カノコタウンの春

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作者:バタフライ
読了時間目安:19分
あなたは、行ってしまった。

自分の好奇心の、おもむくままに。

自分の答えを探して。

自分の、夢をかなえるために。

もし・・・

あなたがその「旅」の途中で傷ついてしまったら、あたしは・・・

ママは、どうすればいいの?

あなたの身に何かあったら・・・

ママは・・・どうすればいいの・・・?

ママは・・・ママは・・・

・・・



カノコタウン。
季節は冬。柵の向こうの海には、ダイヤモンドダストが見える。
ガチャ・・・
「・・・」
部屋に入る女性。この女性は、イッシュリーグのチャンピオン。トウヤの母だ。
トウヤの部屋は、あの日からずっと変わってはいなかった。
出しっぱなしのゲーム機。
開いたまま、電源が入っていないパソコン。
一箇所、破れたじゅうたん。
そして、イッシュリーグのチャンピオンのみ、身に付けることを許された「おうじゃのしるし」。
「・・・」
写真立てには、無邪気に微笑むトウヤと、最後にチャンピオンのアデクのポケモンを打ち倒した、
ダイケンキの姿が見えた。
「トウヤ・・・」
トウヤは今、何をしているのか。トウヤは今、どこにいるのか。
トウヤは、Nに会えたのか。トウヤは、自分自身の答えを、Nにぶつける事が出来たのか。
知る事は叶わない。
手を伸ばしても、トウヤの元には当然届かない。
不気味なくらいの静けさが残る部屋から、トウヤの母はある物を持ち出す。
それは、トウヤが始めて捕まえ、母に渡したポケモン・・・
ヨーテリーの入った、モンスターボールだった。
そのヨーテリーを今日も、カノコタウンの中で散歩させる。
「きゃわん!きゃわん!」
ヨーテリーには、黒いリボンがついていた。
これはトウヤが、せっかくの母へのプレゼントに、と、リボンをつけたことから、
2年間一時もリボンを外さずに、右前足につけている。
「・・・じゃ、行こうか」
むしろ、ヨーテリーが自分の心の支えとまでになっていた。
ドンドン・・・
1階まで降りてきた時、ドアをノックする音が聞こえた。
ガチャ・・・
ドアが開く。
いつものようにノックなしで勢いよく開かないので、トウヤではないと、一瞬で気付いた。
「あの~。わたしです。ベルですけど~」
ベル。
トウヤの友人だ。
「あら、こんにちは。今お菓子を出すわね」
「うわぁ、ありがとうございます!」
フエンせんべいを取り出し、温かいお茶を入れる。
せんべいを一口かじった後、ベルは言った。
「あれから・・・もう2年経つんですね」
「・・・そうね・・・」

・・・

ドタドタドタ!
ドンガラガッシャ~~~ン!
バタバタ・・・!ズシ~ン!ドスドス!
「あら、やってるわね」
トウヤが始めて、ポケモンを手にした日も、冬の日だった。
無論その頃は、トウヤがいなくなることなど、知る由もない。

「騒がしくして本当にすみませんでした」
2階から3人が降りてくる。深々と頭を下げるチェレン。泣きそうな顔のベル。
そして、あははと、おどけた顔をするトウヤ。
「あ、あのう、おかたづけ・・・」
「かたづけ?いいのいいの!あとであたしがやっておくから。それよりアララギ博士に会わなくていいの?」
と、笑顔で言う。
「はい!では失礼しますね。じゃあアララギ博士にお礼を言いに行かないと・・・」
「あっ! あたし一度家に戻るね。おばさん、どうもおじゃましましたあ」
チェレンとベルが家を出て、トウヤと2人きりになった。
「か・・・母さん。あの・・・さ」
はにかむトウヤ。しかし、トウヤの母は・・・
「トウヤ、ポケモン勝負ってものすごーくにぎやかなのね!下までポケモンの鳴き声とか聞こえてきたわよ!」
「う・・・うん・・・でも、うちの中であんなに暴れまわっちゃって・・・」
「思い出しちゃうなー、初めてのポケモン勝負!そうだ!勝負をしたポケモンを休ませてあげないと!」
トウヤの母は、ボロボロなミジュマルを横に寝かせ、ミジュマルの汚れを丁寧に拭き始めた。
「あ、ありがとう。母さん」
「いいのよ!若いうちは色々と無茶しなきゃ!」

