルビーの隣で笑っている小さなポケモンでした。
「教えてくれてありがとう! へー、彼岸花って言うんだー」
「どういたしまして。 キミ、この辺じゃ見かけないね。 ここは誰も寄りたがらない所だから早く帰りな」
「ふーん。 それなら君はどうしてここにいるの?」
図鑑の写真と花を見比べながら、ホルビーはそう尋ねました。
「ボクはこの花が大好きなんだ。 まあ、他のヤツらからは、こんな不気味な花が好きなんて変な奴って言われて、友達すらいないんだけどね。 ハハハー」
「どうして笑うの?」
ホルビーは花を観察しながら、そのポケモンに語りかけました。
「好き嫌いなんて、みんな違って当たり前でしょ? それで馬鹿にしているそいつらのが、よっぽど変な奴だと思うわ」
「そ、そんなこと言われたの、初めてだ」
「[あきらめ]」
「え?」
「この花の花言葉よ。 そういう連中と一緒にいるのはさっさと諦めて、自分の道を進んだ方がよっぽど楽でいいかもね」
「そ、そうかな・・・」
「そうだ!」
ホルビーは図鑑をパタンと閉じると目の前にいるポケモンを見てこう言いました。
「あなた、友達がいないって言ったよね? なら私が友達、第一号になってあげる!」
「え!? いいの??」
「もちろん!」
こうしてホルビーとそのポケモンは友達になりました。
***
「あっ! 私、そろそろ帰らないとパパとママが心配しちゃう!」
気が付けばもうお空の太陽は傾きかけて、夕食の時間が迫っていました。
「ま、また会えるよね?」
帰ろうとするホルビーを見送るポケモンのその目はひどく寂しそうな表情をしていました。
「馬鹿ね。 私はあなたの友達、第一号よ! 会えるに決まっているじゃない!」
「そう、だよね!」
寂しそうな表情をしたポケモンの表情はホッとした表情に変わりました。
「そんなに心配なら、この本、あなたが預かっていて!」
「え? でも・・・」
「いいから! 明日、ここで私にその本を返してくれればいいから。 約束よ?」
「う、うん! 約束!」
「じゃあ、また明日ね!」
「また、明日!」
こうしてホルビーはポケモンと別れ、元来た道を戻り始めました。
「あっ! あのポケモンの名前聞きそびれちゃったな。 まあ、明日聞けばいいか! そうだ! あの花も摘んでこようかな? きっと喜ぶだろうなー」
今日、友達になったポケモンの姿を思い浮かべながらホルビーは走ってお家に急ぎました。
「あっ、そろそろ森の出口だ!」
ホルビーがそう言って、霧に包まれた森を抜けた瞬間、不思議な感覚がホルビーを襲いました。
「・・・あれ? 私、こんなところで何してるんだろう? 何か大切な約束をしたような気もするけど...、それに、植物図鑑も持ってきていたはずだけど...うーん、何も思い出せないな~」
ホルビーがふと振り返ると、そこには森はなく何の変哲もない野原が広がっているだけでした。
「って、こんなことしてる場合じゃない! 早く帰らないとパパとママに叱られちゃう!」
こうして、ホルビーはお家に帰ると、今日あった出来事を綺麗さっぱりに忘れてしまい、その後、二度とあの花畑に出向くことはありませんでした。
やがて長い年月が過ぎました。
「・・・あれ? ここは?」
白い霧の立ち込める町に一匹のヒバニーが迷い込みました。
「おっ、よそ者か。 珍しいな。 よう、嬢ちゃん! こんな所に何の用だい?」
陽気に話しかけてくるのは[のうてんきポケモン]のルンパッパ。
「あの、えっと、私、その・・・」
「おいおい! しどろもどろだな! まさか記憶でもないのかい? ハハハッ!」
ルンパッパの問いかけに俯きながらもヒバニーは頷きました。
その反応を見た瞬間、ルンパッパは笑いをピタッと止めると、途端に真剣な顔つきになりました。
「お嬢ちゃん…もしかして、迷い子かい?」
「え?」
そこから、ルンパッパはヒバニーに迷い子について説明をし始めました。
『この地に 記憶亡き者 降り立つ時 其れ即ち 約束果たす時なり。 記憶亡き者 姿は違えど 約束相手見つければ 記憶も蘇るであろう』
「っていう言い伝えがこの町にはあるのさ。まあ、ざっくり言うとだな。 記憶ない奴が誰かとの約束を果たすためにこの町に現れる。 そんでもって、そいつは約束した時と姿が違っていて、約束相手を見つけた時に全て思い出すってことだ」
「じゃあ、そこの道を歩いている[とっしんポケモン]のマッスグマやあそこで木の実を美味しそうに食べている[さばくワニポケモン]のワルビルを見ても何も思い出さないのは約束相手じゃないってことかな?」
ヒバニーは周囲のポケモンを見回しながらルンパッパに言いました。
「おっどろいたな。嬢ちゃんは随分と知識が豊富だな。 この伝承とは別に言い伝えられている事がもう一つあってだな。 迷い子はこの町にいる時の姿でさえ本当の姿ではなく、別のポケモン、もしくは人間が姿を変えてこの町に来ている可能性もあるらしいぞ。 もしかしたら嬢ちゃんは元は人間なのかもな。 ハハハッ!」
