カスムさんが本気出してポケモンについて考えてみた

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 とある日昼下がりのことだった。
 オーキド研究所内にて、少女と少年がお茶を飲んでいた。一人はポニーテールの可愛らしいあどけない顔をした少女であり、膝には殻にこもったゼニガメを乗せている。もう一人は跳ねまくった金髪を三本のヘアピンでとめた少年で、つり上がった瞳をしていた。
 彼らは幼馴染同士であり、またもう一人幼馴染がいた。三人は午後から魚釣りに出かける約束をしており、二人はあと一人の用事が終わるのを待っていたというわけだ。あと一人はオーキド研究所で資料を探しており、それが終わるまで二人は取り留めもない事を話しながらお茶していた。

「ところでさ、キリ」
「なんだ」
「マルマインってどうして爆発するんだろうね」

 ポニーテールの少女、ユズルはクッキーを食べながら少年、キリに問いかけた。キリはポケモンクッキーの中からマルマインの形をしたのを手に取り、それを眺めながら答える。

「さぁ……確かエレクトンエネルギーだか電気エネルギーだかによるものらしいが」
「電気は分かるけど、えれくとんえねるぎーって何?」
「僕もイマイチ分からん」

 キリはぽいっとマルマインの形のクッキーを口に入れた。ユズルは首を傾げながら、今度はピカチュウの形のクッキーを手に取る。

「ピカチュウは爆発しないのにね」
「想像もできないな」
「そもそも爆発って火薬とかで起こすんじゃないの?どうして電気で爆発するの?」
「知らん」

 キリはスパッと投げやりに答えた。ユズルは膝に乗せたゼニガメ、メロンパンを撫でる。

「知ってそうな奴と言うと……」

 キリが呟く。その時、部屋の奥の方の扉が開く音がした。

「待たせたようやな。終わったで」
「カスム」

 カスムと呼ばれた少年、青がかった髪に飄々とした雰囲気の彼は多少埃にまみれており、ケホッと咳き込んだ。

「カスムせんせー!!質問があります!」
「はいはい。なんや?」

 ユズルが元気に挙手すると、カスムは三つ目の椅子を引っ張ってきて座り、鷹揚に答えた。

 キリがカスムのぶんのマグカップを用意し、お茶を注ぐ。「おおきに」とカスムは頷く。カスムがお茶を一口飲み落ち着くと、ユズルが質問をした。

「マルマインは何故爆発するんですかー?」

 ――――その時の事だった。カスムの動きがぴたりと止まり、雰囲気が一瞬にして変化する。ユズルはきょとん、とした顔をしており、キリは何事かとカスムを見た。
 カスムが顔を上げ、二人を見る。そして、その瞳がきらりと光ると同時に、スイッチが入ったかのように勢いよく話し出した。

