第7話 湿った岩場

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 「起きろぉぉおおおおおおおーーーーー!!!!!朝だぞぉぉおおおーーーーーーーーー!!!!ー」

突然の爆音によりメアリーと俺は跳ね起きた。どうやらドゴームが発した声らしい。…そういえば俺、ポケダンの世界に来てたんだった。目覚めたら元通り、なんて展開はあるわけなかったか。

 「おはよう、シン君」

「ああ、おはよう、メアリー」

目を擦りながらメアリーと挨拶を交わし、ボーッとしていると再度怒号が鳴り響いた。今度はさっきと違った甲高い怒鳴り声、ぺラオの声だ。

「メアリー!シン!早くこっちに来なさい!」

ペラオに囃し立てられて、俺達は慌てて広間へ向かった。

 広間では、すでにギルドのメンバーと思わしきポケモン達が、親方部屋の扉の前で整列していた。その前にはプクリルとペラオが立っている。
 俺達は、二列ある列の後列右端に並んだ。

「親方様、お願いします」

 ペラオがプクリルに話を促した。プクリルの返事はない。再度ペラオはプクリルに話しかけるが、やはり返事は帰ってこない。数秒の沈黙の後、どこからか寝息のようなものが聞こえてきた。ざわざわ、整列していたポケモン達が互いに小さな声で話し始め、辺りが騒がしくなる。そんな周りをキョロキョロしていたメアリーが、こちらに話しかけてきた。

「プクリル親方……寝てるんじゃないかな?」

「シッ。聞こえたらまずい。目を開けたまま寝てるんだろう。普通ならあり得ないぞ」

 プクリルは目をぱっちりと開けているが、視点はどこにも合っていなかった。ペラオは一人でプクリルに話しかけ続けた後、やがてうんうん、と頷いてこう言った。

「なるほど、ありがたいお言葉。皆、親方様のご忠告を肝に命じるんだよ♪よし♪では最後に朝の誓いの言葉♪」

誓いの言葉か…懐かしいな。

「ひとーつ!仕事は絶対さぼらなーい!
 ふたーつ!脱走したらおしおきだ!
 みーっつ!みんな笑顔で明るいギルド!」

 …一応まだ知らない設定だから言わないけど。メアリーも、戸惑いながら語尾だけなんとか合わせていた。

 朝礼が終わった後、一緒に整列していたポケモン達が一斉にこちらの方に寄ってきて、各々自己紹介をしてくれた。

「わたし、キマルン。よろしくですわー!」

「ヘイポーだぜーーい!!ヘイヘーーーイ!!」

「……レレグだぜ。よろしくな」

「私はディクトル!この子は息子のトニーです!」

「よろしくお願いします!」 

「私、フウラと言いますわ。よろしくね」

「俺はドゴンだぉぁあああああ!!!!」

「アッシは…アッシは、デッパといいやす…。まさか、自分に、弟弟子ができるなんて…。う、ううう…」

 いわゆる、情報の嵐というやつだった。整理してみると、上から順にキマワリのキマルン、ヘイガニのヘイポー、グレッグルのレレグ、ダクトリオのディクトル、ディグダのトニー、チリーンのフウラ、ドゴームのドゴン、そしてビッパのデッパである。まあ、ゆっくり覚えていくとしよう。

 一通りの自己紹介が終わった後、ペラオがこちらにやって来た。

「お前達はこっちだ。ついてきなさい」

 そう言われてついていくと、地下一階の、壁にかけられた木製の板の前でペラオの足が止まった。周囲にはツルが巻き付いており、板の表面にはたくさんの紙が貼られてあった。一枚一枚に文字が綴られているが、その文字は何かの足形のようなものばかりで何が書いてあるのかは全く読めない。ははん、足形文字というやつか。ポケモンになったら読めると思ったが、人間の時の記憶があることが逆に邪魔になっているのかもしれないな。

