One-Second 水の都

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 水の大陸第二の都市を拠点に活動しとるウチら、探検隊明星。
 今は挨拶周りで留守にしとるけど、アクトアタウンのギルドを運営しとるウチら。
 今日もいつも通り、朝礼後に行動を開始する。
 そんな中今日の会議で話題に上がったのが、ギルドからあまり離れていない場所にある、参碧の氷原というダンジョンの事。
 直属の弟子のリルとフレイも気にしてくれとるみたいで、フロリアも交えて今後の予定を再確認していた。
 {Side Haku]



 「そんじゃあフレイ、頼んだで」
 「もちろんっすよ! 」
 二人とも、頼りにしとるで! 定例会議も終わり、ウチらも遅れてそれぞれの日課の為に動き始める。ヒノヤコマのフレイにはワイワイタウンの方にちょっとしたお使いを頼んどるから、自分の部屋に荷物を取りに行く。同じチームのリルは、フレイが留守にするで今日はオフ。空き時間を利用して技の調整をするつもりらしく、ギルド内の水中訓練所に行く、って言っとった。
 「リル、アタイで良かったら相手になるわ」
 「フロリアさんが直々に、ですか? ありがとうございます! 」
 「折角時間があるからね、アタイも運動不足を解消したいからね」
 そうなんやな? そんならダンジョンに行くのが手っ取り早い気がするけど、それもアリやな! 普段は事務仕事をしてくれとるフロリアは、調整をする予定のリルの話しに乗ったらしい。腕が鳴るわね、って揚々と言い放ち、彼に応じる。トラウマのせいでフロリアは絶対に行こうとはせぇへんけど、実力自体は一般の人より遙かに上やとウチは思っとる。前にウチもフロリアとは手合せした事あるんやけど、ゴールドランクの隊員ぐらいの実力はあった。水中で小型の呼吸機を身につけた状態やったけど、そんでも差し支えなく戦えとった。
 「だからハク、そっちの事は頼んだわ」
 「そやな。ついでに寄れる訳やし、任せといて」
 んじゃあ、ウチも行こっか。軽く体を解しとるフロリアは、今日の予定を再確認しとるウチにこう呼びかける。事務職っていう立場上、フロリアはウチを含めたギルドメンバー全員の予定、依頼内容を把握してくれとる。やからウチが予定を話さんくっても、代名詞でその事を示してくれる。そんな頼れる親友に、ウチは胸を張って笑顔で言い放った。
 「んじゃあ、行ってくるで! 」
 「はい、いってらっしゃいです」
 留守番組の二人に改めて視線を送ってから、ウチはその場を後にする。予め部屋から荷物は持って来とるから、すぐに外に通じる水路に向かう。ウチの種族、ハクリューは飛ぶ事もできるけど、どちらかというとウチは泳ぐ方が好き。種族上他の人よりは水中で息が続くで、ウチは結構な頻度で水路からギルドの外に出とる。これはここだけの話やけど、ウチがこの街にギルドを構えたのも、街中に水路が張り巡らされているから。思う存分泳げるってのもあるけど、理由はそれだけやない。
 「あっ、ハクさん! おはようございます! 今日はどこかにお出掛けですか? 」
 「そやな。ちょっと近くのカフェに、友達と会う約束をしとるでな」
 一階の水路に跳び込んだウチは、ひんやりとする感覚を楽しみながら、スーッと滑るように水中を泳いでいく。そこに広がるのは、地上とはまた別の風情がある景色。そこにあるのは、蒼を基調としたもう一つの街並み…。水中都市とも呼べるそこには、様々な種族…、殆ど水タイプやけど、それぞれの生活を謳歌しとる。アクトアタウンが水の都って言われとる所以にもなっとるから、当然地上と同じように商いも行われとる。そのうちの一軒の前を泳いでいると、店主のランターンがウチに語りかけてきた。
 「お友達ですか! ということは、草の大陸の悠久の風ですね? 」
 「うーん、草の大陸ってのはあっとるんやけど、ラテ君らとはちゃうかな」
 ウチの場合喋ると泡あぶくが出るけど、それもウチは風情があって気に入っとる。最寄りの店の店主との世間話に華を咲かせるのが、ウチの日課の一つやな。…もちろん、親方としての仕事もちゃんとこなしとるけど。
 「そうなのですかー。それは失礼しました」
 「気にせんといて! んじゃあ、ウチはそろそろ行くわ」
