あなたは、行ってしまった。
自分の好奇心の、おもむくままに。
自分の答えを探して。
自分の、夢をかなえるために。
もし・・・
あなたがその「旅」の途中で傷ついてしまったら、あたしは・・・
ママは、どうすればいいの?
あなたの身に何かあったら・・・
ママは・・・どうすればいいの・・・?
ママは・・・ママは・・・
・・・
カノコタウン。
季節は冬。柵の向こうの海には、ダイヤモンドダストが見える。
ガチャ・・・
「・・・」
部屋に入る女性。この女性は、イッシュリーグのチャンピオン。トウヤの母だ。
トウヤの部屋は、あの日からずっと変わってはいなかった。
出しっぱなしのゲーム機。
開いたまま、電源が入っていないパソコン。
一箇所、破れたじゅうたん。
そして、イッシュリーグのチャンピオンのみ、身に付けることを許された「おうじゃのしるし」。
「・・・」
写真立てには、無邪気に微笑むトウヤと、最後にチャンピオンのアデクのポケモンを打ち倒した、
ダイケンキの姿が見えた。
「トウヤ・・・」
トウヤは今、何をしているのか。トウヤは今、どこにいるのか。
トウヤは、Nに会えたのか。トウヤは、自分自身の答えを、Nにぶつける事が出来たのか。
知る事は叶わない。
手を伸ばしても、トウヤの元には当然届かない。
不気味なくらいの静けさが残る部屋から、トウヤの母はある物を持ち出す。
それは、トウヤが始めて捕まえ、母に渡したポケモン・・・
ヨーテリーの入った、モンスターボールだった。
そのヨーテリーを今日も、カノコタウンの中で散歩させる。
「きゃわん!きゃわん!」
ヨーテリーには、黒いリボンがついていた。
これはトウヤが、せっかくの母へのプレゼントに、と、リボンをつけたことから、
2年間一時もリボンを外さずに、右前足につけている。
「・・・じゃ、行こうか」
むしろ、ヨーテリーが自分の心の支えとまでになっていた。
ドンドン・・・
1階まで降りてきた時、ドアをノックする音が聞こえた。
ガチャ・・・
ドアが開く。
いつものようにノックなしで勢いよく開かないので、トウヤではないと、一瞬で気付いた。
「あの~。わたしです。ベルですけど~」
ベル。
トウヤの友人だ。
「あら、こんにちは。今お菓子を出すわね」
「うわぁ、ありがとうございます!」
フエンせんべいを取り出し、温かいお茶を入れる。
せんべいを一口かじった後、ベルは言った。
「あれから・・・もう2年経つんですね」
「・・・そうね・・・」
・・・
ドタドタドタ!
ドンガラガッシャ~~~ン!
バタバタ・・・!ズシ~ン!ドスドス!
「あら、やってるわね」
トウヤが始めて、ポケモンを手にした日も、冬の日だった。
無論その頃は、トウヤがいなくなることなど、知る由もない。
「騒がしくして本当にすみませんでした」
2階から3人が降りてくる。深々と頭を下げるチェレン。泣きそうな顔のベル。
そして、あははと、おどけた顔をするトウヤ。
「あ、あのう、おかたづけ・・・」
「かたづけ?いいのいいの!あとであたしがやっておくから。それよりアララギ博士に会わなくていいの?」
と、笑顔で言う。
「はい!では失礼しますね。じゃあアララギ博士にお礼を言いに行かないと・・・」
「あっ! あたし一度家に戻るね。おばさん、どうもおじゃましましたあ」
チェレンとベルが家を出て、トウヤと2人きりになった。
「か・・・母さん。あの・・・さ」