「色々と教えてくれてありがとう。 それじゃあ、私、探しに行ってくるね!」
陽気なルンパッパから色々と教えてもらったヒバニーは約束相手を探すために、歩き出そうとした時、ルンパッパが慌ててそれを引き止めました。
「ちょっと、待ちな!」
「なに?」
「嬢ちゃんが気づいているのか知らないが、闇雲に探すぐらいなら、今、嬢ちゃんが手に持っている白い花を手掛かりにしたほうが俺はいいと思うぜ!」
ヒバニーはルンパッパに言われて自分の右手を見ると、確かに白い花を掴んでいました。
「ありがとう、ルンパッパ!」
「いいってことよ! 頑張りな、迷い子の嬢ちゃん!」
こうしてヒバニーは約束した内容を思い出すためにも霧の立ち込める町で、約束相手を探し始めました。
***
「すみません。 この花に見覚えはありませんか?」
「ん? 私が知っている色とは違うけど幽霊花じゃない! へー、こんな色もあるのね」
いろんなポケモンに花を知らないか聞いていたヒバニーは、ようやく花に見覚えのあるポケモンを見つけました。
「この花を知っているんですか!?」
「ええ。 この町を出たすぐの所にある森の奥に幽霊花の花畑があってね。 毎年、この時期になると咲くのだけれど・・・。 赤色なのと見た目が不気味な花だし、あそこには怖いポケモンが住み着いていて誰も近寄らないのよねー」
「怖いポケモン?」
「ええ。 なんでも大きなポケモンらしいわ。 あなたも行くのなら気をつけてね」
この話を聞いたヒバニーは、森の奥にあるという幽霊花の花畑に向かいました。
***
約束相手を探すためにヒバニーは霧の中だろうとお構いなしに進んでいくと、赤い花が咲き誇る花畑を見つけました。
「つ、ついた! ここが幽霊花の花畑!」
「彼岸花だよ」
そう教えてくれたのは、いつの間にかヒバニーの隣で寂しそうな表情を浮かべた大きなポケモンでした。
「・・・・。」
「この花の正式な名前は彼岸花って言うんだ。 ってお前? 聞いてるか?」
大きなポケモンの問いかけにヒバニーは小さな笑みを浮かべると、こう答えました。
「教えてくれてありがとう! へー、彼岸花って言うんだー」
「どういたしまして。 お前、この辺じゃ見かけないな。 ここは誰も寄りたがらない所だから早く帰りな」
「ふーん。 それなら君はどうしてここにいるの?」
大きなポケモンとそのポケモンが手に持っているボロボロの本に視線を向けながら、ヒバニーはそう尋ねました。
「俺はこの花が大好きでな。 昔から町の奴らには不気味な奴だと馬鹿にされていたが、こんな俺にも一匹だけ友達と呼べる奴がいてな。 もう百数十年前の話だが、そいつとここで会う約束をしていたんだ。 まあ、結局そいつは二度と俺の前に姿を現さなかったけどな。 きっと、友達のいなかった俺を憐れんで友達になってくれただけなんだろうな。 って、なんで俺はこんな事、お前に話しているんだろうな。 ハハハー」
「どうして笑うの?」
ヒバニーは寂しそうに笑って話すポケモンの目を見ながら、語りかけました。
「少なくともそれはあなたにとって大事な友達だったんでしょ? なら、それをあなたが否定しちゃダメ....。 そうじゃないと、ずっと友達だって信じていたその子が変な奴になっちゃうわ」
「久しぶりにそんなこと言われたな」
「[あきらめ]」
「え!?」
「この花の花言葉よ。 自分の道を進んだ方がよっぽど楽だって、あの時、言ったよね? それなのに、あなたはこの花言葉とは対称的にあきらめなかったのね...ほんと、馬鹿ね」
笑いながらもヒバニーの頬には一雫の涙が伝っていました。
「お、おまえは・・・」
「そうだ!」
ヒバニーは手に持っていた白い花を、目の前にいるポケモンに渡してこう言いました。
「あなた、約束したって言ったよね? 遅くなってごめんね。 友達、第一号、約束を果たしに来たよ!」
「うっうっ…」
「長い間、待たせてごめんね」
「ほ、ほんとに…本当に、キミなのかい?」
涙を流す大きなポケモンの問いかけにヒバニーは無言で頷きました。
「あなたの名前、まだ聞いていなかったね。 良かったら教えてもらえない?」
「ボ、ボクの名前は...」
ヒバニーは目の前のポケモンの名前を聞くと、嬉しそうな顔をしました。
おしまい
***
「えー、ふたりはこのあと、どうなったの?」
「さあ? どうなったんでしょうね?」
「もー。 おばあちゃんのいじわるぅ~」
「さあ! もう出かける時間よ!」
「は~い」
お話を読み聞かせ終わった、一人の歳をとった女性は小さな子供をつれ部屋の外に出ていった。
誰も人がいなくなった部屋の一角にはボロボロの植物図鑑と一緒に、嬉しそうに笑うあるふたりの写真が飾られていた。