「マルマインが何故爆発するか言うたな?非常に良い質問や。それは一時期ポケモン学会でも論争が起きたテーマになってる。そもそもマルマインという生き物がなんなのかがはっきりとはわかっとらんのやけど、それを言うたらポケモン自体がそうなるな。ポケモンとはいったい何なのか?ポケモンの正式名称については知っとるはずや。ポケモンとはポケットモンスター、ポケットに入れて運べるモンスターの通称や。モンスターとは化け物や怪物。これだけだと曖昧ではあるが、何か通常とは違った力を持つ生き物ということだと考えればええ。そしてポケットモンスターという言葉の起源は、遥か昔の捕獲用ボールであるボングリによるボールの誕生によるものであると考えるのが妥当な所やな。もっとも、それに関しても本当にボングリボールが最初の捕獲用ボールなのか議論が絶えないところではあるんやけど。そしてこれらの事からわかるように、ポケモンとは動物と違って神秘に包まれた生き物や。友であり、隣人あり、敵であり、そして人間なんかよりも凄まじい力を秘めた何かや。それは人間の叡智を超えたところにあるもんなのかもしれんけど、それでも調べずには、考えずにはおられんもんやな。そしてポケモンの中でも、非常に構造や誕生が不明であるポケモンがいる。ピカチュウやらキュウコン、キャタピーとかいった、生体構造が通常の動物に近いポケモンは理論がつけやすいんやけど、さっき言っていたマルマインを筆頭とした、明らかに“生物”といった範囲から逸脱しているタイプのポケモンは特に謎が多い。コイルとかタマタマもそういった部類やな。学者の中には“ポケモンを解析してはならない。それは神の怒りに触れることである”と主張する奴もおる。最初は俺も「んなアホな」と思った時期もあったんやけど、タマタマについて研究した学者の話を聞いたら笑うに笑えんくなった覚えがある。タマタマは知っとるな?タマタマを調べようとしてあの黄身っぽい部分から殻っぽい部分まで解析しきった奴がおったんやけど、なーんも分かれへんかったんや。どこまで調べてもフツーの卵。何の変哲もあらへん。そのはずなのに、タマタマは意思を持ち、そこらじゅうを転げまわり、ナッシーに進化する。「そんなはずはない」とそいつは必至こいて不眠不休で調べ続けたんやけど、やっぱりわからんかったもんで、ついには発狂してまったそうや。おっそろしー話やで。まぁ前振りはこんなもんで本題に入ろうやないか。マルマインが爆発する理由やったな?そも、マルマイン自体もおかしな生き物なんやけど、まぁそこはおいとこやないか。ここでそんな話をしたところで答えなんかでぇへん。生体構造は大半がまだ不明やけど、一応爆発についての理論は確立されとるんや。ゆうてもポケモン研究は日進月歩。いつまた新しい理論が既存の考えをひっくりかえすも知らへんが、今通説とされとるものを話すことにしよか。マルマインの爆発についてやけど、これはまず爆発の定義を正しく理解しとるかから始めよか。爆発についての認知としては、「気体の急速な熱膨張」が大半やろうが、広義の意味としては、「急速な膨張」のことを指しとるんや。つまり、エネルギーの膨張も含まれる訳やな。マルマインは電気エネルギーを周囲から取り込み、体内に必要以上に蓄積することは一般的に知られとるが、爆発はその電気エネルギーを基礎において起こる。普段は体内に圧縮されとる電気エネルギーやけど、外からの衝撃に容易に反応して解放される。この時に解放された電気エネルギーやけど、空気中を超音速で伝播し、その熱によって空気中の気体が急速に膨張。その結果として強大な衝撃波や爆風が生じるわけや。ここで補足しとくと衝撃波は急速な熱膨張と密接な関係もっとる。衝撃波は圧力の不連続な変化によるものやけど、ここでは膨張による圧力の変化がそれの原因やな。衝撃波は音速を超え、建造物などを破壊する。通常なら体がバラバラになってもおかしくないんやけど、ポケモンのみならず、人間もその爆発に耐え抜くことが出来る。これについても議論が紛糾しとってな。人間はポケモンと共にあることによって変化・進化しているのではないかって話や。爆発に耐え、十万ボルトに耐え、どくどくに耐える。どれもこれも、人間以外の動物では考えられへん。だからと言って人間が特別な存在やと考えるのはちょっと傲慢やと思うんやけどな。さて、ちょっと蛇足が多かったんやけど、以上がマルマインが爆発する理由や。分かったかいな?」

 カスムはドヤ顔で二人を見た。そして二人は、口を揃えてカスムに答えた。

「訳が分からないよ」
「あぁ、訳が分からないな」

 全く理解されなかったようだった。

「解せぬ」

 カスムは一言つぶやくと、お茶を啜った。










 その後、三人が去った後のポケモン研究所内部。モンスターボールに入った複数のマルマインが、話していた。

「なんか俺達って、すげー頭よさそうな理由で爆発してたんだな」
「つーことは、俺達ってすげー頭いいんじゃないか?」
「マジか。これは俺たちの時代来るな」
「これからは頭の時代だぜ!!」
「俺たち賢い!」
「あぁ、マジで賢いな!」

 しばらくの間、研究所内でマルマインの爆発が増えたとか増えなかったとか。




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