う…まぶしい…
金色の太陽の日差しが窓辺から差し込んでくる。
草むらにそれが反射してキラキラ光っている。
このひかりかただと色違いのポケモンでも紛れ込んでいるのかな。
ポッポやオニスズメ、ムックルといった鳥ポケモンも活動を開始してあちらこちらでさえずっている。
コラッタ、ジグザグマ、ミネズミなどのポケモンたちも餌を求めてすでに活動し始めていた。
ここまでは何も変わらない朝。
清々しくて一日の始まりにふさわしい時間だった。
それでは私も活動を開始しますかね。
木の幹をスルスルっと降りて、草むらの上へとダイブする。
草が微妙に冷たい朝露で濡れていてぼんやりしていた私の意識をしゃきっとさせてくれる。
これが私の朝の準備だ。
さて、えさとなるゴスのみでも探しに行くかな・・・
出会ったポケモンたちが私に挨拶する。
それに私も挨拶を返す。
今朝はあれくれもののポケモントレーナーも来ておらず、平和な朝であった。
毎日がこういう日であればいいのに。
そんなことを考えながら私はゴスの実がなっている木の方へと向かう。
そして、その木の前へと私は着いた。
やはり食事時なのか、様々なポケモンたちがゴスの木の周りに集まっていた。
これもよく見た光景である。
ん、よくみるとこのあたりでは見かけない顔が。
それも折角木の前にいるのに何故か木のみを食べようとしない。
不思議に思った私はとりあえず自分の分のきのみをとり、そしてその子のきのみもとってあげることにした。
「すみません、そこのポケモン。朝ごはん、食べないんですか?」
「…俺のことか?まあ…その、なんだ、ほっといてくれないか?」
「そういうわけにも行きませんよ、明らかにお腹がすいている感じじゃないですか。」
不思議なポケモンだ。
こんなに美味しいきのみなのに、なんで食べないんだろう。
お腹が減っているように見えるのにな。
私は何度もきのみを勧めたが、彼はいっこうに食べようとしない。
仕方がないし、私にもやることがあったので、自分のきのみを食べ終わり、彼にとってあげたきのみを彼に一つ放って、元来た道を辿り始める。
程なくして私は自分の住処についた。
さっきの子が気になりながらも私はやること…きのみジュースの制作へとはいる。
この草むらはよくトレーナーが来る場所に位置しているだけあり、心無いトレーナーによってよくポケモンたちが倒されてしまう。
私の仕事はそのポケモンたちを回復させてあげること。
そのために私は水と様々な草や葉っぱ、きのみと特別な液体を調合し、きのみジュースを作っている。
トレーナーたちの間ではきのみジュースはあんまり回復しないつまらない道具だと思われているとトレーナーと行動していたポケモンから聞いたことがある。
だけど、それは調合の仕方が悪いだけであって、実際には作り方次第ではどんな効果でも付けることができる。
毒に犯されたらモモンのみとビアーのみ、ラムのみを調合したものを作れば毒を抜くことができるし、トレーナーに倒されてしまったポケモンには、少し苦いジュースになってしまうが、ふっかつそうとオレンのみ、オボンのみ、ラムのみを調合したものを作れば、大体のポケモンは復活する強力なものになる。
…ふっかつそうの成分が苦いためあまりポケモンたちのあいだでは人気はないけどね。
そして、そんな私を手助けしてくれる助手とも言えるポケモンが一匹…
「先生~、オボンのみとウタンのみ採ってきましたよ~!」
「あ、ご苦労さま~、これで作れるわね。」
「それとウタンのみは、乱獲されたらしくてかなり量が減っていましたが、どうしましょうか?」
「またですか…それじゃあここから9時の方向に行くとふかふかの土があるからそこで植えてきなさいな」
「わかりました~、先生!」
つるのムチで上へときのみを運び、さらに減ってしまったきのみを植えにに行った彼女は、ベイリーフ。
私の大事な助手。
ジュース制作でまるで動けない私の代わりにあちこち走り回ってきのみを見つけたり植えたり、ひんしのポケモンにジュースをあげにいったりいろいろと私の代わりにやってくれている。彼女がいなかったら私は何にもうまくいっていないだろう。
あれから3、4時間ほど経っただろうか。
太陽が真上に上がっていた。お昼になったみたい。
私のジュースの調合も無事終わる。
それなりな数のそれを作ることができ、ベイリーフもウタンのみを植えてこちらに戻ってきた。
ついでに彼女はそのふかふかな土に生えていたオレンのみをとってきていた。
ジュースは作り終えたが、私の仕事はこれで終わりではない。
むしろ、ここからが私の本当の仕事なのである。
「むこうでコラッタが5匹倒されました~!至急向かってください~!」
ほら来た。お昼になって、トレーナーたちが草むらへとやってきたみたい。
ここに来るトレーナーたちはポケモンをゲットするために草むらにはいってきているのではなく、倒すのが目的だ。
どのトレーナーも大体「努力値」という私たちにとっては訳のわからない言葉をつぶやいている。
中には草ポケモンの【あまいかおり】を駆使して、草むらのポケモンをおびき出して、そのポケモンを倒してしまうという輩もいる。
