ポケットモンスターARC 新たなるアークの戦士!

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作者:川畑拓也
読了時間目安:119分
勇者の聖地における、アークの勇者の子孫であるサトシのゴウカザルと、シュナイダーの最終決戦から数カ月。長き戦いを終えたポケモン達は、つかの間の平和の中で、それぞれの人生を歩んでいた。再び自らの力が必要とされた時のために高みを目指す者、自らの可能性を信じて平和を築こうと努力する者、そしてこの広い世界で自由に生きていく者。それぞれが、それぞれの進む道を見出し、歩み出していた。
そして、激戦を戦い抜いたポケモンの中の2体、サトシのゴウカザルとドダイトスは最終決戦後に結婚し、2人の子宝に恵まれていた。1人は、当時の父ドダイトスに似て、義理固く優しい兄、ナエトルの「リク」、もう1人は、当時の母ゴウカザルに似て、やんちゃだけど泣き虫な妹、ヒコザルの「フレイ」だ。2人は生まれた時から、両親のように強くなるために、オーキド邸の仲間達と日々特訓を重ねていた。そんな中でも、フレイとリクが最も楽しみだったのは、やはり両親と過ごすひとときだった。親子で食事をしたり、一緒に星を見上げたり、丘の上から森を見渡したりと、家族で過ごす時間は、子供の2人にとっても何より大切な時間だった。

そんなある日のこと、サトシとピカチュウがイッシュ地方での旅を終え、新たな地方へと旅に出て何カ月か経った頃。ゴウカザルは今日も夫ドダイトスと子供達と食べるきのみを集めていた。ふと、彼女はオレンの実がたくさんなっている木を見つけた。
「おっ、これがいいわ!」
そう言うとゴウカザルは木に近付き、勢いよく「マッハパンチ」で木を叩いてオレンの実を落とした。するとオレンの実が木の周りにたくさん落ちた。うち1個はゴウカザルの下に落ちるが、彼女は額にオレンの実を乗せ、そのまま自分の右手の位置に転がしてキャッチした。
「いい感じ!」
ゴウカザルはニッと笑い、他に落ちたオレンの実を拾い集めた。それとさっきまで持っていたきのみ複数を合わせると、ちょうど一家4人で食べきれる量だった。
しかし、彼女を待つドダイトス達はそれどころではなかった。彼は息子リクと、ゴウカザルとの待ち合わせ場所の周囲で誰かを探していた。
「フレーイ!フレイ、どこだー!」
「フレーイ!」
なんと、娘フレイが迷子になってしまったのだ。それに気づいたドダイトスとリクが、妻や母との待ち合わせ場所から離れないようにして探していたのだ。
そこへ、たくさんのきのみを持ったゴウカザルが帰ってきた。
「ただいまー!今日もこんなにきのみ取れたわよー!」
明るく言うゴウカザルだったが、ドダイトスはきがきではない感じで言った。
「それどころじゃないんだ!フレイがいなくなったんだ!」
「えぇ!?」
ゴウカザルは驚く。リクも言った。
「さっきまで森で遊んでたんだけど、気が付いたらいなくなってて!約束の場所にいた父さんに言って探してたんだ!」
「そう、厄介なことになったわね。」
ゴウカザルはきのみを置き、リクに言った。
「フレイとはぐれた森は?」
「ここから西側の方!」
リクが待ち合わせ場所の木から左側の森を指さした。ゴウカザルはその方角を見た。
「なるほど。」
そしてゴウカザルはドダイトス達に伝えた。
「すぐ見つけて連れて来るから待ってて!」
「あぁ、頼む!」
ドダイトスが答えた。ゴウカザルは森へとかけていった。
「フレイのヤツ、無事だといいんだが・・・。」
心配そうにドダイトスが言う。するとリクは責任を感じてドダイトスに謝った。
「ごめんなさい、父さん。俺が目を放したせいで・・・。」
するとドダイトスは、今にも泣きそうな息子にそっと語りかけた。
「いや、お前は何も悪くない。大丈夫だ、母さんが無事にフレイを連れて帰って来るはずだ。」
「父さん・・・。」
リクの心は少し落ち着いた。

その頃、森の中で迷子になっていたフレイは、泣きながら森の中をさまよっていた。
「え~ん、お母さ~ん!」
しかし、こんな森の中でそう簡単に母親の返事が返って来るはずは無い。フレイはますます心細くなりなお大泣きし、その泣き声だけが森の中に響くだけだった。ちなみに彼女のいるこの森は、オーキド研究所から10メートル離れた地点だ。当然、そこまでフシギダネ達の手が伸びるはずも無かった。帰り道もわからないまま、フレイはさらに奥へと歩いていく。
やがて、フレイは横の茂みが揺れているのに気づいた。
「お母さん?」
その揺れを母親の物と思い、フレイは茂みに近付く。しかし、その茂みに触れた時、彼女を最大の恐怖が襲った。茂みの揺れの正体、それは5体のスピアーだった。自分達の縄張りを侵されたスピアー達は激怒し、フレイに襲いかかった。
「きゃあああーーーーー!!」
彼女の叫びは森全体に響き、その声はオーキド邸の敷地内にいたゴウカザルの耳にも届いた。
「フレイ!?」
ゴウカザルはフレイの悲鳴のした方角へと急いだ。
フレイは襲ってくるスピアー達から必死に逃げていた。しかしスピアー達は容赦なく「ミサイルばり」や「みだれづき」を繰り出してくる。それらをかわしながら逃げ続けるフレイだったが、スピアー達の猛攻に除々に追い詰められていく。
「お父さん、お母さん、助けてー!」
フレイは父と母に助けを求める。しかし、あっという間に崖に追い詰められた。しかも下は地面。落ちれば一巻の終わりだ。そして、彼女の目の前にスピアーが迫った。
そこへ、ようやく娘の悲鳴を聞きつけたゴウカザルが駆け付ける。彼女はフレイがスピアーに襲われているのを確認した。
「フレイ!」
「あっ、お母さん!」
フレイも母の姿を確認した。しかし、スピアーは容赦なく彼女に「こうそくいどう」からの「みだれづき」を繰り出し襲ってくる。
「・・・・・・!」
フレイは恐怖で凍りついてしまっている。ゴウカザルは急いでフレイを助けに行く。
「フレーイ!!」
しかし、ここからの距離では間に合わない。それでもゴウカザルは何とかスピアー達に近付こうとするが、スピアーの攻撃はもうすぐフレイに直撃しようとしていた。その時だった。
突然フレイのお尻の炎が激しく燃え上がり、フレイが大きな雄たけびを上げた。ゴウカザルは彼女のその姿を見てハッとなった。
(これって、もうか・・・?)
そう、フレイは「もうか」を発動させたのだ。母親のように、アークの兆候は出ていなかったためか目は普通だったが、それでもお尻の炎の勢いはすさまじいものだった。スピアー達はそれを見て驚いていたが、フレイはそのまま「かえんぐるま」でスピアー達をなぎ払って行った。スピアー達は崖の下へ落下し、そのまま下の森の中へと入って行ったのだった。
ゴウカザルは娘の見せたすさまじい力に唖然としていた。
「すごい・・・、あの子にもあんな力が・・・?」
するとフレイが「かえんぐるま」を解き、その場に立ち尽くした。それは、当時ヒコザルだったゴウカザルが、前トレーナーのシンジにゲットされる前、自分がかつてザングースの群れに襲われた際に使った初めての「もうか」のようだった。フレイは立ち尽くしたまま息を荒くしていた。おそらく、さっきの自分の「もうか」からの「かえんぐるま」でスピアー達を撃退した事は覚えてないだろう。ゴウカザルはフレイに近付いた。
「フレイ。」
「あっ。」
フレイは目の前の母親に気づいた。すると彼女の目に涙が浮かんだ。
「お母さーん!」
フレイはゴウカザルに泣きついた。ゴウカザルは彼女の頭をなでてほほ笑んだ。
「よかった、あんたが無事で。」
「怖かった・・・、怖かったよ・・・。」
フレイは母親の胸でグスン、グスンと言いながらその体にしがみついた。ゴウカザルはふと、フレイがさっきの光景について覚えているのだろうかと考え、彼女に尋ねた。
「ねぇ、フレイ。」
「え?」
「ここら一体のコレ、あんたがやったって覚えてる?」
そう言ってゴウカザルは、さっきのフレイの「かえんぐるま」で出来た渦巻きの線を見せた。そこらには、まだ炎があちこちに残っていた。
しかし、フレイはその光景についてあまり覚えてなかった。
「わかんない。」
「そう。」
ゴウカザルは納得して言い、自分の体につかまる娘の体をそっと抱いた。
「さ、帰りましょう。お父さんとリクも待ってるわよ。」
「・・・うん!」
フレイは笑顔になって答えた。

「全く、心配したぞ。」
「ごめんなさい、お兄ちゃん。」
兄リクに注意されて謝るフレイを見ながら、ゴウカザルはドダイトスに、さっきのフレイの「もうか」について話した。
「フレイがもうかを・・・?」
「えぇ、あたしははっきりと見たわ。それはまるで、シンジさんが見たっていう、あたしが初めてもうかを発動させた時と同じ状況。あっという間にスピアーを5体倒したのよ。」
ドダイトスにも妻の話がよくわかった。
「まぁ、おいら達にはアークがあるからな。信じられない話じゃないな。」
「でしょ?フレイに聞いても、わからないって言ってたわ。」
「無理も無いな。不意に発動したし、それに当時のお前だって最初は何の事か解らなかったんだろ?」
「そりゃね。でも、もしかしたらあの子も・・・。」
「・・・おいらもそうだと思うなぁ。」
そこへ、フレイとリクが2人に近付いていきた。
「お母さん、お父さん。何話してるの?」
「あ、リク、フレイ。」
突然娘に尋ねられ、ゴウカザルはおどけた。ドダイトスが答えた。
「ちょっと今日のバトル特訓の内容についてな。」
その夫の言葉に、ゴウカザルも頷いた。フレイはちょっと不思議そうに首をかしげるが、
「そっか。」
リクの方は納得した様子で言った。
「じゃあ、早くきのみ食べよう。俺お腹ペコペコだよ。」
「あたしもー!」
フレイも元気に言う。ゴウカザルも「はいはい」と答え、一家4体できのみを囲んだ。
それと同時にゴウカザルはドダイトスに言った。
「フレイって普段は泣き虫だけど、この時は特に元気ね。」
「ヒコザルだった頃のお前と同じだな。」
ドダイトスに言われ、ゴウカザルは頬を染めた。するとフレイが調子よさげに言った。
「あれ~、お母さん顔赤いよ~?」
そして一家は笑い合った。ゴウカザルとドダイトスにとっても、子供達と過ごすこのひと時は癒しだった。

それと同じ頃、とある場所で1体のゲンガーが暗闇の中で呟いていた。
「ついにこの時が来た・・・。イースターが崩壊し、シュナイダーの部隊が壊滅した今、ヤツらに代わってこの俺がロケット団のために君臨するのだ。」
すると、彼の隣のユキメノコ、レイアも言った。
「はい、ネス様。既に部隊の準備は整っております。後はネス様のご指示があれば。」
「うむ、ご苦労。」
そのゲンガー、ネスが答えると同時に、彼らのいる岩に覆われた空間の灯りがついた。そこでネスは宣言する。
「お前達!いよいよ我々「黒の騎兵隊」がロケット団の頂点に立つ時が来た!我々の手でこのシンオウ地方を征服し、本部を凱旋した後に全世界を征服するのだ!」
『おぉー!!』
彼らの足下のゴースやヨマワル、ヤミラミ達が一斉に返事をした。その返事を聞きながらネスは呟いた。
「見ていろシュナイダー、必ずこのシンオウ地方は我ら黒の騎兵団が制圧し、俺に力を与えたあの技術を恐れたお前の鼻を明かしてくれる・・・。」

オーキド邸の原っぱでは、フレイとリクがバトルの訓練をしていた。
フレイの「かえんほうしゃ」をかわしたリクが「はっぱカッター」を当て、それを耐えきったフレイが「あなをほる」で地面の中からリクに近付き、彼の下まで来たところで地面から出て来て一撃を喰らわせる。リクは空中へ吹っ飛ぶが、そこから巻き返して「はっぱカッター」を放ち、フレイはそれを「かえんほうしゃ」で防ぐ。しかし、そこからリクはフレイの頭に「かみつく」でかじりついた。すぐさまフレイはさっき「あなをほる」で掘った穴へ飛びこみ、そこから「かえんほうしゃ」を放った。穴からは炎が出て来て、フレイが入った方の反対側の穴から、炎に包まれながらリクも出てきた。そのまま地面に倒れたリクはダウンしていた。それと同時にフレイも穴の中から出てきた。
「はい、そこまで!」
ドダイトスが号令を下し、バトル特訓は終了した。フレイは倒れた兄をそっと起こした。
「大丈夫、お兄ちゃん?」
「あぁ、これくらいはな。」
リクは笑って言った。ドダイトスは2人に歩み寄って言った。
「リクもだいぶバトルの技術に磨きがかかってきたな。」
「フレイもどんどん戦術が身についていってるわ。」
彼の隣のゴウカザルも続いた。
「なーに、これくらいは当然だって。」
「あ、あたし、あんまり実感ない・・・。」
リクは自信満々で答え、フレイは照れる様子で言った。そんな彼女にドダイトスは告げた。
「そりゃそうだ。自分の成長は自分でも気付かないものだしな。」
そしてこう続けた。
「あとは、アークが目覚めればな。」
「・・・・・・。」
ドダイトスのその言葉に、フレイはぼーっと正面の父親の顔を見上げた。兄のリクはナエトル系の第1形態であるが、幼くして早くもアークを覚醒させている。これでもそのアークの兆候の「しんりょく」が発動した時は暴走しかかったが、両親の呼びかけで正気を取り戻してからは、「しんりょく」を発動しても暴走するような気配はなくなった。もし、自分もアークが覚醒するようになれば、両親や兄と一緒にアークの姿でのバトル特訓だってできる。しかし、果たして自分にアークが覚醒するのだろうか。そんな考えを浮かべているフレイにゴウカザルが笑顔で言った。
「アークの兆候のもうかが発動した時、暴走しなきゃいいけど。」
「もうー、お母さん!」
フレイは顔を赤くして言い、ドダイトスとリクは笑った。ゴウカザルは両手を前に出して「ごめん、ごめん」と陽気に返した。
「でもお母さん、フレイがアークを発動させた姿見てみたいな。だってあたし達の子供のアークを発動させた姿、とっても輝いてると思うんだ。」
ゴウカザルが言うと、ドダイトスも頷いた。
「・・・・・・。」
フレイもリクも、母親の言葉をしっかり受け止めていた。フレイ自身も、兄リクがアークを発動した姿が輝いているのなら、自分もその輝きを手に入れたいと心から願った。そしてゴウカザル達に答えた。
「うん、あたしきっとアークを手に入れる!そして、お母さん達にその姿を見せるわ!」
明るく言うフレイの姿に、リクの表情もほころびた。ゴウカザルとドダイトスも嬉しそうだった。
「えぇ、あんたがアークを手に入れる日、楽しみにしてるわ。ね、ドダイトス。」
「あぁ。」
ドダイトスも頷いて答えた。フレイとリクも、両親に笑顔を見せた。するとフレイがリクに言った。
「お兄ちゃん!あたしもっと強くなりたい!もっと特訓しよ!」
建機な妹の姿に元気をもらったリクもやる気十分だった。
「あぁ、いつでもかかってこい!」
そして2人は再びバトル特訓を開始した。それを見守りながらゴウカザルはドダイトスに言った。
「ねぇドダイトス、あの子達はきっと、この世界を守る次の世代かもしれないわね。」
「そうだな。おいら達のアークは、次の世代に引き継がれたのかもな。」
そう答えるドダイトスは、子供達のバトル特訓の様子を見てほほ笑んだ。
しかし突如、彼の身体に異変が起きた。
「うっ!?」
突然襲った胸の痛みに、ドダイトスは倒れ込んだ。
「ドダイトス!?」
隣にいたゴウカザルが、苦しみ出す夫に寄り添う。
「ドダイトス、ドダイトス、しっかりして!」
ゴウカザルが声をかけるが、ドダイトスは苦しさのあまり話す事が出来なかった。
フレイとリクも父親の異変に気づく。
「お父さん?」
「父さん。」
2人もドダイトスの近くへ駆け寄る。ドダイトスの顔色は悪く、息も荒かった。それを見て不安になったフレイが母親に尋ねた。
「お母さん、お父さんどうしたの?」
ゴウカザルも額に汗を流して焦っていた。
「わからない、突然倒れたから・・・!」
母親が困っているのを見て、リクが言った。
「俺、フシギダネ呼んでくるよ!」
「お願い!」
ゴウカザルが答え、リクはフシギダネ達を探しに森の方へと駆けて行った。フレイはますます不安になる。
「お母さん、お父さん大丈夫なの!?元気になるの!?」
ゴウカザルはこれ以上彼女を不安がらせまいと笑顔になって言った。
「大丈夫よ、お父さんはきっと助かるから。」
「お母さん・・・。」
フレイは不安そうな表情のまま、母親の顔を見上げていた。ゴウカザルは懸命に夫の体をさするが、ドダイトスの表情は一向によくならなかった。