 「これは掲示板。ポケモン達の依頼が書かれた紙が貼られている。…知っているとは思うが、最近時が狂い始めている影響か、何かと物騒でな。依頼書の数も増加の傾向にあるのが現状だ。だからこそ我々は、探検隊としてこれらの依頼を解決してやる必要がある」

「つまり、俺たちにやってもらうことっていうのはこの依頼書をこなすってことだな」

理解が早いな、とぺラップは機嫌が良さそうに頷いた。一方のメアリーは掲示板に貼られた依頼書の数々に目を輝かしている。

 「それで、あたし達はどれをやればいいの?」

「そうだな。普通はお前らで自分のレベルにあった依頼を選んでもらうのだが……今回は特別に私が選ぼう。どれどれ…」

 ペラオは、掲示板の依頼書を難しそうに見定めながら、やがて自分の羽を使って器用に紙を剥ぎ取って俺たちに見せた。文字は読めないがどの内容のものかは予想がつく。俺の予想通りならこの後メアリーが文句を言うはずだ。

「何これ…ただの落とし物探しだよね?つまんないよ…」

「文句を言うんじゃないよ。お前達は新米なのだからこれくらいが十分なのさ。何事も下積みなんだ。さあ、分かったなら行った、行った」

そう言ってペラオは地下二階へと戻っていった。メアリーはまだ納得がいっていない様子である。口もとをツンと尖らせて、依頼書を睨んでいる。

「こういう依頼も、大切だと思うぞ。俺達まだ、経験が浅いんだし」

「むむぅ……」

 しぶるメアリーをなんとか納得させ、俺達は依頼の場所である「湿った岩場」へと向かった。










 「悪い奴に盗まれた真珠を探してきてほしいbyバネブー」
 これが依頼の内容である。悪い奴に盗まれた、と言うからその「悪い奴」と遭遇する危険性もなきにしもあらずだが、バネブー曰く捨てられたということらしいし、ゲームでもそんな奴と戦うシナリオなんて無かったから恐らく大丈夫だろう。

 俺達が今歩いている「湿った岩場」という場所は、その名の通り湿った岩が大小構わずいたるところにあり、湿気が籠っていて少し気持ちの悪いところである。足場も全部湿った岩で、ぬるぬる滑って歩きにくい。現にメアリーは二回、俺は十二回もこけてしまった。……一応言い訳しておくと、メアリーは四足歩行、俺は二足歩行である。

 「シン君、危ない!」

メアリーの声で思考を中断させられた俺は、そのまま無防備な状態で顔面に“どろかけ”を食らった。踏ん張ろうとしたが足がツルッと滑ってずっこけ、後頭部を岩にぶつけてしまった。頭を押さえながらなんとか立ち上がって前方を見ると、赤色のカラナクシが泥にまみれてこちらを睨んでいるのが見えた。
 俺は体にかけていたトレジャーバッグから”ばくれつのたね”を取り出し、カラナクシ目掛けて思いきりぶん投げた………つもりだったが、再度ぬるぬるした岩のせいでバランスを崩し、自分の足元に投げつけてしまった。当然起きる大爆発。一瞬にして目の前の視界が弾け飛んだ。




 目を覚ますと、メアリーの安心したような顔が映った。横を見てみると、カラナクシが泡を吹いて倒れている。どうやらメアリーが倒してくれたらしい。しかもメアリーは俺の凄まじいドジには触れてこなかった。優しい。

 その後の戦闘も、野生のポケモン自体、というよりはこの滑りやすい地形に大変苦労させられた。二足歩行だとどうしても攻撃の際に踏ん張れずバランスもとれないために、気がつけば俺も四足歩行で戦っていた。

 「シン君って意外とドジなんだね」

岩場の奥地に到着する頃には俺は泥まみれになり、擦り傷をたくさんつくったボロボロの状態で、メアリーの辛辣な言葉を虚しく聞いていたのだった。







 



まことに遅れてしまい、申し訳ないです!!

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