捌伍 緑巽の戦い(薄青の巨体)

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読了時間目安:15分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 “肆緑の海域”の上空に着いたぼく達は、そこでダンジョンの事をおさらいする。
 ぼくにとっては結構高いプラチナレベルのダンジョンだけど、ししょーの師匠が二人ともいるから、多分大丈夫だと思う。
 それですぐに潜入したんだけど、あまりに風が強くて飛ばされてしまいそうになる。
 だけどシルクさんに何か考えがあるらしく、渡された種を使って突き進む事になった。
 [Side Kinot]




 「フィフちゃん、あの島がそうよね? 」
 『ええ、そう聞いてるわ』
 向こうに見える島だよね? 強風の中を飛んでいたぼく達は、何事もなく進む事が出来た。野生の人達と何回かバトルにはなったんだけど、あまり時間をかけずに倒せたと思う。…強いて言うなら風が強くて思うように戦えなかったぐらいだけど、フライさんに乗せてもらってたからあまり気にならなかった。
 それで時間的には二、三時間ぐらいだと思うけど、乗せてもらって飛んでいる先に小さい島が見えてきた。ダンジョンを抜けたかどうかは分からないけど、さっきまではあんな島は見えなかったから、多分抜けてるんだと思う。それを確認するつもりなんだと思うけど、ピジョットの姿のミウさんは背中のシルクさんにこう尋ねる。するとシルクさんは声に出さずに、大きく頷きながら答えてあげていた。
 「“緑巽の祭壇”って言うんですよね? 」
 「そうだったと思うよ。…四番目に討伐した島、だったかな、確か」
 「それであってるわ。当時と出現している“ビースト”は同じだから、そう思うとすぐ見つかるはずよ? 」
 『そうね。注意点とか特徴も聞いてるから…、案外すんなり倒せる気がするわね』
 すんなりって…、流石にシルクさん達でもそう上手くいかないような気がするんだけど…。島の上空に着いたから、乗せてくれているフライさん達はゆっくりと着陸してくれる。背中からぴょんと降りて見た感じだと、凄くのどかな雰囲気があると思う。島自体はそれほど大きくないけど、全体が草原になっていて草の香りが心地良い。辺り一面若草色で花は咲いてないけど、空の水色と合わさって凄く綺麗に見える。
 「だよね。…シルク? もしかしてあの白い渦が“空現の穴”? 」
 「ええっと…、はい! 祭壇もあるから、間違いないです」
 蔦が絡んでわかりにくかったけど、あれは絶対にそうだね。フライさんの言うとおり視線の先に、割と見慣れた白い渦も見つける事が出来た。五メートルぐらいの高さだと思うけど、他の場所と同じように反時計回りに渦を巻いている…。そしてその渦の真下には、二メートルぐらいの高さの小さな石碑が鎮座している。草とか蔦が絡んで草原と同化していたけど、“空現の穴”があったからすぐに見つける事が出来た。だからシルクさんより早く答えちゃったけど、フライさんの問いかけに大きく頷いた。
 『そういえばキノト君も、“空現の穴”は見た事があったのよね? 』
 「はい。最初はししょーと一緒だったんですけど、あの中に入った事もあります」
 もう行こうとは思わないけど、“陽月の回廊”、凄く綺麗だったよなぁ…。
 「思えばそんな事言ってたわね? …と、きっとあれが“ビースト”ね? 」
 「あれが…? 石碑みたいに見えるけど…」
 あの薄くて青いアレの事かな? ぼくが話している間に何かに気づいたらしく、ミウさんは遠くの方を指して教えてくれる。五十メートルぐらい内陸の方だと思うけど、ミウさんの言うとおり薄い青銅色の何かが見える。シルクさんとフライさんも気づいたらしく、そっちの方に歩き始めながらそれぞれに呟く。…だけどフライさんだけはいまいち実感がないらしく、浮かない表情で首を傾げている。…今思い出したけど、この中でフライさんだけ“ビースト”を見た事がないから、こんな感じになってるんだと思う。