数分後、森に運び込まれたドダイトスを、ヨルノズクと、ジョーイと助手のラッキーが診ていた。すでにフシギダネを通じてオーキド博士達にもドダイトスの緊急事態は伝えられていたため、急いで近くのポケモンセンターにも連絡を入れて、ジョーイ達に来てもらっていたのだ。ドダイトスの診査の様子を、付き添いのケンジとポケモン達、特に妻のゴウカザルと子供のフレイとリクは不安そうに見守っていた。
やがて診療は終わり、ジョーイ達とヨルノズクが一同の方を向いた。
「診査が終わりました。」
そこへすかさずケンジがジョーイに聞いた。
「それで、どうなんですか?」
「・・・・・・。」
ジョーイは深刻そうに答えた。
「・・・このドダイトスは、重大な病に侵されています。」
「え!?」
「!?」
ケンジもポケモン達も驚愕する。ジョーイは続けた。
「おそらくは心臓かどこかの病気ですね。かなり深刻な状態になっています。」
「そんな・・・!」
夫の突然の事態に、ゴウカザルは動揺する。それを見てフレイも不安がるが、リクがそっと寄り添い元気づけた。
ケンジはもう1つ聞いた。
「それで、その病気は治るんですか?」
するとジョーイはどうしようもなさそうに、
「残念ですが、完治の可能性は低いかと。それどころか、80パーセントの確率で命を落とす可能性も・・・。」
「そ、そんな!」
あまりに残酷な申告に、ケンジは思わず声を上げた。ゴウカザルもショックを隠せなかった。
「ド・・・ドダイトスが・・・!?」
彼女の体は動揺のあまり揺れ、その表情も絶望的だった。それを見てフレイはますます不安そうな顔をする。
「お母さん・・・。」
やがてゴウカザルは崩れ落ち、顔を下に向けて静かに泣き崩れた。夫が助からないと知っての絶望の涙だろうか。
それを見て、しばらくは母をそっとしておいた方がいいと考えたリクはフレイを連れて原っぱの方へと歩き出した。
「ちょっと、母さんはそっとしておこう。」
「でも・・・。」
フレイはもどかしそうに返すが、リクは静かに告げた。
「母さんは父さんに死んでほしくないから、ああやって泣いてるんだ。落ち着くまで、しばらくは1人にさせてやろうぜ。」
「・・・うん。」
フレイは静かに頷いた。ゴウカザル達の仲間のブイゼルとムクホーク達も、彼女の気持ちを察して、あえて声をかけないようにした。だが、ドダイトスは泣き崩れるゴウカザルを見てそっと語りかけた。
「心配するな、ゴウカザル。」
「!」
ゴウカザルは涙にぬれた顔を起こした。ドダイトスを襲っていた苦しさは治まり、やっとしゃべれるようになったのだった。
「おいらはお前とリク達を置いて死ぬわけにはいかないんだ。生き続けてやるさ。この病気を乗り越えて、またバトルできるようにまでなってやるさ。そしたら家族で街に出かけよう。一家そろって人間の姿で、公園や博物館、デパートを見て回って、映画にも行って、思い出になる時間を作ろう。だからおいらは、病気には負けないぜ。」
「・・・・・・。」
そのドダイトスの言葉で、ゴウカザルは絶望から立ちあがった。
「・・・うん!」
涙をぬぐい、いつも通りの笑顔で答えた。それを見ていたケンジや仲間達も、2人にそっと笑顔を浮かべた。その希望が見出されたかのような光景に、ジョーイは言った。
「きっとあなた達なら、この子の病気を乗り越えて希望へと進んで行けると思うわ。私は、あなた達を信じるわ。」
「ラッキー。」
ラッキーも、ジョーイさんの言葉に頷いた。そんなジョーイさんの顔を仲間達と共に見た後に、ゴウカザルとドダイトスはもう一度互いの顔を見てほほ笑んだ。自分達ならきっと乗り越えられる。その希望を信じていたのだ。

その翌日、ゴウカザルは自分と家族の寝床で横たわるドダイトスの看病をしていた。粉末状にしてモチのようにこねたフーズを食べさせ、彼の体を拭いてあげていた。そんな妻の謙虚さをけなげに感じたドダイトスは、
「気苦労かけてすまないな、ゴウカザル。」
とすまなさそうに告げた。それを聞いたゴウカザルもせつなそうな表情になって、
「もう、ドダイトス、それは言わない約束よ。」
と静かに返した。
そんな両親の様子を木の影に隠れて見ていたフレイとリクは、病気の父親のために自分達も何かしてやりたいと思った。
「ねぇお兄ちゃん。あたし達に何かできないかしら?」
「うーん、何か芸をして元気づけるとか?」
「そうね。でもそれだけじゃ足りないの。」
「何が足りないんだ?」
「それだと元気づけることはできても、もしかしたらそこからは二度と会えない気がして。」
「え?そりゃ、どういうことだ?」
リクが不思議そうに聞いた。フレイは固く目をつぶって、木を掴んでいる手に力を込めて訴えた。
「あたし、お父さんと別れたくない。お父さんには絶対、これからも生きていてほしい。」
「・・・そうだよな。」
リクにもフレイの言葉の意味がわかっていた。例え父親を元気づけることが出来ても、そこからはどうなるかわからない。彼も父親と別れたくなかったのだ。
「俺も父さんともっと一緒に過ごしたい。俺とフレイでアークを発動した姿を見てもらいたいよ。」
「お兄ちゃん・・・。」
その時、2人はある事を思い出した。
「そうだ!パワーストーンよ!何でも願いが叶うっていうあの石!」
「おぉ、それだ!それを使えば父さんも元気になる!」
2人は両親とその仲間達から、不思議な石・パワーストーンの事を聞いていた。その石でどんな願いでも叶うということも、今はテンガン山の、誰の手にも届かない場所にある事も。それを使えば、父ドダイトスの病気を治すことができる。2人の中にも希望が見えてきた。
「じゃあ、さっそくお母さん達に行って、探しに行きましょう!」
フレイは早速、パワーストーン探しの事をゴウカザルに報告しようとしたが、リクは慎重に考えていた。
「でも、子供2人だけじゃ危険じゃないか?それに母さん達、絶対反対するぜ。」
しかしフレイはリクの方を向き、笑顔で「大丈夫!」と答えた。
「もしあたし達だけで行くのを反対されたら、お母さんかフシギダネ達に頼んで一緒に来てもらえばいいのよ!その方がきっとみんな納得するわ!」
「そうか!さすがフレイだ!」
リクも納得して言い、それにフレイも笑って応えた。そして2人は、ゴウカザル達の元へと行った。これから自分達の行動を伝えるためだ。
「どうしたの、2人とも?」
ゴウカザルが聞いた。フレイはリクを見て、彼が頷くと告げた。
「あたし達、シンオウのテンガン山へパワーストーンを探しに行こうと思うの。」
『え!?』
ゴウカザルもドダイトスも、娘の言葉に驚いていた。リクも行った。
「俺達、このまま父さんとお別れする気がして、そんなの嫌だから、だからパワーストーンを使って父さんを助けたいんだ!」
『・・・・・・。』
ゴウカザル達はしばらく黙っていたが、やがてゴウカザルがドダイトスの方を向いた。ドダイトスが頷くと、ゴウカザルはフレイ達に告げた。
「そうね。あたし達もあんた達くらいの年からバトルしてたんだし、いい修行になるかもしれないわね。」
「え?」
「それじゃあ・・・!?」
フレイ達は目を向けた。するとゴウカザルは、
「えぇ、行って来なさい。フシギダネにはあたしから言っておくわ。」
『・・・・・・!』
2人は嬉しさのあまり、顔を輝かせた。
「やったー!お母さんもお父さんも大好きー!」
その場で跳びはねる2人に、ゴウカザルはさらに告げた。
「この旅を通して、もっと自分を磨きなさい。それが、今後のあんた達の力になるわ。」
『はい!』
フレイとリクは返事をした。そしてリクはフレイに言った。
「よし、フレイ、早速準備だ!」
「うん!」
2人は旅の準備に向かった。それを見届けながら、ゴウカザルは言った。
「なんか、幼かったころのあたし達を思い出すわね。」
彼女のその言葉に、ドダイトスも穏やかに答えた。
「あぁ、おいら達もかつては、あんなに無邪気だったな。」
子を送り出す親の、少し切ないような感情であった。

翌日、荷物を用意したフレイとリクが、シンオウ地方へのパワーストーン探しの旅に出発しようとしていた。
見送りにはオーキド博士とケンジ、ゴウカザルを始めとするポケモン達が出ていた。フシギダネが2人に告げた。
「気を付けろよ、2人とも。ポケモン2人の冒険になるし、お前達はまだ子供だからな。」
「任せとけ!」
リクが自信満々で答えた。
「リクは俺が絶対に守ってやるぜ!」
彼の隣で、フレイもやるき十分だった。
「必ずパワーストーンは持って帰って帰るね!」
そんな彼女達に、母ゴウカザルが歩み寄って言った。
「お母さんは信じてるわよ。きっとあんた達が、お父さんを救ってくれるって。」
そして2人をそっと、包み込むように抱きしめた。フレイもリクも、自分達を抱く母のぬくもりを感じ取った。ゴウカザルは2人から離れると優しく告げた。
「がんばってね。」
『はい!』
フレイ達も笑顔で答え、そしてついに旅立った。
「じゃあ、行ってきまーす!」
「父さんにもよろしくなー!」
その姿を見送りながら、ポケモン達も激励の言葉をかける。
「頑張ってこいよー!」
「気を付けてねー!」
それに、オーキド博士とケンジも続いた。
「わしもお前達を信じとるぞー!」
「どんな困難にも負けるなよー!」
フレイとリクも手を振って応えた。やがて、2人の姿は見えなくなった。
見送りが終わると、オーキド博士は呟いた。
「なんだか、ゴウカザル達がパワーストーン探しの旅に出た時の事を思い出したわい。」
「俺もです。オーキド博士。」
ケンジが答えた後、風が静かに一同の周りを吹き抜けた。

フレイとリクは港に付くが、そこにはたくさんの人間が集まっていた。船の目の前の物影に隠れながらフレイ達は様子を伺った。
「なんか、いっぱい人間がいるわね。すんなり乗れなさそう。」
フレイは困ってしまうが、リクは背中のリュックからある物を出した。
「そんな時のためにこれがあるんだぜ。」
「あっ、そっか。」
フレイもリクの用意した「それ」を見て納得した。それは、ゴウカザルとドダイトスが人間に変身する時に使用している、赤と緑の石だった。この石は、かつてパワーストーンが納められていた「黒い扉」と一緒に埋め込まれていた物で、それを顔の近くまで持っていくと、ほのおタイプなら赤い石で、くさタイプなら緑の石で人間に変身できるという、不思議な力があった。これの持ち主のゴウカザルとドダイトスは、自分達だけでなく、フレイとリクを人間に変身させるためにも使用している。これに関して、先日彼女達の知り合いの女科学者ユウリから、ポケモンを人間に変身できる腕時計型の変身装置「ポケモーファー」を新調しようかと言われたが、ゴウカザルが「しばらくは大丈夫です」と言っていた。
リクは早速、フレイに赤い石を手渡した。
「じゃあ早速・・・。」
早速人間になろうとしたフレイだったが、すかさずリクが止めた。
「待って!まずは周りを確認しないと。」
「あ、そっか。人間に変身するとこ見られたら大変だもんね。」
2人は周囲を見渡し、誰もいない事を確認した。そして、リクも緑の石を口にくわえた。
「よし、じゃあ行くぞ。」
「うん!」
フレイも赤い石を顔の近くへと持って行った。
そして2人は人間に変身した。フレイはセミロングの赤いくくり髪の9歳くらいの少女に、リクは緑色の短髪の10歳の少年の姿になった。
「よし、完璧だ。」
「うん!早く行こ!」
「あぁ、でもチケット買わないとな。待てよ、フレイ!」
リクは、チケットの販売所へと駆けて行くフレイを追った。
やがてチケットを買い終わった2人は、船の乗り場へとやって来た。係員が2人に話しかけた。
「おや、君達は2人だけで旅行か?」
「ううん、あたし達パワーストーンを探しに・・・。」
正直に答えようとしたフレイの口を抑えて、リクが上手くごまかした。
「そ、そうみたいなもんですよ!アハハハハ!」
「そうかい、そうかい。そりゃ大したもんだ。さぁ、早く乗れ。」
係員はフレイ達のチケットに印を押すと、2人を行かせた。船には乗り込めたが、フレイは少し不満だった。
「もう、お兄ちゃん!何で本当の事言わせてくれなかったの!?」
「だってさ。」
リクが妹を落ち着かせるようにして答えた。
「無闇にパワーストーンを探してるなんて言ったら、変なヤツらだって思われちゃうんだろ?」
「あ、そっか!」
フレイはあっさりと納得した。それと同時に船はシンオウ地方へ向けて出航したのだった。

その頃、黒の騎兵団の本拠地では、ネスが部下のレイアから、シンオウ地方への進攻状況に関する報告を聞いていた。
「そうか、間もなくアケビタウンは制圧完了か。」
「はい、現在プリベント・アーミーと交戦中の地区や部隊も多々ありますが、それらの手がまだ行き届いてない地点は除々に制圧が完了しつつあります。」
「ハハハハ、連中も必至だろうな。各地に散らばった我が部隊の対処に追われ、制圧されつつある小地区の存在に気付かないでな!」
ネスは大笑いした。レイアも静かに笑みを浮かべた。
「そしてそこからさらに部隊を増強し、その果てにシンオウ地方を完全制圧。完璧な作戦ですね。」
「そうだ。そしてシンオウ征服を成した暁には、俺がシュナイダーに代わりロケット団の一翼を担うポケモンとなる。そして、我が黒の騎兵団がロケット団の世界征服のために貢献(こうけん)するのだ!」
そしてネスは大声で笑い、レイアも微笑した。自分達の作戦に絶対的な自信があったのだった。