人間というものは、本当によくわからない。
なぜそこまでしてポケモンを倒さなければならないのか。
毎回毎回不思議でしょうがなかった。
そしてコラッタたちが倒されたという場所につく。
倒されたコラッタたちは全て目を回している。
どれも気絶しているようだ。
そんなポケモンのそばに私は草で作った皿の上に午前に作ったきのみジュースを注ぐ。
目が覚めた時に気絶しているポケモンたちがそれを飲んで体力を回復するという寸法。
私がベイリーフとその作業をやっていると、また次の知らせがやってきた。
ちなみに知らせを送っているのはスリープ。
常にトレーナーやポケモンにに見つからない場所に隠れているため私も直接あったことはないが、ポケモンが倒れた際にその異変を察知することができるのか、テレパシーで私にメッセージを送ってくれる。
このポケモンも私が仕事をするために必要不可欠なポケモン。
こう考えると私っていろいろなポケモンたちに支えられているんだなぁ・・・。
私たちはそれから、あちらこちらで倒されるポケモンたちを手分けして回復させていった。
そしてそれから2時間ほど経っただろうか。
着々と倒れたポケモンたちにジュースを与えている時に、一報が入る。
「ゴスのみの木付近で一匹のポケモンが生死不明の重体!至急頼む!!!」
ん?ゴスのみ付近…?生死不明…?
嫌な予感がする。
私は急いで走り出す。
別の場所でポケモンたちにジュースを与え終わり、戻ってきたベイリーフとも合流し、いそいで現場へと向かっていく。
私の嫌な予感はおそらく間違っていないだろう。
急いで走るとはいえ、私は足は遅いため、途中からはベイリーフにつるのムチで抱えられながら現場へと向かった。
ベイリーフには悪いがしょうがない。
これは一刻を争う事態だから…!
そして私たち朝にもやってきた、ゴスの木の前にやってきていた。
朝とは打って変わって、ポケモンはまるでいなかった。…一匹を除いては。
「ねえちょっと君、大丈夫?」
「………」
案の定、気絶している。
生死不明の重体なんて言われ方をしていたくらいだから当たり前と言われれば当たり前であった。
そのポケモンは体中に傷を負っていて、出血までしており、非常に危険な状態なのは間違いなかった。
そして、今朝私があげたゴスのみは、まるまるひとつ綺麗に残っており、近くに転がっていた。
結局食べてはくれなかったようだ。
「とりあえずここは危険だし、安全な場所に避難させないと!」
「ですね、先生!とりあえず先生の家の近くにでも!」
ゴスの木の周りには草むらがなく、周りから非常に見えやすい危険な場所。
私たちは草むらがうっそうとしている私の家付近に移動することにした。
途中からは草むらの野生ポケモンたちも手伝ってくれてスムーズに運ぶことができた。
「お願いだから生き延びて…!ああ…やっぱり私が悪かったんだ…」
運びながら私は自分で自分を責めた。
あの時に無理やりにでもきのみを食べさせていればこんなことにはならなかったのではないか…全ては私の決断の誤りだ…そんなことを考えながら運んでいると、とんでもない言葉が私たちに追い討ちをかける。
「12時の方向からトレーナー接近中!!急いで逃げるんだ!」
「え、トレーナー…!?」
私の言葉に勘づいたのか、周りのポケモンたちがざわめく。
「おいおい、こんな時に来襲なんてよ…」
「どうすんだよ、コイツ死んじまうぞ!!」
「どうすんだよって、答えは一つしかねーじゃねーか!俺たちでトレーナーを食い止めるしかねーだろ!!」
「それしかないか…!おい先生とその助手!!!お願いだからそいつを生かしてやってくれよ!!ここは俺たちで食い止めてやるから!!」
「でも、それだと貴方達が…!」
「そんときゃそんときだ!またいつものように先生のジュースで助けてくれよな!」
「…わかりました!!」
「では行きましょう、先生!」
「おう!よっしゃきやがれ、トレーナー!!」
なんと野生のポケモンたちは自分たちが時間を稼ぐから私たちは先に行ってくれというのだ。
死亡フラグとか超絶にベタとか言っている場合ではない。
事態は一刻を争っている。
私はその言葉に甘えて先を急ぐことにした。
そして、勝つことを許されない守護者たちは勇んでトレーナーの方へと飛び出していった。
あ! やせいの ミルホッグと マッスグマが とびだしてきた! ▼
ひざしが つよい ▼
やせいの ミルホッグは たおれた! ▼
やせいの マッスグマは たおれた! ▼
野生のポケモンたちのおかげでなんとかポケモンを運ぶことができた。
後はふっかつそうとオレンのみ、オボンのみ、ラムのみを調合した強力なジュースを飲ませれば、ひとまず一命は取り戻すはず…私はそのジュースを取りに上の倉庫へと行く。
おや。
あれ。
嘘だ。
え…。
ない。
ない。
ない。
すでにその強力なジュースがなくなっていた。
今日はいつもより倒されたポケモンが多かったため、ジュースがなくなってしまった。私は慌てて材料を確認する。
水…オレンのみ…オボンのみ…ラムのみ…ふっかつそう…あれ?