 『教えてもらった特徴からすると…、アレで間違いなさそうね。…キノト君、先陣はキノト君に任せるわ』
 「えっ、ぼくがですか? 」
 『そうよ。有用な技はさっき教えたから、それを使えば良いと思うわ』
 ぼっ、ぼくが最初に攻撃するんですか? 薄青い何かの側まで来たところで、シルクさんがぼくに話しかけてくる。何か考えがあるのかもしれないけど、予想外すぎる言葉にぼくは思わず声を荒らげてしまう。…確かに“肆緑の海域”で新しい技を教えてもらったけど、これとそれでは話が違いすぎると思う。一応ぼくは“ビースト”を二回見た事があるけど、どの時もぼくが戦って倒した訳じゃない。おまけに“ビースト”はししょーが“チカラ”を暴走させないと倒せないぐらい強かったから…。だけどシルクさんがぼくに期待してくれている、その事が嬉しくもあったから…。
 「じゃあ…、やってみます! 」
 少し迷ったけど、言われるままに技を発動させる準備に無いる事にした。
 まず初めに、目を閉じて意識を集中させる。同時にぼくのエネルギーにもそれを向ける事で、次第に活性化させていく…。次にぼくの中の奥の方、最初から持っている何かを強くイメージする。そこへフライさん達がその技を使っていた光景を乗せていく事で、技を発動させる。
 「あっ、上手くいきそうだね」
 高まってきたエネルギーを口元に集めると、そこに赤い球体ができあがる。そして…。
 「…目覚めるパワー! 」
 咳をするような感じで球体を解き放った。
 「…できた! 」
 それは真っ直ぐと十メートルはありそうな巨体に向かっていき…。
 「――ッ! 」
 ちょうど真ん中ぐらいに命中し…。
 「うわっ! 」
 「キノト君! 電光せっ…」
 「――! 」
 「ドラゴンクロー! 」
 えっ、いっ、いきなり? ぼくの初めての特殊技、目覚めるパワーが命中した瞬間、巨体がいきなり動き出す。下の方が少し埋まってたけど、真上に浮き上がったから動けるようになったんだと思う。その巨体は一瞬でエネルギーを溜め、攻撃した相手…、ぼくを狙って黒い球体を撃ち出してきた。
 あまりに急なことだったから、ぼくはすぐには反応することができなかった。向こうの気迫? 重圧? に足がすくんでしまったのもあるけど、相手の攻撃を許してしまう。…だけどあらかじめ警戒していたからだと思うけど、後ろの方から二つの声が響いてくる。一つはすごい早さで相手に突っ込んでいき、二つ目が手元に青黒いオーラを手元に纏わせて滑空していく…。更に最初の一人、ピジョットの姿のミウさんと併走するように、紺か黒かよくわからない色の球体が五つぐらい飛んでいく…。そのうちの一つが、ぼくを狙っていた黒い球とぶつかり、お互いに消滅していた。
 「・・! 」
 「あっ、ありがとうございます」
 『どうしたしまして。…キノト君、技が成功したからといって気を抜くのは良くないわ』
 「すっ、すみません」
 『だけどキノト君、炎タイプの目覚めるパワーなんて、願ったり叶ったりな展開よ! 』
 ぼくの目覚めるパワー、炎タイプなんだ…。シルクさんたちのお陰で無傷ですんだけど、代わりにちょっとだけ叱られてしまった。ししょーからも何回かいわれてたことだったけど、技が上手くいってつい気を抜いてしまっていた。シルクさんに強めにいわれてたじろいでしまったけど、間髪を入れずに褒めて? くれたりもした。赤い球体だったから何となくそんな気はしてたけど…。
 『それに炎タイプの目覚めるパワーって、ユウキと同じね』
 「ええっと、ユウキって…」
 『私の血の繋がらない兄。…そんなことより、私たちも加勢しましょ』
 「あっ、はい! 」
