石の街とグレムリン

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読了時間目安:14分

作者:花田 紫苑さん

 目覚まし時計が、壊れていた。針ははずれて、短針は枕の横、長針はベットの下に転がっていた。アラームをセットした時間から、三十分以上経っているが、一向に鳴らない。鳴るはずがない。
「…早起きな体質で良かった」
 シンジは呟いた。いや、とくに急ぎの用事もないが。
 ここは、シンオウ地方、トバリシティ。隕石が有名なので、『石の街』とも呼ばれている。
 これは、そんな街で起きた、小さい大事件―――

「あ、おはよう、シンジ。今日はいつもより遅かったね」
 シンジの兄、レイジが言った。
 レイジは、この家で、育て屋を経営している。シンジのポケモンも、主人に呼ばれるまでここで過ごしていたりする。
「ん、あぁ。時計が、壊れてたからな…」
 険しい表情のシンジ。顔を洗いに洗面所へ向かった。
「え、時計が?まさかシンジ、寝相が悪くてはたき落としたんじゃないの?」
 ころころと笑いながら、レイジは言った。
「ンな事あってたまるか。俺は寝相は良い方だ」
 さすがに腹が立ったらしい。
「まあまあ。…あ、そうだ。昨日の夜、サラちゃんから手紙が来てね。今日もしかしたらこっちに来るかもしれないってさ」
 レイジの言葉に、シンジはぴくりと反応した。
 サラというのは、幼稚園やスクールで一緒だった、シンジの先輩であり、幼なじみだ。
 一時期、彼女に恋心を抱いていた様な頃もあり、本人としては複雑な様だ。
(…いや、アレはもう昔のことだ。サラもとっくに忘れているだろう。いや、忘れていて貰いたいが)
 何にせよ、会うのはだいぶ久々なので、朝ご飯を食べ終わる頃には、いつ来るのだろうと、待ちわびてたりもするのだ。

 さて、話は変わってホウエン地方の空。
 美しいチルタリスが、自分の体の様に青い空を飛んでいた。その上には、顔立ちの整った、一人の少女が乗っていた。右腕には、なぜか、包帯が巻いてあった。
 この状況から察するに、おそらくはこのチルタリスの主人だろう。
 少女は、ふと、自分の腕時計を見た。
 そんなに高価なものでもないが、長い間使ってきた物なので、愛着があるのだ。
 その腕時計が、今朝起きたときに、壊れていたのだ。
 長針がなくなっており、短針も、明後日の方向を向いていた。鎖も切れて、腕に付けられなくなっていた。すなわち、これはもう腕時計ではなくなってしまっているのだ。(腕時計って言ったじゃん)
 一体なぜこうなったのか、少女は不思議に思うばかりだった。
 まあ、時計はまた新しいのを買って、これは向こうに行ったときの土産話にでもしようと、これ以上詮索しようとは思っていない様だ。
 そんな彼女の下には、彼女と瓜二つの別の少女が、自分の手持ちのポッチャマを抱え、のんびり歩いていた。

 ちょうどお昼の時間になった頃、シンジ宅の前に、チルタリスが舞い降りた。無論、あの少女のチルタリスだ。
「あ、いらっしゃい。サラちゃん」
 レイジが言う。
 シンジの手持ち達も歓迎した。
「お久しぶりです、レイジさん。…その子達は、シンくんのですか?」
「え、うん。って、シンくんって…」
 『シンくん』というのは、もちろんシンジのことだ。レイジは、シンジにサラが付けたニックネームを、まだ知らなかった様だ。
 しかし、そんなレイジを差し置いて、サラはシンジのポケモンを見ていた。
「このドダイトスって、たしか、シンジが最初に手に入れたナエトルだっけ。あ、このマニューラ、カワイイ。あ、このトリトドンは、シンくんにしてはマイナーね…」
 その整った顔でまじまじと見つめられて、シンジのポケモン達は、赤面したり、見つめ返したりと、いろんなリアクションを見せた。
「えっと。で、この子は…」
「……」
 不意に視線を感じたサラ。顔を上げると、シンジがいた。その目は『何やってんだ…』と、呆れている様に見えた。
「あ、シンくん。久しぶり!元気してた?」
「…まあまあ、です」
 どうやら、サラには敬語の様だ。
「へぇ~。ねぇねぇ、このエレキブルって、シンオウリーグの準々決勝で、最後に使ったポケモンでしょ?5Vって凄いね!」
「あ、はい。個人的にも使える奴です」
「そっか~。まあ、使えないポケモンを、シンくんが手持ちに置いておくなんて事は、まずないものね」
 サラが、少し冷ややかな目で、シンジのポケモン達を見ながら言った。
 その時のサラの顔に、レイジは少し身震いをした。が、すぐに元の笑顔に戻り、
「と、とりあえず、お昼にしよっか。今日は、いつもより多めに作っておいたんだ」
「え、良いんですか?じゃあ、お言葉に甘えて…」
 三人で家に入る。屋根の上にいる、謎の物体には目もくれず…