それから二週間。季節は春になった。
トウヤが家に帰ってきた。
「お帰り、チャンピオンさん!」
「や、やめてよ母さん。あんまりもてはやさないで!」
「うふふ・・・だって嬉しいもん。自分の息子がチャンピオンだなんて・・・」
「もう・・・」
言葉とは裏腹に、トウヤは嬉しそう・・・
「・・・?」
でも、なかった。

「僕は今回の冒険で、色々気付いた事があるんだ」
食事中に、トウヤは、いきなり話し出した。
「え?どうしたの?ママに聞かせてくれると嬉しいな」
「・・・じゃあ母さん・・・正直に言っていい?」
「・・・どうしたの?」
急に固い表情になって、トウヤはこう言った。
「・・・僕は、この地方を離れたい」
「え?」
その言葉に、母は凍りついた。
「・・・Nって言う人に会ったんだ。その人は、なんだか悲しそうな表情をしてて・・・
 僕に、<夢を叶えろ>って言った。
 僕は・・・夢を叶えたい。だから・・・ポケモン図鑑を完成させるために、色々な地方へ行きたい。
 それに・・・」
「トウヤ」
母は話を遮って、
「ママは以前言ったはずよ。あなたのしたいようにすればいいって」
「・・・母さん・・・?」
「・・・ママ、トウヤがそんな風に決意してくれて、とっても嬉しいな」
そしてトウヤの手を握る。
「ごめんね!これから旅に出ようとしてるのに、しめっぽい雰囲気にしちゃったわね!」
「・・・母さん・・・」
トウヤは涙を流し始めた。
「トウ・・・ヤ?」
「あ、ご・・・ごめん。その・・・」
「言いたい事があるなら、ちゃんとママの目を見て言ってくれない?」
「・・・」
しばらく待ってから、トウヤは最後にこう言った。
「ありがとう・・・ごめんね・・・母さん・・・!」
「あら、謝らなくていいのよ。大人なんだから、いつまでも泣かないの」

そして翌日・・・
「・・・たまには、連絡するのよ。帰って来れなくてもいいから、声を聞かせてよ」
「うん」
「忘れ物はない?・・・ポケモンの体調は万全?・・・お金は、ちゃんと持った?」
「大丈夫。さっきもう一度チェックしたから・・・」
「そう・・・」
トウヤの母が、トウヤの背中を物悲しく見つめる。
「・・・母さん・・・」
しかしトウヤが振り返ると、
「何をしてるの?早く行かないと、そのNって言う友達と会えなくなるかも知れないんでしょ?」
と、笑顔で急かす。
「・・・ありがとう。母さん。僕・・・絶対に答えを見つけ出して、帰ってくるから」
「えぇ。その時は、またあなたの大好きなハンバーグを作ってあげるわ」
「・・・うん!」
最後に親子は、ギュッと抱き合って、
「じゃあ・・・行ってきます!」
そして別れた。
トウヤの母は、それを見ながら、ゆっくりと手を振った。

・・・そして、2年の月日が流れた。

・・・

「・・・おばさん」
ベルが突然声を出した。
「・・・え?」
「おばさん・・・最近何だか変です」
いきなり予想外の事を言われてしまう。
「そ、そうかしら?」
「何だか、2年前に比べて、表情が無いというか・・・あ、大きなお世話ならごめんなさい!」
「・・・」
言われて、はっとする。
確かに自分は、2年前に比べてため息の数が増えた。
目に覇気が無いと、近所の奥さんから言われたこともある。
「・・・大丈夫よ。ベル」
「そうですか・・・」
ベルは心配そうな顔をするので、いっそ聞いてみた。
「ねぇ、ベル。もし・・・もし明日、トウヤが帰ってきたなら、あたしはどうすればいい?」
「・・・う~ん・・・あくまで、普段通りに出迎えてあげたらどうですか?」
「普段どおり?」
「はい。普通に、<子どもを迎える親>って感じで!」
ベルは笑顔で言うが、その笑顔はすぐに曇ってしまう。
「・・・何?」
と、トウヤの母は聞く。
「おばさん・・・やっぱり無理してますよ」
「え?」
「・・・あっ。お茶とせんべい、ごちそう様でした」
不穏な空気を感じたベルは、いてもたってもいられなかった。
ベルはせんべいが乗っていた皿をすすっとトウヤの母に渡すと、そそくさと家を飛び出した。
「・・・」