ふっかつそうがない。一番大事な仕上げだけがなかった。
私はポケモンを介抱しているベイリーフに急いで叫んだ。
「ベイリーフ、お願い!急いでふっかつそうを見つけてきて!」
「え、え?わ、わかりました~!!」
ベイリーフはそれを聞き、いそいで草むらの中へと消えていく。
お願いだから急いで…!
ふっかつそうはなかったものの、それ以外の木のみはそれなりに余裕があったので、私はふっかつそうなしのジュースを作り、なんとか延命を試みる。
「お願い…死なないで…!!」
私はこのことに対する責任を感じていた。
だから絶対に元気にしてあげるんだ!!もう私はそのことで頭がいっぱいいっぱいだった。
できたジュースをそのポケモンに飲ませる。
しかし、やっぱり目が覚めない。分量も間違っていない。
効能も間違いなくある自信があった。
しかし、やはりふっかつそうがないために効果が薄れてしまっているのだろう。
だが、効かないからといって私は立ち止まるわけには行かない。
すぐに延命策として次なるものを作り始める。
しかし、どんなものを作ってもポケモンが目を覚ますことはなかった。
完全に私の実力不足だった。
悔しくて涙が出てくる。
くそっ、泣いている場合なんかじゃないのになにやってんのよ。私。
泣いている暇があったら次なる手を考えなきゃいけないのに…それは分かってはいるんだけど、次から次へと涙が出てくる。
私はポケモン一匹の命も救えないの…?自分が悔しくて情けなくてしょうがなかった。
そんな時、倉庫の隅っこに見えたひとつの物体。
クリーム色で菱形っぽい形の小さな欠片。
こんなもの役に立たないよね。
そう思いながらそのへんに放り出そうとした矢先、私はあることを思い出した。
「先生!人間の世界には「げんきのかけら」っていうどんなポケモンでも回復できる石があるんですって~!」
「へぇ、そんなものがあるんですか。ま、人間界のものなんて信用なりませんけどねー。」
「あはは、先生ならそういうと思っていましたよ!ま、一応友人からひとつもらったのでそこに置いておきますねー!」
「多分使わないわよ~?ま、一応ありがとうね?ベイリーフ。」
――作らなきゃ――
――確かに人間界の道具は信用ならないけど――
――私は今――
――これにしか頼れない!!――
私は考えるよりも先に、体が作業台に動き、一心不乱にその「げんきのかけら」を粉状にしていた。
そしてそのへんに転がっていたオレンのみ、オボンのみ、ラムのみをひっつかみ、水と液体を入れてボウルの中へ入れて必死にかき混ぜた。
これでどっちに転がるかはわからない。
しかし、何もやらないよりはマシだ!
そして、私は今までに作ったことのないジュースを作り上げた。
これだったらもしかしたらあのポケモンを救ってあげられるかもしれない…!!
期待と不安を胸に私は作業場を飛び降り、そのポケモンにジュースを飲ませた。
お願い…
お願いだから…
目を覚まして…!!!!
10秒。
20秒。
30秒。
40秒。
50秒。
そして…一分。
私の努力虚しく、目が覚めない。
なんで・・・?
なんでここまでやって目が覚めないの・・・?
やっぱり信用なんてできないじゃない!!