(やれやれ、サラちゃんって、顔は綺麗だし、知識もあるし、基本的に優しいんだけど、なんか取っつきにくいんだよなぁ… 近寄りがたい訳じゃないけど、裏があるっていうか…)
 ポケモン達にフードをあげながら、ふと、レイジは思った。食卓に目をやると、旅の思い出を話すシンジと、頷きながら、笑ったり真顔になったりするサラがいた。
(しかし、シンジには他より優しいな… そういえば、小さい頃はよく一緒に遊んでたとか、シンジ言ってたっけ)
 その時、サラが口を開いた。
「そういえば、今朝起きたら、私の腕時計が壊れてたの」
 その言葉に、シンジの動きがピタリと止まった。レイジも、うっかり、フードの箱を地面に落としてしまいそうになった。
「…どうしたの?」
 心配したサラがシンジに聞く。
「…いや、偶然だなと思って… 俺の目覚まし時計も、今朝壊れてたんです」
 それを聞いたサラは、黒く澄んだ瞳を丸くした。
 どうやら、これはイヤでも詮索しなくてはならなくなってしまった様だ。

「…というわけで、さっそく犯人捜しだ」
 レイジが言った。
(なんか、自分だけ楽しそうだが…?)
 シンジとサラの思いは、見事にシンクロした様だ。
「…で、どうやって探すんだ?」
 シンジが問う。
「………」
「………」
「………」
 しばらく沈黙が続いた。
「…あ、犯人が夜に活動するなら、その頃を見計らえば!」
 サラが案を出した。
「そうか。なるほど」
「じゃあ、この時計で誘き出そう。時計が犯人の目当てなら、すぐ来るはずだ」
 シンジも続いて言った。
「よし、じゃあさっそく今夜、作戦実行だ!」
(そういや、レイジさんor兄貴は、何にもしてない様な…)
 シンジとサラの意見が、またシンクロした。

 そんなこんなで夜。
「…で、なぜに俺の部屋で…」
 シンジが、文句ありげに言った。
「いいの。犯人を捕まえるためよ。文句言わない」
 サラが少しきつく言った。シンジは、サラには頭が上がらないようで、渋々受け入れた。
 数分後、どこからか物音がした。天井の方だ。
「え、なんで天井から…?」
 レイジが小声で言った。
 その時、天井の一部分が空いた。そして、そこから小さな何かが飛び降りたのだ。
(なんだあれ。俺の部屋ってどうなってるんだ…?てか、あの小さいのは何だ)
 ツッコミどころはたくさんあるが、まずは犯人の捕獲だ。詳しいことは、後で聞けば良いだけのこと。
 その小さいのは、時計を見つけるとすぐに駆け寄った。
 間違いない。三人は確信した。
「悪党ご用だー!!」
「何そのセリフ?!」
「ぐえっ」
 持っていた網で、犯人と思われるちっこいのを、無事捕獲。
「さあ、犯人は誰?」
 網の中を覗くと、懐中時計を首に掛けた、白黒の、二本のしっぽのピカチュウが目を回していた。

