第2話 二匹の出会い

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 「んっ・・・・・・。」
 暖かくて柔らかい何かに全身を包み込まれた様な感覚と、脳が蕩けるほど甘い匂いを感じ、重たい瞼をゆっくりと持ち上げた。
 最初に視界に入ってきたのは、太陽の光を浴びお日様の暖かさと香りを蓄えた、黄色いモフモフの毛並みだった。
 自分を抱きしめる黄色いやつが視界を遮り、あまり周囲を見回す事が出来ないが、どうやら部屋の中に居るらしい。
 暖かい毛並みは少し名残惜しかったが、黄色いやつの柔らかい毛並みから抜け出し、改めて周りを見回す。
 柔らかそうなベットや、木製のタンスなどの生活に必要な家具が一通り置かれていて、素朴な雰囲気を漂わしている部屋だ。
 「おっ、ようやく目が覚めたみたいだな。しっかしお前大丈夫なのか、3日もずっと寝てたんだぜ。」
 僕を抱き抱えていた黄色いモフモフの毛の持ち主は、僕が動き出した事に安心したらしく、ニッコリと微笑んできた。
 目の前に居るやつは、全身柔らかそトゲトゲで、白米のように真っ白で綺麗な毛並みだ。
 「俺はサルサって言う名前だ、因みにサンダースって種類な。とりあえず3日も寝てたんだから腹減っただろ、何か持ってきてやるよ。」
 起き上がると同時に、僕の頭をくしゃくしゃに撫で、そのまま食べ物を保管しているらしい場所へ向かって行ってしまった。
 成る程、黄色いモフモフの正体はサルサと言う名前なのか。
 くしゃくしゃに撫でられて違和感がある毛並みを手で整えながら、歩いて行くサルサを見送る。
 それにしても一体ここは何処なんだろう。
 あのサルサって言うポケモンに見覚えは無いし、今居る場所も全く記憶に無い。
 確かこの場所に来る前は・・・・・・あれ、何処に居たんだっけ。
 過去の事を思い出そうとするも、不思議な事に何1つ思い出すことが出来ない。
 記憶が文字一つ書かれてない真っ白な紙の様に、これまでに経験したものは何も無い気さえしてくる。
 「お待たせー、とりあえず君でも食べられそうなの作ってきたぜ。」
 何かしらあるはずの記憶を、少しでも思い出そうと奮闘していたが、急に声をかけられ現実に呼び戻されてしまった。
 俯いていた顔を上げサルサの方を向くと、頭に何かが乗っているのが見えた。
 頭から生える、二本の黄色いひし形の耳と耳との間に、上手く小さいバスケットらしきカゴが乗せられている。
 恐らくあのバスケットの中に食べ物が入っているのだろう、なんか食べ物の事考えたら凄いお腹が空いてきた。
 「ほら、栄養たっぷりのもの作ってきてやったぜ。一人じゃ飲めないだろうからこっち来な、飲ましてやるよ。」
 バスケットから出てきた哺乳瓶を前足で器用に掴み、床に座りながら笑顔に手招きをしてくるサルサ。
 「・・・・・・な、何んだそれ。」
 てっきり木の実か何かが出てくるのかと思っていたのだが、まさか哺乳瓶が出てくるとは。
 予想外すぎる物に、思わず聞き返してしまった。
 「何って哺乳瓶と温めた粉ミルクだけど・・・・・・。ってき、君喋れるの!?」
 「しゃ、喋れるに決まっるよ。それに粉ミルクって、僕赤ちゃんじゃないからね!」
 目の前で自分と同じく驚いているサルサが、何を思って赤ちゃん用の物を用意したのか、全く分からない。
 自分が何なのか、何年生きているのか全く分からないが、少なくとも赤ちゃんじゃないことだけは確かだ。
 「い、いや悪い。お前進化前だし、体も他のピチューよりもかなり小さかったから、つい生れたてなのかと思って・・・・・・。ほらこれ見てみろよ。」
 慌てた様子で弁解し、近くに置いてあった本と、少し大きめの置き手鏡を持ってきた。
 サルサは『ピチューの育て方』と、大きくタイトルが描かれた本のページを幾つかめくり、『生れたての時』と小見出しが書かれた所を指差し見せてくる。
 えっと、゛生まれたばかりのピチューは、約15cm程度の大きさだが、大人になると30cm程に成長する゛か。
 読み終わると、近くに置かれた置き手鏡へと視線を移す。
 体の大半がサルサと同じように黄色く、顔の半分くらいありそうな大きな耳。
 頬には左右に夕陽の様に赤く丸い模様が一つずつ、そして15cmくらいしか無さそうな身長。
 本に書かれていた情報や、挿し絵と完全に一致する。
 「ま、まぁこれだと間違えるのはしょうがないよ。そもそも僕も、過去の事を思い出せなくて、ピチューって種族なのも今知ったし・・・・・・。」
 「思い出せないって、記憶が無いってことか。俺が見つけたときはお前川辺に倒れてたし、何があったんだよ。」
 「いくら考えても、この部屋で目が覚めてからの事しか分からない・・・・・・。」
 サルサが心配そうに尋ねてくるも、やはり辿り着く最も古い記憶は変わらない。
 「もしかしたら今はダメかも知れないけど、しばらくしたら何か思い出すかもしれないぜ。考え込んでても仕方ないし、ご飯でも食べようぜ。」
 そう言ってサルサは、バスケットから取り出した木の実を1つずつ、僕の前と自分の前へ置いていく。
 まぁ、深く考えても仕方ないし、今は目の前の美味しそうな木の実を食べるか。
 それに空腹はもう限界だしな。
 何と言う名前かは知らないが、床に置かれた木の実を手で掴むと、大きな口で思いっきりかぶり付いたのだった。
 

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