翌日、フレイ達の乗る船はシンオウ地方へ到着した。目の前に見えるのは、フタバタウンの港だった。
船が港へ接舷すると、フレイとリクはシンオウの地へ降り立った。フレイは始めて訪れたシンオウ地方に興奮していた。
「ここがシンオウ地方・・・!」
その興奮はリクも同じだった。
「あぁ、ここが父さん達のルーツ・・・!」
2人は物影に隠れ、ポケモンの姿に戻った。そして、シンオウ地方の風と空気を感じ取っていた。その心地よさに、2人は感動していた。
しばらく感動と興奮に浸っていた2人だったが、すぐに自分達の使命を思い出した。
「あっでも、パワーストーンを探さなきゃ。」
「そうだな。早く見つけて持って帰らなきゃ。」
そして2人は早速出発しようとした、その時だった。
前方の人だかりからきのみが転がって来て、それと同時に1体のポッチャマが現れた。
「!」
2人は歩を止めた。そのポッチャマはきのみを受け取り、自分の体で払った。
「いや~、よかった、人に踏まれなくて。」
すると、そのポッチャマは呆然と見つめる2人に気づいた。
「何だ、お前ら?」
そのポッチャマに尋ねられ、フレイ達は名乗った。
「フ、フレイです・・・。」
「俺はリク・・・。」
「ふぅーん。」
そのポッチャマは2人をじろじろ見渡し、名乗り出した。
「俺はカイリ。いつもはソノオタウンの外れに住んでんだけど、今日は気晴らしにここまで来た。」
「ソノオタウンって・・・。」
フレイが言うと、リクはポケギアを使って調べた。
「あっ、ここか!」
そして、フレイとカイリに地図を見せた。
「そう。でもさっき言ったみたいに、俺はそこの外れに住んでんだ。それで、ここへは何の用だ?」
カイリに尋ねられ、リクは答えた。
「テンガン山だ。」
「テンガン山!?」
カイリは驚いた。フレイが言った。
「そんなに驚く事なの?」
「だってお前ら。」
2人の荷物を指さして、カイリは言った。
「そんな軽い装備で山登りなんて、無謀じゃねぇか?」
「そんなんでも無いと思うぜ。」
リクがカイリの意見に答えた。
「俺達の父さんと母さんは、2回ここを旅して、いろんな所に行ったんだ。俺達にもそんな山、屁でも無いと思うぜ。」
するとカイリは、リクの言った事に驚いた。
「え!?お前ら兄妹なの!?ていうか、トレーナーのポケモンだったの!?」
「うん。一応はトレーナーのゴウカザルとドダイトスの間の子供って所?」
フレイが答えた。カイリは内心から驚いていた。
「こりゃあたまげた・・・、両親が別々の種族で、お前らも兄妹だったなんてな。トレーナー無しで船乗ってここへ旅に来るなんてな。野生のだと思って油断してたぜ。」
(野生のポケモンがリュックなんか持ってるのか?)
心の中でリクはツッコんだ。それとは逆にフレイは自慢げだったが(笑)。
「へへーん、あたし達も大したもんでしょ。」
「まぁいいや。俺も似たようなもんだしな。」
「え?」
「あなたにもトレーナーがいるの?それともお父さんかお母さんにトレーナーが?」
フレイに尋ねられカイリは、
「後者だぜ。」
と答えた。
「ま、せいぜい気を付けな。今ここはロケット団を名乗る謎の一団が暴れているらしいからな。お前らも遭遇したら即逃げた方がいいぞー。」
「え、謎の集団!?おい、それって・・・。」
リクが聞こうとすると、カイリは2人に背を向け、右手に持ったきのみを食べながら左手で手を振って答えた。
「もしかしたら本当にロケット団かも知れねぇぞー。やられたらお前ら捕まるかもだぜー。」
そう言いながら、カイリは人波の中へ消えて行った。
「何だよそりゃ・・・。」
リクは少し微妙な表情をした。フレイは正直怖くなったが、勇気を振り絞った。
「・・・でもパワーストーンを見つけないと、お父さんは・・・!」
「そうだな、行こう!」
そしてフレイとリクはテンガン山へ向け、出発した。父ドダイトスを病気から救うために。

しかし、やはりシンオウ地方は広かった。とても短期間でテンガン山にたどり着けるほどたやすい距離ではなかった。夕方過ぎになっても、まだマサゴタウンからの森の中だった。フレイもリクも、もうクタクタだった。
「ねぇ・・・、どこか野宿出来る所探そう・・・。」
「そ・・・、そうだな・・・。」
息も絶え絶えに、2人の会話が返る。そして2人はひとまず野宿する場所を探し始めた。
と、その時、突然どこからかフレイめがけて「おにび」が飛んできた。
「きゃあ!」
フレイはすぐさま「あなをほる」で地面に逃げた。
「フレイ!?」
リクは振り返るが、突如「シャドークロー」で1体のヤミラミが彼に襲ってきた。
「うおっ!?」
リクは素早くそれを避け、そのヤミラミを見た。
「何すんだ!」
すると、そのヤミラミの隣に、ヨマワルとゴースが現れた。3体は腰にポーチを付けており、先ほどフレイに「おにび」を放ったのも、その3体のうちヨマワルの方だった。
同時にフレイもリクの隣に出てきた。
「ふう。」
「フレイ。」
すぐに2人はヤミラミ達の方を見た。すると、ヤミラミ達は容赦なく「おにび」や「あくのはどう」を放つ。
「きゃあ!」
フレイは驚くが、リクは彼女の前に出て、「はっぱカッター」でそれらを防ぎきる。
「くっ!」
リクは歯ぎしりをした。
「そっちがその気なら、俺が相手になってやるぜ!」
そしてヤミラミ達へ向かっていく。
「お兄ちゃん!」
フレイが兄の名を叫ぶ。リクはゴーズに「たいあたり」を繰り出した。ゴースは近づいてくる彼に「シャドーボール」を当てようとするが、リクはそれを避け、ゴースに「たいあたり」を決めた。ゴースは倒れるが、今度はヨマワルが倒れたゴースの前に現れ、「おにび」を放った。
「あち、あち、あちちちち!」
「おにび」にまとわりつかれ、苦しむリク。しかし、すぐにジャンプして「おにび」を回避した。
「やってくれたなー!」
そしてそのまま「はっぱカッター」を放ち、見事直撃させた。
その時、リクの後方で悲鳴が上がった。
「きゃあああーーー!」
「フレイ!?」
慌ててリクが振り返る。すると、フレイがヤミラミに迫られているのが目に入った。
「バカめ、妹に目が行ってなかったぞ!」
「しまった!フレイ!」
リクは急いでフレイを助けに行こうとするが、起き上がったゴーズとヨマワルに立ちふさがれてしまった。
「行かせるわけがないだろう。」
「そう少しお兄さん達と遊ぼうな。」
「くっ・・・!」
そうこうしている間に、フレイがヤミラミの攻撃にさらされようとしていた。
「覚悟しろ、お嬢ちゃん!」
そして勢いよく「シャドークロー」を繰り出そうとした。
「いやぁー、来ないでぇー!」
フレイは土壇場で「かえんほうしゃ」を放った。ヤミラミは吹っ飛ばされ、後ろに下がった。
「ぐおおおお!」
それを見たリクは妹が上手く敵をかいくぐった事を喜び、興奮した。
「すごい!すごいぞ、フレイ!」
が、そんな彼の前にゴースの「シャドーボール」とヨマワルの「おにび」が襲いかかり、リクはジャンプして避けた。
「よそ見をする余裕があるのか?」
「目の前の敵を無視すると後悔することになるぞ?」
ゴースとヨマワルの妨害で、リクはフレイを助けに行く事が出来ない。しかも、ヤミラミはさっきのフレイに「かえんほううしゃ」を当てられたことで激怒した。
「おのれ小娘、よくもやってくれたな!」
「ひっ!」
相手の威圧に、フレイはさらに怯えた。ヤミラミはそんな彼女に容赦なく襲いかかった。
「この手で切り刻んでくれるわー!」
ものすごい形相でフレイに襲いかかった。フレイは恐怖のあまり動く事が出来ない。
「いやぁぁぁぁぁ!」
フレイの悲鳴が響き渡った。それに驚いて、木の上にいたポッポやムックルといった鳥ポケモンも驚いてとび立って行った。
「フレイ!」
妹の危機にリクは慌てたが、今、自分の目の前にはゴースとヨマワルが立ちふさがっている。リクは舌を巻いた。
「くっ、こうなったら・・・!」
すると、リクは背中から緑色の光を放ち、瞳が黒点のようになった目を緑色に光らせた。アークの兆候の「しんりょく」を発動させたのだ。
ゴース達はそれに驚いた。
「バカな、これは・・・!?」
「まさか・・・!」
フレイを襲おうとしていたヤミラミも、その手を止めた。
「何だ!?」
フレイもそっと目を開け、兄の方を見た。
「お兄ちゃん・・・?」
さらにリクは、背中の光に身を包んで、その光の中で人間型の天使の姿になり、緑色の羽を光らせて勢いよく出てきた。アークを発動させたのだ。
宙に舞う、天使の姿のリクは堂々と名乗り出る。
「アークエンジェル、ガイジェル!弱い者いじめをするヤツらは、俺が倒す!」
これが、リクがアークを発動させた姿だった。
フレイはアークを発動させた兄の輝かしい姿に興奮して目を輝かせていた。
「お兄ちゃん、かっこいい!」
一方のヤミラミ達は、リク<ガイジェル>のその姿を見て動揺していた。
「こ・・・これは・・・!?」
「間違いない、これは紛れも無い・・・!」
ゴースとヨマワルはおじげつくが、ヤミラミが2人を叱咤(しった)した。
「ひ、ひるむな!あんな物まやかしだ!やっちまえ!」
『は、はい!』
ゴース達は返事をして、一斉にリク<ガイジェル>に襲いかかった。しかし、リク<ガイジェル>は引き下がらなかった。
「パワーアップした俺を前に、あんた達は勝てるかな!?」
リク<ガイジェル>はそう言うと、腕を思いっきり横に振り、「はっぱカッター」を出現させ、攻撃した。それは見事ゴース達に当たり、彼らは後ろに木に激突した。
リク<ガイジェル>は彼らが起き上がるのを待ち、次の攻撃に出た。
「今度はこいつだ!」
そう言ってリク<ガイジェル>は腕を前に出して合わせ、「エナジーボール」を放った。それに対しゴースは「シャドーボール」を放ち打ち消す。しかし、その間にリク<ガイジェル>は他にも1つ「エナジーボール」を撃っていたため、それがゴース達に直撃した。その衝撃でゴース達は再び木に激突し、今度こそ気絶してしまった。
「よし、次は・・・。」
と、リク<ガイジェル>が振り返った先では、すでにヤミラミがフレイの目の前に迫り、「シャドークロー」で攻撃しようとしていた。
「お前の兄のあの変身のおかげで気を取られたが、今度は逃がさねぇぞ。」
「い・・・いや・・・。」
フレイは恐怖で怯え、固まってしまっていた。それを見たリク<ガイジェル>は、急いで妹を助けに行こうとする。
「フレイ!」
しかし、ヤミラミの「シャドークロー」は容赦なくフレイに降りかかった。
「これでしまいにしてやるぜ!」
その自分に振りかかろうとしている「シャドークロー」を見た時、フレイの恐怖は最高値に達した。
「いやぁぁぁぁぁ、助けてぇぇぇ・・・!」
その時、彼女に異変が起きた。
「ダメだ、間に合わない・・・!」
リク<ガイジェル>があきらめかけたその時、突如フレイはヤミラミの「シャドークロー」を受け止めた。
「な、何!?」
ヤミラミは驚愕するが、その眼前のフレイの目は赤く光り、目は黒点のようになっていた。
「!?」
その目を見た瞬間、ヤミラミは凍りついた。
(!あれは・・・!?)
それを見た瞬間、リク<ガイジェル>もハッとなったが、それと同時にフレイのお尻の炎が勢いよく燃え上がった。そしてフレイは、ヤミラミの「シャドークロー」の腕を勢いよく振り払った。
「ぐおっ!?一体これは!?まさか・・・!」
そう、これはアークの兆候の「もうか」だった。フレイはこの短期間で、母ゴウカザルですら、当時は最初の「もうか」発動から覚醒させるまでに至るのに何カ月も要したアークの兆候を、完全に目覚めさせたのだ。
リク<ガイジェル>はその姿に驚いていた。
「すごい・・・、母さんでも習得まで時間がかかったのに・・・!」
ヤミラミも、突然覚醒したフレイに恐れおののいていたが、
「ふん、そんな物、この俺には通用しないぜ!」
そして真っ先に「シャドークロー」で切りかかる。しかし、フレイも赤く光る目を向かってくるヤミラミに向け、「きあいパンチ」を炸裂させた。
「な、何!?突っ込んでくるだと!?」
ヤミラミは急いで避けようとするが間に合わず、フレイの「きあいパンチ」はヤミラミの顔面に直撃した。
「がっ・・・!」
ヤミラミはそのまま吹っ飛び、木々にぶつかった。その木は衝撃で倒れ、ヤミラミは特大のダメージを負った。
「な・・・なんてヤツだ・・・!やはりあいつも・・・!」
そんなヤミラミに、フレイはさらに攻撃をかける。倒れたヤミラミに「かえんほうしゃ」を浴びせ、その周りの木も燃え上がった。ヤミラミは悲鳴とともに炎から出て来て、「あくのはどう」でその火を消した。
「はぁ・・・はぁ・・・!ありえん!こんな小娘にこんな力が・・・!?」
しかし、フレイのヤミラミへの攻撃の手は止まない。リク<ガイジェル>もフレイの異変に気付いた。
「フレイ?」
ふらつくヤミラミに、フレイはまっすぐ「きあいパンチ」を喰らわせようとする。
「フレイ、もういい!やめろ!」
リク<ガイジェル>が止めるが、フレイはそれでも止まらなかった。そのままヤミラミに「きあいパンチ」を当て、さらに奥へと飛ばしたのだ。ヤミラミは倒れてしまったが、フレイの勢いは止まらなかった。
「フレイ、もういい!終わったぞ!」
勝利を確認したリク<ガイジェル>がフレイに呼び掛ける。しかし、フレイは「もうか」を発動させたまま雄たけびを上げる。
「あたしの・・・、あたしの敵はどこだあああぁぁぁぁぁ!!」
「フレイ・・・?」
ここで、ようやくリク<ガイジェル>はフレイが正気でないことに気づいた。
(まさか、これって・・・!)
そう、フレイは自らのすさまじい「もうか」によって、暴走してしまっていたのだ。当時、母ゴウカザルがまだヒコザルだった頃、アークの兆候の「もうか」を発動させた際、そのあまりに強い力によって暴走した事があった。しかも、それはゴウカザルに進化するまで度々起こっていた。
リクは初めて「しんりょく」を発動させた際、自らの意識をしっかり保つことで、発動後も正気を保つ事ができるようになったが、おそらくフレイも母親同様、ヒコザル時だと暴走してしまうのだろう。
事実、今のフレイの姿は正気とは見てとれなかった。
「くそっ、面倒なことになった!」
妹を止めるため、リク<ガイジェル>はフレイの前に出た。
「目を覚ませフレイ!」
フレイはそのリク<ガイジェル>を聞き、彼の姿に目を向ける。
「お前も敵か!?」
しかし、リク<ガイジェル>はフレイの目の前でアークを解除した。
「フレイ!俺だ!お兄ちゃんだよ!!」
「!!」
フレイは、アークを解いた兄の姿を見て、除々に兄の姿を思い出していく。
「お・・・兄・・・ちゃん・・・?」
リクは、動きを止めたフレイにそっと歩み寄った。
「そうだよ、俺はお前のお兄ちゃんだよ。お前はよくやったよ。ついにアークの兆候を目覚めさせたんだから!」
「アー・・・ク・・・?」
次第に意識を取り戻して行くフレイに、リクは告げた。
「でもその力に呑まれちゃ駄目だ!それだとお前は本当のモンスターになってしまう!だから、その力を完全に自分の物にして、今度は本当にアークを覚醒させよう!兄ちゃんと一緒に!」
「・・・お・・・兄、ちゃん。」
そして、ついにフレイは正気を取り戻した。
「・・・お兄ちゃん!!」
ようやく兄の姿を理解したフレイは、目の前にいる兄を強く抱きしめた。まだ「もうか」を発動していたが、彼女の意識は完全に戻っていた。
「いいぞフレイ、これから2人でパワーストーンを見つけよう!そして父さんを助けるんだ!」
「うん!」
フレイは頷いた。すると、彼女の「もうか」はようやく解け、フレイの目も元に戻った。
「だけど、ちょっとここらは野宿するのには危なさそうだな。」
リクは辺りを見渡して言った。周りはすっかり暗くなっていた。
「うん、怖い。」
その時、フレイは自分達が進んでいた方向にある光りに気付いた。そしてその光の中にある「P」の文字を見た時、フレイは目を輝かせた。
「見てお兄ちゃん!ポケモンセンターがある!」
「あっ、本当だ!さすがフレイ!」
「えへへへへへ!」
フレイは嬉しそうな顔で笑った。
「よし、今日はあそこに泊まろう、行くぞフレイ!」
「うん!じゃあその前に・・・。」
「そうだな!」
2人はポケットから赤と緑の石を取り出し、人間の姿に変身してポケモンセンターへと向かった。
この時フレイ達は気付かなかった。自分達が倒したヤミラミ達が腰につけていたポーチには、「R」のマークが付いていたことに・・・。