 そっ、そうだよね? ぼくの一歩前に出てるシルクさんは、上の方を見上げながら言葉を伝えてくる。何故か懐かしそうな感じで伝えてきてたけど、ぼくはそんな彼女の様子が少し気になってしまう。だからこうして聞いてもみたんだけど、一言だけ伝えてくれただけで話題を変えられてしまう。気になったからもう一回だけ聞き直そうとしたんだけど、先に走って行っちゃったから、ぼくはただ頷いて後を追いかけることしかできなかった。
 『フライ、ミウさん! 』
 「――、―――! 」
 「遅れてすみません! 岩落とし! 」
 「た、助かるわ! 」
 「…ならこれに乗って! ストーンエッジ! 」
 ってことは、空中戦になるのかな? シルクさんと話している間に場所が移動していたから、ぼく達は急いでその場所に向かう。ぱっと見三十メートルぐらいの高さでがあると思うけど、そこでフライさんとミウさん、二人が先に戦ってくれていた。…だけどぼくが見た感じでは、ミウさんに攻撃が集中していてフライさんがそれから守るような…、そんな戦い方をしていると思う。だけどそこへぼくが大岩、シルクさんが氷のブレスと尻尾に溜めた紺色の球体を放ったから、少しは巨体の気をそらすことができたと思う。その間にフライさんがたくさんの岩を出現させて、ぼく達が空中にいきやすいようにしてくれた。
 「いっ岩…」
 「――」
 「うわっ…! 」
 『私が連れて行くから、キノト君は技の準備をしてて』
 …だけどタイミングが分からずあたふたしていると、急に体の真ん中から浮かされるような感覚に襲われる。すぐにシルクさんのサイコキネシスって分かったけど、いきなりだったから少しびっくりした。見えない力で浮かされながら見てみると、シルクさんは細長い金属の針を口にくわえながら、真上に向けて突き上がっている岩のうちの一つに飛び乗っていた。
 「エアスラッシュ! 」
 「・・・! 」
 「しまっ…! 」
 「――! 」
 「目覚めるパワー」
 「目覚めるパワー! ミウさん、大丈夫ですか? 」
 「た…助かったわ」
 なっ、なんとか間に合った…。フライさんがぼく達の方に気を反らせていたから、その隙に巨体がミウさんを狙う。ものすごく大きな巨体で突っ込んでいたけど、今度は準備できていたからなんとかなったと思う。偶々ぼくとフライさん、シルクさんも同じ技を発動させたけど、ぼくの炎、フライさんの悪、シルクさんの竜の属性の気弾が同時に命中したことで、巨体の進撃を止めることに成功した。
 「っと。キノト君、一応ここでもボクが乗せるけど、好きなタイミングで飛び出してもいいよ」
 「ありがとうございます! 」
 飛び出してもいいってことは、ちゃんと受け止めてくれる、って事なんだよね? シルクさんの超能力で移動させられたぼくは、フライさんの背中の上で解放される。今度は背中の上に乗ってるだけだけど、一応しがみつく足の指にも力を入れておく。それでぼくが乗ったのがちょうどフライさんが下がったタイミングだったけど、タイミングを見計らっていたのか地面と平行になるような体勢になってくれていた。それにこうも言ってくれているから、ぼくは彼に対して大きく頷いた。
 「…じゃあ早速いきます! アクセルロック! 」
 「援護するよ。ストーンエッジ」
 フライさん、ありがとうございます! フライさんからのお墨付きをもらえたって事で、ぼくはすぐに四肢に力を込める。後ろ足で背中を蹴って大きく跳び出し、同時に素早く動くイメージで体を満たしていく。するとすぐに技が発動し、ぼくは一気に加速し風を切った。
 そして更に同じタイミングで、フライさんがぼくを追いかけながら技を発動させる。ちょうどぼくが落ち始める場所を見計らって、浮上する岩をいくつも出現させてくれる。だからぼくは右、左、右…、っていう感じでスムーズに跳び移ることができた。だからこの勢いを逃さずに跳び移り続け…。
 「…これでどう? …っ! 」
