いちのご 変わった体質

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 化学者のリアンさんの提案で、陸白の山麓というダンジョンに潜入した僕達。
 診療所で見た限りではリアンさんは問題なさそうだけど、この場には医者のアリシアさんまでついてきていた。
 彼女曰く普段からウィルドビレッジの村民達は潜入しているらしいけど、それでも五、六合目までらしい。
 彼女が言うには、古くからの言い伝えがあり、それが信じられているからだとか。
 その話を聴いたのはダンジョンの中だったけど、僕達は思わず聴き入ってしまっていた。
 [Side Ramver]



 「…だから、中間地点で倒れてるリアン君を見た時は、怪物の手先が来たんじゃないかって、怖くなったわね」
 「あぁ、んだからあん時、急に攻撃してきたんやね。納得やよ」
 「怪物、ね…。職業柄、ダンジョンの野生なような気がしなくもないわね」
 うん、僕もそんな気がしてきたね。アリシアさんが話してくれた昔話には、何故かリアリティーがあるように僕には感じられた。漠然とした内容だったけど、もしかしたら本当の事なのかもしれない…。そう思っていると、アリシアさんはこの話で過去に会った事を思い出したらしい。懐かしそうに六本の尻尾を靡かせながら、リアンさんにこう言う。それに対しエーフィの彼は、あー、って言う感じで声をあげ、何かが繋がったのか顎に右前足をあてながら頷いていた。
 「確かにね。それだけ手強い怪物が占拠してたのなら、山頂に近い上層部に今でもその影響が…」
 「グルルゥッ…」
 「えっ、いっ、いつの間に? ランベル! 」
 「分かってる」
 いつからいた? アリシアさんの話に夢中になっていたせいか、僕、それから多分キュリアも、敵の接近に気付くのが遅れてしまった。それも小部屋の真ん中から見た感じでは、西の通路にユキカブリが一人と、南にバニプッチが三人。村人と同じ氷タイプだけど、偶然なのか同じ種族はいなかったと思う。唸り声でようやく気付いたから、僕達は一気に警戒のレベルを高める。村人たちも潜入するぐらいだから言うほど強くは無いと思うけど、このダンジョンでは最初のバトルだから警戒するに越したことはないと思う。
 「あぁ…、もう呼び寄せてまったかぁ…。しゃあない、…エコーボイスぅっ! 」
 「っ! 」
 「グッ…」
 「オーロラベール。リアン君、流石ね」
 「…ん? 」
 くっ…、凄い声量…。ダンジョンだから仕方ないとは思うけど、エーフィの彼は何故か申し訳なさそうに呟く。かと思うと彼は、何かを心に決めたらしく、息を大きく吸いこんでいた。何をするつもりなのかは分からないけど、一般人を戦闘に巻き込む訳にはいかないから、僕は右手に炎を纏わせる。慣れない体で闘えないキュリアを含めて僕が守らないといけないから、一気に駆け出して直近のユキカブリとの間合いを詰める。だけど間合いに入って拳を振りかざそうとした丁度その時、急に後ろからキーンと、甲高い音が響いてきた。僕はいきなりの事でビックリしてしまったけど、目の前のユキカブリにとってはそれだけでは済まなかったらしい。音波の威力が高かったのか、それとも相手が耐えられなかったのか…、どっちかは分からないけど、目の前のユキカブリはこれだけで崩れ落ちてしまっていた。
 予想外の事に僕が後ろに振りかえると、リアンさんが丁度息を深くはいているところだった。ここで僕はようやく、この音波がリアンさんが発動させたんだと分かった。だけどそれだけではなく、気のせいかもしれないけど僕はふと彼に言いようのない違和感を感じる…。上手く言葉に出来ないけど、波動ようなオーラのような…、やや褐色がかった何かを纏ってるような気がした。だけど改めて確認する間もなく、ロコンのアリシアさんが別の技を発動させる。緑や青のベールが、僕達四人を包み込んだ。
 「アリシアさん、氷タイプの技って、どう発動すれば…」
 「今のキュリアちゃんなら、簡単に発動できるはずよ? 」
 「だけど私、ずっと炎タイプ…」
 「ガァッ! 」
 「っと、炎のパンチ! 」
 「ガッ? 」
 おおっと、危ない危ない。キュリアはキュリアで、この場を何とかしたい、そう思ったんだと思う。僕だけに任せっきりにさせたくない、そう感じているらしく、彼女はアリシアさんに何かを質問していた。僕はここまでしか聞いてないから分からないけど、この感じだと多分、氷タイプのキュウコンとしての何かを尋ねているんだと思う。
 気を取り直して、気付いた時にはバニプッチ一体が僕に迫ってきていたから、発動仕掛けていた炎を右手に纏わせる。霰に打ちつけられ、雪を踏みしめながら駆け、小さな敵に狙いを定める。五メートルぐらい離れた位置で技を発動させ、その効果で氷の棘を四本ぐらい飛ばしてきた。つららばりだと思われるそれは、僕めがけて飛んでくる。そこで僕は左手にも炎を纏わせ、払いのけるように氷棘を溶かしていく。四本目を払ったところで大きく跳び、一気に距離を詰める。そのままの勢いで右の拳を振り上げ、発動元の敵をフッ飛ばした。