フレイとリクがポケモンセンターへと入って行くと、ジョーイとラッキーが出迎えた。
「あら、こんな夜遅くにいらっしゃい。」
『こんばんは。』
2人も挨拶をした。ジョーイは少し心配そうに言った。
「2人とも、大丈夫だった?」
「え?」
「何がですか?」
フレイ達は不思議そうに尋ねた。ジョーイが答えた。
「ここ最近、ロケット団と思われる集団による襲撃事件が増加しているの。」
「えぇ!?」
その情報に、フレイは驚いた。リクも顎に手をやって思い出した。
「そう言えば、あのポッチャマもそんな事言ってたな。」
「え?」
リクの発言にジョーイは不思議そうな顔をすると、リクは「何でもありません!」と答えた。
「そう。」
ジョーイは答えると続けた。
「数日前、アケビタウンの私の親戚とも連絡が取れなくて、それだけじゃなく集団に制圧された地域とはことごとく連絡が取れなくなっているのよ。」
その話を聞き、フレイも唾を飲んだ。リクも軽快意識を高めた。
「わかりました。気を付けた方が言いですね。」
「えぇ、うちのポケモンセンターも気を付けないと。」
ジョーイは深刻そうに答え、それを見つめながらラッキーも不安そうな顔で頷いた。
部屋に入ると、フレイは自分の不安をリクに言った。
「あたし、これから危険な人達と出くわすと思うと怖い。」
そんな彼女を、リクはそっと慰(なぐさ)めた。
「安心しろ、怖いのは俺も同じだ。2人で力を合わせれば、どんな敵だって怖くないぜ!」
その力強い兄の言葉に、フレイも元気を取り戻した。
「そうね、あたし達も頑張らなきゃ!」
フレイも元気いっぱいに答えた。

同じ頃、ネスの元に、フレイ達に倒されたヤミラミ達からの情報が届いた。
「何、アークを持つナエトルとヒコザル?」
食事中のネスは、情報を届けたレイアに尋ねた。
「はい、その情報をもたらした12小隊はみな倒されておりました。特にヤミラミはかなりの重傷で、現在治療中です。」
「ふむ・・・。」
ネスはしばらく黙って食事を続けたが、その直後に口に運んだステーキ肉がなくなると、不敵な笑みを浮かべた。
「よし、そのナエトルとヒコザルを捜索し、発見次第消し去るのだ!」
「よろしいのですか?」
レイアが反論した。
「得られた情報の1つには、ナエトルの方のアークの姿は純粋種だったそうです。もしかすれば、どちらも純粋種かもしれません。これらを利用しない手は・・・。」
「どうせあいつらはロケット団に従うつもりなんてないだろう。」
ネスはすぐに答えを出した。
「我が部隊の者を倒したという事は、ロケット団に従うつもりが無いということになる。生かしておいても後の憂(うれ)いになるだけだ。災厄の根は、早めにつむがんといかんからな。」
「おっしゃるとおりです。」
レイアもおじぎをして答えた。ネスはほくそ笑む。
「もし、ヤツらがアークの勇者の子孫なら、即刻討伐しなければならないからな。」

翌日、フレイとリクは森を抜けて、1本の道路が伸びる田園地帯に出た。その広大な景色に、フレイは目を輝かせた。
「うわぁー、とっても広ーい!」
その隣で、リクはオーキド研究所から借りた「パワーレーダー」という、パワーストーンの場所を知らせるレーダーを見ていた。
「おっ、パワーストーンのあるテンガン山はここからしばらく行って抜けた辺りにあるぞ!」
「本当!?」
フレイは目を輝かせた。
「じゃあ、ここからしばらく行ったら、テンガン山見える?」
「多分な。」
リクも笑顔で言った。
「じゃあ、しばらくこの道路、歩いていこうぜ。ここからなら絶対近いだろうし。」
「うん!」
フレイも返事をした。
2人はしばらくその道路を歩いて行ったが、やはりその道は果てしなく、何百キロメートル離れた地点で、とうとうヘトヘトになり、その場に座り込んでしまった。
「はぁ、はぁ・・・。もうダメ・・・、歩けない・・・。」
「やっぱりさぁ、ここめっちゃくちゃ広いよな・・・。」
すっかりくたびれた2人の前に、1台のトラックが止まった。トラックの運転手が、2人の側のドアを開けて声をかけた。
「よぉお前ら、2体で旅か?」
「!」
フレイ達もトラックの運転手の方を向いた。
『は、はい!(ポケモン語)』
頷いて返事をする2人を見て、トラックの運転手は、
「そうか、そうか。よし、乗ってけ。片道までなら乗せてってやれるぜ。降りたい場所に来たら教えてくれ。」
『はい!(ポケモン語)』
思いもよらない幸運に、2人は笑顔になってトラックの助手席に乗った。2人が乗り込んだ助手席側のドアが閉まると、トラックは出発した。
フレイもリクも、しばらくはトラックの窓の外に広がる田園の景色を見ていた。たくさんのポケモン達が野を駆けまわり、寝ころび、日向ぼっこをしている。それは、2人が見た中で最も素晴らしい光景だった。
「お兄ちゃん、こんな素晴らしい景色見たのあたし始めて!」
「おいらもだ!オーキド邸じゃあまり見られない光景だもんな!」
楽しそうに会話する2人だったが、トラックの運転手は不気味にニヤリと笑った。
しばらく行くと、運転手はレーダーを見ている2人に呼び掛けた。
「なぁお前ら、ここからはさらに長くなりそうだ。今のうちにトイレ済ませた方がいいぞ。」
運転手に言われ、2人は注目した。
「え?」
「そうだな。まだテンガン山の近くじゃないし、そうした方がいいかもな。」
リクに言われ、フレイも「うん」と頷き、運転手も2体が納得したと感じた。
「よし、じゃあ早く済ませろよ。」
そう言って運転手はトラックを止め、フレイ達は赤と緑の石と、レーダーを持って降りた。そしてリクから先にトイレを済ませようとした。
しかし、その間に運転手は、2人のリュックの中の荷物を抜き取っていた。それに気づかない2人はまだ外にいた。リュックの中の物を抜き取ると運転手は2人に、
「忘れもんだぜ。」
空になった2人のリュックをトラックから投げ捨てた。振り返った2人は驚愕した。
「あー、あたし達の荷物!」
「こらー泥棒ー、返せー!」
リクが抗議するが、運転手は構わずドアを閉め、「あーばよー!」と笑いながら去って行った。
トラックが過ぎ去ると、フレイは泣きだした。
「わーん!あたしの荷物ほとんど取られたー!」
泣き叫ぶ妹を抱きかかえ、リクは慰めた。
「仕方ないさ、助けてくれた人が悪かったんだ。人間はあんなヤツみたいなのだけじゃないしさ。」
「うん、そうね。オーキド博士やケンジのように優しい人間もたくさんいるし・・・。」
グスングスンとぐずりながら、フレイは答えた。
「よし、ここからはまた歩いて行こう。大丈夫、また新しくフーズも買えるって。」
「わかった。あたし頑張って歩く。」
そして2人は再び歩き出した。フレイは泣きやんだが、その足取りはどこか重かった。
やがて2人は、道路の脇にあるショッピングセンターを見つけた。広い駐車場にはたくさんの車が並び、たくさんの人やポケモンでにぎわっていた。
「やったぞフレイ!ここなら食べ物が手に入るぞ!」
「やったー!あたしジュースが飲みたい!」
「よし、じゃあ人目につかないところで人間に変身して買いに行こうぜ!」
フレイ達は猛ダッシュでショッピングセンターまで駆けて行った。
しかし、入り口前にヤンキー座りしていたバルギー達はフレイ達に気づき、2人を呼び止めた。
「おい、そこの坊主とお嬢ちゃん!」
「え?」
フレイ達はバルギー達に近寄った。バルギーは言った。
「2人でどこかお出かけか?」
「うん、ちょっとテンガン山まで。」
フレイが答えると、バルギーは笑って、
「ほーう、そうか、そうか。君達あんな所まで謙虚なもんだ。」
「まぁな。」
リクが答えると、バルギーは2人に顔を近づけた。
「ならよ、俺達も一緒に行ってやんよ。」
バルギーから出た言葉に、フレイ達は喜んだ。
「え、本当に!?」
「やったー!これで旅が楽になった!」
すると、バルギーのツレのエビワラーとサワムラーが近付き、2人に顔を近づけ、
「そのかわり!」
「俺達の仲間になれ!」
『え!?』
2人はまさかの展開に固まってしまった。バルギーは続けた。
「文句ねぇだろ?嫌だってんならこの場で血祭りにするぞ!」
そう言って、バルギー達はフレイ達の前に迫った。
「お兄ちゃん・・・。」
フレイは不安そうに兄の体にしがみついた。リクは妹を励ました。
「大丈夫だ、兄ちゃんが守ってやるからな。」
しかし、バルギー達はさらに迫って来た。
「さぁ、どうする?仲間になるか、ならないのか?」
「・・・・・・。」
リクは意気込んで、力強く答えた。
「返事はNOだ!お前らみたいなヤバい連中なんか、信用できるか!」
「そうかい、そうかい!」
ついにバルギー達は臨戦態勢になった。
「じゃあ、この場で刑執行だな!!」
そして一斉にフレイ達に「きあいパンチ」に「メガトンパンチ」、「メガトンキック」の雨を浴びせようとした。
その時、突然バルギー達の後ろから「つつく」で何者かがすれ違った。バルギー達は「ぐわっ」と叫び倒れた。そしてフレイ達の前に、1体のポッタイシが現れた。
「危なかったな、お前ら!」
後ろ向きでフレイ達の方を見ながら、そのポッチャマは笑って言った。フレイとリクには、そのポッチャマに見覚えがあった。
「あなたは!」
「カイリか!?」
「おう!」
何とそのポッチャマは、2人がフタバタウンの港で会ったカイリだった。すると、バルギー達が起き上がり、カイリに怒りの矛先を向けた。
「てめぇ小娘!よくもやりやがったな!」
バルギー達が睨みつけるが、カイリは動じなかった。
「ハン、てめぇらがガキをからかうからだよ、ヤンキー共!」
「ヤ、ヤンキ~!?」
カイリの言葉が、バルギー達をさらに激怒させることとなった。
「小娘、てめぇから血祭りにあげてやる!!」
「おう、てめぇらやっちまえ!!」
バルギー達は一斉にカイリに向かっていく。しかしカイリは逃げるどころか、怯える様子も無い。
「カイリ!」
フレイが叫ぶ。と同時にバルギー達がカイリに攻撃を当てる位置にまで達した。するとカイリは、直撃スレスレで「うずしお」を出現させ、バルギー達を呑みこんだ。
「うずしお!?」
「あんなタイミングでか!?」
そしてそのままその「うずしお」を、カイリは店の看板に叩きつけた。そこから出てきたバルギー達はすっかりのびきり、そのまま店の入り口に落ちた。
「今のうちだぜ!」
と、カイリは上に食べ物や生活用品等が入った紙袋を乗せているカートを持ち出し、2人に近付いた。
「乗れ、早く!」
「え?う、うん!」
「くっそぉ、もうやけくそだ!」
フレイ達はカートに乗り、そのままカートは店を後にした。バルギー達はまだ気を失ったままだった。
「何とか振り切れたみたいだな。」
カートを動かしながらカイリは言った。フレイはカイリに行った。
「それにしても、あのバルギーが「小娘」って言ってたってことは、カイリって女の子だったのね。」
「失礼だな、男に見えるか?」
カイリがムッとして言った。しかしリクは不安そうだった。
「しっかし、店のカートならまだしも、買い物の荷物まで持ってきてよかったのか?」
「それなら心配ねぇよ!」
と、カイリが笑って答えた。
「これ全部、俺が買った物だから。」
「へぇー、いろいろあるんだな。」
「まぁな。この先何があるかわからないからな。」
「え?」
リクがカイリの言葉に振り返ると、彼女は笑って答えた。
「俺もお前らについて行くぜ。」
「え!?」
リクは驚き、フレイは喜んだ。
「一緒に来てくれるの!?」
「あぁ!」
カイリは笑顔で答えた。
「どうせ俺はいつも暇だし、生活も退屈だしよ。それに、お前らがテンガン山にいくなら、ここの地理に詳しい俺がついて行った方がいいと思ってな。」
「なるほどな。」
リクは納得するかのように頷いた。
「まぁ、何にせよ今は1人でも助けてくれる仲間は必要だ!よろしくな、カイリ!」
「あたしからもよろしく!」
フレイもリクに続いて挨拶した。カイリもそれに笑顔で答えた。
「おう!」
そして3体を乗せたカートは、そのままテンガン山に入るまでの道を通って行った。