はにかむトウヤ。しかし、トウヤの母は・・・
「トウヤ、ポケモン勝負ってものすごーくにぎやかなのね!下までポケモンの鳴き声とか聞こえてきたわよ!」
「う・・・うん・・・でも、うちの中であんなに暴れまわっちゃって・・・」
「思い出しちゃうなー、初めてのポケモン勝負!そうだ!勝負をしたポケモンを休ませてあげないと!」
トウヤの母は、ボロボロなミジュマルを横に寝かせ、ミジュマルの汚れを丁寧に拭き始めた。
「あ、ありがとう。母さん」
「いいのよ!若いうちは色々と無茶しなきゃ!」
それから二週間。季節は春になった。
トウヤが家に帰ってきた。
「お帰り、チャンピオンさん!」
「や、やめてよ母さん。あんまりもてはやさないで!」
「うふふ・・・だって嬉しいもん。自分の息子がチャンピオンだなんて・・・」
「もう・・・」
言葉とは裏腹に、トウヤは嬉しそう・・・
「・・・?」
でも、なかった。
「僕は今回の冒険で、色々気付いた事があるんだ」
食事中に、トウヤは、いきなり話し出した。
「え?どうしたの?ママに聞かせてくれると嬉しいな」
「・・・じゃあ母さん・・・正直に言っていい?」
「・・・どうしたの?」
急に固い表情になって、トウヤはこう言った。
「・・・僕は、この地方を離れたい」
「え?」
その言葉に、母は凍りついた。
「・・・Nって言う人に会ったんだ。その人は、なんだか悲しそうな表情をしてて・・・
僕に、<夢を叶えろ>って言った。
僕は・・・夢を叶えたい。だから・・・ポケモン図鑑を完成させるために、色々な地方へ行きたい。
それに・・・」
「トウヤ」
母は話を遮って、
「ママは以前言ったはずよ。あなたのしたいようにすればいいって」
「・・・母さん・・・?」
「・・・ママ、トウヤがそんな風に決意してくれて、とっても嬉しいな」
そしてトウヤの手を握る。
「ごめんね!これから旅に出ようとしてるのに、しめっぽい雰囲気にしちゃったわね!」
「・・・母さん・・・」
トウヤは涙を流し始めた。
「トウ・・・ヤ?」
「あ、ご・・・ごめん。その・・・」
「言いたい事があるなら、ちゃんとママの目を見て言ってくれない?」
「・・・」
しばらく待ってから、トウヤは最後にこう言った。
「ありがとう・・・ごめんね・・・母さん・・・!」
「あら、謝らなくていいのよ。大人なんだから、いつまでも泣かないの」
そして翌日・・・
「・・・たまには、連絡するのよ。帰って来れなくてもいいから、声を聞かせてよ」
「うん」
「忘れ物はない?・・・ポケモンの体調は万全?・・・お金は、ちゃんと持った?」
「大丈夫。さっきもう一度チェックしたから・・・」
「そう・・・」
トウヤの母が、トウヤの背中を物悲しく見つめる。
「・・・母さん・・・」
しかしトウヤが振り返ると、
「何をしてるの?早く行かないと、そのNって言う友達と会えなくなるかも知れないんでしょ?」
と、笑顔で急かす。
「・・・ありがとう。母さん。僕・・・絶対に答えを見つけ出して、帰ってくるから」
「えぇ。その時は、またあなたの大好きなハンバーグを作ってあげるわ」
「・・・うん!」
最後に親子は、ギュッと抱き合って、
「じゃあ・・・行ってきます!」
そして別れた。
トウヤの母は、それを見ながら、ゆっくりと手を振った。
・・・そして、2年の月日が流れた。
・・・
「・・・おばさん」
ベルが突然声を出した。