「先生~、本当に申し訳ありません!ふっかつそう見つかりませんでした・・」
ふっかつそうを見つけられなかったベイリーフも帰ってくる。
「もう・・・いいわよ。こんなに走り回ってくれて、ありがとうね。ベイリーフ。」
「先生・・・?」
私は自分自身に絶望して、その場に倒れ込んだ。
ベイリーフはその様子をただただ見ていることしかできなかったようだった。
こんなに悲しい気分なのに、太陽は腹が立つほど金色に輝いていた。
そんな時。
「先生、患者さんにに生えている草が!!」
「冗談はやめてちょうだいよ。わかっているんだから。」
ベイリーフがわかりきった嘘をついている。そんなこと気休めにもならないわよ・・・
「先生、嘘じゃないんですってば!」
「いい加減にして頂戴よ!!そんな嘘言っても目を覚ますわけ無いでしょうが!!ってえ…?」
私は目を疑った。
確かに私はポケモン……ジュカインの背中についている植物がかすかに動いているのを目にした。
最初は風に吹かれて揺れているだけかと思っていた。
しかしどうやら違うようで、どんどん成長していってる。
それに呼応するように他の植物も一気に成長をはじめる。
「新緑…かしら…?でもこんなことって…死にかけだったのに…?」
私はそんな言葉をつぶやいた。
そんなことをつぶやいている間にも、植物はどんどん成長していき、それはなんとジュカインを包み込んでいく。
花も咲き乱れ始め、なんとも幻想的な物になり、私は声も出ず、ただただその状況を見守ることしかできなかった。
そしてそれから5分ほど経っただろうか。
ジュカインを包み込んでいた植物が真ん中からパカっと割れ、中から意識を完全に取り戻したジュカインが出てきた。
「………ん、助かったのか……俺……?」
「すごいですよ、先生…私こんなもの初めて見ました……あれ…先生?」
「よかった…生きてた…!!!」
あれから数日が立った。
「どうやら俺がお前たちに随分迷惑をかけてしまったようだな…。本当にすまなかった。お詫びに何か一つお願いをひとつ聞いてやるよ。」
「お願い…ですか?だったら…当分ここで安静にしておいてもらえませんか…?この前の件もありますし、私はあなたをほおっておくことはできません」
「そうか…わかった。」
「それじゃあこれ…ゴスのみですよ!」
「ああ…済まない。」
ジュカインは今度は素直にゴスのみを受け取ってくれた。それを見て私はほっとした。ちなみにあんなにボロボロになっていたのはこの草むらに住むポケモンたちをトレーナーから庇ったからみたい。見かけによらずやさしいのかな。傷の方もかなり引いてきており、もう少しで完治しそうな感じ。ジュカインを守るために勇んでトレーナーに立ち向かったポケモンたちも今ではすっかり元気を取り戻していた。
「それにしても先生~、どうしてあんなふうになったんでしょうね~!!」
「ふふ、それはね、「げんきのかけら」のおかげよ、ベイリーフ。」
「ん?」
「ま、そんなことどうだっていいじゃない。とりあえず、あちこち奔走してくれているベイリーフには本当に感謝しているわよ。本当にありがとうね。」
「そんな…水臭いですよ?先生!そんなこと当たり前じゃないですか!!
「ふふ…それもそうかもしれないわね…!!」
トレーナーが来なくて、つかの間の平和が続いている草むら。
今日もやはり金色の太陽の日差しが窓辺から差し込んでいた。
様々なポケモンたちがいなかったらどうにもならなかったのはもちろんだけど、
今回は間接的に人間にも助けてもらっている。
完全に身を委ねることはできないけど、もしかしたら人間の中にもこういう道具を作る人みたいにポケモンのためを思って真剣に考えている人だっているのかもしれないわね。
……あ、私を必要としているポケモンが
現れたみたい。
……私、いかなきゃ!
草むらのお医者さん
ツボツボ
おしまい。
=あとがき=
みなさんおはこんばんちは、虹夢です。
ここまで小説に目を通していただきありがとうございました!
今回は初めて覆面作家企画に参加させていただいた訳ですが、いかがでしたでしょうか?
このストーリー自体はかなり早くに大筋が決まっていたのですが、いざ書いてみると細かいところの表現がかなり難しく、完成に随分時間がかかりました。それでもまだまだ不完全だと自覚していますので、時間があれば推敲していきたいです。
自分もポケモンのwifi対戦で勝つために作中に出てくるトレーナーのように努力値や個体値を(中途半端に)気にする人なので、執筆しながら若干自己嫌悪に陥っていました。まあ、それでももちろんやるんですけどね^^;
ツボツボのジュース調合についてですが、ポケットモンスター金銀(HGSSでない)でツボツボにきのみを持たせるといつの間にかきのみジュースに変わっているというのを掘り下げたものです。
昔はよくきのみジュース意味もなく集めてました^^;
それではここまで読んでいただいた方、推理してくれた方、本当にありがとうございました!
2014.8.5 改訂