私は今、ポケモンコンテストの祭典であるグランドフェスティバル決勝戦の舞台に立っている。
相棒のアゲハントと一緒に……。
Power of Dream
十一歳の頃に私はアゲハントともに旅に出た。各町で行われているポケモンコンテストに参加するためだ。
でも、そのときに私がトップコーディネーターになるための手前までこれるとは思っていなかった。
私は夢も希望もない一人の少女……。そう、ただポケモンコンテストに出られればいい。そんな気持ちでコンテストに参加していた。
私の第一回のコンテストは惨敗。一次審査で負ける始末だった。その大会で優勝したのは驚いたことに私の親友のハシミだった。
ハシミは私より遅れて旅に出た。彼女もコンテストに出るために旅に出たのだ。そんな彼女には夢がある。
大会が終わった後、私はハシミに聞いた。
「どうしたらそんなに強くなれるの?」
「そうだなぁ……。練習をいっぱいすれば強くなれるよ。いっぱいいっぱい練習するんだ」
「私だって練習したよ。それなのに一次審査落ち」
「じゃあ、夢かなぁ」
「夢?」
「そう、夢。私にはトップコーディネーターになるっていう夢があるの。私はそれに向かってがんばってる。でも、ルリカはコンテストに出たいって言うだけじゃない? だから、勝てないのかもよ」
なにをいう。夢なんてなくたって、コンテストに勝つことはできる。まったく、ハシミは私をからかっているのか。そう思いながら、ハシミと別れ、次のコンテストへと向かい練習を始めた。
だけど、いくら練習しようが練習しまいが、結果はほとんど一次審査落ち。いいときは二次審査に勝ち進んだけど、結局は負けた。
そんな戦いを続けていた、私。五回のコンテストに出場したが結果は〇勝五敗。最高は二次審査の準々決勝だった。
「もうやめようかなぁ」
私はそう思った。これだけ練習してるのに勝てない。それならもうやめてしまおう。そう思った。
もう、次のコンテストで勝てなかったらやめよう。そう決心して望んだポケモンコンテストで、私は彼と出会った。
そのコンテストでの結果はいつもと同じ一次審査落ちだった。私はため息をついて控え室にあるイスに「どすっ」という音を立て座った。
本当に家に帰ろう……。こんなことを続けていても仕方がないし……。でも、お母さんになんていわれるかな? ちゃんと見送ってくれたお母さんになんて言おう。そんなことが脳裏をよぎった。
「ねぇ、君ルリカちゃんだよね?」
あれこれ家に考えるときのことを考えていた私に誰かが話しかけてきた。頭を挙げると、そこには十四歳ほどの男の子が立っていた。男の子に並んでグラエナもいる。
私は彼の顔を見て思った。今回の大会の優勝者だ。一体、優勝した人が私になんのようだ? 私はからかいに来たのだろうか。そんな風に思いながら、返事をした。
「はい、そうですけど、何か用ですか?」
「君の一次審査の演技良かったよ。アゲハントのぎんいろのかぜが綺麗だった」
「ありがとうございます」
私は喜んだ。感想なんていわれたことなかったし、まさか、優勝者に感想を言われるとは思いもしなかった。
「でも、君の演技にはポケモンとの一体感がなかったなぁ。ポケモンと君の心がばらばらだよ」
「ポケモンとの心?」
「うん。もしかしてコンテスト初心者?」
「いいえ、今回の大会で六回目です。リボンは一つも持っていませんけど」
「そうか。じゃあ知っておかなきゃいけないよ。コンテストはポケモンの心とトレーナーの心が一緒にならないと勝ち抜けない。大観衆の中、一匹のポケモンの心だけじゃプレッシャーに押しつぶされちゃうよ。トレーナーと心を合わせられれば二人分の心となりプレッシャーにも押し勝てるようになるんだ」
ポケモンの心と私の心を一緒にする? そんなことはできっこない。私は内心そう思った。でも、よく考えてみると彼の決勝戦の試合でのグラエナはなにか生き生きしていた。
それに比べて私のアゲハントは何かおどおどしているような雰囲気があった。もしかして、これは心の問題なのだろうか? 私はそう内心考えていた。
「それと君には夢があるかい?」
またか……。私はそう思った。ハシミにも言われたけど私には夢なんてない。ただ、コンテストに出られればいいそう思っていたのだから。
私はそのことをそのまま言った。すると、彼は言った。
「それは厳しいなぁ。何の夢もないのにコンテストに出るなんて問題があるよ。それにただ出たいだけなら勝ち負けはどうでもいいんだろう? だったらさっきみたいに落ち込んでいる意味がわからないよ」
そういわれればそうだ。確かに私は勝ち負けにはこだわっていなかった。けど、今考えればコンテストで勝てないからやめるっていている。あれ? これじゃ私の考えが矛盾している?