 本当はもうちょっと話したいところやけど、これから会う彼女を待たせとるでな。日用雑貨店店主との雑談を、適当なタイミングで切り上げる。ペコリと馴染みの彼に頭を下げ、ウチは止めていた泳ぎを再開する。ほんの少しだけ泳ぐと、ランターンの彼はもう一言言ってくれたで、ウチは一瞬振り返り、長い尻尾で彼に手? を振る。すると店主の彼は、満面の笑みと共にその右前鰭を振り返してくれた。
 「…さっ、この辺で上陸すれば一番近いかな? 」
 ギルドの出入り口から大して泳いでへんけど、ウチは適当なところで浮上していく。水底からは四階分ぐらいの深さがあるけど、泳いどるから大して苦にならない。四階分の深さってなると、普通の種族なら耳の鼓膜が水圧で圧迫されるけど、ウチは慣れとるから平気。炎タイプのフレイは仕方ないけど、リルを含めた組員全員も多少は慣れてくれとるはず。ウチとあと一人以外は、呼吸器が無いと活動できへんのやけども…。
 「ふぅー。やっぱ水中の街もええな! 」
 肺の奥の方で止めていた息をはき、ウチは思いっきり新鮮な空気を吸い込む。地上の区画との通用口になっとる水面から顔を出したウチは、清々しい気分と共にこう声をあげる。胴の辺りにウチの体格に合うバッグを身につけとるけど、防水性やから完全に水を弾いとる。耳に着けとる青い耳飾りも、ついた雫に反射して微かな光をぼんやりと灯していた。
 ちなみにアクトアタウンには、ここみたいに陸上の区画と水中の区画を繋ぐ通用口がいくつもある。陸上に住む種族、水中に住む種族、どちらも生活がしやすいような工夫もされている。街中に張り巡らされている水路は、もちろん後者のためのインフラ。その他に、前者が水中で行動するための呼吸機、それから水から上がった時用のタオルも、十分なくらい備え付けてある。
 「ちょっと遅れたけど、こんぐらいならギリギリセーフやな」
 陸に上がり、尻尾で持つタオルで体を拭いてから、ウチは目的の喫茶店を目指す。通用口からはほんの一分ぐらい進んだところにあるから、ウチはすぐにその店に辿りつく。
 「んー、やっぱここに来んと、この香りは楽しめへんな! 」
 そうそう。この香ばしい香りがたまらへんのよー! ウチは行きつけの喫茶店特有の香りに胸を躍らせながら、その店のドアノブを尻尾で握る。アクトアタウンではそれほど有名な店やないけど、ウチはここのビアーコーヒーが一番のお気に入り。最近はここのコーヒーを嗜むのが、ちょっとしたマイブームやな!
 「いらっしゃいませ! ハクさん、今日は一人ですか? 」
 「ううん、今日はここで待ち合わせしとるんやけど…、あっ、おったおった! チェリー、待たせてまったね」
 入店して、ウチは受付のフレフワンがお決まりの文句でウチに話しかけてくる。いつもはシリウスと入店しとるから、彼女はシリウスがいない事を不思議に思ったらしい。やからウチは、手短に用件を言って、キョロキョロと店内に目を向ける。するとすぐに目的の人物を見つけれたから、その彼女の名前を高らかに呼び上げた。
 「あっ、ハク! ううん、わたしも今来たところよ! 」
 するとその彼女もすぐに気付いてくれたらしく、その場でふわりと体を浮かせてウチを手招きする。本当に来たばかりらしく、丸テーブルの上にはコップに注がれた二杯の水と、二つのおしぼりだけがその上に置かれていた。
 彼女の名前は、チェリー。色違いのセレビィで、ウチらとは二年来の友達。初めて知り合ったのは星の停止事件の時やけど、その時はあまり話さんかったから、厳密にはそのぐらいやな。元々は別の親友と仲が良かったんやけど、その彼女を通じて知り合ったって感じやな。…細かい事を説明すると長くなるんやけど、彼女も、この時代の出身やない。それもシリウスとフロリアと同じ過去やなくて、二百年後の未来…。それも、ウチらの世界が辿らなかった、別の未来の出身。ウォルタ君が言うには、一度はタイムパラドックスで消滅してしまったんやけど、ちょっとした計らいがあって、この世界に残れるようにしてもらっとるらしい。ウチは会った事無いんやけど、シロさんの知り合いに時を司っとる知り合いがおるらしく、その人に頼んだんだとか…。ちょっとした無理をしてこの世界に留まれるようにしとるみたいやから、セレビィやけどチェリーは、自力で時を超える能力を失っている。
 そんな彼女とウチは、午前のひと時を喫茶店で過ごすことにした。



  つづく……

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