1番道路。
ヨーテリーを連れて、トウヤの母はやってきた。
「ここから、トウヤは・・・」
2年前に比べて生態系が変わり、ミルホッグやハーデリアをよく見かけるようになった。
2年前と比べて、ここにやってくるトレーナーは屈強なトレーナーが増えた。
そして・・・何より・・・
「・・・」
トウヤが、いない。
この道路の付近でよく遊んでいたトウヤが、
よく野生のヨーテリーに噛みつかれて、泣きながら帰ってきたトウヤが、
この道路から、冒険を始めた、トウヤがいない。
「・・・」
威勢良く送り出したものの、「トウヤが帰ってこない」と言う現実が、これほどまでに辛く、
これほどまでに、悲しいものだとは、トウヤがいなくなるまで気付くことなどなかった。
そしてトウヤの母の目から、一粒の涙が零れ落ちた。
その時だ。
「あ!」
ヨーテリーが1番道路の草むらに飛び出した。
「ダメ!そっちは・・・!」
その時、あるポケモンが草むらから飛び出してきた。
ミルホッグだ。
「わう!」
相手を威嚇するヨーテリー。
「ダメ!戻って!ヨーテリー!」
「わうん!きゃうん!」
命令を聞かずにミルホッグに対して吠え続ける。
「・・・」
もしかして、戦いたいのだろうか・・・?
トウヤと似て、やんちゃな性格のヨーテリー。
さらに負けん気が強そうな見た目をしていた。
しかしミルホッグはそんなヨーテリーにも動じず・・・
ガブリ!
ひっさつまえば。1撃でヨーテリーは倒れてしまった。
「・・・ヨーテリー」
・・・やってしまった。
まるで、小さな穴が広がっていくかのように、心の中に空虚感が襲ってくる。
そのヨーテリーとトウヤの母を見て、にやりと笑った後、ミルホッグは森へ逃げていった。
ヨーテリーの左頬からはおびただしい出血があり、傷もかなり深い。
「・・・ごめんね・・・ヨーテリー・・・!ごめんね・・・!」
トウヤの母は、倒れているヨーテリーを抱き締めながら、動かなくなった。



翌日・・・
この日もトウヤの母は、家でゆっくりとした時間を過ごしていた。
ヨーテリーは止血を施し、何とか一命を取り留めた。
しかし左頬の傷は、簡単には消えなさそうだ。
その時だ。
ガチャ!
勢いよくドアが開く。
「・・・!?」
一瞬振り返ろうとしたが、トウヤの母は「普通の母親」を貫いてこう言った。
「あら、お帰り。お友達には会えたの?確かNって言う名前の・・・」
心臓が飛び出しそうなぐらいの、異常な緊張感の中、そう言うと・・・
「え?」
トウヤより少し低めの声が返ってきた。
「?」
振り返ってみると、そこには赤いサンバイザーを身につけた、トウヤとはまるで別人の少年が。
「す、すいませんっ!間違えました!」
と、少年がうろたえるが・・・
「あら、あなたキョウヘイ君でしょ?」
トウヤの母は言う。
「え?・・・そ、そうですけど・・・」
「あたしとあなたの母親は、古くからの付き合いなの」
「そ、そうなんですか・・・」
「まあ、せっかく来たんだし、上がっていきなさいな」