その頃オーキド邸では、ゴウカザルがドダイトスの看病を続けていた。ドダイトスの容体は落ち着いていたが、その表情はどこかさえなかった。そんな彼に対しても、ゴウカザルは笑顔を絶やさなかった。
「どう、ドダイトス?今日も輝かしい晴れ間よ。」
「あぁ、そうだな・・・。」
ドダイトスは静かに答えた。ゴウカザルは、シンオウ地方にいる子供達の事を考えていた。
「フレイとリク、今頃はコトブキタウンへの森を抜けた頃かしら?」
ドダイトスも、彼女と同じ空を向いて、
「あいつらなら大丈夫さ、なんたっておいら達の子供だもんな。」
「そうね、今は信じて待ちましょう。」
ゴウカザルも穏やかな表情で答えた。
その時、彼女達の後ろから聞き慣れた声がした。
「相変わらず、気の合う夫婦ね。」
「え?」
2人がその声に振り返った。するとそこには、2体のポッタイシとエンペルトがいた。エンペルトの方がニコッと笑い、
「久しぶりね、お2人さん!」
その陽気な応え方に、ゴウカザルもドダイトスも目を輝かせた。
「アンナ、マックス!」
「ひさしぶりだな。」
ゴウカザル達の目の前に現れた2体のポケモン、それはかつて彼女達と共に戦った仲間、エンペルトのアンナとポッタイシのマックスだった。戦いの後、アンナはシンオウ地方の治安維持部隊プリベント・アーミーの特務兵マックスとともにシンオウへ渡り、現在はマックスと結婚し、プリベント・アーミーの海軍師団の部隊長として活躍している。
アンナはドダイトスの近くに歩み寄り、彼の体をなでた。
「あのドダイトスが病気にかかったって聞いて来てみれば、この通りぐったりしちゃってるってわけね。」
「面目ない・・・。」
ドダイトスは済まなさそうだった。すると彼の目の前にゴウカザルが顔をのぞかせ、
「もう、そんな顔しないの!笑顔、笑顔!」
と、自分も笑顔になってエールを送った。
「そうだな、すまねぇ。」
ドダイトスも笑って謝るが、
「ほぉら!すまねぇも言わない、言わない!あんたは何も悪くないんだから!」
と妻の陽気な声が届いた。
「あぁ、すまねぇ。」
「ほら、また言った!」
こんな楽しそうな会話を聞いていると、アンナとマックスも思わず笑みをこぼした。
「そう言や、俺達もあれくらいいい感じだよな、今も。」
「えぇ。」
マックスに笑顔を向けてアンナも答えるが、すぐにその表情を曇らせてしまった。
「でも、今こっちはそれどころじゃないのよね・・・。」
『え?』
ゴウカザルとドダイトスが振り返った。アンナは説明した。
「今シンオウ地方は、ロケット団と思われる謎の集団に襲われて、私達プリベント・アーミーも対応に追われてるの。でも、すでに小規模の村や町などが制圧されてしまったのよ。」
「そんな!」
それを聞いてゴウカザル達も慌てた。
「それじゃあ、こんな所でのんびりしてる暇なんてないんじゃないのか?」
「それは大丈夫だ。」
と、そこへ、そう話すブイゼルとムクホークが、4体分のフーズを持ってやって来た。
「現在、アンナの部隊は副隊長のニョロトノが統率を取ってくれているらしい。」
「え?そうなの。」
ゴウカザルは少し落ち着いた。
「あぁ、それでアンナもマックスも、こうしてドダイトスの見舞いに来れたわけだ。」
今度はムクホークが答え、彼女とドダイトスにフーズを渡した。
「はい、これお前達の分な。」
「おー、サンキュー。」
ドダイトスはお礼を言い、アンナ達に尋ねた。
「それで、今後の対策とかは考えているのか?」
「それがさっぱり。」
アンナは腕をくいっとして答えた。
「全然敵の本拠地がわからなくって、さすがのデューク大佐も手を焼いてね、今くまなく調査してるけど一向に見つからなくって。」
「それは大変だよな。」
ムクホークもそう言い、ため息をついた。
「俺の特務兵の同僚も全力を尽くしてるけど手こずってる。しかも大半は襲われて重傷を負ってるよ。」
「え、エリートばかりの部隊の特務兵が!?」
ゴウカザルは驚愕のあまり立ち上がった。そんな彼女に対し、マックスは静かに頷いた。
彼の隣でアンナは苛立ち交じりでボヤいていた。
「カイリったら、こんな大変だって時に抜け出しちゃうんだもん!帰ってきたらおしおきね!」
「カイリ?」
アンナが発したその名前に、ゴウカザルはもちろん、ブイゼルとムクホークも首をかしげた。
「何だそりゃ?」
ドダイトスが答えると、マックスが答えた。
「カイリは俺とアンナの娘だ。」
その衝撃的な言葉に、一同はビックリした。
『えぇ~!?』
「何ですとー!?」
ゴウカザルはあまりの驚きにアンナの前に詰め寄った。アンナは照れくさそうに、
「実は、ちょうど4カ月前に私が生んだタマゴからかえって・・・。とりあえずは家事、炊事を教えたわ。」
「それでその子はどんな性格なんだ?」
興味深そうにムクホークが聞いた。すると、
「それが・・・。」
突然アンナが横を向いて指をツンツンし出した。と、彼女の代わりにマックスが答えた。
「かなりボーイッシュで、しゃべり方も当然男そのもので・・・。母親以上にテンションが高くてな、俺もアンナも手を焼いてるんだ・・・。」
そう答えるマックスの顔は汗でびっしょりだった。ドダイトスも呆れていた。
「そりゃあ、かなりのおてんばなこって・・・。」
「何でボーイッシュなの?」
ゴウカザルが尋ねたがアンナは、
「知らないわよっ!」
と言ってそっぽを向きむくれてしまった(笑)。
すると、さらに聞き慣れた声が聞こえた。
「それよりも事態はより深刻になっている。」
「!?」
「その声は!?」
ゴウカザル達が声の方を振り向いた。
そこには、羽の青色の部分と、腹の飾りが灰色になっていて、マントを付けたエンペルトが立っていた。それは、かつてロケット団に入り、この世界の「ポケモンは誰とでも仲良くしなくてはならない」、「トレーナーは主にポケモンと力を合わせるべき」などといった、人間とポケモンを「縛って」いる「定義」、もとい「本当に正しい事」を破壊し、自由が支配する世界を作ろうとしたアンナの父親、シュナイダーであった。
『シュナイダー!』
ゴウカザル達がその名を叫ぶと、アンナとマックスも、
「お父さん!」「お義父さん!」
と、続くように声をそろえて言った。
「久しぶりだな、お前達。」
静かな口調でシュナイダーが挨拶した。
「でも、何でこんな所に?」
ゴウカザルが尋ねた。するとシュナイダーは答えた。
「少し、お前達に話しておかなければならない事があってな。」
「え?」
ゴウカザルは彼の言葉に注目した。
シュナイダーはアンナの隣に座り、話し始めた。
「実は、今シンオウを襲撃している部隊は、ロケット団のエリート部隊「黒の騎兵団」なんだ。」
「えぇ!?」
ゴウカザルは驚き、シュナイダーの隣のアンナが尋ねた。
「じゃ、じゃあ、やっぱりシンオウを襲っている一団は・・・!?」
「あぁ、正真正銘の、現役のロケット団だ。」
「やはり・・・。」
マックスも顎に手を当てて頷いた。シュナイダーはさらに続けた。
「さらに最悪な事に、その部隊の隊長もアークを持っている。」
「アークを!?」
ゴウカザルの言葉に、シュナイダーは「あぁ」と頷き、
「と言っても、人工的に生み出されたアークだがな。」
「人工的に?ロケット団にもいつの間にそんな技術が。」
ドダイトスは半分感心して言うが、シュナイダーの表情は深刻だった。彼は説明した。
「その技術は、私がパワーストーン奪取を計画する以前に存在した・・・。」

ちょうど、幼いころの私と同じ年齢のポケモンを使い、提案者で主任でもある私の管轄下で実験は開始された。しかし、アーク自体が未知のエネルギーであったため、それを技術で再現しようという計画は困難を極めた。どうにか被験体をアーク発動可能にまで調整する所まで持って行く事は出来たが、アークの兆候を発動させた瞬間、被験体は暴走してしまった。
その場にいたウォルトが止めに入ったが、放った一撃で被験体は即死。これにより実験の中止が言い渡された。
さらにこの時の試験結果により、アークの強力なパワーにより我を忘れて暴走したポケモンに攻撃した場合、そのポケモンが危険な状態になるという事も実証されている。極めて皮肉な結果を残してしまったのだ。
話は変わるが、ウォルトはこの時、被験体を死に至らしめた事を悔み、アークの兆候段階の者を攻撃しないと心に誓ったのだ。

(ウォルト、だからもうか段階のあたしやドダイトス達を攻撃しなかったのね・・・。)
シュナイダーの話を聞き、ゴウカザルは納得した。するとシュナイダーは立ち上がり、
「しかしそれから月日が経った頃、黒の騎兵団の隊長が、極秘裏にその技術の実験を再開し、自ら人工アークの生成に成功したのだ。そして現在、ヤツはシンオウ地方に向かっている。」
「シンオウへ!?」
「あぁ。連中の目的はシンオウ地方の征服。さらに部隊のほとんどが幾多もの戦いを経験した実力者ばかりだ。」
「それで、その黒の騎兵団の隊長は?」
アンナが尋ね、シュナイダーは一瞬下を向いて目をつぶり、すぐに目を開けて顔を起こして答えた。
「ネスだ。様々な戦場で敵を1人残らず蹂躙(じゅうりん)してきた強豪、ネス。」
「ネス・・・。」
ムクホークは息を飲んだ。その時、ゴウカザルはハッとなった。
「!た、大変!!」
「どうした?」
シュナイダーが尋ねる。ゴウカザルが説明した。
「あたしとドダイトスの子供が!」
「何!?」

その夜、道路沿いを抜け、テンガン山へ入る森に入ったフレイ、リク、カイリの3体は、焚火を囲んで食事をしていた。皿に盛られたフーズの他に、カイリがホットドックを作っていた。
「全く、そんな親切そうなトラックにつられるなよ。あそこら辺のドライバー連中は、大抵信じられるもんじゃねぇんだぞ。」
ホットドックを作りながら、2人の話を聞いたカイリが言った。
「だってそんな事知らなかったしよ。」
リクがぼやき、フレイも頷いた。
「まぁ無理もねぇや、お前らシンオウ始めてだしよ。」
そう言いながら、カイリは作ったホットドックを紙の皿に乗せた。
「さぁ、取ってってくれ。」
「やったー!」
早速フレイはホットドックを取っていった。
「はははは、フレイは気が早いな。」
そう言いつつ、リクもホットドックに手を伸ばしていた。
「お前もだろ!」
カイリの軽いツッコミが返って来る。
「あはは、どうも!」
陽気に答え、リクもフレイと一緒にホットドックをほおばった。
フレイはふと聞こうと思い、ホットドックをフーズの皿に乗せて聞いた。
「なぁ、最初に会った時から聞こうと思ったけど、お前らテンガン山なんか行ってどうするつもりなんだ?」
その問いに、フレイはリクの顔を見て、リクが頷いて答えた。
「お前、パワーストーンっていう石の事、知ってるか?」
「いや、知らないぞ。」
カイリは、母アンナにパワーストーンの事は何も聞かされてないようだ。フレイが続いた。
「あたし達、そのパワーストーンの力でドダイトスお父さんを助けたいの。」
「え、そんな事出来んのかよ?」
カイリは不思議そうに行った。フレイは説明した。
「パワーストーンはね、どんな事でも可能にする不思議な力がある石なの。死者を生き返らせたりとか、荒れ地を緑豊かな森にしたりとか、そんな事も出来るの。」
「ふーん、なんかよくわかんねぇけど、そりゃとってもすごいお宝なんだろうな。」
カイリは心の中で、それを売ってお金にする計画を考えたが、リクが言った。
「あ、でも父さんも母さんも、あれはこの世の安定を乱すほどの物だから、無闇に外に持ち出しちゃいけないって言ってた。」
「ちっ。」
せっかくの一攫千金のチャンスを逃したと思い、カイリは舌打ちをした。
ふとリクは、自分達が歩いてきた方の向こうにテンガン山が見えるのを確認した。
「おいアレ、もしかしてテンガン山じゃないのか!?」
「え?」「へ?」
2人はリクの見ている方向を見た。そこには、うっすらとだが、大きな山があった。それを見た瞬間、カイリは目を輝かせた。
「あー!あれ間違いなくテンガン山だぜ!やったぞ、ついにここまで来たんだ!」
「本当!やったー、ついに来たよ、お兄ちゃん!」
フレイもリクに飛び付き、とても喜んだ。だが、それでもリクの考えは慎重だった。
「あぁ、だがまだ本当に着いたわけじゃないぞ。テンガン山の中に入ってパワーストーンを手に入れないと、目的は達成しないぞ。」
「うん、そうね。頑張ろう、お兄ちゃん、カイリ!」
フレイが言うと、リクとカイリも、
『おう!』
と元気よく返した。
しかし、その彼女達の様子を「R」のマークがついたジャケットを着た1体のヤミカラスが見ていた。やがてヤミカラスはフレイ達の位置を知らせるべく、主の元へと帰って行った。

しばらくして、そのヤミラミは黒の騎兵団の本拠地、テンガン山近くの岩山の内部へと戻ってきた。ヤミカラスはすぐさま主である隊長ネスの近くへと降り立った。
「ご苦労、それであのヒコザル達は見つかったか。」
「はっ!」
ヤミカラスは身をかがめて答えた。
「ヤツらはテンガン山の付近まで差しかかっております!」
「ほう。」
「それだけでなく、ヤツらの仲間にポッチャマが1体加わっておりました。」
「ポッチャマが?」
ネスは首をかしげるが、気にすることではないと見て、
「まぁそれはいいだろう。ヤミカラス、ご苦労だった。今日はもう下がっていい。」
「はっ!」
ヤミカラスは返事をし、ネスの元を後にした。それと入れ違いでレイアが入って来た。
「ネス様、あのヒコザル達の位置情報が入ったという事はいよいよ・・・。」
「あぁ、始まる。」
ネスはワイングラスを手に取って言った。
「我が部隊の大半の戦力をもってしてでも、あのアークのヒコザル共を倒し、厄介の種を早々につぎ取る。その後はシンオウ征服のための更なる作戦の実行だ。」
「ふふふ・・・、私も協力します。ネス様の栄光のために。」
「すまないな、レイア。こんな俺だが付き合ってくれ。」
「はい。」
レイアはおじぎをした。ネスは手にしたワイングラスの中の赤ワインを眺めながら呟いた。
「もしかすれば、俺も久々にアークを使う事になるかもな・・・。」