 「シャドーボ…」
 「…吹雪! …できた。これが…? 」
 「そうよ、キュリアちゃん、そう言う感じよ! 凍える風! 」
 リアンさん、案外戦闘慣れしてるのかもしれないなぁ。相手をフッ飛ばした瞬間に横目でチラッと見ると、リアンさんは口元に漆黒のエネルギー塊を蓄えていた。霰が降っていて狙いが定めにくいと思うけど、透明なゴーグルをかけている彼は、目線的には新たに現れたデリバードを凝視していた。視線で動きを追えてるから、そのまま命中させれそう、そう思ったけど、急に吹いてきた突風に驚いてそれを中断してしまう。幸いこの突風で部屋中の敵は殆ど倒れたみたいだけど、僕は一瞬、誰が発動させたのか全く分からなかった。
 だけどそれは、直後に聞こえてきた戸惑いの声で、すぐに分かることになった。キュリアがいまいちパッとしない表情で、ロコンの医師に話しかけていた。そんな彼女にアリシアさんは、凄く嬉しそうに声をあげる。そのままの調子で技を発動させ、キュリアに劣るとはいえ強めの風を、部屋一体に吹かせていた。
 「シャドーボール! …ふぅ。すまへんね、僕の体質のせいで急に襲われる事になってまって…。んでもキュリアさん、流石マスターランクのチームやね! 初めて最上級技を視たで、つい驚いてまったよ! 」
 「僕もビックリしたよ。キュリア、出来る様になったんだね、氷タイプの技」
 「えっ、ええ…」
 キュリアとアリシアさん、二人の全体技で、ひとまずこの部屋の敵は殲滅できたらしい。最後に技を命中させたリアンさんが、安心したように一息ついていた。その彼は何故か申し訳なさそうに、暗い表情で呟いていたけど、すぐに元の調子に戻っていた。感情の起伏が激しいのかな、彼に対してこう思っていると、その彼はキュリアに興味津々、って言う感じで駆け寄る。ストレートに褒められて? キュリアは少し頬を赤く染めていた。恥ずかしそうに九本の尻尾をパタパタと揺らしているから、僕が思っている以上に照れているのかもしれない。そんな表情が、可愛いのだけども…。
 「あっ、アリシアさんに氷タイプのイメージを教えてもらって、その状態で熱風のイメージを膨らませたらできたのよ」
 「熱風…、あぁ、そっか。熱風と吹雪って、どっちも風系の全体技だから」
 「そうやな。どっちも同等の技やしね」
 「ですね。…ええっと一つ気になってるんですけど…」
 キュリアの方は分かったけど、よく考えたら…。キュリアはまだ頬を赤らめているけど、それでも彼女はその時のイメージを教えてくれた。彼女なりに応用を効かせた結果だったらしく、囁くように語ってくれる。そのお陰で、僕も納得が出来た気がする。だけどそれとは別に、僕はそれ以外の事が気になってしまう。それは…。
 「リアンさんって、化学者、なんですよね? 」
 「そうやけど? 」
 「戦闘慣れしているみたいですけど、前に探検隊をしていたりしたんですか? 」
 「あっ、私も気になってたわ」
 職人みたいなもの、って言ってたはずなのに、一般の人が使わないような技を複数使ってた、という事。アリシアさんの診療所で使ってたサイコキネシスだけじゃなくて、さっきはエコーボイスとシャドーボールも使っていた。このレベルの技を使いこなしているのは、何かしらの隊で普段からダンジョンに潜入している人ぐらいしか僕は知らない。霰が降ってダメージが蓄積しているはずなのに、身のこなしも軽やかだった…。だから僕は、白い服を着た彼が普通の一般人には思えなかった。
 「あぁ、その事やね? 何故かは分からんのやけど…、僕はダンジョンで野生のひとを呼び寄せやすい体質でね…。普段から近所のダンジョンに、木の実とかの原料を採りに潜っとるもんで、戦う事が多いんよ。おまけにこんな体質やから、自然と実力が付いたんとちゃうかな? 」
 「言われてみれば、リアン君といる時だけ、異様に野生との遭遇率が高い気がするわね」
 体質、かぁ…。気の毒な気もするけど、それなら実力がついてもおかしくないのかな…? 何となく彼にとっては禁句だったのかもしれないけど、それでも彼は、意を決したように話してくれる。これまで十何年も探検隊として活動してきたけど、僕はリアンさんみたいな体質の人には会った事が無い。ただでさえ今も、キュリアの見た目と属性が変わって驚いたばかり…。僕自身だって、まだ心の整理をし切れていない。僕でさえこんな状態だから、キュリアはもっと戸惑っているはず。
 「…秘密の力! ランベル! 」
 「えっ? あっ、シグナルビーム! 」
 「シャドーボール! 」
 おおっと、また新手が来たみたいだね。深く考えすぎていたから、僕はキュリアに呼びかけられるまで新手の襲来に気付かなかった。この感じだと多分、リアンさんも似たような感じだと思う。側転するように九本の尻尾を叩きつけ、僕の方に敵を飛ばしてきたから、咄嗟にエネルギーを溜めて光線として解き放つ。一歩遅れて、リアンさんも漆黒の球体をバニプッチに命中させていた。


  つづく

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