「・・・え?」
「おばさん・・・最近何だか変です」
いきなり予想外の事を言われてしまう。
「そ、そうかしら?」
「何だか、2年前に比べて、表情が無いというか・・・あ、大きなお世話ならごめんなさい!」
「・・・」
言われて、はっとする。
確かに自分は、2年前に比べてため息の数が増えた。
目に覇気が無いと、近所の奥さんから言われたこともある。
「・・・大丈夫よ。ベル」
「そうですか・・・」
ベルは心配そうな顔をするので、いっそ聞いてみた。
「ねぇ、ベル。もし・・・もし明日、トウヤが帰ってきたなら、あたしはどうすればいい?」
「・・・う~ん・・・あくまで、普段通りに出迎えてあげたらどうですか?」
「普段どおり?」
「はい。普通に、<子どもを迎える親>って感じで!」
ベルは笑顔で言うが、その笑顔はすぐに曇ってしまう。
「・・・何?」
と、トウヤの母は聞く。
「おばさん・・・やっぱり無理してますよ」
「え?」
「・・・あっ。お茶とせんべい、ごちそう様でした」
不穏な空気を感じたベルは、いてもたってもいられなかった。
ベルはせんべいが乗っていた皿をすすっとトウヤの母に渡すと、そそくさと家を飛び出した。
「・・・」
1番道路。
ヨーテリーを連れて、トウヤの母はやってきた。
「ここから、トウヤは・・・」
2年前に比べて生態系が変わり、ミルホッグやハーデリアをよく見かけるようになった。
2年前と比べて、ここにやってくるトレーナーは屈強なトレーナーが増えた。
そして・・・何より・・・
「・・・」
トウヤが、いない。
この道路の付近でよく遊んでいたトウヤが、
よく野生のヨーテリーに噛みつかれて、泣きながら帰ってきたトウヤが、
この道路から、冒険を始めた、トウヤがいない。
「・・・」
威勢良く送り出したものの、「トウヤが帰ってこない」と言う現実が、これほどまでに辛く、
これほどまでに、悲しいものだとは、トウヤがいなくなるまで気付くことなどなかった。
そしてトウヤの母の目から、一粒の涙が零れ落ちた。
その時だ。
「あ!」
ヨーテリーが1番道路の草むらに飛び出した。
「ダメ!そっちは・・・!」
その時、あるポケモンが草むらから飛び出してきた。
ミルホッグだ。
「わう!」
相手を威嚇するヨーテリー。
「ダメ!戻って!ヨーテリー!」
「わうん!きゃうん!」
命令を聞かずにミルホッグに対して吠え続ける。
「・・・」
もしかして、戦いたいのだろうか・・・?
トウヤと似て、やんちゃな性格のヨーテリー。
さらに負けん気が強そうな見た目をしていた。
しかしミルホッグはそんなヨーテリーにも動じず・・・
ガブリ!
ひっさつまえば。1撃でヨーテリーは倒れてしまった。
「・・・ヨーテリー」
・・・やってしまった。
まるで、小さな穴が広がっていくかのように、心の中に空虚感が襲ってくる。
そのヨーテリーとトウヤの母を見て、にやりと笑った後、ミルホッグは森へ逃げていった。
ヨーテリーの左頬からはおびただしい出血があり、傷もかなり深い。
「・・・ごめんね・・・ヨーテリー・・・!ごめんね・・・!」
トウヤの母は、倒れているヨーテリーを抱き締めながら、動かなくなった。
翌日・・・
この日もトウヤの母は、家でゆっくりとした時間を過ごしていた。
ヨーテリーは止血を施し、何とか一命を取り留めた。
しかし左頬の傷は、簡単には消えなさそうだ。
その時だ。
ガチャ!
