ギフトから始まる茶番劇

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作者:なるかみさん

このお話はポケモンGOを題材にしたフィクションであり、実在の地名・名所などには一切関係ありません

「うぉぉー!兄ちゃん見てーや!アローラのサンド生まれた!!」
 自室でのんびりネットサーフィンしていたら、バタンと勢いよくドアが開いて、年の離れた弟が乱入してきた。
 目をキラキラ輝かせながら、スマートフォンの画面を見せつけてくる。
 この梅雨の湿度で何もしていなくてもやる気の出ないシュウイチは、チラリとその画面を見てから弟に目を向ければ、眩しいくらいの笑顔と興奮の圧が伝わってきて、さらにやる気が失われていった。
「おぉー、良かったやんー。」
 とかいう、なんという適当な返事で軽くあしらおうとする。
 普段なら可愛い弟のために、テンションも上がりそうだが、残念ながらこの季節はそんな気分にはさせてくれなかった。
 ジメジメの空気に、服のべたつく感覚。
 水タイプのポケモンなら喜びそうだが、ポケモントレーナーにはきつくて、出来れば何もしたくない。
 そんなシュウイチの思いとは裏腹に、元気いっぱいの弟は部屋に居座ることを選んだようで、ベッドにダイブして寝っ転がると足をバタバタと動かして布団を叩き始めた。
「他にもアローラの姿のポケモン出てくるんかなー!兄ちゃんの友達、毎日ギフト送ってくれるんやで!」
 あぁそうだった、とシュウイチは胸中で思いをはせた。
 老若男女問わず人気のこのアプリに、最近新しく実装された機能がある。
 
 フレンド登録機能。
 
 各トレーナーに振られた12桁のトレーナーコードを入力して、フレンド申請することができる。
 相手に承認されれば、フレンドとなり、様々なボーナスやギフトの贈り合い、ポケモン交換をすることが可能になる、という機能だ。
 ポケモン交換は、交換するにはお互いが近くにいないとできないが、ギフトを贈るのには距離は関係ない。
 ついでに、フレンド期間によって、レイドバトルで得られるプレミアボールの数が増えるなど、色々なボーナスが発生するというおまけ付きだ。
 ギフトからはランダムにアイテムが出てくるのだが、タマゴボックスに空きがあれば、高確率で黄色いタマゴをもらえることがある。
 7km歩けば孵化するそのタマゴからは、アローラの姿をしたポケモンが生まれるとあって、皆競うようにタマゴを孵化していた。
 弟もその一人で、ギフトを贈り合える仲間を探していたのだが、残念ながら弟の周りにはこのアプリで遊んでいる子がいなかったので、シュウイチの数少ない知り合いに、フレンドになってもらえるよう頼んだのである。
 例えば、学生時代の友人。
 健康のために毎日1万歩以上歩くことを目標としていて、そのお供にこのアプリを使っている。
 例えば、職場の同僚。
 新しい物好きで、このアプリもファーストリリース時から遊んでいる。ただ、最近は起動する回数も減ったとか。
 そしてもう一人…
 その時のことを思い出して、シュウイチは頭を抱えた。
 
 
『フレンド登録?えーよ、俺もしたいー!』
「マジで!助かりますわー!」
『えぇってえぇって!…けど、ホンマ弟君のこと好きやなー!今度大阪帰ったら飯行こうや。弟君の話聞きたいわー。』
「…二度とこっち帰って来んでえぇですッ!!」
 SNS越しに伝わる言葉から、相当冷やかされているのが分かって、思わずムキになって返信を打ってしまった。
 話し相手は、シュウイチより5歳以上年上の男性。
 友人の元同僚であり、シュウイチの尊敬する同業者であり、転職して今は東京で勤めている知人である。結構歳が離れているのに、SNS上ではフラットに接してくれる。
 そういう気楽さもあって、東京へ行ってしまってからは会うことはなかったが、こうやって付き合いは続いていた。
 この知人が、弟もハマっているあのアプリを今もやっていて、今回フレンド登録を頼んだ、というわけである。
 