キョウヘイに、フエンせんべいと緑茶を出そうとするが・・・
「あら」
どうやら緑茶が切れていたらしい。
「ごめんなさい。せんべいしかないけど」
「そんな、いいですよ!」
「いいのいいの。若いうちはたくさん食べなきゃ。それに、こんな田舎町まで足を運んでくれたお礼よ」
「え?・・・じゃあ・・・いただきます」
ぱりっと一口。
「おいしいです。実は今日朝ごはん食べなかったから、おなかが空いてて・・・」
「それはよかったわ。若いうちは無茶するのがいいけど、程ほどにしなきゃダメよ」
「えへへ・・・」
はにかむキョウヘイ。その姿はトウヤに少し似ていた。
「・・・ところで・・・さっきの、お友達には会えたのって言うのは・・・」
申し訳なさそうに聞いてきた。
「あぁ、あれ?ただの独り言よ。気にしないで」
上手くはぐらかしたと思うトウヤの母。
「・・・違ったら申し訳ないんですが」
しかしキョウヘイは、鋭くこちらを問い詰めてきた。
「この家って・・・<トウヤ>って人の家ですか?」
「・・・!」
思わずたじろぐ。
「・・・当たりの・・・ようですね。
 実は、チェレンさんとベルさんから、トウヤと言う人の話をよく聞いていたんです。
 そして・・・先ほど言っていた、Nからも」
「・・・そう・・・なの・・・」
「僕も、そのトウヤと言う人のことが気になります。話せる範囲でいいので、話していただけませんか?」
「・・・」
トウヤの母は、重い口を開いた。



2年前、トウヤがこの家から旅立っていった事。
トウヤからの連絡がまったくない事。
そして、トウヤがもし帰ってきたら、自分がちゃんとトウヤに向き合えるかと言う事・・・
それを全て洗いざらい、キョウヘイに話してみた。
「・・・便りがないと言うのは元気な証拠なんだけど、寂しいのが嬉しいだなんて・・・
 母親って難しいものね・・・」
「・・・」
「・・・もし・・・」
トウヤの母は疑問をぶつける。
「もし、トウヤの身に何か起こっていたら・・・」
「それは想像してはいけないことです」
「・・・!」
まるでにらむかのような眼光を、トウヤの母に向ける。
「あなたに出来る事は、信じて、待つ事。ただそれだけです」
ごめんなさいと、頭を下げたあと、こう答えた。
「先ほど・・・あなたはちゃんとトウヤさんに向き合えるか、と言いましたよね。
 ・・・僕は、トウヤさんのことを何も知りませんし、あなたのことも何も知りません。
 だけど、・・・だけどですよ。もし、トウヤさんがあなたの元に帰ってきたのなら・・・」
少しだけ間を開けた後、キョウヘイはこう言った。
「怒ったなら怒ったと、悲しかったなら悲しかったと、寂しかったなら寂しかったと、
 そして、帰ってきて嬉しいなら、帰ってきて嬉しいと、素直な言葉をぶつければいいと、僕は思います」
「素直な・・・言葉・・・?」
「そうやって、感情を思い切りぶつけてあげれば、自然とトウヤさんも笑うと思いますし、
 感動したなら涙を流すと思います」
まっすぐな目をトウヤの母に向けてキョウヘイは話した。
「・・・じゃ、じゃあもしトウヤが、立ち直れないほどの傷を負って帰ってきたら・・・」
「その時は・・・」
にこっと笑顔を浮かべて、
「ギュッと、抱き締めてあげればいいと思います」
と言った。
「トウヤさんが求めているものは、家族の暖かさかも知れませんし」
「・・・」
「感情をぶつけて、トウヤさんの傷付いた心は受け入れる。
 親であるあなたなら、出来ることだと思います」
キョウヘイは、チラッと時計を見た。
「あ、まずい。もうこんな時間だ・・・ずいぶん長居しちゃったなぁ。
 ベルさんの家って、どこにありますか?」
「ベルなら、さっき<1番道路に行く>って言ってたわ。まだ1番道路にいるんじゃないかな?」
「本当ですか?ありがとうございます!せんべい、ごちそうさまでした」
深々と頭を下げるキョウヘイ。
「キョウヘイ君」
トウヤの母は、キョウヘイに何かを握らせた。
「これを・・・持っていって」
「これは・・・?」
それは、トウヤが最初に捕まえ、母に贈ったポケモン・・・
ヨーテリーの入ったモンスターボールだった。
「あたしは、このヨーテリーを逃げ場所にしていたのかもしれない・・・だけど・・・
 君のような素晴らしいトレーナーに、このヨーテリーを預けられるなら、あたしは健やかな気分よ。
 あたしが持っていると、この子にも悪いし、この子・・・戦いたがってるし!
 だから・・・お願い。この子をもらって」
「・・・」
キョウヘイは、そのモンスターボールを持ち上げると、
「・・・大切に育てます」
と、バッグに入れた。
そしてキョウヘイはトウヤの家を飛び出す。
「・・・」
その姿は、旅に出るトウヤを彷彿とさせるものだった。