翌日、フレイ達はテンガン山目指して出発した。
しばらくはのどかな森が続いたが、やがて切り立った谷に差し掛かった。
「テンガン山に早く行くには、この谷を越えなきゃいけねぇんだけど・・・。」
「ちょっと難しそう・・・。」
フレイとカイリは困り果ててしまった。リクは何か良い手は無いかと辺りを見渡した。すると、1本の丸太が目に入った。ちょうど、この谷を越えるために必要な大きさだった。
「おい、あそこにちょうどいい丸太があるぜ。あれを使って行こうぜ。」
「わぁ、それ名案!さっすがお兄ちゃん!」
フレイはリクを褒め、リクも思わず照れくさそうな顔で笑った。するとここでカイリが、
「そうそう、俺もそれ考えてたんだぜ!」
などと調子のいい事を言うが、
「お前も困り果ててただろ。」
と、リクが静かにツッコミを入れた。カイリは今のリクの言葉に「うっ!?」となるが、
「と、とにかくこの丸太かけようぜ!」
と、上手い事話をまとめた。
「なんかはぐらかされた気がしたけど、まぁいいや。行くぞ、2人とも!」
「うん!」
「おう!」
フレイとカイリは返事をして、3体は力を合わせ、丸太を谷の向こう側へとかけた。
「よし、OKだ!」
「これで向こう側に渡れるぜ!」
「うん!」
そして3体は丸太を渡って、谷の向こう側へと到着した。
「よし、先を急ごう!」
そうしてしばらく行くと、今度は流れの速い川に差し掛かった。その川の周りには、ぷっかりと出ている石の先端も、橋も無かった。3体はまた足を止めた。
「参ったなぁ、橋が無いと進めないぞ。」
「橋で渡ろうとすれば、ここからだとかなりかかるぞ。」
「うーん、どこかにまた丸太でもあればなぁ・・・。」
その時、フレイはある物を見つけた。それは、木の枝に垂れ下がった1本のツルだった。
「見て!ツルがある!あれで渡れないかしら?」
リクとカイリもそれに目をやった。
「おぉ、あれか!でかしたぞ、フレイ!」
「じゃあ早速あれを使って向こう岸まで渡るか!」
ツルが垂れ下がっている所まで来ると、リクはツルの質を調べた。やみくもにとび越えようとすれば、ツルが切れる心配があったからだ。
「よし、このツルは切れる心配は無いし、大丈夫だ!」
リクがそう言うと、3体はツルで川をとび越え、向こう岸に着いた。帰りのために、とび越えた先の木のツルも1本垂らしておいた。
「これで帰りも大丈夫だ!」
そして3体は、さらに奥へと歩いて行った。その後ろを、夕べ自分達を静かに監視していたヤミカラスが付けて来ているとも知らずに。
長らく歩く事3時間、ようやくテンガン山までたどり着いた。
「着いたー!」
フレイが元気よく叫んだ。
「ようやくテンガン山よ、お兄ちゃん、カイリ!」
「あぁ、長かったな、ここまで。」
リクも自分達の努力を実感して言うが、
「まる2日だけどな。」
と、カイリが軽くツッコんだ。リクはガクッとなって言い返した。
「い、いいんだよ。俺達にとっちゃここまで長かったんだし。」
「ふーん。ま、違いねぇな。」
頭の後ろに手をやって、カイリが言った。
「じゃ、早速パワーストーン探し、行くか!」
「おう!」
「うん!」
2人がカイリの言葉に返事をした。その時だった。突然3体の真横から「あくのはどう」が飛んできて、彼女達をかすめた。そしてそのままそれはテンガン山の表面に直撃した。
「・・・・・・!」
突然の事態に固まるフレイ。リクも警戒した。
「誰だ!」
すると、数十体のポケモンが、中央のゲンガーを中心として、テンガン山と挟む形で彼女達を包囲するようにして展開した。それも、ほとんどがあくタイプにゴーストタイプだった。さらに上空にも数体が展開している。完全に逃げ道をふさがれた。
すると、フレイ達を追尾していたヤミカラスが、そのゲンガーの腕に止まった。
「何もんだ、お前ら!」
自分の後ろで怯える妹を護りながら、リクが聞いた。すると、中央のゲンガーが懐から「R」のバッヂを取り出して答えた。
「我らはロケット団エリート部隊、黒の騎兵団。そしてこの俺は隊長のネスだ!」
「ロケット団!?」
カイリはネスの発したその言葉にハッとなった。
「やっぱりお前らロケット団か!?」
「ほう、俺達を知っているとは、かなり見ごたえのあるお嬢ちゃんじゃないか。」
ネスはカイリに注目した。カイリは鋭い目つきで睨むが、ネスは笑みを浮かべた。
「その気の強さ、嫌いじゃないぜ。」
しかし、それで気の変わるネスではなかった。
「だが、お前達は今後、俺達の作戦における脅威になりかねん。今ここで排除させてもらう!」
ネスが言い終わると、彼の隣にいたレイアが部隊に号令をかけた。
「総員、一斉攻撃!」
と同時に、フレイ達を包囲しているポケモン達が一斉に「シャドーボール」や「あくのはどう」等の技を展開し、彼女達を攻撃しようとしていた。しかし八方ふさがりに遭っているため、3体に逃げ場は無かった。そうこうしているうちに、周囲のポケモン達の技が放たれようとしていた。
「くっ、こうなりゃこいつだ!」
と、リクは2人の前に出て、アークの兆候の「しんりょく」を発動させ、そこからアークを発動しようとする。
「お兄ちゃん・・・。」
フレイは兄の勇姿に感動するが、カイリも前に出た。
「俺だってやってやるぜ!」
「え?」
すると、カイリも「げきりゅう」を発動させ、背中から勢いの良い水しぶきを噴き出し、目を青く光らせた。それはまるで、アークの兆候のようだった。
「何!?」
アークが発動する前のリクも、その光景に驚いた。それはネス達も同じだった。
「ネス様、これは・・・!?」
レイアが尋ねると、ネスは全く予想外という顔をした。
「バカな、こんな事が・・・!?」
しかし、それでも黒の騎兵団は攻撃を止めようとはしなかった。そうこうしている間に、アークを発動させたリクに続くかのように、カイリはそのまま背中の水しぶきで全身を包み、その中で人間のような姿に変身していく。
「こ、これって・・・!?」
フレイも思わず息を飲んだ。
しかし次の瞬間、周囲のポケモン達の技がフレイ達めがけて発射され、その周囲に煙が思いっきり上がった。その煙が止んだ後、身をかがめていたフレイが顔を起こすと、そこにはアークを発動させた兄リク<ガイジェル>の姿があった。
しかもそれだけでは無かった。なんと、リク<ガイジェル>の隣に並んでいたカイリも人間型の天使のような姿になり、青い羽を広げて宙に浮いていた。その姿には、フレイとリクだけでなく、ネスも圧巻されていた。
「お兄ちゃん、これって・・・。」
フレイは呆然としながらリク<ガイジェル>に尋ねた。リクも口をあんぐりさせていた。
「ありえねー、こいつまでアーク持ちだったなんて・・・。」
天使のような姿のカイリは黒の騎兵団に告げた。
「俺はアークエンジェル、ラグエルだ!文句あるヤツからかかって来やがれ!」
外観は天使のような姿でも、やはり中身はカイリそのものだった。
そのカイリ<ラグエル>の姿を見て、レイアはネスに尋ねた。
「ネス様、あれに関しては、いかがなさいましょうか?」
「なぁに、知れた事よ。」
予想外の展開に対しても、ネスの余裕は崩れなかった。
「敵ならば誰であっても戦うだけだ。戦闘は続行する。」
「了解しました。」
レイアは返事をした。ネスは部隊に号令をかけた。
「ひるむな、お前達!アーク持ちとはいえ相手は3体だ!お前達全員でかかれば楽に仕留められるはずだ!」
「はっ!」
部下の1人が返事をし、ネスは叫ぶ。
「かかれー!!」
そして黒の騎兵団が一斉にかかって来た。それに対しリク<ガイジェル>とカイリ<ラグエル>は迎撃の構えを取った。
「行くぜカイリ!アーク発動したからには着いてこいよ!」
「おう!そっちこそ遅れを取るなよ!」
そして2人は、向かってくる敵に対して「はっぱカッター」と「みずてっぽう」を放った。前列の敵は吹っ飛ぶが、その後方からの敵はまだ向かってきた。
「そんじゃあ、お次はこいつだ!」
そう叫んでカイリ<ラグエル>はその場で踏みとどまり、両手を合掌のように付けて前に出し、「つつく」を繰り出した。その衝撃で吹っ飛んだ敵に対し、リク<ガイジェル>が「エナジーボール」の連射を当てた。それを後ろで見ていたフレイも思わず興奮した。
「お兄ちゃん達、すごーい!」
しかし、そんな彼女にその猛攻をかいくぐって来た数体のヤミラミ達が襲ってきた。
「あぁ・・・!」
動く間もなくフレイは、相手のヤミラミの「シャドークロー」を喰らってしまう。
「きゃあああ!」
「!フレイ!」
リク<ガイジェル>がその悲鳴を聞き振り向くが、彼にもヤミラミが「シャドークロー」で襲ってきたため、リク<ガイジェル>は肩手でその腕部分を受け止めた。しかし、これくらいでへこたれるフレイではなかった。
「大丈夫、あたしも戦えるから!」
兄に呼び掛け、フレイはヨマワルに「きあいパンチ」を喰らわせた。
「そうか!じゃあそっちは任せたぞ!」
そう言ってリク<ガイジェル>は目の前で「シャドークロー」を出しているヤミラミに、至近距離から「エナジーボール」を繰り出し、吹っ飛ばした。
フレイも、先ほど自分に「シャドークロー」を当てたヤミラミに「かえんほうしゃ」を浴びせ、そこから「きあいパンチ」で、後方のヤミラミを吹っ飛ばした。しかし、ゴースの「サイコキネシス」で動きを封じられ、そこからヨマワル達の「シャドーボール」の集中砲火を浴びせられてしまう。だがフレイは力を込めて「きあいパンチ」を振りかざし、「サイコキネシス」から脱出し、ゴースとヨマワル達に「かえんほうしゃ」を浴びせた。
その前方で戦うリク<ガイジェル>は、できるだけ相手に近付いて攻撃していた。相手の「シャドーパンチ」や「シャドークロー」を素手で受け止めつつも、相手が避けられない距離で「はっぱカッター」や「エナジーボール」を当てて行っていた。
カイリ<ラグエル>は敵を「つつく」や「みずてっぽう」で押し返していた。しかし、隙をつかれ後ろからヤミラミに抑え込まれ、他のヤミラミからの「シャドーパンチ」の集中攻撃にさらされてしまう。しかしカイリ<ラグエル>は、思いっきり腰を横に振って脱出し、周囲の敵を全て「うずしお」で包み込んで投げ飛ばした。
戦闘は明らかにフレイ達側が有利だったが、戦力の計算を覆されてもなお、ネスは冷静だった。
「ネス様?」
劣勢になっても余裕を無くさないネスに、レイアが声をかけた。
「不安か?」
ネスはやはり落ち着いた様子で尋ねた。
「いえ、それほどは・・・。」
「ならば安心して戦いを見守っていろ。俺にも「切り札」がある。」
「そうでしたね。失礼しました。」
レイアは謝り、再び戦闘に目をやった。
フレイは「あなをほる」で相手の「シャドーボール」と「おにび」を避け、相手の真下へ移動し、地面に出て来て吹っ飛ばす。その戦闘の前ではリク<ガイジェル>が「たいあたり」で敵をカイリ<ラグエル>の「うずしお」の中へと吹っ飛ばす。それが「うずしお」の中に入ると、カイリは思いっきり地面に叩きつけた。衝撃で敵は飛びだし、伸びきっていた。
やがて、黒い騎兵団の全ての部隊がフレイ達に倒された。
「やはり・・・。」
レイアは呟き、ネスはほくそ笑んだ。
「そろそろ、本格的に手を打つかな?」
フレイとリク<ガイジェル>達は、堂々とネス達の前に出た。
「さぁ、残るはお前達だけだぞ!」
すると、ネスは不気味な笑みを浮かべ、
「ここからはそいつらのようなヤワな者とは違うぞ。」
そう言うと、自分の後ろのポケモンに声をかけた。
「ヨノワール、相手をしてやれ!」
「はっ!」
そのポケモン、ヨノワールは静かにフレイ達の前に出た。
「さぁ、俺とやり合いたいのはどいつだ?」
「俺だ!」
すかさずリク<ガイジェル>が名乗り出た。
「ほう、お前か。面白い、すぐに終わらせてやるぞ!」
そう言って、ヨノワールは「シャドーパンチ」で先制攻撃をかけた。それをリク<ガイジェル>は「たいあたり」で真っ向から止めた。
「お兄ちゃん!」
「すげぇ大胆だ!」
フレイもカイリ<ラグエル>も、その彼の姿に圧巻されていた。ヨノワールはそんなリク<ガイジェル>の根性に感心を抱いた。
「なかなかの根性だ、気に入ったぞ。」
「サンキューな!だけど、俺の根性はこんなもんじゃないぜ!」
と、リク<ガイジェル>はさらに「たいあたり」でヨノワールをふっ飛ばし、そこから「エナジーボール」を放つ。それはヨノワールに直撃するが、ヨノワールも負けてはいない。
「面白い、ならば!」
と「きあいだま」を放ち、リク<ガイジェル>に直撃させた。リク<ガイジェル>は倒れるが、すぐにその衝撃で立ちあがった。
「まだまだ、行くぜ!」
両者の激しいバトルは続いた。それを見てフレイとカイリ<ラグエル>も興奮した。
「いいぞ、リクが善戦してる!」
「がんばって、お兄ちゃーん!」
しかし、そんな2人を今度は「ふぶき」が襲った。
「!」
すかさずフレイが「かえんほうしゃ」で「ふぶき」を打ち消し、辺りには水蒸気が舞った。その水蒸気の先からレイアが現れた。どうやら、先ほどの「ふぶき」は彼女による物だった。
「相手を遊ばせておくわけにはいかないわね。」
と、今度は「こおりのつぶて」を放とうとする。
「すぐに片付けるけど!」
そして勢いよく「こおりのつぶて」を投げた。それを見たカイリ<ラグエル>は「つつく」の態勢で構え、飛んでくる「こおりのつぶて」を山の方に跳ね返した。「こおりのつぶて」が当たった部分は凍りついた。
「やるわね、でも次はこうはいかないわよ。」
そう言うレイアに対し、カイリ<ラグエル>は強気で答えた。
「こっちだって、本気で行かせてもらうぜ!なぁ、フレイ!」
カイリ<ラグエル>はフレイを見た。フレイもその意思は同じだった。
「うん!あたし頑張る!」
「よし、じゃあ行こうぜ!」
そして2人はレイアの前に出た。レイアは右手に「こおりのつぶて」を出現させ、
「では、行くわよ!」
そのまま「こおりのつぶて」を投げてレイアは突撃した。フレイとカイリ<ラグエル>も同時にレイアに向かって行った。

