退屈を盗む怪盗

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 アローラの海は、夜になると暗闇そのものになる。何も映らず、波の音もほとんど聞こえない。
 アローラの町も、夜がくれば大抵はお店はしまり、闇のとばりが降りる。人が生活するための明かりが、夜空の輝きだす星と反比例するようにぽつぽつと消えていくのがいつもの光景だ。
 宙に浮いたパレット上、夜空の中心にいる気分になって回せば片や闇そのものとなった海、片や人の生活が感じられるいくつかの明かり。
 朝は日差しが登りきる前に起きて、昼は日差しが強いときはみんな一休みして、夜になったら一日を終える。昔はそこかしこで行われて危険だったポケモンバトルも、今は禁止されて人々は不意にポケモンの技に巻き込まれない生活を過ごしている。
 技術は発展し、何かあったら一緒に生活するポケモンたちも助けてくれる。とても安全で、呆れるくらい平和な島。
 ……いや、平和なのはいいことだ。誰かに傷つけられることを怖がらなくていいし、食べるものがないことに怯えなくていい。

「だけど、それだけじゃつまらないよね」

 満たされた生活は退屈になる。危ないことに巻き込まれたくはないが、刺激は欲しい。だからこそ、今日はたくさんの人が、ハウオリシティに集まっている。このわたしが町に現れるのを、今か今かと待っている。

【予定時刻十分前になりました。ミッションを開始してください】

 イヤホンから聞こえるオペレーターの声。ミッションとは何か、わたしが何者か。自己暗示と、決意を籠めて呟く。

「本日夜八時、ハウオリシティデパートの金剛玉をいただきに参上する。『怪盗乱麻』」

 体重を預けていた、闇に紛れるような黒いパレットが降りていく。ある程度目的地に近づくとレゴブロックのようにバラバラに解けて、わたしはハウオリシティデパートの屋上に降り立った。

「出たぞ、怪盗だ!」
「今度は空から堂々と出てきたぞ!」
「取り囲め、絶対に逃がすな!」

 デパートの屋上に降りたわたしを、十人以上の警官が包囲する。何故ならわたしがアローラの四つの島を股にかけ、予告状を出し獲物を盗む怪盗……それがわたしの役割だから。
 一か月に一度アローラの宝を狙い、これで丁度十回目。
 中には拳銃を構えている人もいる。自分で予告状を出しておいて真正面から突入したのだから当然だ。
 わたしは杖を振れば念力が使える魔法使いじゃないし、大の男を投げ飛ばせるような格闘家でもない。
 だけど、わたしは怪盗で、隣にはいつもポケモンたちがいる。その中の一体、相棒のツンデツンデに呼びかける。
 
「じゃあレイ、お願いね。……『トリックルーム』」

 さあ。日常では滅多に見られない珍しいポケモンたちが、人の指示によってその能力を存分に発揮し、目くるめく戦いを。

 ──戦闘携帯<<ポケモンバトル>>を始めよう。

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