 最高速度になったところで、頭から薄青い巨体に突っ込む。的が大きいからちゃんと命中したけど、何というか…、手応えが全然ない。すごく大きいからなのかもしれないけど、ものすごく堅くてぼく自身は簡単に弾き返されてしまう。逆にぼくの方がダメージを食らうことになっちゃったけど…。
 「…地震! 」
 「・っ! 」
 「キノト君、大丈夫? 」
 「平気ですけど、もの凄く堅いです」
 「やっぱりそう思うよね? 」
 フライさんも? 弾かれたぼくを受け止めてくれたフライさんは、そのままのスピードで巨体との距離を詰める。多分接近しながら準備していたんだと思うけど、巨体の数十センチ手前で左に急旋回し、その勢いが乗った尻尾をたたきつける。それもただ叩きつけるだけじゃなくて、大地を揺らす大技を発動させながら…。ししょーと同じ使い方をしているから成功したって思ったけど、フライさんはいまいちぱっとしない感じで首をかしげていた。
 「…だから次は“術”を使ってみます」
 「技でも通常攻撃でもないから、もしかすると上手くいくかもしれないね」
 「ぼくもそう思います! …目覚めるパワー! 」
 特殊技なら効きそうだけど、まだまだ使いこなせてないからなぁ…。フライさんがぼくを乗せて退いてくれている間に、シルクさんたちが入れ替わるように攻撃を仕掛けてくれる。ちらっと見た感じではシルクさんが飛ばされてるように見えたけど、ダンジョンの中でもああなってたから多分大丈夫だと思う。だからぼくは敵に注意深く目を向けながら、フライさんに考えを話してみる。“尾術”を使えるシルクさんはどうしてるか分からないけど、物理技がダメなら試してみる価値はあると思う。受け入れてくれたみたいで敵に向かって飛び始めてくれたから、ぼくは使えるようになったばかりの赤い牽制球を一発解き放った。
 「・・! 」
 「キノト君、さっきみたいにいくよ! 」
 「はい! アクセルロック! 」
 「ストーンエッジ! 」
 間髪を入れずにぼくは、フライさんの背を沿うような感じで前に跳び出す。するとさっきみたいにちょうどいい場所に岩が出現し、それをぴょんぴょんと跳び移っていく…。二重メートルぐらいは渡り続けていると思うけど、ここでぼくは相手の様子をうかがうために、一度先制技を中だ…。
 「・・・! 」
 「えっ…」
 「キノト君! 」
 こっ、このタイミングで? “撃術”を発動するためにアクセルロックを中断したけど、もしかするとこれが読まれていたのかもしれない。ぼくが跳び移るスピードが落ち始めた瞬間に、薄青い巨体はぼくに向けて白銀色の弾丸を五発連続で撃ち込んでくる。
 「使いたくなかったけど…」
 このままだとやられる、本能に近い感じでそう思ったから、ぼくは咄嗟に飛んでくる球体の起動を見切る。ちょうど今前足と後ろ足、両方が岩から離れているから、腰のひねりをきかせて反時計回りで回避する。結果的に“避術”を使うことになったけど、何とか五発ともかわ…。
 「・・・・っ! 」
 「うっ、嘘でしょ? 」
 かわすことはできたけど、その後がダメだった。辛うじて五発ともやり過ごすことができたけど、ここで効果時間が終わってしまう。だけどこの時を待っていたらしく、巨体はぼくの方にすごい早さで突っ込んでくる。だからぼくは慌てて“避術”を発動させ直そうとしたけど…。
 「っくあぁぁっ! 」
 中途半端にしか発動させることができなかった。さっき捻って回転した勢いは残っていたけど、背中を十メートルぐらいの巨体が掠る。…掠っただけなのに…、ぼくにとてつもない…痛みが襲いかかってくる…。
 「…目覚めるパワー、ドラ・ンクロー! ・・ト君! ・・た――」
 弾き飛ばされた方とは…逆の…方向からフライ…さんの声が聞こえ…た気が…したけど、ぼくの…意識…は…ここで途切れてし――…。




  続――…

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