ヨノワールの「あくのはどう」や「シャドーボール」をかわしながら、リク<ガイジェル>も「はっぱカッター」と「エナジーボール」で迎え撃つ。両者の技は直撃したりかわされたりを繰り返し、一歩も引かない撃ち合いが続いた。だが、
「いつまでも続くと思うなよ!」
と、ヨノワールは「シャドーパンチ」でリク<ガイジェル>を吹っ飛ばした。そのままリク<ガイジェル>はテンガン山に叩きつけられるが、気絶はしなかった。しかし、そんな彼の首元を掴み、ヨノワールは「シャドーボール」を構えた。
「私を相手によくやったが、これで終わりだ!」
そして「シャドーボール」をリク<ガイジェル>の腹に当てようとしたが、次の瞬間、リク<ガイジェル>が目を開けてその腕を掴んだ。
「そうは、いかないぜ!」
その状態でリク<ガイジェル>は至近距離から「たいあたり」を繰り出し、ヨノワールと距離を取った。
「何だと、まだ立てるというのか!?」
驚愕するヨノワールに対し、リク<ガイジェル>は上昇し、胸の辺りに手を持って行き、エネルギー球を出現させた。
(む、何をする気だ?)
リク<ガイジェル>が取った行動にヨノワールが目を凝らした時、リク<ガイジェル>は「アークを発動している時に使用できる」その技を放った。
「ガイア・・・グラスパー!!」
それは、父ドダイトスから受け継いだアーク発動中の技、「ガイアグラスパー」だった。「ガイアグラスパー」は真っすぐヨノワールに向かって行く。
「くっ、こんな物・・・!」
ヨノワールは受け止めようとするが、その威力は強力で、手に触れた瞬間、その周囲は爆発に包まれた。その閃光が止むと、そこには気絶したヨノワールの姿があった。
「あ・・・は・・・はは・・・!うおー、やったぞー!!」
リク<ガイジェル>はヨノワールに勝った事を確信し、大喜びして叫んだ。そんな彼を、ネスは静かに見上げるのだった。
一方、レイアと戦うフレイとカイリ<ラグエル>は、彼女が放った「こおりのつぶて」をかわし、それぞれ「きあいパンチ」と「つつく」で攻撃しようとする。しかし、レイアはそれを受け止めた。
「な!?」
「そんな!」
驚愕する2人に、レイアはささやきかけた。
「あなたたちは、ここで負けるわ。」
そして受け止めた2人の手を放し、「おうふくビンタ」を喰らわせる。2人の頬は赤くはれ、今にも膨れ上がりそうだった。それによって吹っ飛んだ2人は地面をこすり倒れた。さらにそこへ、レイアの「ふぶき」が襲いかかる。
「さぁ、これで私の勝ちよ!」
真っすぐ「ふぶき」が2人に向かって行く。しかし、フレイは起き上がり、
「まだまだぁ!」
そして「かえんほうしゃ」でその「ふぶき」を抑え、再び水蒸気が舞った。
「な!?」
さらにその水蒸気が止むと、フレイとカイリ<ラグエル>の姿が消えていた。
「どこ!?どこへ行ったの!?」
その時、彼女の下の地面が盛り上がり、中からフレイが出てきた。
「!?」
(しまった、いつの間にあなをほるで・・・!)
レイアは急いでそれを避けるが、フレイの後方からカイリ<ラグエル>が出て来て、「うずしお」を出現させた。
「いくらお前でも、俺達の連携は予測できなかったみてぇだな!」
「くっ・・・!」
そしてカイリ<ラグエル>は「うずしお」でレイアを呑みこみ、フレイに言った。
「フレイ、今だ!」
「うん!」
フレイは頷き、返事をした。そしてその「うずしお」に「かえんほうしゃ」を放ち、それは「うずしお」を包んで大爆発を起こした。これぞ、「炎と水のフュージョン」である。
「やったぜ!」
カイリ<ラグエル>は腕を腰の内側に引いて叫んだ!
「成功したな、炎と水のフュージョン!俺の作戦通りだ!」
「うん、やったねカイリ!」
フレイの「あなをほる」でレイアの下まで移動する途中、カイリ<ラグエル>がフレイに作戦を説明していたのだ。「あなをほる」での移動を実行したおかげで、2人で作戦を話し合う余裕が出来たことにより、すぐにこの連携が出来たのである。
レイアは2人の連携によって大ダメージを受けてボロボロだったが、再び立ち上がった。
「わ・・・私は・・・こんな所では・・・、終わらないわよ!!」
そして再び「こおりのつぶて」を投げようとするが、
「甘いぜ!」
と、アンナは両手を上にやって、その手で円を描き、左右に計6つのエネルギー球を出現させながら降ろして行き、その円の中央に、エネルギー球の1つを出現させた。
「スプラッシュ・スパイラル!!」
そしてそこから出てきた激流を勢いよくレイアに向かって放った。激流は渦を巻きながらレイアに向かって行く。
「何!?」
その激流は瞬く間にレイアに直撃した。レイアは吹っ飛び、地面に倒れた。
「やったー!カイリすごーい!」
フレイはカイリ<ラグエル>のアーク発動時の技を間近で見て興奮していた。
「まぁ、大体こんなもんよ!」
カイリ<ラグエル>は自慢げに返した。
地面に倒れたレイアは、ボロボロの体でフレイ達を見上げた。
「ぐっ・・・、私が・・・アークの勇者の子孫といえど・・・、こんな子供相手に・・・!」
ここまで言った所でレイアは気絶し、そのまま動かなくなった。
それを確認すると、フレイとカイリ<ラグエル>は思いっきり抱き合った。
「やったー!勝ったわよカイリ!」
「あぁ、俺達の連携が成功したおかげだ!」
抱きしめ合いが終わると、フレイはさらに答えた。
「うん!あたしももっと自信がついたわ!」
そこへリク<ガイジェル>が2人の元へ来た。
「おーい、2人ともー!無事かー!」
「当たり前だろ!」
カイリ<ラグエル>は元気に返した。
その様子を見てネスはさらにほくそ笑み、ゆっくり立ち上がった。
「さて、そろそろ俺が行くとするかな。」
もちろん、フレイ達にもまだ戦いが終わっていない事は理解していた。
「けど、まだネスの野郎がいるぞ。油断するなよ、2人とも!」
カイリ<ラグエル>が呼び掛け、2人は頷いた。
「早くヤツを倒して、父さんの病気を治さないとな!」
「うん!早くしないと手遅れになるからね!お父さんはあたし達の手で助けなきゃ!」
そう言った直後、突如フレイが飛び込んできた影の「メガトンキック」に吹っ飛ばされてしまう。フレイはテンガン山の壁に激突し、そのまま動かなくなった。
『フレイ!』
リク<ガイジェル>達が叫ぶが、彼らの目の前にはネスがいた。
「よう、ついに俺達が戦う時が来たようだな。」
「ネス、てめぇ・・・!」
妹を不意打ちされて、リク<ガイジェル>は怒りをあらわにする。だが、ネスはお構いなしだった。
「さぁ、お前らと互角に戦えるように、こっちも本気を出そうかね。」
そう言って、今度は「あくのはどう」で2人を離らかして身構えた。
「ふおおおぉぉぉぉぉ・・・。」
そしてその状態で、背中から禍々しい黒い光を出し、目を黒く輝かせた。
「な、何だ!?」
「おいおい、嘘だろ・・・!?」
リク<ガイジェル>達にはそれが何なのかすぐに理解できた。これは、間違いなくアークの兆候だった。しかし、この様子は明らかにとくせいによる物ではなかった。
「はあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
さらにその背中からの光で身を包んで宙に浮き、その中で体を光らせ、人間のような姿に変身する。
「マジかよ!?これって・・・!」
「アーク!」
リク<ガイジェル>がそれに気づいた時だった。黒い光の中から、羽付きの人間のような姿のネスが出てきた。しかし、その羽はリク<ガイジェル>やカイリ<ラグエル>の物のような天使のようなイメージとは違い、悪魔を連想させるような形だった。ネスは不気味な笑いとともに告げた。
「どうだ!これが俺のアークだ!」
「あ・・・あぁ・・・。」
リク<ガイジェル>もカイリ<ラグエル>も声が出なかった。ネスは上空からそんな2人を見下ろして続けた。
「と言っても俺のは人工的に生み出した物だがな。だがロケット団の技術力のおかげで、その力は完全な物だがな。」
そう言いながら、ネスはリク<ガイジェル>達のいる真下に手を向けた。
「ちなみにこの時の俺の姿はサタン・ネスだ!覚悟しな!!」
そしてサタン<サタン・ネス>は下の2人に「あくのはどう」を放った。アークによってより強力になった「あくのはどう」により、リク<ガイジェル>達は吹っ飛ばされてしまう。
さらに倒れたカイリ<ラグエル>にネス<サタン・ネス>が「シャドーパンチ」で追い打ちをかけた。
「がはっ!」
カイリ<ラグエル>はその場に横たわり、次にネス<サタン・ネス>はリク<ガイジェル>に目を付けた。何とか起き上がろうとするリク<ガイジェル>に、ネス<サタン・ネス>は「シャドーパンチ」を繰り出した。
「ぐっ!」
リク<ガイジェル>はそれを「たいあたり」で受け止めようとしたが、やはりアークによって強力になっている上に自らもダメージを受けていては、さらにダメージが伝わった。
「がああっ!!」
悲痛の叫びとともに、リク<ガイジェル>は地面に倒れる。それを見てほくそ笑むネス<サタン・ネス>だったが、その後ろからカイリ<ラグエル>が突撃してきた。
「くそったれー!」
彼女は「つつく」の腕を体に引き寄せてネス<サタン・ネス>に向かって行く。しかしネス<サタン・ネス>は、その「つつく」が当たる寸前でかわした。
「何!?」
「見え見えだぞ、小娘!」
そしてネス<サタン・ネス>はカイリ<ラグエル>めがけて至近距離から「シャドーパンチ」を当てた。
「ぐああ!!」
カイリ<ラグエル>は叫びながら、木々に激突した。
そしてさらにネス<サタン・ネス>は、2人の方に両手を向けて、左右から「あくのはどう」を放ち、リク<ガイジェル>達にとどめをかけた。
その仲間がやられていく姿を、気を失ってからしばらくたって意識を取り戻し始めたフレイが感じ取っていた。
(お兄ちゃん・・・、カイリ・・・。)
フレイの指が、除々に動き出した。
(みんな・・・やられていく・・・。嫌・・・、こんな所で終わるなんて・・・。もしあたし達がみんなやられたら、お父さんは、シンオウ地方は、みんなは・・・。)
彼女の中には、次第に父ドダイトスだけでなく、仲間やシンオウ地方を救うという使命感があふれていた。
しかし、ネス<サタン・ネス>の猛攻を前に、リク<ガイジェル>もカイリ<ラグエル>ももう立てなかった。
「フフフ、よく粘ったがどうやらここで終わりのようだな。」
そう言って地面に手を向けた。
「今度こそ消し飛ばしてくれる!」
そして力を込めた「あくのはどう」で、自分の周囲を吹き飛ばそうとした。
その時だった。突如フレイのお尻の炎が激しく燃え上がり、彼女は瞳が黒点のようになった目を赤く光らせながら開いた。
「!何だ!?」
ネス<サタン・ネス>もそれに気づき、フレイの方を向いた。起き上がったフレイは「もうか」を発動しており、その目はネス<サタン・ネス>に向けられていた。
「まさか、それは!?」
ネス<サタン・ネス>はそのフレイの姿を見ておどけた。目を赤く光らせ、お尻の炎を勢いよく燃え上がらせながらフレイは言った。
「これ以上、誰も傷つけさせはしない。悲しみはもう、引き起こさせはしない。」
動揺するネス<サタン・ネス>は、彼女の言葉に驚愕した。
「ほざけ、ガキがほざくか!!」
そう叫び、ネス<サタン・ネス>はフレイに「シャドーパンチ」の一撃を喰らわせた。アークの兆候段階なうえに、これだけの威力を喰らっては、今のフレイではひとたまりも無いだろう。
しかし、「シャドーパンチ」をまともに受けたハズのフレイはまだ立っていられていた。ネス<サタン・ネス>はそれを見てさらに動揺した。
「な、バカな!?直撃のはずだ!?」
やがて、リク<ガイジェル>とカイリ<ラグエル>もゆっくりと起き上がる。2人にも、「もうか」を発動させたフレイの姿がハッキリと見えた。
「フ・・・フレイ・・・。」
「あれは・・・アークの兆候か・・・?」
2人が見守る中でも、フレイはネス<サタン・ネス>を見上げた。フレイは力強く宣言した。
「あたし達は負けない!お兄ちゃん達と、このシンオウ地方を、そして、ドダイトスお父さんを守るために、あたしは戦う!!」
そしてフレイは雄たけびを上げ、激しく燃えるお尻の炎で身を包み、上昇して体を発光させた。そしてその中で人間姿の天使のような姿になっていく。
それを見たリク<ガイジェル>とカイリ<ラグエル>は、フレイの目覚めし力を感じていた。
「あれは、フレイの・・・。」
「あぁ、間違いない!」
リク<ガイジェル>が妹から湧き出る未知なる力に感動していた。
「フレイのアークだ!」
そして炎の中から、フレイが天使のような姿になって出てきた。赤い羽を天に広げ、その麗しい姿を披露した。
「な、何だと!?そんなバカな!」
ネス<サタン・ネス>は驚愕のあまり、言葉を失った。このタイミングでの敵のアークの発動は想定していなかったのだ。
リク<ガイジェル>達はそのフレイの姿を見て感動した。
「すげぇ、フレイのヤツ太陽みてぇだ!」
カイリ<ラグエル>は興奮して大きな声で叫んだ。リク<ガイジェル>もフッと笑って呟いた。
「全く、俺よりかっこよくなりやがって・・・。」
フレイは地上に着地し、ネス<サタン・ネス>を見て宣言した。
「アークエンジェル、フレイエル!あんたを倒す者よ!!」
そのフレイ<フレイエル>の姿は、とても勇ましかった。
「俺様を倒すだと?」
ネス<サタン・ネス>は、目の前に立つフレイ<フレイエル>を睨んだ。
「そんなバカげたことを抜かすのは、あの世でやりやがれぇぇぇーーー!!」
ネス<サタン・ネス>は叫びながら、フレイ<フレイエル>に高速で迫りながら「シャドーパンチ」を放った。しかしフレイ<フレイエル>はそれを「きあいパンチ」で受け止めた。
「何!?」
それと同時に、フレイ<フレイエル>は笑みを浮かべて告げた。
「あんたの攻撃、はっきりとわかるわ!」
そしてフレイ<フレイエル>はネス<サタン・ネス>に、勢いよく「きあいパンチ」を繰り出した。ネス<サタン・ネス>は吹っ飛び、岩に激突した。その岩は衝撃で崩壊したが、ネス<サタン・ネス>はまだ動けていた。
「ぐっ、おのれ・・・!」
ネス<サタン・ネス>はまた立ち上がり、今度は「あくのはどう」を放つ。しかしそれさえも、フレイ<フレイエル>は「かえんほうしゃ」で押し返した。
「ぬおっ!?」
そのまま「かえんほうしゃ」はネス<サタン・ネス>に直撃し、彼は後ろに吹っ飛んだ。
リク<ガイジェル>とカイリ<ラグエル>も、フレイ<フレイエル>のそのパワーに見とれていた。
「フレイのヤツ、ここまでのパワーアップを・・・!」
リク<ガイジェル>は妹の強さを感じ取り、カイリ<ラグエル>も、フレイ<フレイエル>の快進撃を見て、かつて聞いたアークの勇者の伝説に思いをはせていた。
「感激したぜ!あのアークの勇者アグネスみたいだ!」
フレイ<フレイエル>は勇ましい姿でたたずむ。それを見ながらネス<サタン・ネス>は起き上がり、
「こうなったら、とっておきのこいつをお見舞いしてやるぜ!」
と、左右に広げた両手からエネルギー球を出現させ、勢いよく正面に合わせながらそれを大きくした。
「ナイトメア・デストロイヤー!!」
そしてそれによる強力なエネルギー波をフレイ<フレイエル>めがけて飛ばした。ネス<サタン・ネス>がアーク発動時に使える技「ナイトメア・デストロイヤー」である。
「どうだ!いくら貴様でも、これだけのエネルギー波を浴びればひとたまりもあるまい!!」
「ナイトメア・デストロイヤー」は真っすぐフレイ<フレイエル>に向かって行く。カイリ<ラグエル>は焦った。
「まずいぞ!あんな物まともに受けたら・・・!」
「フレイ!」
リク<ガイジェル>が叫ぶ。しかしフレイ<フレイエル>は、向かってくるそれを「受け止めて踏ん張った。
「何!?ナイトメア・デストロイヤーは絶対に受け止められないはずだぞ!?」
しかしフレイ<フレイエル>は全力で耐え、やがて「ナイトメア・デストロイヤー」を押し返した。そのまま「ナイトメア・デストロイヤー」はネス<サタン・ネス>に向かって行く。
「くっ!」
ネス<サタン・ネス>は直ちに上空に飛び、それを避けた。「ナイトメア・デストロイヤー」が当たった場所は、大きな爆発の光に包まれ、クレーターも出来ていた。
「おのれ・・・、ことごとく俺の計算を・・・!」
ネス<サタン・ネス>がフレイ<フレイエル>を見下ろして憤慨した。するとフレイ<フレイエル>は彼の位置よりもさらに上昇し、上空で両手を腰の後ろに引いて構えた。
「何!?」
フレイ<フレイエル>はその手からエネルギー球を出現させ、その威力を高めて行く。
「あれは・・・。」
カイリ<ラグエル>がその行動に注目し、リク<ガイジェル>もフレイ<フレイエル>が放とうとしているその「技」を見ながら呟いた。
「バスタープロミネンス・・・!」
そしてフレイ<フレイエル>は、
「バスタァー・・・!」
と言いながら、ネス<サタン・ネス>に向かってその手を前に出して合わせ、
「プロミネーンス!!」
勢いよくそれを放った。これぞ、フレイ<フレイエル>がアーク発動時に使える技「バスタープロミネンス」だ。それはネス<サタン・ネス>に向かって真っすぐ伸びて行く。
「・・・こんなもの!!」
と、ネス<サタン・ネス>は「バスタープロミネンス」を跳ね返そうとするが、そのパワーに押されていく。
「こ・・・こんなもの・・・、こんなもの・・・!」
次第にネス<サタン・ネス>は押され始める。フレイ<フレイエル>の負けない心が、この技の威力をさらに上げているのだ。
そしてついに、「バスタープロミネンス」はネス<サタン・ネス>を包んだ。
「ぐわあああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「バスタープロミネンス」に包まれたネス<サタン・ネス>は地面に激突し、彼の周囲にすさまじい爆発の光が上がった。
それを見下ろしながら、フレイ<フレイエル>は「バスタープロミネンス」の手を降ろした。そしてその光が止むと、中からアークが解けたボロボロのネスが出てきた。
「お・・・俺の野望が・・・、黒の騎兵団が・・・こんなヤツらのために・・・!」
そう言い残すと、ネスは気を失い、そのまま動かなくなった。その様子を見てフレイ<フレイエル>は笑顔になり、そして大声で叫んだ。
「やったぁー!あたし達勝ったんだー!」
その喜ばしい姿を、リク<ガイジェル>とカイリ<ラグエル>は立ち上がり見上げた。やがてフレイ<フレイエル>は地表に降り立ち、着地した。そんな彼女の元へリク<ガイジェル>達が駆け寄った。まずはカイリ<ラグエル>から声をかけた。
「やったなフレイ!俺達でも勝てなかった相手を倒すなんて!」
「ありがとう、カイリ。」
フレイ<フレイエル>はお礼を言った。リク<ガイジェル>も彼女に語りかけた。
「とうとうやったな、フレイ。ついにアークを覚醒させたな。」
「うん!」
フレイ<フレイエル>は嬉しそうに答え、2人に告げた。
「でもアークの覚醒もこの勝利も、あたし1人の力じゃないわ。ここにいる2人があたしに力をくれたから、あたしもついにこの力を手に入れられた。つまり、アークも勝利も、2人がいたから出来た事なの!」
セリフの最後の方で、フレイ<フレイエル>は元気な声で言った。2人も彼女のその言葉に感激した。
「フレイ・・・。」
「・・・・・・。」
カイリ<ラグエル>はほほ笑み、リク<ガイジェル>も感激の涙を流した。
そして3人はアークを解き、テンガン山の方を見た。フレイが声をかける。
「さぁ、早くパワーストーンを探そう!」
「おう!」
「あぁ!」
リクとカイリは返事をした。そして3体は、パワーストーンを探しにテンガン山の奥へと入って行った。