 
 ここまで回想し終えて、はぁ…とため息をついた。
「まさか…日課になってるとは…」
 仕事も順調、興味ある事には何でも手を出すあの知人が、まさかこのアプリを毎日起動しているとは流石に予想していなかった。
 あの人一体いつ寝てるのかというくらい多趣味な人である。時々ギフトを贈ってくれれば良いと思っていたのに…
 お互いギフトを贈ることが日課になっていたことを知って、シュウイチは動揺を隠せなかった。
 そのうち、ポケモン交換したいから会いたいとか言い出さないだろうか…とか、別に会わせても顔も知ってる知人だから何の問題もないのだが、無性に不安になる。
「兄ちゃんの友達からもらったタマゴからな、アローラのニャースも生まれたんやで。」
 ふと気づけば、シュウイチの隣で弟がアプリを操作しながらニャースを見せてくれた。
 悪タイプのニャース。いつ見てもずる賢そうだ。
「そういや、こないだあの人、ギフトでもらったタマゴからアローラのベトベターが生まれて、即行進化させたって言ってたで。」
 弟の手のひらの中で輝く精密機器をチラ見しながら、ふと先日SNSに上がっていた画像のことを思い出した。
 というか、友達やなくて知人なんやけど…と補足しようとして、やっぱりやめた。弟からすれば、シュウイチの友達も知人も同じだろう。
「ホンマ!?俺が送ったギフトかなぁ…!」
「いや流石にそこまでは知らんけど…」
 嬉しそうな顔で空を見つめる弟はとても楽しそうで、シュウイチもふっと微笑んだ。
 知人に迷惑をかけると思ったけど、案外楽しんでいるようで、弟もギフト贈り合い仲間が出来て嬉しそうで、万々歳だと思った。
 下手に知らない人とフレンド登録するよりは、よっぽど良い。
 心の中で知人にお礼を言うと、目を細めた。
 そうや!と突然大きな声を上げると、弟がシュウイチの腕をつかんで引っ張った。
 予想外の仕草に、思わず椅子から転げ落ちそうになるところを何とか踏みとどまって、態勢を整える。
「ギフトにな、ゲットしたポケストップの情報もついてくるんやけど、兄ちゃんの友達ってあちこち行ってるんやな。」
「あー、そうなん…?」
「昨日貰ったギフトも初めてみるポケストやってんで。えーっとな…」
 そう言いながら、その時見た文字を懸命に思い出そうと、眉間にしわをよせる。
 指で空に文字を描きながら、ゆっくり一単語ずつ口に出していく。
「か…える…いけ…あっと…はる……の…か…ぜ……ぱーく!」

 Kaeru Ike at Haru no Kaze Park

 弟の言葉からピンときて、シュウイチは近くにあった紙にローマ字で書き出した。
 その文字を見て、弟がそれそれ!と声のトーンを上げる。
「あぁ東京の公園か…それはあるかもな。あの人今東京に住んどうし、カメラ好きやし、写真撮りに行ってたんかも。」
「でもな、今日もらったギフト、新大阪の駅のポケストやったで。」

「はぁ!?!?!?」

 聞き慣れた駅名に思わず聞き返してしまった。
 新、大阪!?
 得意げに話す弟の顔をまじまじと見つめ、先ほどの回想が脳裏をかすめたところで、はたと気づいて急いでパソコンのキーボードを打つ。
 SNSにログインすると、ダイレクトメッセージが1件届いており、それだけでシュウイチの顔が曇った。
 嫌な予感がしつつもメッセージを開いたら、そこには知人からの陽気な挨拶が書かれていた。
 
『今大阪おるんやけど、せっかくやし飯行かへん?弟君も一緒に!』

 それは、ただの茶番の始まりの合図だった。

友人らとギフトの贈り合いが日課です。
もしギフト贈り合いしたい方がいましたら、@mantyke140までDMでご連絡くださいませ。
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