「もし、このままコンテストに出るならちゃんと夢を作っておくといいよ。そして、ポケモンの心と一緒になってごらん。そしたら、絶対に勝てるからさ。それじゃ、俺は行くな」
そういって彼は私のところから去っていった。
その日、私は考えさせられた。ポケモンと心を合わせる? 夢を持て? そんなこと私にできるだろうか。
考えても考えてもなにも思い浮かばない。とりあえず、私はポケモンと心を合わせるということから始めた。
それから何日もたった日のコンテストに私は出場した。
前の大会でやめるつもりだったけど、彼の言葉が私の心に響いたんだ。
その日の大会の成績は上々だった。なんと、毎回一次審査落ちの私が決勝戦まで残ったのだから。でも、負けてしまった。負けてしまったけど、私は大切なものを手に入れたような気がした。
「う〜ん、私は後夢が足りないのかなぁ?」
その日の夜に私の頭の上に止まっているアゲハントに尋ねた。
アゲハントは元気よく返事した。きっと、「そうだよ!」といってくれたのだろう。コンテストで疲れているのに力強い鳴き声で返事をしてくれたのだから。
「夢かぁ。私に夢なんてあるのかなぁ」
そんな風に思っていたとき、ふっとハシミのことを思い出した。
「そういえばハシミは『トップコーディネーターになる!』とか言ってたなぁ。私も……それになろうかな」
そんな風に軽く思い、トップコーディネーターになろうということをとりあえず夢という分類に入れた。
それから何回もコンテストに参加した。何回も何回も……。でも、結果は同じだった。
全部のコンテストで決勝戦敗退。目前のところで優勝を落としてしまっていた。
何かが足りない。一体なにが足りないのだろう。そう思っていた。
それから何回か立ったころの大会で、あの男の子と再会した。その再会で私はいろんなことを聞いた。
コンテストに参加している人たちのほとんどがトップコーディネーターを目指していること。トップコーディネーターになるには三回のグランドフェスティバルで優勝する必要があること……。
私はそれを聞いて無理だと思った。グランドフェスティバルに出場するには五個のリボンが必要だ。そんなに集めることは私にはできない。そう思ったからだ。
私はそのことを彼に伝えた。すると彼はそれを笑って返してくれた。
「そうかなぁ? ルリカちゃんには結構素質があると思うよ。がんばればトップコーディネーターも夢じゃないって」
「でも、私はまだリボン〇個よ? どうやったらトップコーディネーターになれると思いますか?」
「この大会で健闘していた君だ。俺にだって、ひけをとらない戦いをしていたじゃないか。この大会では俺がリボンを取っちゃったけど、俺がいなかったら君がリボンを取れていたよ」
この大会でも私は決勝戦に出場した。相手はこの男の子。結果は彼が言ったように私の負けだった。
私には実力がある。その言葉を聞きわかった。でも、なぜいつも決勝戦で負けてしまうのだろう? それが不思議でならなかった。
「う〜ん、やっぱり、夢じゃないかな?」
「夢?」
「うん。何か目標があって戦うんだ。そうしたら絶対に勝てると思うけどなぁ」
また夢が出てきた。私は半ばあきれていた。でも、考えさせられた。
ハシミも夢をちゃんと持っているし、彼も夢があるような口調だ。みんな夢を持っている。持っていないのは私だけ。
でも、私もトップコーディネーターになるということを夢にしたはずだ。それじゃなにがいけないのだろう?
「それは強い意志なの?」
彼にそういわれた。強い意志でトップコーディネーターになると決めたわけではなかった。夢というものをとりえず決めておこう。そういう感じだった。
「それじゃダメだよ。ちゃんと強い意志を持っていないと」
——その日、私は考えがまとまった。
私は、トップコーディネーターになる!
それから私は連勝していった。
ハシミと再会し決勝戦で戦ったこと。新しい仲間をゲットしたこと……。その仲間で決勝の舞台を戦ったこと。それらいろんなことがあったけれど、トップコーディネーターになるという夢を持って戦った。
時には挫折しそうになった時もあった。けれども、私は今、初めてのグランドフェスティバルの決勝戦の舞台に立っている。
「それでは試合を始めます!」
ビビアンさんの声が会場に響き渡る。
「絶対に負けないわよ! ラッドさん!」
「ああ、こっちもだ。頼んだぜ! グラエナ!」
相手は私に夢というものを教えてくれた男の子だ。
彼とは何回かその後もコンテストで出会ったけれど、一回も勝ったことがなかった。
今度こそここで彼を倒そう。私の夢が持つ力で……。夢の力というものを信じて……。
−Fin−