「…さて、一体どうしてこんな事をしたのか、洗いざらい話して貰おうか。100文字以内で」
 目が覚めたそのピカチュウに、レイジが聞いた。
「いや、ポケモンに話させても…」
「しゃーない。話すか」
「喋った?!」
 なんとこの二股に別れたしっぽのピカチュウは、人の言葉を理解でき、喋れる様だ。
「え~、まぁ、話せば長いとは思うが、覚悟は出来てるな?」
「偉そうな口きいてないで、さっさと話しなさい」
 サラが、満面の、かつ恐ろしい笑顔で言った。
(さすが。『トバリの鬼姫』と呼ばれるだけのことはあるね…)
 サラを見て、レイジはそう思った。
「まあ、100文字以内かはわからんがな」
 さて、そのピカチュウの話をまとめると、こういう事になる。
 このピカチュウは、『グレムリン』とかいう、機械にイタズラしたりする妖精の化身で、『クロノ』というそうだ。
 先祖は、機械の作り方を教えるなど、人間達の役にも立っていたそうだが、だんだと、人間達がそれに対する感謝を忘れていったようで、それからというもの、グレムリン達は、機械にイタズラをして、憂さ晴らしをしていたようだ(もはやポケモン関係ない…)。そして、クロノの世代の頃には、イタズラこそが、グレムリンの生き甲斐とまでなってしまったようだ。さほど迷惑な話だが。
 ちなみに、どうして一日に何カ所もの場所で、イタズラが出来るのかを聞いたところ、影分身を使っていたとのこと。
「なるほどな…」
「でも、なんで時計にこだわるの?」
 サラがクロノに聞いた。
「いや、こだわってるって言うか、偶然そこに時計があっただけだし。それに、目覚まし時計に頼って寝たら、翌朝目が覚めて『目覚まし鳴ってないからあと何分か寝てよう』みたいなことになって、ふと時計を見てみたら壊れてました、的なシチュエーションって、想像するだけで面白いじゃん?だから…」
 確かに、見てるだけなら、それは面白いかもしれない。しかし、当の本人にとっては、それは不幸だ。人の不幸を面白がるのはどうかと。
「…ふざけないで」
「へ?」
 ふと、サラが口を開いた。
 実は、サラは旅に出る直前に、交通事故にあったことがあるのだ。右腕の包帯は、その印だ。と言った後、サラは続けた。
「あの日、私の目覚まし時計が壊れてたの。そう、ちょうど昨日のシンくんのみたくね。最初のポケモンが貰える大事な日よ?絶対に遅刻なんてしたくなかった。だから、急いで研究所に向かう準備をして、すぐに出掛けた。でも、あのとき、周りをよく見てなかったから、走ってきたトラックに気がつかなかったの。そして…」
「あの事故が、起こったんだ…」
 レイジの言葉に、サラは頷いた。
「…あ、どっかで聞いたことのある話だと思ったら、それ、オレがシンオウ地方で初めてやったイタズラだ」
 クロノが言い終わるか否や、クロノは宙を舞った。そして、向かい側の壁に、思いっきりぶつかったのだ。
「?!」
「…シンくん?」
 クロノを投げたのは、シンジだった。
 そりゃ、自分の先輩(初恋の人)が事故にあった、大本の理由が、今目の前にいるのだ。気が動転したのだろう。
「…シ、シンジ、気持ちはわかるが落ち着け。な?」
 レイジになだめられ、シンジもその場に座る。
 クロノはと言うと、壁に頭をぶつけ、またしても目を回していた。

 いつの間にか、朝日が差していた。
「スンマセン!!!ホント、反省してますんで!ホント、スンマセン!!!」
 クロノが土下座して言った。
「…どうします?煮ます?焼きます?」
「ギャアーーーーーーーーー!!!お命だけはー!!」
 クロノが、黄色い顔を真っ青にして言った。
「…そうね。こんなに反省してるし。今回だけは許しましょ」
 サラの発言に、シンジもクロノも、目を丸くした。
「ホントに?!ありがとう嬢ちゃん!!えっと、サラだっけ?」
「えぇ」
「ちょ、良いんですか?もしかしたら、死んでたかもしれないんですよ?!」
 シンジが、信じられないという顔で言った。
「もういいのよ。今、私は生きてるんだから。それに、この子が二度とイタズラしない様に、そのぬるくて使えない生き方を、片っ端から直していかないとだもの!」
 トバリの鬼姫は、やる気満々の様子で言った。
 命が助かったとはいえ、今後の自分の人生を想像したクロノは、思わず身震いをした。
「みんな~、朝ご飯出来たよ!」
 レイジの声が家中に響き渡った。
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