そしてそれから1ヶ月。
テレビを見ていると・・・
「2度目のリーグ制覇、おめでとう!」
褐色の肌のアフロ姿の男が、インタビューをしている。
「ありがとうございます」
そこに映っていたのは、キョウヘイだった。
「いや~、しかし!最後にチャンピオンのオノノクスに対して放ったムーランドの渾身のギガインパクト!震えたよ~!」
「ムーランド・・・?」
トウヤの母は、はっとした。
「いえ、僕の力だけではないです。ムーランドが、心の底から頑張ってくれたから、僕は勝てたと思います」
「ばう~!わうわう!」
笑顔でムーランドに寄り添うキョウヘイ。
「・・・これ・・・!?」
そう、トウヤが最初に捕まえたムーランドである。
左頬に噛み付かれた痕がある上に、右前足に黒いリボンが巻かれているので間違いない。

キョウヘイは、トウヤが初めて捕まえたヨーテリーをコツコツと育て、そして戦わせたのだ。
「これで・・・決めるんだから!オノノクス!{げきりん}!」
チャンピオンのアイリスが、オノノクスにげきりんを命令する。
「・・・ここで・・・負けるわけには行かない!頼む、ムーランド!最後の力を振り絞ってくれ!」
「うぅ~~~・・・!」
ムーランドは低くうなり声をあげ・・・
「わお~~~~~ん!」
力を溜めた。そして・・・
「{ギガインパクト}!」
キラ~~~ン・・・

ドゴ~~~~~ン!

「・・・」
トウヤの母は、テレビの前で涙が止まらなくなった。
「僕たちトレーナーは、ポケモンがいる限り、無敵です。
 最高の仲間がいる限り・・・僕たちトレーナーは、どこまでも輝きを放つ事が出来ます!
 だから、僕たちは冒険にでます。・・・自らの心にある。答えを探し出すために!」
「お~う!すんばらしい言葉、ありがトォ~!以上!ポケモンリーグから、チャンピオンの挨拶をお伝えしたぜぇ!」
キョウヘイは、笑顔で手を振る。
そしてムーランドも、笑顔でうなった。
「・・・」
そのムーランドは、何かをやりきったような顔をして、吹っ切れているようにも見えた。
・・・そうだ。
自分はただ、ヨーテリーを縛り付けていただけだった。
ヨーテリーを使って孤独を紛らわし、ヨーテリーが本当にやりたいことをやらせなかった。
トウヤの心配など、しない方がいいのだ。
トウヤは、元気なのだ。
自分に出来ることは、「トウヤの帰りを信じて待つことだけしかない」のではない。
トウヤの帰りを信じて、帰ってきたら思い切り抱き締めて・・・
「お帰り」と、言ってあげる事だ。
そう考えると、トウヤの母の視界は・・・
朝日が昇るかのように、光が差し込んできた。
ガチャ・・・
「・・・!?」
その時、勢いよく、玄関の扉が開く。
振り返ると、そこには帽子を被った少年がいた・・・



・・・ただいま。母さん。

・・・お帰り。トウヤ!

2年前と同じ、春の日差しが差し込む日の事だった。

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