幻の大地

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作者:ブンブンさん

 幻の大地にはポケモンが住んでいる、と言う者がいれば、いや、住んではいまい、と言う者もいる。
 彼らを見たという話のほとんどは、身体が透けてみえただの尻尾しか見えなかっただのというあやふやなものでしかなかった(第一、幻の大地を訪れる者は滅多にいない)。
 だが、そこには確かに、少数ながらポケモンたちが暮らしているのだった。
 森の奥深くに、ひっそりと、その身を隠すようにして。



 大きな泉がある。そこに、足元の藪をかき分けて、一匹の巨大なポケモンが近付いてくる。
 丸々と太った、山吹色のドラゴンポケモン、カイリューだった。
 カイリューは、鼻をふんふん言わせながらかがみこみ、泉の水に口をつけると、猛烈な勢いで水を啜っていった。たちまち喉を通りすぎた水で腹がふくらむ。

 水を飲み終えたカイリューは、神経質そうに辺りを見回して鼻を鳴らした。
 これは、自分が見つけた水場であることをアピールしているのだ。雨の少ないこの土地では、水を確保することは何よりも重要だ。
 天敵のガブリアスに水場を奪われるわけにはいかない。

 おや、とでも言うようにカイリューがぴくりと顔を上げた。続いて小振りな翼をはためかせると、水しぶきをあげて上空に舞い上がった。

 飛び上がったカイリューの睨む先に、何かが、浮かんでいた。ゆっくりとこちらに向かってきているそれは、海に住むはずのポケモン、ラプラスに違いなかった。

 そして、そのラプラスの背には、3匹のポケモンが掴まっている。
 危険を察知したカイリューは、翼をばさばさとはためかせて、幻の大地のさらに奥地へ向かって飛んでいった。

 

 来訪者が来たという知らせは、幻の大地に住むポケモンたちをざわつかせた。何しろ、よその地からポケモンが来るなどというのは非常に珍しいことなのだ。
 
 臆病者のトロピウスはそれを聞いただけで震え上がり、羽根を折り畳んで木立の中に隠れてしまった。
 乱暴なラムパルドは、すぐにでも追い返そうと提案した。

 騒ぎが収まらないうちに、3匹のポケモンたちは幻の大地に上陸してしまった。

 1匹のガブリアスが林の中から見守る中、3匹のポケモンたちは歩き出した。
 アチャモ、ポッチャマに続いて、ぎょろりと目を光らせたもりとかげポケモン、ジュプトルが森の中に踏み込んでいった。

 ガブリアスは、すぐに、彼らの様子が妙なのに気付いた。3匹とも、覚悟を決めたような真剣な表情だった。
 アチャモとポッチャマは、まだ若いというのに、とてつもなく重いものを背負っているような張り詰めた顔をしている。

 2匹は、時々立ち止まってはしんがりのジュプトルと立ち話をしているようだった。
 あわよくば襲いかかってやろうと待ち構えていたガブリアスは、出鼻をくじかれたようで、すごすごと引き下がってしまった。

 そうして幻の大地は、3匹を受け入れた。
静寂に満ちた森のなかを、3匹の足音だけが滑ってゆく。
 
 やがて霧が出始めた。ポケモンたちは森の中に、消えたように戻っていった。いまや彼らの姿は幻に等しかった。彼らを見ようとしても、決して見ることはできない。
 だが、気配が、音が、匂いが、彼らがそこにいることを告げている。

 3匹が通りすぎたあと、カイリューが泉に戻ってきた。
 カイリューは、空の彼方、朧気に霞む崩れかけた塔を見上げて、ああ、あいつらはあそこに行くのだな、と意味もなく思った。
 それから、わたしは寂しいのだな、とも思ったのだった。
 

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