勢いよくドアが開く。
「・・・!?」
一瞬振り返ろうとしたが、トウヤの母は「普通の母親」を貫いてこう言った。
「あら、お帰り。お友達には会えたの?確かNって言う名前の・・・」
心臓が飛び出しそうなぐらいの、異常な緊張感の中、そう言うと・・・
「え?」
トウヤより少し低めの声が返ってきた。
「?」
振り返ってみると、そこには赤いサンバイザーを身につけた、トウヤとはまるで別人の少年が。
「す、すいませんっ!間違えました!」
と、少年がうろたえるが・・・
「あら、あなたキョウヘイ君でしょ?」
トウヤの母は言う。
「え?・・・そ、そうですけど・・・」
「あたしとあなたの母親は、古くからの付き合いなの」
「そ、そうなんですか・・・」
「まあ、せっかく来たんだし、上がっていきなさいな」
キョウヘイに、フエンせんべいと緑茶を出そうとするが・・・
「あら」
どうやら緑茶が切れていたらしい。
「ごめんなさい。せんべいしかないけど」
「そんな、いいですよ!」
「いいのいいの。若いうちはたくさん食べなきゃ。それに、こんな田舎町まで足を運んでくれたお礼よ」
「え?・・・じゃあ・・・いただきます」
ぱりっと一口。
「おいしいです。実は今日朝ごはん食べなかったから、おなかが空いてて・・・」
「それはよかったわ。若いうちは無茶するのがいいけど、程ほどにしなきゃダメよ」
「えへへ・・・」
はにかむキョウヘイ。その姿はトウヤに少し似ていた。
「・・・ところで・・・さっきの、お友達には会えたのって言うのは・・・」
申し訳なさそうに聞いてきた。
「あぁ、あれ?ただの独り言よ。気にしないで」
上手くはぐらかしたと思うトウヤの母。
「・・・違ったら申し訳ないんですが」
しかしキョウヘイは、鋭くこちらを問い詰めてきた。
「この家って・・・<トウヤ>って人の家ですか?」
「・・・!」
思わずたじろぐ。
「・・・当たりの・・・ようですね。
実は、チェレンさんとベルさんから、トウヤと言う人の話をよく聞いていたんです。
そして・・・先ほど言っていた、Nからも」
「・・・そう・・・なの・・・」
「僕も、そのトウヤと言う人のことが気になります。話せる範囲でいいので、話していただけませんか?」
「・・・」
トウヤの母は、重い口を開いた。
2年前、トウヤがこの家から旅立っていった事。
トウヤからの連絡がまったくない事。
そして、トウヤがもし帰ってきたら、自分がちゃんとトウヤに向き合えるかと言う事・・・
それを全て洗いざらい、キョウヘイに話してみた。
「・・・便りがないと言うのは元気な証拠なんだけど、寂しいのが嬉しいだなんて・・・
母親って難しいものね・・・」
「・・・」
「・・・もし・・・」
トウヤの母は疑問をぶつける。
「もし、トウヤの身に何か起こっていたら・・・」
「それは想像してはいけないことです」
「・・・!」
まるでにらむかのような眼光を、トウヤの母に向ける。
「あなたに出来る事は、信じて、待つ事。ただそれだけです」
ごめんなさいと、頭を下げたあと、こう答えた。
「先ほど・・・あなたはちゃんとトウヤさんに向き合えるか、と言いましたよね。
・・・僕は、トウヤさんのことを何も知りませんし、あなたのことも何も知りません。
だけど、・・・だけどですよ。もし、トウヤさんがあなたの元に帰ってきたのなら・・・」
少しだけ間を開けた後、キョウヘイはこう言った。
「怒ったなら怒ったと、悲しかったなら悲しかったと、寂しかったなら寂しかったと、
そして、帰ってきて嬉しいなら、帰ってきて嬉しいと、素直な言葉をぶつければいいと、僕は思います」
「素直な・・・言葉・・・?」
「そうやって、感情を思い切りぶつけてあげれば、自然とトウヤさんも笑うと思いますし、
感動したなら涙を流すと思います」
まっすぐな目をトウヤの母に向けてキョウヘイは話した。
「・・・じゃ、じゃあもしトウヤが、立ち直れないほどの傷を負って帰ってきたら・・・」
「その時は・・・」
にこっと笑顔を浮かべて、
「ギュッと、抱き締めてあげればいいと思います」
と言った。
「トウヤさんが求めているものは、家族の暖かさかも知れませんし」
「・・・」
「感情をぶつけて、トウヤさんの傷付いた心は受け入れる。
親であるあなたなら、出来ることだと思います」
キョウヘイは、チラッと時計を見た。
「あ、まずい。もうこんな時間だ・・・ずいぶん長居しちゃったなぁ。
ベルさんの家って、どこにありますか?」
「ベルなら、さっき<1番道路に行く>って言ってたわ。まだ1番道路にいるんじゃないかな?」
「本当ですか?ありがとうございます!せんべい、ごちそうさまでした」
深々と頭を下げるキョウヘイ。
「キョウヘイ君」
トウヤの母は、キョウヘイに何かを握らせた。
「これを・・・持っていって」
「これは・・・?」
それは、トウヤが最初に捕まえ、母に贈ったポケモン・・・
ヨーテリーの入ったモンスターボールだった。
「あたしは、このヨーテリーを逃げ場所にしていたのかもしれない・・・だけど・・・
君のような素晴らしいトレーナーに、このヨーテリーを預けられるなら、あたしは健やかな気分よ。
あたしが持っていると、この子にも悪いし、この子・・・戦いたがってるし!