テンガン山の内部に入ったフレイ達は、レーダーを頼りにパワーストーンを探しました。テンガン山の内部は、奥に進むにつれて迷路みたいになっていたが、カイリが「つつく」で砕いた石の破片を並べ、迷わないように置いて行くことで、帰り道への道しるべを作っていった。
やがて、何か岩が盛り上がっている部分に差し掛かった。
「行き止まり?」
「いや、レーダーによれば・・・。」
リクが見たレーダーには、パワーストーンの反応が近くにあった。
「!もしかしたら・・・!」
そう言ってフレイはその盛り上がっている岩をどかした。
するとそこには、紫色の光を放つ7つの石があった。それを見た瞬間、フレイとリクは笑顔になった。
「これは・・・!」
「パワーストーン!!」
フレイはそのうちの1つを持って、顔に近付けて頬ずった。ついにフレイ達はパワーストーンを手に入れたのだ。
「やったぜ!」
リクもカイリに飛びついて喜んだ。
「ついにパワーストーンを見つけたんだ!」
「あ、あぁ!ついにやったな!」
カイリも、リクの行動に少しひいたが、笑顔になって答えた。
「これで、ドダイトスお父さんの病気も治せる。よかった・・・。」
フレイはそう言い、手に持ったパワーストーンを見つめた。
そしてフレイ達がテンガン山の外に出ると、すでに空は夕焼けだった。
「うわぁ、今日もきれいな夕焼けが出てる。」
夕焼けに見とれるフレイに、リクも続いた。
「あぁ、まるで俺達を祝福してくれているみたいだ。」
すると3体は、夕焼けの向こうから飛んでくる物があるのに気づいた。
「あれ?」
「何だ、あの物体?」
やがてそれは、フレイ達の方に向かって行く。それがハッキリ見えるようになると、カイリの表情は変わった。
「げぇっ。あのヘリは!?」
それは、まぎれも無くプリベント・アーミーのヘリだった。それはやがて、フレイ達の下へ降りてきた。
「これ、プリベント・アーミーの・・・。」
「あぁ、俺も写真でしか見た事無かったけど・・・。」
静かに見上げるフレイとリクだったが、一方のカイリはおどけていた。
「ヤ、ヤバいな・・・。」
「あれ、どうしたの?」
するとヘリのドアが開き、中からカイリの母アンナが出てきた。
「カイリ、あんたカイリでしょ!」
「げぇっ、やっぱりお袋!」
カイリはすっかりビビってしまっていた。
「え?カイリのお母さん?」
フレイは少し驚いていた。アンナは、勝手に自分の下を抜け出されていた娘を見つけてとても起こっていた。
「カイリ!あんた勝手に家を飛び出しておいて、こんな所で何やってるの。」
母親に怒られ、カイリはかなりビビっていたが、その母アンナの後ろから、フレイとリクの母、ゴウカザルが現れた。
「フレイ、リク!大丈夫だった!?」
「お母さん!」
「母さん!」
フレイとリクは、思わぬ母との再会に喜び、ゴウカザルの胸に飛び付いた。ゴウカザルも子供達をギュッと抱きしめた。
「よかった、あんた達が無事で。」
ゴウカザルは優しくささやき、我が子の無事を喜んだ。フレイとリクも、母親のぬくもりを肌で感じ取った。
「お母さん!あたし達やったよ!」
「ついにパワーストーンを手に入れたんだぜ!」
「偉いわね!さぁ、お父さん達のいるオーキド邸に帰りましょう!」
「うん!」
フレイとリクは嬉しそうに頷いた。そのほほえましい様子を見て、アンナも怒りを忘れ、カイリも笑顔になった。そして、ヘリの中のシュナイダーもフッと笑ってみせた。

カントー地方に帰るヘリの中で、フレイ達はゴウカザルに、テンガン山での出来事を話した。
「そう、フレイがアークを発動させて、ネスを倒したのね。」
「あぁ、ネスのヤツのアークを発動させて、俺達はボロクソだったけど、フレイが俺達や父さん、そしてシンオウ地方を救うためにアークを発動させたんだぜ!」
リクも鼻高らかに言った。フレイは正直照れくさそうに顔をかきながら、嬉しそうに答えた。
「つまり、みんなを守りたい一心で覚醒したって所かな。」
「それでもすごいわ!」
ゴウカザルは笑って答えた。
「お母さん誇らしいわ。2人の子供が、伝説の力を目覚めさせたなんて。」
「お母さん・・・。」
フレイの顔もほころびた。
その隣では、アンナがカイリを叱り終わり、今度は褒めに入った所だった。
「でもやっぱり、あんたは偉いわよ。だってあんたのおかげで、フレイちゃん達がパワーストーンを見つけてこれたんだから。」
「おう!」
さっきまで叱られてヘコんでいたカイリも、笑顔になって言った。
「でも俺1人だけじゃないぜ!フレイ達の強力があったからここまでこれたんだ!そして・・・。」
そこまで言うと、カイリはリクの方を向いてウィンクした。
「気に入った男とも出会えたんだからな!」
「え?」
リクは顔を赤くして言った。彼もうすうすと、カイリの気持ちに気づいていたのだ。そんな2人を見て、ゴウカザルはほほ笑んだ。
「これからが楽しみだわね。」
彼女とアンナの間にいるシュナイダーも頷いた。
そしてヘリはカントーに到着した。

ゴウカザルは、フレイ達が手に入れたパワーストーンを持って夫ドダイトスの前に立った。フレイとリク達も、その様子を見守った。そこには、オーキド博士とケンジ、アンナとマックス、そしてシュナイダーもいた。
「行くわよドダイトス。今あんたの病気を治してあげるわ。」
ゴウカザルがドダイトスに言った。
「頼む。」
ドダイトスが言うと、ゴウカザルはパワーストーンを天に掲げた。
「パワーストーン!あたしの夫、ドダイトスの病気を治して、また元気な姿に戻して!」
するとパワーストーンがまばゆい光を放った。一同はその光に目を覆った。やがてその光が止むと、ゴウカザルとフレイとリク達はそっと目を開けた。
するとその目の前には、元気な姿で立ちあがるドダイトスの姿があった。
「もう苦しくない。おいらの病気は治ったぞ!」
「・・・・・・!」
元気な夫の姿を見て、ゴウカザルは嬉しそうに感激の涙を流した。
「ドダイトス!!」
ゴウカザルはドダイトスの体に飛び付いた。ドダイトスも笑いながら言った。
「おいおい、とたんに嬉し泣きか?」
「だって、ドダイトスが助かった事が嬉しくて・・・!」
そこへ、フレイとリクも父親の体に飛び込んでくる。
「お父さーん!」
「父さん!」
2人も感涙とともに、父親の復活を喜んだ。
「えーん、よかったよー!お父さんが助かってくれてー!」
「これでまた、家族4人で幸せに過ごせるよ!」
そんな2人にほほ笑みかけ、ドダイトスはお礼を言った。
「ありがとう、お前達のおかげでおいらはまた生きていられる。お前達はおいらの命の恩人で、自慢の子供達だ。」
ドダイトスのその言葉に、ゴウカザルも頷いた。
「うん!あたし達もお父さんとお母さんの事!」
「ずっとずっと大好きだよ!」
そして一家は幸せな空気に包まれた。ポケモン達やオーキド博士、ケンジまでもが、その家族愛に涙していた。シュナイダーも、照れ隠しのように背を向けながらもフッと笑い、
「よかったな、ゴウカザル達・・・。」
とささやきかけた。
するとアンナも、自分と夫マックスの間にいる娘カイリに言った。
「私達も見習わなくちゃね!」
「か、母さん!」
カイリは恥ずかしそうに顔を赤くした。そして一同は一斉に笑い出した。そしてその笑い声は、しばらくオーキド邸を包み込んだ。
そしてそれから間もなく、パワーストーンもテンガン山の元あった場所に戻され、再び封印されるのだったが、フレイとゴウカザル達の幸せな笑顔はいつまでも消えなかった。

数日後、ゴウカザルとドダイトスは、気合い十分のフレイとリクの前に立っていた。
「2人とも、ついにこの時が来たわよ!」
『はい!』
ゴウカザルが言うと、フレイ達も返事をした。今度はドダイトスが言う。
「これからアークを使ったバトル特訓を行うぞ!準備はいいな?」
『はい!』
フレイもリクも、これから始まるアークを使ったバトル特訓を前に気合い十分だった。2人ともやる気だと悟ったゴウカザル達は構えた。
「それじゃあ行くわよ!」
「2人とも、アークを発動させるんだ!」
『はい!』
その返事とともに2人も身構え、両親とともにアークの兆候混じりの「もうか」や「しんりょく」を発動させ、そこからアークを発動した。それぞれフレイエルやガイジェルに変身し、空を仰いだ。
「さて、行くわよフレイ、リク!」
「どこからでも来い!」
ゴウカザル<フレイエル>とドダイトス<ガイジェル>が呼び掛けると、フレイ<フレイエル>とリク<ガイジェル>も、
『はい!』
と答え、親と子に分かれてのアークのバトル特訓が開始された。親と子の対決とはいえ、激しい技のぶつけ合いが繰り広げられたのだった。

さらに月日は経ち、フレイとリクはついに、オーキド邸の外へアークの姿での修行へ向かうようになるまでに成長していた。両親が見送りに出る中で、兄妹でオーキド研究所の屋敷の前に並んで空を見上げ、リクはフレイに言った。
「それじゃあ今日も行くぞ、フレイ!」
「うん!修行がんばろうね、お兄ちゃん!」
フレイが返事をした。そして2人はアークを発動させて変身し、空へと飛び立った。
「じゃあ、今日も行ってきまーす!」
地上にいる両親を見下ろし、フレイ<フレイエル>は手を振った。母ゴウカザルもそれに応える。
「夕飯までには帰ってきなさいよー!」
『はーい!』
フレイ<フレイエル>達は返事をして、マサラタウン近くの森へと飛んで行った。
それを見送ると、ドダイトスはゴウカザルにささやきかけた。
「なぁゴウカザル、やっぱりあの子達の世代が、次の勇者になるのかもな。」
「えぇ、そうね。」
ゴウカザルも笑って答えた。いつか自分達の子供が、この世界を守っていく次の勇者になる。2人はそんな期待に胸を膨らませていた。そして2体は空を見上げた。
「サトシ君、ピカチュウ・・・、きっとあの子達が、あたし達の意思を継いでくれますよ・・・。」
ゴウカザルの呟いた言葉が風に乗って広がった。
そしてこの世界は、これからもアークを持つ者達によって守られていくだろう。これからも、伝説とともに・・・。

-完-

あとがき

みなさんこんにちは、作者の川畑拓也です。

この作品は、連載作品「ポケットモンスターARC」の最終回後の後日談となります。

今作は、最終回で結婚したゴウカザルとドダイトスの子供、ヒコザルの「フレイ」とその兄でナエトルの「リク」、さらに結婚したアンナとマックスの娘、ボーイッシュなポッチャマの「カイリ」を中心として、「新たな世代」の活躍を描いております。

きっとゴウカザルやサトシ、ピカチュウ達が生きて行く世界も、これからも伝説のポケモン達、そしてアークを持つポケモン達によって守られていくでしょう。

フレイとリク、そしてカイリの活躍を描いた本作、楽しんでいただけたなら幸い
です。

それでは、ごきげんよう。

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