だから・・・お願い。この子をもらって」
「・・・」
キョウヘイは、そのモンスターボールを持ち上げると、
「・・・大切に育てます」
と、バッグに入れた。
そしてキョウヘイはトウヤの家を飛び出す。
「・・・」
その姿は、旅に出るトウヤを彷彿とさせるものだった。
そしてそれから1ヶ月。
テレビを見ていると・・・
「2度目のリーグ制覇、おめでとう!」
褐色の肌のアフロ姿の男が、インタビューをしている。
「ありがとうございます」
そこに映っていたのは、キョウヘイだった。
「いや~、しかし!最後にチャンピオンのオノノクスに対して放ったムーランドの渾身のギガインパクト!震えたよ~!」
「ムーランド・・・?」
トウヤの母は、はっとした。
「いえ、僕の力だけではないです。ムーランドが、心の底から頑張ってくれたから、僕は勝てたと思います」
「ばう~!わうわう!」
笑顔でムーランドに寄り添うキョウヘイ。
「・・・これ・・・!?」
そう、トウヤが最初に捕まえたムーランドである。
左頬に噛み付かれた痕がある上に、右前足に黒いリボンが巻かれているので間違いない。
キョウヘイは、トウヤが初めて捕まえたヨーテリーをコツコツと育て、そして戦わせたのだ。
「これで・・・決めるんだから!オノノクス!{げきりん}!」
チャンピオンのアイリスが、オノノクスにげきりんを命令する。
「・・・ここで・・・負けるわけには行かない!頼む、ムーランド!最後の力を振り絞ってくれ!」
「うぅ~~~・・・!」
ムーランドは低くうなり声をあげ・・・
「わお~~~~~ん!」
力を溜めた。そして・・・
「{ギガインパクト}!」
キラ~~~ン・・・
ドゴ~~~~~ン!
「・・・」
トウヤの母は、テレビの前で涙が止まらなくなった。
「僕たちトレーナーは、ポケモンがいる限り、無敵です。
最高の仲間がいる限り・・・僕たちトレーナーは、どこまでも輝きを放つ事が出来ます!
だから、僕たちは冒険にでます。・・・自らの心にある。答えを探し出すために!」
「お~う!すんばらしい言葉、ありがトォ~!以上!ポケモンリーグから、チャンピオンの挨拶をお伝えしたぜぇ!」
キョウヘイは、笑顔で手を振る。
そしてムーランドも、笑顔でうなった。
「・・・」
そのムーランドは、何かをやりきったような顔をして、吹っ切れているようにも見えた。
・・・そうだ。
自分はただ、ヨーテリーを縛り付けていただけだった。
ヨーテリーを使って孤独を紛らわし、ヨーテリーが本当にやりたいことをやらせなかった。
トウヤの心配など、しない方がいいのだ。
トウヤは、元気なのだ。
自分に出来ることは、「トウヤの帰りを信じて待つことだけしかない」のではない。
トウヤの帰りを信じて、帰ってきたら思い切り抱き締めて・・・
「お帰り」と、言ってあげる事だ。
そう考えると、トウヤの母の視界は・・・
朝日が昇るかのように、光が差し込んできた。
ガチャ・・・
「・・・!?」
その時、勢いよく、玄関の扉が開く。
振り返ると、そこには帽子を被った少年がいた・・・
・・・ただいま。母さん。
・・・お帰り。トウヤ!
2年前と同じ、春の日差しが差し込む日の事だった。